記事『グランドセイコーの哲学と言葉は時計作りでどう表現されているか?』では、グランドセイコーの哲学をどのように時計デザインに落とし込むか、またそのストーリーを語るために、どんな基準で使用する言葉を選ぶのかについて、開発に携わる方々にお話を聞いた。そこで、彼ら自身がおすすめするモデルの数々と、各モデルの見どころを紹介する。
驚異の精度、年差±20秒を誇る超高精度スプリングドライブの鍵とは
エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A.「SLGB003」(151万8,000円)
商品企画担当のコメント
まずは、なんといってもウォッチズ・アンド・ワンダーズ ジュネーブ 2025で発表した新作「SLGB003」。月差ならぬ年差±20秒(月差±3秒相当)という、ぜんまい式腕時計で世界最高の超高精度と、小型化が難しいスプリングドライブを採用しながら37mm径を実現したコンパクトなケース、そして信州の樹氷をイメージした型打ちダイヤルが特徴的なモデルです。
スプリングドライブ U.F.A.「9RB2」の鍵となる技術について紹介させてください。9RB2の開発には、構想段階を入れると計8年ほどかかっています。その超高精度は、グランドセイコーが培ってきたクオーツの技術と、スプリングドライブ開発による技術の双方によって実現しました。腕時計に誤差が生じる原因はおもに2つ。ひとつは温度変化、もうひとつは経年変化です。
このうち温度変化については、従来のクオーツ腕時計開発で蓄積された技術と経験から、クオーツの水晶振動子にとってもっとも理想的な温度がおよそ25℃であること。そして、そこからの温度変化による振動数の変化がわかっていました。
そこで、温度測定の機能とその補正制御プログラムを持つICをムーブメントのパッケージに入れたのです。これはスプリングドライブ開発で培われた技術ですね。毎日540回温度を計測して、適温との気温差をもとに、現在生じている誤差を補正します。
スプリングドライブはぜんまい駆動なので、わずかなエネルギーしか作りだすことができません。そのわずかなエネルギーで、温度補正機能を搭載できるほど、効率よく駆動させることができていることが、このムーブメントのすごいところです。
誤差分は駆動部に磁力ブレーキをかけて調整します。たとえば、高温時は針が遅れる方向にズレるので、ブレーキをかける量(時間)は基準温度より減る、といった感じですね。
さらに難しいのは、経年変化による誤差です。これは個体差があるので、温度と違って基本となる指標がありません。しかも長く使うほど、少しずつズレていってしまう。
経年変化に関しては、加工したばかりの水晶振動子は振動数のズレが大きく、エージングが進むにつれて振動数が安定してくることがわかっています。そこで、あらかじめ3カ月間のエージングを行い、動作が安定した水晶振動子を使用しました。
さらに、水晶振動子の精度をICに記憶させ、数年間使用するなかで生じた精度のズレを緩急スイッチによって補正できるようにもしました。これはお客さまご自身というより、アフターサービスのスタッフが操作するものですね。
グランドセイコーは長くご愛用いただくことを前提に設計されているので「最初は年差±20秒だったのに、10年後、20年後には年差精度を実現することができない」といったことがないようにしています。ご購入後、3~4年ごとのオーバーホールをしっかり続けていただければ、まさに「一生もの」の超高精度な腕時計として使い続けていただけるでしょう。
開発者自身がおすすめするグランドセイコーの6モデル
スポーツコレクション「SBGN027」(47万3,000円)
デザイナーのコメント
日常着としてスーツなどのフォーマルな服装を着るファッションが一部で支持されていることもあり、ドレススタイルが求められていて、腕時計も小ぶりで薄型のモデルが人気。そこで、スポーツコレクションからこのモデルを選んでみました。ムーブメントはグランドセイコー専用のクオーツなので高精度、ケースはステンレス製でザラツ研磨によるハイライトもきれい。GMT針付きなので、海外出張が多い方々、海外に大切な人がいらっしゃる方々にもおすすめです。
価格的にもお求めやすく、シンプルで落ち着いたカラーはスーツにも似合います。オンでもオフでも使えるので、グランドセイコーの最初の1本としてもぴったりです。
ヘリテージコレクション「SBGH347」(94万6,000円)
デザイナーのコメント
1998年に発売されたモデルをベースにケースデザインをアップデートし、新しいダイヤルの表現を採用したメカニカル(機械式)のモデルです。ケースとバンドの材質は、美しく錆びにくいエバーブリリアントスチール(ステンレス)。ダイヤルは、岩手県にある「七滝」の氷瀑のダイナミックさと、氷の青白い神秘的な色をイメージしています。
かつてのグランドセイコーはモノトーンが多かったですが、近頃はこういった薄い色使いや青みがかったダイヤル表現も増えてきましたね。
ヘリテージコレクション「SBGA443」(94万6,000円)
商品企画担当のコメント
こちらのモデルについては、1967年に誕生したグランドセイコー初の自動巻き機械式腕時計「62GS」のデザインが元になっています。ダイヤルは桜をモチーフにした、非常に日本的なデザインですね。色もシルバーがかったような薄いピンク色で、スーツにも合わせやすく、カラーダイヤルは初めてという方にもおすすめしやすい1本です。
ムーブメントはスプリングドライブ。ただ単に腕時計を身に着けているだけではなく、実は繊細なパターンが施されたカラーダイヤルでスタンダードな形なのに新しい表現という、腕時計の面白さを感じさせるモデルです。
ヘリテージコレクション「SBGA211」(90万2,000円)、「SBGX355」(53万9,000円)、「STGF359」(30万8,000円)
商品企画担当のコメント
最初に登場した「雪白」はスプリングドライブを搭載したモデルでした。これが今年(2025年)で発売から20年を迎えるロングセラー。このケースが41mmとスタンダードサイズだったのですが、後にクオーツモデルがミドルサイズ(37mm)とさらに小径モデル(28.9mm)でラインナップに加わりました。このように、お客さまの手首のサイズに合わせてバリエーションが増えている点も含めてご紹介したい3本です。
降り積もる新雪をイメージしたダイヤルが美しく、クオーツモデルの針もグランドセイコーらしい太くてシャープに仕上げています。このコントラストがグランドセイコーの魅力で、見た瞬間に時間を読み取れることへのこだわりです。