ボルボで最も小さな電気自動車(EV)「EX30」に新たな選択肢が加わった。その名も「EX30クロスカントリー」だ。電気自動車であり、もともとSUVの格好をしているEX30に、ここへきて「クロスカントリー」を追加する意味とは? 実物に乗って考えた。
そもそもクロスカントリーとは?
クロスカントリーとは言葉の通り、野山を超えて駆け巡ることだ。
かつて、世の中にまだSUVがそれほど存在しなかったとき、ボルボはステーションワゴンをベースとするSUV的な車種を生み出した。それが、ボルボにおける「クロスカントリー」の始まりである。
クロスカントリーを名乗る車種は最低地上高がベース車より高く、未舗装路を走っても床下を路面の凹凸などに打ちつける懸念が少ない。未舗装路でも確かな接地が確保できる種類のタイヤや、そのタイヤが跳ね上げる泥や小石などから車体を守るホイールアーチカバーなどもこうしたモデルの特徴だ。
EVのEX30においても、クロスカントリーは同様の仕様となる。
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これまで日本では1グレード展開(リチウムイオン電池、1モーター、559万円)だった「EX30」だが、今回のマイナーチェンジに伴って「クロスカントリー」(649万円)、「ツインモーター」(629万円)、「シングルモーター エクステンデッドレンジ」(リチウムイオンバッテリー搭載、2グレードで539万円or579万円)、「シングルモーター」(リン酸鉄リチウムイオンバッテリー搭載、479万円)の4モデルから選ぶ形となる(写真はクロスカントリー)
とはいえ、世の中はすでにSUV人気で、そもそもEX30自体がSUV的なクロスオーバー車の格好をしている。背の低いステーションワゴンの時代に価値を確立したクロスカントリーを、あえてSUV的なEX30に設定する理由は何なのだろうか。
最低地上高+20mm、タイヤの扁平率も違う
ボルボによれば、EX30はEVなので、SUVとはいっても最低地上高はそれほど高く設定していないという。車体の外装もできるだけ滑らかな造形とすることで、空気抵抗を減らしているとのことだ。
SUVが人気を集める今日ではあるが、EVのEX30は、未舗装路を走ることを前提とした作りになっているわけではない。そこに、あえて野山を駆け巡るクルマといった趣向を加えたのが、EX30クロスカントリーなのだという。
EX30クロスカントリーの最低地上高は195mm。標準のEX30に比べると20mm高い。路面との間に20cm前後の隙間を確保することは、未舗装路を走るクルマのひとつの目安だ。
装着するタイヤのサイズは235/50/19で偏平率がそれほど小さな数字ではない。この点も、車高の高さに若干関わっている。
なぜ偏平率の大きめなタイヤを装着するかというと、未舗装路で溝に入り込んだり、岩や砂利の影響を受けたりして、ホイールが傷つかないようにするためだ。また、タイヤ内の空気量が増えることにより、路面の凹凸による衝撃を和らげる効果もある。さらに、路面の凹凸にタイヤが柔軟に適応し、クルマを力強く前進させる粘り強さにもつながる。
フロントグリルには樹脂素材を使用。正面から見たときの顔つきが標準のEX30とは異なる。
ラジエーターのいらないEVはグリルレス的な顔つきが多く、EX30も同様だ。それに対しEX30クロスカントリーは、樹脂グリルによって、ラジエーターグリルがあるような印象を与える。あえて樹脂製グリルとしたのは、未舗装路で背の高い雑草や樹木から伸びた枝などを押しのけて走る場合、塗装への損傷を減らす目的もあるのではないか。
グリルを含め外観に樹脂を多用するEX30クロスカントリーだが、塗装せずに、ほぼそのまま素材を利用している。それにもかかわらず、商用車的な安っぽさを感じさせないのは、ボルボの得意とするところだ。リサイクル素材を含め、廃棄物を減らす取り組みは、脱二酸化炭素のほか環境適合性としても重要な側面である。
樹脂を用いる場合、ボルボは表面処理を施すことで上質さを醸し出している。ちなみに、フロントグリルに施された表面処理は、スウェーデンでもっとも標高の高い山の等高線を模した図案になっている。単に絞り加工を工夫するのではなく、表面処理に意味を持たせるやり方も、ボルボが特徴としているところだ。
舗装路を走って感じたクロスカントリーの恩恵
前置きが長くなったが、EX30クロスカントリーの乗り味は、これまでのEX30とどう違うのか?
答えは、より成熟し、さらに快適な乗り味になっていた。
まず前席に座って実感したのは、座面の寸法が大きくなり、腰や腿が的確に支えられることだ。当初のEX30に比べ、座面の全長をやや伸ばし、高さを少し上げている。
当初のEX30の座席は大柄な欧米人が収まるのかと思うほどで、身長166cmの私でも物足りない感じがした。今回の改善で、背もたれを含め座席全体で体をしっかり支えられる感触が得られた。長距離移動をしても疲れにくくなるだろう。
走り始めると、安定した乗り心地でありながらゴツゴツするような不快さがなく、調和のとれた走行感覚である。ここも、成熟したよい点のひとつだ。これには、標準に比べ偏平を少なくした大径タイヤの効果もあるはず。試乗車は通常のサマータイヤを装備していたので、タイヤ騒音もほぼ気にならなかった。
個人的には、さらに偏平の少ないタイヤにすると、もっとゆったりしたクロスカントリーらしさを味わえるのではないかと思った。オプションでは18インチのオールシーズンタイヤが選べるようになっている。
EX30とのもうひとつの違いとして、これまでは1モーターの後輪駆動であったのが、クロスカントリーでは2モーターの4輪駆動になっている。ただし、常に前後のタイヤで駆動するわけではなく、必要に応じて前輪が駆動力を発生する制御だ。未舗装路など、常に全輪が駆動したほうが安定する場面では、ドライブモードで「パフォーマンス」を選ぶと、いつでも全輪で駆動するようにできる。
試乗で常に4輪で駆動する設定を試したが、舗装路を走るうえでは、高速道路においても、前輪で駆動する必要性はほとんど感じなかった。かえって、ハンドルに駆動力の影響が伝わるので鬱陶しく感じるかもしれない。
逆に、未舗装路であれば、ハンドルに駆動力が感じられることが、確かな手ごたえとして安心をもたらすこともある。クロスカントリーと名乗る以上、4輪駆動を必要とする場面もときにあるかもしれないが、日常的には、後輪駆動で十分であることを確認した。ただし、舗装路でも、雨天の場合は全輪駆動にすれば安定性や安心感が高まるだろう。
EV専用車としてEX30が登場してから歳月が経って、時間経過によりクルマの熟成が進んだ側面もあるだろう。そこに追加となったのが、未舗装路を視野に入れたクロスカントリーという新モデルだ。このモデルには肩肘を張らずに乗れる快さがある。EX30の魅力が広がったといえそうだ。




































