これまでは、超低金利下と住宅ローン控除の恩恵によって、「頭金なしで目いっぱい借りた方が得」と言われてきました。しかし、昨今の金利上昇、住宅ローン控除の縮小などによって、状況は変わってきています。
今後も頭金なしで借りても大丈夫なのか、シミュレーションを交えて検証しました。あわせて、頭金なしで借りることのメリット・デメリットも整理していますので、ぜひ参考にしてください。
頭金なしで住宅ローンを組むメリットは減っていく?
頭金なしで住宅ローンを組むことをフルローンといいます。日本は超低金利が長く続いていたため、フルローンで住宅を購入する人も少なくありませんでした。しかし、2024年3月のマイナス金利政策の解除によって、住宅ローンの金利も徐々に上がってきています。日銀は金融政策の正常化に動き出しているため、今後も上がっていく可能性は高いと言えます。
さらに、住宅ローン控除も変わりました。かつては年末の住宅ローン残高に対して1%が所得税から控除できたため、頭金を入れずに借入額を多くすることでより大きな恩恵を受けられました。
しかし、2022年度の税制改正によって、控除率が0.7%に縮小され、さらに2024年の入居からは、新築住宅では長期優良住宅や省エネ住宅などの「エコ住宅」でないと住宅ローン控除を受けられなくなっています。
住宅ローンの金利が控除率を上回り、さらに上昇するようなことになれば、借入額はできるだけ減らして早めに返済した方が利息の支払いを少なくできます。
とはいえ、急激に金利が上がるとは考えにくく、また金利がいくらか上昇しても、まだまだ低金利と言える水準であるため、フルローンで住宅ローンを組むメリットがなくなるわけではありません。
もう一つ考えておきたい問題が「物件価格の高騰」です。
新築物件は建築資材の高騰や人件費の増加などで物件価格が上昇しています。不動産経済研究所によると、5月に首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)で発売された新築マンションの平均価格は9,396万円で、去年の同じ月と比べて25.5%上昇しました。
マイホームを手に入れるには、これまで以上に多くの資金が必要になりますが、一方で賃金の上昇はそれに追いついていません。そのため、自己資金だけではまかないきれず、フルローンを組まざるを得ないケースも増えています。
理想は頭金2割、でも実際は3割ほど準備が必要
一般的に、住宅ローンを組む際の頭金の目安は物件価格の2割と言われています。フラット35利用者調査によると、新築マンション購入者の場合、頭金の平均額は約1,189円となっており、購入価額の22.7%が頭金となっています。注文住宅では18.1%、建売住宅では8.2%が頭金の割合です。
この結果からは、約1割から2割を頭金としていることがわかります。
注意したいのは、自己資金をすべて頭金に充てられるわけではないという点です。物件購入時には、物件価格とは別に、融資手数料、登記費用、印紙税、火災保険料、仲介手数料(仲介物件の場合)、などの諸費用がかかります。さらに、引っ越し費用や照明器具、カーテンなど、住み始めるために必要な初期費用も見込んでおく必要があります。
こうした費用も自己資金からまかなう必要があるため、実際に頭金として充てられるのは、これらを差し引いた残りの金額になります。
諸費用は、新築物件で物件価格の3~7%、中古物件で物件価格の6~10%が目安とされています。
このことから、物件価格の約3割程度は自己資金として用意しておきたいところです。4,000万円の物件なら約1,200万円、5,000万円の物件なら約1,500万円です。この金額を準備するのは、住宅取得を考え出す20代、30代にとってはハードルが高いと言えるかもしれません。
そこで、自己資金を諸費用などに充て、頭金ゼロで住宅ローンを組むという選択がマイホーム取得への後押しとなることもあります。
「頭金なしで即購入」と「頭金を貯めて5年後に購入」ではどちらが得?
頭金がすでに用意できているのが一番ですが、そうでない場合に、これから頭金を貯めて5年後に住宅を購入するのと、頭金なしですぐに購入するのでは、どちらが得なのかをシミュレーションしてみたいと思います。
物件価格は4,000万円で金利は5年後も変わらないとします。頭金を貯めて5年後に購入の場合は、その間の家賃も含めて考えます。
頭金なしですぐに購入した場合
・借入額4,000万円
・金利年1.8%(全期間固定)、返済期間35年
5年後に頭金800万円で購入した場合
・借入額3,200万円
・金利年1.8%(全期間固定)、返済期間30年
・5年間の家賃:600万円(月10万円)
住宅費用の総額は、頭金なしで購入した場合は5,394万3,142円に対し、頭金を2割貯めて5年後に購入した場合は5,543万7,088円となり、約150万円頭金なしよりも多くかかりました。
現時点の状況を踏まえると、5年後には固定金利が現在より上昇している可能性が高く、同じような物件を購入しようとしても、価格が今より高くなっていることも考えられます。
つまり、頭金を準備して5年後に購入するケースでは、金利や物件価格の上昇により、試算以上の出費を覚悟しなければならないかもしれません。
金利情勢や不動産価格の動向によって結果は変わりますが、今回の試算では、頭金なしで即購入した方が得する可能性が高いと言えます。
頭金なしで借りることのメリット・デメリット
頭金なしでの購入には、注意点も多くあります。メリットとデメリットを整理してお伝えします。
頭金なしで借りるメリット
- 手元資金が残る
頭金なしで住宅ローンを組むことができれば、手元資金を残すことができるので急な出費に対応できます。
- 頭金が貯まるまで待つ必要がない
頭金が貯まるまで待っていると、買い逃すことがあります。気に入った物件が見つかった時にすぐに購入できることはメリットです。
- 住宅ローン控除が最大限に活用できる
住宅ローン控除は年末のローン残高が多いほど控除額が大きくなります。頭金なしにすると借入額が多くなるので、住宅ローン控除の恩恵を十分に受けることができます。
- 家賃支払いを削減できる
早いうちに住宅を購入すれば、その期間の家賃を削減できます。
頭金なしで借りるデメリット
- 返済額が多くなる
頭金なしにすると借入額が増えるので、その分利息負担が増え、毎月の返済負担も重くなります。
- 住宅ローンの審査が厳しくなる
金融機関は申込者の返済能力や返済負担率を厳しくチェックします。頭金なしでは、返済負担率が上がるため、審査が通りにくくなります。また頭金の用意ができない人ということで、返済能力も低く見積もられます。
- 借入金利が高くなる
住宅ローンの金利は、融資率が高くなると金利が上がる傾向があります。フラット35では、融資率9割を超えると金利が高くなります。
- 変動金利で借りた場合、金利上昇リスクが高くなる
将来金利が上昇した時、借入額が多いほど返済負担が重くなります。金利上昇リスクを負いたくない場合は、全期間固定金利を選択するといいでしょう。
- 担保割れする可能性が高くなる
担保割れとは、不動産の評価額がローン残高よりも下回っている状態のことを言います。この状態で売却すると売却額でローンが完済できず、残りのローンを一括返済しなければなりません。頭金なしでローンを組むと借入額が大きくなり担保割れのリスクが高くなります。
35歳までならフルローンで組むのもあり
頭金なしで住宅ローンを組むと、借入額が多くなるため、返済期間も長くなりがちです。たとえば返済期間を35年に設定した場合、契約時の年齢が30歳であれば、完済は65歳となり、年金生活に入る前にローンを終えられます。
35歳であれば、返済期間を30年に抑えることで、同様に老後に返済が残らない計画が立てられます。それ以上の年齢でフルローンを組むのは、老後も返済が続く可能性が高いのでおすすめしません。
また、頭金を用意できないということは、これまで十分な貯蓄ができていなかった可能性を示します。金融機関が審査を厳しくするのは、そうした将来の返済力に不安があるとみなされるからです。
一方で、頭金にこだわりすぎると、マイホーム購入のタイミングを逃す可能性もあります。頭金の額よりも、収入に対しての月々の返済額にフォーカスしましょう。急な出費にも対応できるように、ある程度の貯蓄を手元に残しながら、長期的に安定して返済できる計画を立てることが重要です。
金融庁や金融機関が提供する「ライフプランシミュレーター」などのツールを利用して、住宅購入プランを反映させたシミュレーションをしてみるといいでしょう。