年金改革法案によって、基礎年金の引き上げがあるものの、厚生年金の流用ではないかと物議をかもしています。現在働いている会社員の厚生年金には、結局のところどのような影響があるのでしょうか? 今回は年金改革法案の現時点での内容、今後考えられる影響について解説します。
年金改革法案の概要をおさらい
2025年6月13日に、年金制度改革関連法が成立・可決されました。この法案には基礎年金の引き上げを含め、以下のような内容が含まれています。
- 「年収106万円」の壁の撤廃
- 遺族厚生年金の受給要件の見直し
- 厚生年金に加入する企業の要件緩和
- 厚生年金保険料の上限引き上げ
- 在職老齢年金の減額基準引き上げ
- iDeCo加入年齢の引き上げ
- 基礎年金の引き上げ、および厚生年金の給付水準への影響緩和措置
今回の法案では、厚生年金の加入者を増やすため、「年収106万円」の壁を3年以内に撤廃するとしています。遺族厚生年金に関しては、共働き世帯が増えていることなどを背景に、受給要件が見直される予定です。
会社員の方に関係の深い厚生年金保険料は、収入の多い加入者に、より多くの保険料を負担してもらうため、保険料の上限が段階的に引き上げられます。在職老齢年金に関しては、働く高齢者のモチベーションを下げないため、年金が減額される収入基準が引き上げられる予定です。
老後資産を形成するための制度として注目されているiDeCoは、加入年齢について現在の65歳未満から70歳未満へと引き上げられる予定となっています。
基礎年金の底上げの仕組み
議論を呼んでいる基礎年金の引き上げとはどのような仕組みなのかを整理します。
年金の「1階」部分を引き上げる
公的年金は、3階建ての構造になっています。1階は国民全員が加入する基礎年金、2階は会社員などが加入する厚生年金、3階は一部の方が加入する、企業年金基金や個人型確定拠出年金(iDeCo)です。
今回の法案は1階部分を引き上げるため、会社員の方も対象です。よって、自営業者などが得をして、会社員の方が一方的に搾取されるということではありません。
引き上げの背景にある財政悪化
過去30年デフレ経済が続いたことにより、基礎年金の財政は悪化しています。この状態が今後も続いた場合、基礎年金の給付水準が2057年度には現在より3割ほど低下すると試算されました。
一方で厚生年金の財政は比較的安定しているため、こちらの積立金を1階の基礎年金の引き上げに使おうというのが今回の措置です。
引き上げのもう1つの背景は「就職氷河期世代」と言われる、現在の41歳~55歳の方々です。就職してからずっと経済状況がよくない状態が続き、年金の受給額も少なくなる可能性が高いため、基礎年金の引き上げ措置は一定の効果が見込まれます。
影響緩和の措置
厚生年金の積立金を活用し、基礎年金の給付水準をあげると、厚生年金の給付水準が一時的に下がります。そこで、厚生年金の給付額減少の影響を緩和する措置も取るとしています。
緩和するには、何らかの財源を使う必要がありますが、どこから持ってくるのか、どの程度の規模になるのかは、現段階で明確になっていません。この点に関しては、今後明確な説明が求められるでしょう。
基礎年金の引き上げ措置の影響は?
厚生労働省の試算によると、平均的な賃金で働いて平均寿命まで生きた場合、男性では現在62歳以下の人は年金受給額が増加、女性は66歳以下で増加するとのことです。つまり、現時点における現役の社会人の方の大半は、今回の法案による年金受給額の減少はないこととなります。
一方で、63歳以上の男性や67歳以上の女性は減額です。とくに60代後半から70代の減額幅が大きく、男性は69歳と70歳、女性は73歳と74歳で、それぞれ最大23万円減ると試算されています。現在の年金生活者の方々への影響が出ることから、丁寧な説明が求められます。
年金の給付水準が上がると国庫負担も増え、厚生労働省によると年間で1兆~2兆円程度が必要と見込まれています。ただし、受給額を引き上げないと生活保護が増加し、かえって国庫負担が増える可能性もあるため、年金のための国庫負担が必ずしもよくないとはいえません。
年金関連のニュースに注目しよう
今回の年金改革法案を見るとわかるとおり、今後多くの仕組みが改訂される予定です。影響する範囲も通常の年金だけでなく、遺族年金や在職老齢年金など、幅広くなっています。
ただし、財源をどう確保するかなどまだ決まっていない事項もあり、政府や厚生労働省からの明確な説明が求められます。
年金関連の制度は今後も改訂が続く可能性が高く、数十年後には大きく制度内容が変わっているかもしれません。年金に関するニュースは、普段から目を通しておくことをおすすめします。