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「現状を守ればいい2番手メンタル」から個人PCシェア1位へ、レノボ出身社長が変えた企業文化

Updated SEP. 24, 2025 15:36
Text : 加賀章喜
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堅調なFMVブランドをリニューアルしたワケ

トップシェアを実現し、波に乗っているFMVが、2025年1月にブランドリニューアルを行った。刷新の狙いにはビジネス的な理由と、社内の意識の両面があるという。

「ビジネスの観点で言うと、我々は富士通からブランドをライセンスされてビジネスをしています。メーカーとしての認知度も高いのですが、一方で製品単位でみると、ブランドをより強く押し出していく必要性を感じていました。我々のブランドと言えばFMVですから、『富士通のPCが欲しい』ではなく『FMVが欲しい』という志向を高めていかなければならないと考えました」(大隈氏)

「より社内的な観点で言うと、FCCLの社員は、富士通に入社して、分社化して、合弁会社化して……という流れの中で、やはり富士通のPCを作っているという意識が大きかったのです。それは事実ではあるのですが、我々の、とくにコンシューマビジネスに関わる人のプライドの源泉としてあるべきは『私たちがFMVを造っている』という誇りだと思いました。だからこそFMVというブランドをより大きく立て、社内はもちろん、対外的にも示すことで本気度を表したかったのです」(大隈氏)

  • 「プライドの源泉としてあるべきは『私たちがFMVを作っている』という誇り」だと大隈氏は述べる

    「プライドの源泉としてあるべきは『私たちがFMVを作っている』という誇り」だと大隈氏は述べる

PCという製品はすでに成熟しており、ここ10年ほど、その本質は大きく変わっていない。だが大隈氏は、中期的にはPCの需要が継続するとみているという。同氏がPC業界に入ってからさまざまな端末が現れたが、一時はPCに取って代わると言われたタブレット端末もむしろ減少傾向にあり、ビジネスではPC、パーソナルではスマートフォンが現在の主流だ。

「成熟してきたPCというフォームファクターは、底堅い需要に支えられたビジネスだと思っています。ボリュームの減少も昨今は底を打ち、成長に転じました。OSだとかAIだとか色々な要素がありますが、買い替え需要においてPCの需要は継続するでしょう。もちろん15年、20年というスパンで見ると別のアーキテクチャが出てくるかもしれませんが、それは別途考え、我々もリードしていかなければならないと思います」(大隈氏)

レノボと富士通のカルチャーから見るグローバル企業と日本企業の強み

FCCLは、レノボというグローバルメーカーの調達量や生産力と、富士通という日本のユーザーに特化した企画力と開発力を併せ持つ会社だ。ゆえに、それぞれの企業文化は正反対と言って良いほど異なる。レノボからFCCLに来た大隈氏は、両社のカルチャーの違いをどのように捉えているのだろうか。

「レノボの良さは、意思決定の速さです。80%でも70%でも情報を持ったら、質が必ずしも高くなくとも意思決定をし、責任者を決めて前に進みます。もちろんすべてが成功するわけではありませんが、失敗したらそれをクイックに修正して、さらに前に向かいます。日用消費財と同じように、FMCG(Fast Moving Consumer Goods)で物事を考えるスピード感が明らかに日本企業と違います」(大隈氏)

「富士通の良さは、日本というマーケットにいて、製販一体で愚直にユーザーのニーズに応えようとするところですね。やはり日本市場における深掘りの度合いはグローバルメーカーとは違っていて、日本のお客さまの要件を徹底的に満たそうという意気込みや執念深さがあります。減点主義で誰も責任を取らないけど、その代わりにじっくりと時間をかけて意思決定を行っていくところがやはり日本企業です」(大隈氏)

レノボグループとして再スタートしたFCCLには、子会社などを含め現在約1,800名ほどの社員が在籍している。そのうち幹部社員がおよそ200名強となるのだが、実はレノボからFCCLに来た社員は、大隈氏たった一人なのだという。

「『結果を出していれば、そのやり方をあえて崩す必要は無い』という現実的な判断を下すのがレノボという会社ですし、もう一方の株主である富士通とも『実利を取る』という意向で一致しています。ありがたいことに結果も出せているので自由にやらせてもらえていますし、レノボにも『レノボ色に塗り替えよう』という意図は一切ありません。ですので、7年以上たったいまでも大半の社員は富士通から来ているか、FCCLとして採用した方なんですよ」(大隈氏)

  • レノボ傘下にありながらも、実はレノボからFCCLに来た役員クラスの社員は大隈氏一人だという

    レノボ傘下にありながらも、実はレノボからFCCLに来た役員クラスの社員は大隈氏一人だという

ゆえに、FCCLは現在でも独立性が保たれており、良い意味でも悪い意味でも、企業文化は富士通から大きく変わっていないそうだ。ただし、「富士通のカルチャーに寄ったままで良いかというと、それも違う」と大隈氏は説く。

代表取締役就任時、同氏は150人が参加して約3時間かけて行われる定例ミーティングにメスを入れた。当時はコロナ禍ということもありWeb会議だったが、ほとんどのカメラがオフで、順番にだれかが話し、だれも質問をせずに終わるという内容だったそうだ。

「『これで全社のことを理解して自分の業務に役立つことができる』と言うんですけど、だれも疑問を持ったり変えたりということをしてこなかったので、現状の正当化になってしまっていたんですね。なので、それは率直に議論をした上で、トップである私の判断で『ミーティングを解散して再定義しましょう』という形にしました」(大隈氏)

大隈氏は会議のための会議をどんどん減らしていったが、懸念された意思決定のスピードは落ちるどころかむしろ上がった。これはFCCLの風土改革にも影響を及ぼした象徴的な取り組みと言えるだろう。

さらに大隈氏は、従業員のエンゲージメントを高める取り組みとして「team KIZUNA」にも着手する。

「富士通時代のFCCLには、従業員エンゲージメントを気にせずにやってきた文化がありました。みんな新卒から同じ釜の飯を食ってきた人たちですからね。しかし、コロナ禍によってそういった文化が分断されました。ですので、カルチャーの変革は意識的に行っています。そのひとつが『team KIZUNA』です。部署や役職を越えたつながりを育み、社員の絆を高めるために、みんなで集まって英語を学んでみたり、この間は地引き網をやってBBQを楽しんだりしました。こういう取り組みは、離職率の高いレノボの方が意識的にやっていたりするんですよ」(大隈氏)

経営は短期的には数字、長期的には人

大隈氏は「一番想定外というか、驚いたことは、やっぱり人に関する経営課題がたくさんあるなと」と、代表取締役社長としての約4年間の活動を振り返る。

「従業員同士の問題や上司・部下のトラブルも全部上がってきますし、社員のローテーションや社員の成長も見なければなりません。思った以上に“人”に関して考えている時間が多いなというのが新鮮な驚きです。経営はやっぱり“人”なんですよね」(大隈氏)

営利企業である以上、短期的に業績を最大化していくのはマストだが、同時に長期的にはブランドを育てていかなければならない。ブランドのファンを作るのは時間のかかる仕事だ。だからこそ、社員が自発的に考え、ブランド価値を高められる風土を作らなければならないと大隈氏は話す。

「短期的な数字に追い立てられるように仕事をしていると、ブランド価値向上になかなか意識が向きません。より中・長期的な視点を持ってお客さまに向き合う必要があるし、社長というのはそのための仕事だと、この4年間で学ぶことができました」(大隈氏)

コンシューマ領域において、FMVブランドは堅調に推移している。FCCLには、先代から掲げているビジョンがある。それは「人に寄り添う」だ。FCCLはグローバルブランドに対抗するよりも、日本のユーザーに向けて絞り込んだ開発を行い、これからも日本の顧客に寄り添っていくという。

最後に、新卒や若手ビジネスパーソンのに向けたメッセージを伺ってみると、大隈氏は「私が毎年、入社式で新入社員に伝えている言葉があります。『プロフェッショナルであれ』です」と語ってくれた。

「当社にも毎年約20名の新入社員が入ってくれるのですが、全員が定年まで居続けてくれるかというと、そんなことはあり得ないわけです。でも、最初の会社としてFCCLを選んでくれたのは非常にありがたいことですし、その人が活躍し成長できる場を提供し、できるだけ長く働いてもらいたい。しかし会社と従業員はあくまでフラットな関係であるべきと思っているので、うちじゃなくても活躍できるプロフェッショナルな働き方を獲得して欲しいのです。個人としてもぜひ意識して貰いたいなと思います」(大隈氏)


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※ 本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。