帝国ホテルは6月4日、2026年春の開業を予定している「帝国ホテル 京都」のスイートを含む客室の内装デザインを発表した。最上位のインペリアルスイートは弥栄会館の鐘塔を活かしたテラス付き193平米で、販売予定価格は1泊300万円となる。
弥栄会館の意匠を受け継いだ「帝国ホテル 京都」
帝国ホテルが2021年に着工し、開業まで1年を切った「帝国ホテル 京都」。東京、上高地、大阪に続き30年ぶり、4拠点目となるこの帝国ホテルは、京都市東山区祇園町にある登録有形文化財「弥栄会館(やさかかいかん)」の建築意匠を受け継いだスモールラグジュアリーホテルとして作られている。
コンセプトは「次は、寛ぎの舞台へ」。京都の伝統的美意識と現代的機能性を併せ持つとともに、祇園甲部歌舞練場の敷地内という唯一無二の空間に滞在できるという特別な体験を提供するホテルを目指しているという。
帝国ホテル 代表取締役社長の風間淳氏は、「メイドインジャパンのホテルとして135年にわたり培われたサービスを凝縮させ、日本的価値観を体現できるホテルになれるよう努めてまいります」と挨拶する。
建築構造や眺望の異なる3エリアの客室展開
続いて「帝国ホテル 京都」の京都総支配人を務める坂田玲子氏が客室の紹介を始める。客室は全55室となり、建築構造や眺望により特徴が異なる3つのエリアに分かれている。
1つめは本棟南西に面し、祇園甲部歌舞練場や花見小路を臨める「保存エリア」。弥栄会館の意匠を残した情緒ある空間で、一部客室にはバルコニーも備える。弥栄会館の風情と歴史をそのまま感じることができる。
2つめは本棟北東に面し、北山と東山の風景を感じられる「改築エリア」。弥栄会館のシルエットを継承しつつも、保存エリアほど制約を受けずにモダンな日本デザインに設えた空間だ。
3つめは、祇園の町並みと調和するよう新たに建て増しされた「北棟増築エリア」。帝国ホテル初となる畳を設えた客室となり、祇園町をダイレクトに感じることのできる空間であり、帝国ホテルが考える新しい和風の提案も楽しめる。
注目のインペリアルスイートは、改築エリアに位置する最上位スイート。北・東の二面に広がる65平米のテラスを含む、計193平米の客室だ。弥栄会館の時代から建物のシルエットを印象づけている“鐘塔(しょうとう)”も含まれた、唯一無二の空間と言える。気になる料金は、1泊300万円(税・サービス料込み、宿泊税別、※宿泊時期により料金変動)を予定。
宿泊予約の開始時期は2025年秋ごろを予定しており、客室以外の意匠も順次公開の見通しだ。
平安時代から変わらない景色を現代に
「帝国ホテル 京都」の設計を担当した新素材研究所の榊田倫之氏は、建築的価値を尊重した主要客室のデザインについて語る。同氏が意識したのは、近景(祇園の町並み)と遠景(東山の稜線)だ。
弥栄会館は今から約90年前、1936年に建てられた和風の鉄筋コンクリート造の建築だが、竣工時の写真を見ると、さほど風景が変わっていない。であるならば、1200年前の平安時代から変わらない景色を現代に体験できるのではないかと榊田氏は考え、それが内装デザイン全体のコンセプトになった。
その現れのひとつが、客室でふんだんに使用されているケヤキを初めとした国産の木材だ。とくに柾目にこだわっており、客室のメインとするために原木から厳選し材料の組み立てを行ったという。これを日本古来の染料であり、重厚感のある柿渋で染め上げた。
また、弥栄会館に残された記憶の継承にも心を配ったそうで、貴賓室にまつわるエピソードや象眼された千鳥のアートワークなどが紹介された。
日本ならではの素材と、残された弥栄会館の意匠を組み合わせ、新たな価値を付加していることが「帝国ホテル 京都」の内装の特徴と言えそうだ。
全55室の小規模ながら、高品質サービスの提供を目指す
最後に風間氏、榊田氏、酒田氏によるトークセッションが行われ、新素材研究所に内装デザインを依頼した経緯や、地元祇園町からの応援の声が紹介された。
「『帝国ホテル 京都』は、東京・大阪と違い55室。上高地の75室よりも少ない、スモールラグジュアリーホテルです。私どもがいままで培ってきたサービスをギュッと凝縮させています。クオリティを高めることで、この『帝国ホテル 京都』が私たち帝国ホテル全体をまた一つ上の高みのステージへ連れてってくれると信じています」(風間氏)
「町のシルエットを保存した建物を活用していますので、四条通から花見小路に入ったところから雰囲気が繋がり、町の一部になるようなホテルを目指していきたいと思います。私の好きな言葉に『きれいさび』(※遠州流茶道の美的概念)というものがありまして、時間が経過し風化していくにつれて美しいと思える感性を指すのですが、『帝国ホテル 京都』も年月を重ねるごとに魅力が増していくことを期待したいですね」(榊田氏)