最近の若手社員が何を考えているのか、さっぱりわからない」――これは、長年上司世代が抱える共通の悩みかもしれません。しかし、社会環境が大きく変化する現代において、Z世代と呼ばれる新入社員の持つ価値観や行動は、これからのビジネスを加速させる大きな「強み」になり得ると考えます。
自身の業務に加え、新入社員の育成を担う管理職や先輩社員は、これまでの「当たり前」を押し付けるだけでは、彼らのポテンシャルを引き出すことはできません。新入社員が育った環境を理解し、その特性を活かしたコミュニケーションと育成方法を探っていくことが不可欠です。
本連載では、新入社員の特性を理解し、AIや音声解析といった最新技術も活用しながら、彼らが生き生きと活躍できる環境をどう創るか、そのヒントをお届けします。
「最近の若手は、あまり積極的に質問してくれないな……」
そう感じている上司の方は少なくないかもしれません。Z世代と呼ばれる新入社員は、インターネットで検索すればすぐに答えが見つかる環境で育ちました。そのため、「自分で調べればわかることを、わざわざ聞くのは申し訳ない」「何度も同じ質問をするのは気が引ける」と考える傾向があります。こうした背景から、疑問があっても上司に相談することをためらってしまうことがあります。
このような新入社員の特徴を理解して、「AIを味方につける」ことで、上司と新入社員の双方にとって大きなメリットが生まれます。今回の記事では、AIを人材育成に活かす方法と、その際のポイントについて解説します。
AIは新入社員の強力な「壁打ち相手」
豊富な経験を積んできた上司世代にとって、業務上の些細なことをAIに質問するという発想はまだ馴染みがないかもしれません。しかし、経験の浅い新入社員にとっては、「一度で理解できなかったことをもう一度聞きたい」と思っても、忙しそうな上司や先輩に何度も質問するのは勇気がいるものです。その点、AIはいつでも、何度でも、自分のペースで同じ質問に答えてくれます。
さらにAIは、専門用語や複雑な内容を、わかりやすい言葉で説明したり、理解度に合わせて例を変えたりと、質問者に合わせた説明をしてくれるので、新入社員の「分からないまま置いていかれる」という不安が解消され、安心して学習を進められます。
AIが新入社員の努力を『見える化』する
また、AIは、得意・不得意な分野や学習の進捗を客観的なデータで示してくれます。どこまで進んだか、何が身についたかがグラフやスコアで可視化されることで、「ちゃんと成長できている」と自信を持つことができます。これは、タイパを重視し、努力が認められることを好むZ世代にとって、モチベーションを維持する上で非常に効果的です。
例えば、営業部に配属された新入社員が商談のロールプレイングを録音して音声解析ツールを活用して分析することで、自分と相手の話すスピードの差、「あのー」「えーと」といったフィラー(つなぎ言葉)の回数、自分と相手の話す割合などを数値化し、グラフとして表示することができます。
これにより「早口になっているから相手のペースに合わせて話しましょう」といった定性的なアドバイスも、具体的にどれくらい早く話しているかが可視化されるため、新入社員も納得感を持って改善に取り組めるようになります。
その他にも、AI機能を搭載した研修ツールを用いることで進捗状況や習熟度を可視化することも可能です。
AIは上司世代にとっても頼れる「育成パートナー」
AIは、上司にとっても頼れるパートナーとなります。
指導に悩んだ際、AIの分析データを参考にしながら、「どの部分を重点的にサポートすべきか」「どのように伝えれば、新入社員がポジティブに受け止めやすいか」といった質問をAIと「壁打ち」することで、新入社員とのコミュニケーションがスムーズになり、上司自身の育成スキル向上にも繋がります。
AIを新人育成に活用する際の3つのポイント
新人教育にAIを導入する際は、「小さく始めて、しっかり支え、褒める」ことがポイントです。
目的を共有し、スモールスタートする
まずは、「何のためにAIを活用するのか」を新入社員と共有しましょう。「定型業務の質問対応」や「スキルの可視化」など、一つのテーマから始めて、少しずつ活用範囲を広げていくのがおすすめです。
安心して使える環境を整える
AIを使うことに慣れている新入社員でも、「仕事で使う場合は具体的にどうすればいいの?」「これは上司とAIどっちに聞いたらいいんだろう?」と戸惑う可能性があります。下記の表も活用し、はじめのうちは使い方をサポートし、安心して活用できる環境を整えましょう。
育成の補助ツールとして活用する
生成AIは、インターネット上の一般的な情報に基づいて回答を生成します。そのため、企業独自のルールや文化、業務フローに即した回答ができない場合があります。AIの回答はあくまでも参考情報として活用し、最終的な判断や指導は上司が行うことが重要です。
AIは育成やコミュニケーションを円滑にする「橋渡し役」であり、対話そのものを代替するものではありません。新入社員の努力や進捗がAIによって可視化されたことに上司が気づき、小さなことでも具体的に褒めることで、新入社員のモチベーションは飛躍的に向上します。
AIを活用した育成は、Z世代が持つポテンシャルを最大限に引き出すだけでなく、管理者自身が「教える」ことのプレッシャーから解放され、「育てる」楽しさを再認識するきっかけとなるでしょう。



