サントリーは、同社大阪工場にて、メディア向けの「サントリージンのものづくり」取材会を開催。新たに建設された「スピリッツ・リキュール工房」を初公開した。
取材会では、「スピリッツ・リキュール工房」の詳細に加え、サントリー大阪工場の歴史や特長、「ROKU〈六〉」をはじめとするサントリージンの魅力、さらに今後の戦略などが紹介された。
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(写真左より)サントリー スピリッツ・ワイン開発生産本部 スピリッツ・ワイン商品開発研究部 部長の伊藤定弘氏、サントリー 大阪工場 工場長の矢野哲次氏、サントリー スピリッツ本部 リキュール・スピリッツ部 部長の新関祥子氏
サントリー大阪工場の歴史や特長
「サントリー大阪工場は1919年に創業を開始し、以来100年以上に渡ってサントリーのものづくりを支えてきた」と話す、サントリー 大阪工場 工場長の矢野哲次氏。
現存する工場の中ではもっとも歴史のある工場だという。サントリーの創業者である鳥井信治郎氏は、日本で洋酒文化を創造したい、日本人の手で世界に誇れる国際洋酒を作りたいという志で事業を起こしたが、大阪工場のシンボルとなっている鳥井信治郎像は、大阪工場建設のきっかけとなった赤玉ポートワインを高く掲げている。
なお、土台から一歩足を踏み出しているのは、サントリーのDNAである“やってみはなれ精神”を表していると言われている。
大阪市港区は当時、築港エリアと呼ばれており、明治時代に整備された湾岸エリア。築港エリアは「天保山運河に面し、水陸の運輸共に至便なり」と当時の文献に記載があるとおり、海運・水運が発達。国内外の原料を仕入れ、製品を送り出すのに最適な立地であることに着目して、工場が建設された。
サントリー大阪工場では、「-196」など缶入りRTDのベースとなるベーススピリッツを作る連続蒸留塔と呼ばれる設備や梅酒などの浸漬酒を作る設備、ジンに代表される原料酒を製造するタンクやポットスチルを備えており、それらをブレンドし、ビン詰めし、製品にするボトリングラインを保持。また、サントリーで唯一、キー原料酒を作ることができる工場でもあり、西日本全体にビン製品を供給する西の拠点となっている。
そして、「多彩な厳選素材」と「熟練のブレンド技術」のかけ合わせによって、多種多様なお酒を生み出す大阪工場には、大規模な設備投資が行われており、2024年から2026年にかけて、〈つくる>に55億円、〈伝える〉に10億円、合計65億円を投資。生産施設としてより良い物をつくれるようにするのと同時に、これまでオープンには見学を受け入れていなかったが、ものづくりの魅力をしっかりと伝える場にしていくという。
〈つくる〉については、需要の高まるジンをはじめとしたスピリッツ・リキュールの生産能力増強、および品質向上を目的として55億円の設備投資を実施。スピリッツ・リキュール工房を全面的に建て替え、浸漬タンク、蒸留器などを新設することで、ジン原料酒の生産能力2倍を含む、大阪工場全体で生産能力を2.6倍に増強する。
新たな「スピリッツ・リキュール工房」では。サントリージンのものづくりの伝統を継承し、さらなる進化を実現するため、浸漬タンク8基の新設による生産能力の向上や、蒸留器4基の更新(機能向上)による品質向上が図られる。
さらに、生産と開発の連携を高め、「美味品質」のさらなる向上を目指し、スピリッツ・リキュール工房内には、開発担当部署のラボが併設されるほか、パイロットディスティラリーの新設が予定されている。
従来の設備では、蒸留器内で一晩浸漬し、翌日の朝から蒸留するというサイクルだったため、一日に一回しか蒸留ができなかったが、今回導入された設備では、浸漬用のタンクを2本備えることで、1日に2回の蒸留が可能。生産性が向上することに加え、浸漬温度、浸漬時間、撹拌などを制御することにより、多様で高品質なものづくりが可能になるという。
一方、〈伝える〉については、2026年にかけて10億円と投資し、ものづくりの魅力をしっかりと伝える一般向けの見学ツアーを開始予定。
新たに、旬のボタニカルを感じられるアプローチ、新蒸留釜を見渡せるデッキ、没入感のある360度シアターを配したセミナールーム「クリエイションルーム」を用意し、「日本に、洋酒文化を。世界に、日本のものづくりを。」をテーマに、同社のものづくりの挑戦と革新の歴史、多彩な旬の自然の恵みを活かした、「丁寧でこだわりのあるものづくりをしっかりお伝えしたい」との意気込みを明かした。なお、一般公開は2026年春頃より開始予定。
ROKU〈六》ものづくりセミナー
サントリーの創業者・鳥井信治郎氏が、「日本人の味覚に合う洋酒をつくり、洋酒文化を切り拓きたい」という思いで、角瓶誕生の1年前にあたる1936年に「ヘルメスドライジン」を発売。
「その思いを引き継ぎ、世界中で楽しまれる日本のジンをつくり、広めたいという思いで、我々は日々活動を行っています」と話す、サントリー スピリッツ・ワイン開発生産本部 スピリッツ・ワイン商品開発研究部 部長の伊藤定弘氏は、「日本のおけるジンカテゴリーの価値創出に挑み続けたい」と力を込める。
サントリージンの強みは「歴史と伝統」。80年に以上にわたる開発の歴史、そこで蓄積された知見とそれに基づいたものづくりによって生み出された原料酒をブレンドしていくことで実現した「美味品質」が支持されており、そんなサントリーの洋酒づくりの歴史と伝統が生み出した「ROKU〈六〉」は、日本の四季に育まれた6種の和素材を旬の時期に収穫し、素材の良さを活かしながら浸漬・蒸留。そして、日本人の繊細な感覚で完璧なバランスを追求してつくられた、本格的なジャパニーズクラフトジンとなっている。
「ROKU〈六〉」の名前の由来は6つの和素材。日本の自然が育んだ、四季の6種の和素材が使用されており、春は神奈川産の桜花と静岡産の桜葉、夏は京都産の玉露と鹿児島産の煎茶、秋は和歌山産の山椒、冬は愛媛産の柚子を、それぞれ旬のタイミングで収穫し、それぞれの良さを表現できるように、製造工程を変えながら、原料酒が製造されている。
ジンはジュニパーベリーを主体とした香りがメインとなるが、「ROKU〈六〉」でも、6種の和素材に加えて、ジュニパーベリーを中心とした8つの伝統的な素材を使用。これらの素材を組み合わせることで、ジンに重要な香味をバランスよく設計している。そして、6つの和素材と、伝統的なボタニカルを調和することにより、繊細かつ複層的、完璧な調和を追求した国産ジンが生み出されている。
一般的なロンドンドライジンは、原料を一つの釜の中で、一括で浸漬・蒸留するが、「ROKU〈六〉」は、サントリーのこだわりにより、原料ごとにつくりわけ複数の原料酒をブレンドするのが特長。素材によって、蒸留の条件、浸漬の条件が違うため、求める香味を出すためには別々に製造したほうが良いという考えに基づいている。もちろん手間はかかるが、それぞれの素材の良さを引き出すためにはこういった工程が必要になるという。
「ROKU〈六〉」は「The Japanese Craft Gin」と銘打たれているが、この「The Japanese Craft」は一言で例えるなら「和食」。日本、そしてサントリーの歴史・伝統・文化を背景とした「素材」と「道具(設備)」と「技術・知見」を組み合わせ、実現したものが「The Japanese Craft」であり、茶道から懐石料理に通ずる、旬の素材、おもてなしの流儀といったところは、6つの和素材で表現。包丁や鍋などへのこだわりは蒸留器の使い分け、 そこに長い歴史で培われた技術・知見が込められてはじめて「ROKU〈六〉」は完成にいたったという。
「サントリージン」戦略
「ROKU〈六〉」をはじめとする「サントリージン」の戦略については、サントリー スピリッツ本部 リキュール・スピリッツ部 部長の新関祥子氏が解説する。グローバルにおけるジン市場は、2015年以降の10年間で約2倍に伸長。
およそ2兆円の市場にまで成長している。その中でサントリーのプレミアムジン「ROKU〈六〉」は、すでに世界60カ国で販売されており、発売から8年で世界第2位のプレミアムジンに成長。40万ケースに迫る販売数量を記録しているが、「長期的には、世界プレミアムジンランキングで1位になることを目指し、今後も様々な活動を続けてまいります」と強い意気込みを明かす。
ジンの本場であるロンドンの著名バーテンダーからも、日本らしい香味やストーリーが高く評価され、日本在住の外国人からも好評の「ROKU〈六〉」。ジンや日本文化の人気が後押しとなり、約8割がジャパニーズジンは今後さらにトレンドになっていくと見ている。
一方、日本国内のジン市場も、ここ5年で約3.5倍と飛躍的に成長しており、中でも国産のジンが大きく伸長している。その背景として、ジンソーダを中心に、居酒屋のような飲食店でもジンが日常的に楽しめるようになってきていることに加え、気軽に手に取りやすい缶製品による接点拡大が大きく寄与していると考えられる。また、日本国内でジンを製造している蒸溜所が現時点で約140あることも、ジン市場の発展を支える大きな要因と捉えてられる。
このように伸長するジン市場において、2025年は「ROKU〈六〉」の魅力である「6種の和素材」、「Japanese Craft」、「華やかな香り」を訴求するため、積極的なマーケティング投資が行われている。その取組のひとつとして発売された限定品である「ROKU〈六〉OSAKA BRILLIANCE EDITION」が、The World Gin Awards 2025 Classic Gin部門でCountry Winnerを受賞。アルコール度数が47%と高めにも関わらず、非常に滑らかで、長く満足の行く余韻が繊細に残るという中味面で高く評価されている。
大阪・関西万博では、「ROKU〈六〉OSAKA BRILLIANCE EDITION」の販売に加え、「ROKU〈六〉」の幅広い美味しさや楽しみ方を広げたいという思いから、会場内のレストラン「水空SUIKUU(すいくう)」にてカクテルを提供。このカクテルには、「ROKU〈六〉」だけではなく。大阪工場で製造しているサントリー梅酒 山崎蒸溜所貯蔵梅酒スーペリアや国産リキュールのKANÁDE〈奏〉〈桜〉なども使用されている。
また、6月18日には、「ROKU〈六〉」初のコンセプトショップとして、東京・高輪に「茶室BAR ROKKAN」をオープン。夜の茶会をコンセプトに「ROKU〈六〉」の魅力を体感できる場となっており、原料であるボタニカルに触れる体験や「ROKU〈六〉」を使用した四季のカクテルと和菓子のフードペアリング、そして「ROKU〈六〉」の限定品を使用したカクテルなど、コンセプトショップならではのコンテンツが体験できる。
さらに、2025年は、幅広い層に「ROKU〈六〉」の魅力を伝えるべく、飲食店での取り扱いを強化。5月時点で、年初に掲げた取り扱い店数の目標である6,000店(対前年2倍)を達成している。また、大阪工場の御当地である関西エリアでは、94店のバー・ホテルバーが「ROKU〈六〉なにわアンバサダー」として「ROKU〈六〉」を応援。「ROKU〈六〉」の特長である日本の四季を感じられるカクテルを提供している。
これらのマーケティング活動やインバウンドの好調により、「ROKU〈六〉」ブランドにおける1~5月の販売数量が16,000ケース(前年比133%)と大きく伸長。2025年の年間計画は40,000ケース(前年比143%)となっており、引き続き大きく伸長させることを目指しているという。
「ROKU〈六〉」に象徴されるように、旬の和素材が持つ、その瞬間、その時にしか感じられない香りや味わい、そして季節の訪れや移ろいを楽しむ日本の感性までを閉じ込めたお酒が日本のジンの魅力であり、「海外でも日本でも楽しまれる日本のジンをつくり、広めていきたい」という新関氏。「我々はその夢を実現すべく、ここ大阪工場でこだわりのものづくりを国内外に伝え、サントリージンを大きく育ててまいりたい」と締めくくった。