トヨタ自動車のWRCラリー用トップガンであるコンパクトスポーツカー「GRヤリス」。2回目のマイナーチェンジモデルが登場したのを機に、2020年にデビューした初期型を「20型」、2024年の大幅改良モデルを「24型」、そして最新の進化型モデルを「25型」と呼ぶことにしたという。8月某日、千葉県のサーキット「袖ヶ浦フォレストレースウェイ」で行われた試乗会には全モデルが大集合。それぞれの違いを確かめられただけでなく、新たに登場する「25型GRヤリス エアロパフォーマンスパッケージ」の走りも体験できた。
「速く走ること」だけを追求
今回のストーリーは、同じGRヤリスの中でも1.5L 直列3気筒自然吸気エンジン+FF/CVTを搭載したベーシックな「RS」グレードではなく、強力な1.6L直3ターボエンジン+前後可変トルク式4WD「GR-FOUR」を搭載したハイパフォーマンスな「RZ」モデルたちが主役だ。
272PS/370Nmを発揮するG16E-GTSエンジンに6速iMTを組み合わせた初期型は、WRCのホモロゲーションモデルを目指して登場。結局、トップカテゴリーの規定変更で幻のホモロゲモデルとなったものの、大いに注目を集めた1台だ。「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」の考えのもと、スーパー耐久や全日本ラリーなどのさまざまな競技に参戦。レースでは壊しては直しを繰り返し、速く走るための開発のきっかけをつかんでいくことになるのだ。
こうして蓄積したデータを元に大幅改良を施したのが、2024年に登場したフェイスリフト版の「24型」。エンジンは304PS/400Nmまでパワーアップした。これに応じて溶接スポットや構造用接着エリアを増やしてシャシーを強化し、サイドグリルの冷却口拡大やボディ下部に冷却孔を取り付けることで冷却・空力性能を改善している。また足回りでは、ラリードライバーの勝田貴元選手の意見を取り入れ、ボディとショックの締結ボルト数を1本から3本へと増やし、走行中のアライメント変化を抑えている。
コックピットは15度傾斜させたドライバーズファーストの形状になり、すべての操作が手の届く範囲内(6点式シートベルトを取り付けても)に置かれ、シートポジションを25mm下げることでヘルメット着用時にルーフと干渉するのを回避している。さらに、新たに2ペダルの8速GR-DAT(GAZOO Racing Direct Automatic)が選べるようになったのは、24型の大きな進化点だった。
やり切った感のあった24型だが、25型ではさらに各部をリファイン。まずDATについては、変速時間のスピードアップやダウンシフト可能な車速領域の拡大、登坂時のシフトアップタイミングの調整(少し遅らせて、シフトアップ後の高出力を維持するため)などを実施している。また、「クルマとの一体感」を出すため、シャシーとの締結ボルトを剛性の高いサイズや形状に変更している。
24型では「RC」グレードのみで採用していた縦引き式のパーキングブレーキを25型では全車で選択できるようになったのも、大きな変更点。WRCや全日本ラリーで得た知見に基づく改良だ。これがあると(もちろん操作のしやすさというその機能も、だけれど)、コックピット内に「ただものではない感じ」が一気に醸成されるのだ。そして、DATモデルのフットレストのサイズも拡大している。
そして、今回の真打ちとなるのが25型の「RZ ハイパフォーマンス」と「RC」グレードにメーカーパッケージオプションとして用意される「GRヤリス エアロパフォーマンスパッケージ」だ。
追加となるアイテムとしては、高速域での操縦安定性に寄与するとともにブレーキング時のスネーク現象を抑制する大型の「可変式リアウイング」、エンジンルームの熱を放出する「ダクト付きアルミフード」、ホイールハウス内に溜まったエアーを後方へ放出する「フェンダーダクト」、アンダーボディの空気の流れを最適化する「燃料タンクアンダーカバー」、リアバンパーのパラシュート効果を抑制する「リアバンパーダクト」の当初から計画していた5点に加え、スーパー耐久やニュルブルクリンク24時間レースにも参戦したプロドライバーの大嶋和也選手のフィードバックを受けた「フロントリップスポイラー」を追加した計6点を装着。その精悍な姿は、メーカー純正の“つるし”のモデルとは思えないほど迫力がある。
開発を担当したGR統括部の山田寛之主査によると、「初めの頃は、『あれやりたい』『これやりたい』と言っても、『共通部品なんで』とか『お金がかかるので』とか、『時間がないので』といった言い訳的な理由が出てきて『もう変えられません!』となっていたのですが、モリゾウさん(豊田章男会長)が『そのあたりは好きにやってくれ』というので、今回のようにボルト一つの形状まで改良することができました。新しいエアロパッケージも同じ理由で、発表のタイミングを少し遅らせたことで、しっかりしたものができたんです」とのことだ。
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クルマとの一体感を高めるため、締結ボルトのサイズや形状を変更した(いずれも左側が変更前、右が変更後)。左2本は頭部サイズを拡張したリアサスとの取り付けボルト。右上はフロントロアアーム用のボルトフランジにリップ形状を追加したもの。右下はリアショック用ボルトにフランジの厚みをアップしたもの
また、変速スピードを改良したDATについて大嶋選手に話を聞くと、「ニュルブルクリンク24時間レースではパドルを使うことなく、ほとんどオートマチックで走りました。変にマニュアルモードにして、視線を落としてメーターを見ながらシフトするより、ただ前を見てステアリング操作に集中できるのはすごいメリットです。多分、タイム的にもほとんど変わらないはずですよ。ATだけで走っていることについては、他車のドライバーたちはみんなびっくりしてましたけど」と驚きの告白。「ただ、こうして空力的にも完成した4WDとなると、サーキットではあと50PSほどパワーアップした方が、コーナリング中の姿勢のコントロールがしやすくなるのでは、とも思っています」とGRヤリスの更なる課題を指摘してくれた。
それぞれの違いは感じられるのか!
先導車なしで走るため、ヘルメットとレーシングスーツ、グラブの着用が求められた今回のサーキット試乗。筆者は20型MT、25型MT、25型DAT、25型エアロアフォーマンスパッケージ(DAT)の順で試乗した。
20型は初代モデルらしく、3気筒特有の振動や足回りの硬さがしっかりと感じられ、ちょっと荒々しいレーシングカーっぽい印象。これが25型になると、エンジンのスムーズさや改良した足回りの良さがしっかりと伝わってきて、安心してサーキットを攻めることができる。
MTモデルにはシフトレバー手前に縦引きのパーキングレバーがニョッキリとはえていて「シフト操作の妨げになるのでは」と思ったのだが、実は奥側に倒してそれを解除すると、左腕はスムーズにレバーにアクセスできることがわかった。
そしてトリのエアロパフォーマンスパッケージ。ゆるい下りで140km/hあたりからきつい2コーナーに侵入する場面では、強いブレーキング中でも姿勢が安定していて、その効果が体感できる。最終コーナーを抜けた先の短いストレートエンドでは、それまでのものより2~3km/hほど速い160km/hという車速に達していたのも、そのおかげなのだろう。
若者なら20型の中古モデルでも十分に楽しめる
最高のパフォーマンスを発揮する25型だが、今やコンパクトなハッチバックスポーツカーというのは製造するメーカーが少なくなり、世界中でも貴重な存在になっている。山田主査によると、本場のヨーロッパではいまだに小さくて速いクルマのファンが多く、GRヤリスを作り続けてくださいという顧客が多いのだという。
そしてここ日本でも、まだまだクルマ好きが残っている。山田主査は「このジャンルはどんどん小さくなっていくマーケットではあるのですが、壊しては直して改良を重ね、面白いクルマを作るという姿勢は、会社を元気にするところもあると聞いています。そして、進化型への乗り換えで出てくる中古なら、若い方にも手が届く価格になっているはずです。乗ってお分かりかと思いますが、20型には今でもしっかりとした戦闘力がありますから、若いクルマ好きにも乗っていただきたいですね」と話していた。
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進化型GRヤリスが搭載するコンパクトな8速オートマのGR-DATトランスミッション。左端には締結力を高めた3枚のクラッチの切断面、右端にサン(太陽の意味)ギアの周りに配された遊星ギアが見える。25型では変速時間の短縮やダイレクト感、応答性のアップ、シフトアップタイミングの最適化が行われた



















































