コメをはじめ、モノの値段が軒並み上がって、もっと手取りを、給料を……というご時世ですが、ハンバーガーの値段も例外なく上がっていて、2,000円を超える商品も珍しくなくなってきました。高級バーガー増加の背景と受け止めを“ハンバーガー探求家”の松原好秀さんにじっくり語っていただきます。
ハンバーガーのお値段、現状は?
確かに、ハンバーガーの値段は上がっています。では実際、どれくらい上がっているのか見てみましょう。
手元の記録によると、筆者が2004年にマクドナルドで「ハンバーガー」を食べた時の値段は84円、それが20年後の2024年には170円~に。2.02倍の値上がりです。「ビックマック」は2004年が262円→2024年が480円~で1.83倍。
“グルメバーガー”の専門店を見てみると、東京・日本橋人形町の名店「BROZERS'」(ブラザーズ)では、「チーズバーガー」が2004年に1,000円→2024年は1,760円で1.76倍、名物の「ロットバーガー」は2004年が1,350円→2024年が2,310円と1.71倍の値上がりです。つまり、ハンバーガーの値段はこの20年でおよそ1.8倍に上がりました。
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ブラザーズ名物「ロットバーガー」はほぼ"全部乗せ"バーガー。2025年9月現在の値段は2,420円。ブラザーズでは「アボカドバーガー」(1,870円)、「テリヤキチーズバーガー」(1,980円)などは2,000円以下、「アボカドチーズバーガー」「ベーコンチーズバーガー」はともに2,145円で2,000円超え。平日ランチは150円ほど安く食べられてお得です
そんな中、全国規模のハンバーガーチェーンでも2,000円を超えるバーガーが相次ぎ発売されています。
2,000円バーガーが増えている?
皮切りはバーガーキング。2022年7月に単品価格2,100円の「マキシマム超ワンパウンドビーフバーガー」を発売しました。次いで、ウェンディーズ・ファーストキッチンが2023年11月にLセット2,350円の「トリュフ&マッシュルームメルトバーガーダブル」を、2024年4月に単品2,090円の「ローストビーフバーガー ~静岡県産本わさび使用~」を発売。さらにフレッシュネスバーガーも「W神戸牛チーズバーガー」(単品2,000円)、「W神戸牛グラフォアバーガー」(単品2,300円)を2025年1月に発売して、ついに大台に乗せてきました。
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「トリュフ&マッシュルームメルトバーガーダブル」および「チキンフィレバーガーダブル」は2023年11月9日~2024年4月17日まで、インバウンド需要の高まりを受け、東京・大阪・京都などの店舗で限定販売
これら"高級バーガー"の発売により「起きたこと」があります……ラーメンで言うところの「1,000円の壁」が、ハンバーガーには築かれずに済んだのです。
「1,000円の壁」と言うのは、ラーメン一杯に出せる金額の上限のこと。あらゆる食べ物・商品に存在する消費者心理のようなものですが、その"見えざる価格の壁"ができる手前で回避できたのは、各社が出した2,000円超えバーガーの"おかげ"と言ってよいでしょう。
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大阪・昭和町「BACKHOME MEAL&BAKE」の「包無波我(ハンバーガー)」。炭火で焼いた自家製パティ&自家製バンズのバーガーを"主菜"に見立てた「一汁三菜」的なスタイルで提供。サイドのポテト、牛すじ煮込み、かき玉汁もすべて手作りで1,930円はお値打ち! 予約制で販売中です
ハンバーガーの壁は果たして1,000円なのか、それとも1,300円、1,500円……という"暗闘"が繰り広げられる中、それを一気に飛び越えて、チェーン店から「2,000円超え」が登場したワケです。本来、「安く手軽に食べられる」ことが売りのチェーン店があっさり超えてくれたおかげで、値上げに悩む全国のグルメバーガー各店は一気にラクになりました。値決めがしやすくなりました。まさにバーガー界全体に好影響を及ぼす"ファインプレー"です。「壁」粉砕の功績は大!
値段も上がったが「価値」も上がったハンバーガー
ですが、単に値段が上がっただけでなく、「モノが良くなっている」点にも注目です。例えば、2024年10月にフレッシュネスバーガーが発売した「銀だらグリエのフレンチバーガー」(840円)は、高級魚「銀だら」の切り身に特製のパン粉をまぶして香草焼きにし、「素揚げのレンコン」「キャロットラペ」「紫キャベツのマリネ」を合わせて、フランス料理の「タプナード」ソースをかけるという、「え? そんなこと店でしてるの?」という驚きの一品でした。
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「銀だらグリエのフレンチバーガー 彩り野菜とオリーブアンチョビソース」「銀だらグリエのフレンチバーガー スクランブルエッグとオマール海老ビスクソース」は2024年10月23日~11月26日まで販売の期間限定。全国のフレッシュネスバーガー各店においてもレベルの高い調理が求められた傑作です
2025年7月発売の「国産夏野菜のチリトマトクラシックバーガー」(890円)は、「素揚げのかぼちゃ」と「焼きトマト」をトッピング。他社では使わないような食材を使い、やらないような「ひと手間」をかけることで「ならでは」を追求した、独自性の高い商品をフレッシュネスは続々と発表しています。
逆に……こうした手間や工夫ができるのは「販売価格が上がった結果」という見方もできます。抑えた価格の中でできることは限られますが、価格が上がれば、その分、できることも増える。表現の幅も広がり、それに伴い、使う食材の質や種類もまた大きく変わります。そこで活躍するのがハーブやスパイス……。
2025年5月にモスバーガーが発売した「バジルマヨの海老カツバーガー ~国産バジル~」(550円)は、タイトル通り「バジル」の香りが素晴らしく、同時発売の「海老エビフライバーガー」(670円)も、タルタルソースの「ディル」がよく利いていて、最近のバーガーは実に「香り」豊かです。ハーブやスパイス、わさびなどの風味・薬味の利かせ方がハッキリ鮮明で、かつての"わかりやすいケチャップ味"のバーガーとは質を異にする「大人の食べ物」へと、大きく進化しました。
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「バジルマヨの海老カツバーガー ~国産バジル~」「海老エビフライバーガー」は2025年5月21日~7月中旬まで販売の期間限定。水揚げからパン粉をつけて冷凍するまで10時間以内という高鮮度・高品質のインドネシア産バナメイエビを使用
価格のグラデーション化が進行中
ですが、ハンバーガーのすべてが「高級化」したワケではありません。モスバーガーを例に見ると、定番商品の価格帯は"維持"しつつ、その上・さらにまた上に高付加価値な商品を設けて、「幅広い価格帯」での商品展開をおこなっています。これを「価格のグラデーション化」とモスでは呼んでいます。
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看板メニュー「モスバーガー」などを含むレギュラー価格帯は500円前後。「新とびきり」などを擁するプレミアム価格帯は600~700円。超プレミアム価格帯は800円~。年末年始恒例の「一頭買い 黒毛和牛バーガー」はその代表格
価格によって商品を大きく3層に分ける、いわゆる「松竹梅」ですね。これにより、「私は定番で十分」という人はレギュラー価格帯のバーガーを頼み、「ちょっといいヤツが食べたい」という人はプレミアム価格帯から「新とびきり」を選び……という風に、その日の気分や予定、予算などによって、より細かなハンバーガーの「使い分け」ができるようになりました。価格帯に幅を持たせたことで選択肢の幅も増え、消費が多様になりました。
ここでもうひとつ重要なのが、ハンバーガーのいわゆる"ガチ勢"が増えたことです。「一頭買い 黒毛和牛バーガー」のような超プレミアム価格帯のバーガーに反応し、チャレンジする層が確実に増えました。増えたからこそ、ハンバーガーの質を高め、工夫を凝らした、より高付加価値な商品を各社がラインアップするようになったワケです。ニーズに応えた結果でもあるということですね。
インフレが追い風に? 可能性が広がるハンバーガーの世界
デフレの30年は「価格を抑えよう」という方へ主な努力が向いていたのが、今では「価値を高めよう」という方へ向いている――これは大きな変化です。抑える努力も尊いですが、上へ上へと高め、伸ばしていく努力の方がある意味で明るく、健全であるとも言えます。
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東京・鮫洲「Fooler Fooler」の「ピカンテイタリア ボンバーガー」。注文が入ってからピザ窯で焼く"ピザ生地バンズ"に、野菜のソフリット入りの自家製パティはフェンネル、タイム、セージも入って、実に風味豊か。さらにイタリア産ミニトマトのピューレ、ストラッチャテッラ、パクチー、青唐辛子のピューレなども乗って1,480円は破格値!
モノの値段が上がったことで、食べ物の一分野としてのハンバーガーの可能性は大きく広がりました。安さだけではない多様な魅力を、時代の流れに乗って、ハンバーガーは上手く掴み取ったように思います。デフレを駆け抜け、インフレを超えて、常に「時代とともに生きる食べ物」であるように、筆者は強く感じます。



