日本では2020年に発売となったフォルクスワーゲン「ゴルフ」(8世代目)がマイナーチェンジで「ゴルフ8.5」に進化した。車内ではユーザーの意見を受けて「物理スイッチ」が復活! ガソリンエンジンは1.5Lに一本化するなど、いろいろ変わったようだ。試乗して熟成具合を確かめた。
インフォテインメントの刷新がメイン?
「ゴルフ」は約半世紀前の1974年に初代が登場したロングセラーモデル。それまでフォルクスワーゲン(VW)のアイコン的存在だった「ビートル」とは対象的な角張ったデザインと広めの室内空間が世界的な人気を博した。2019年に登場した現行型ゴルフは8世代目なので「ゴルフ8」(ゴルフエイト)も呼ばれる。そのゴルフ8が大幅なマイナーチェンジを経て「ゴルフ8.5」に進化した、というわけだ。
フォルクスワーゲンジャパンでゴルフを担当するプロダクトマネージャーによると、今回のマイナーチェンジは「ユーザーの意見を反映させ、使い勝手を向上させること」を意図したものとなっているそうだ。
最も大きく進化したのは「インフォテインメントシステム」(情報とエンタメを一体化したシステム)だ。その象徴ともいえるのが、12.9インチの大型タッチディスプレイに新システムを組み合わせた「MIB4」である。
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12.9インチに大型化したタッチディスプレイが今回の目玉。運転席側に角度を付けたディスプレイは視認性が高まっている。ディスプレイ下部にはバックライト付きのタッチスライダーバーを設置。夜間でもエアコンの温度設定やオーディオの音量調節がしやすくなった
ディスプレイに触れて驚いたのは、タッチ時の画面スライドやスクロールの滑らかさだ。ここはマイチェンで注力した部分らしく、「システムの演算処理性能を向上させたことにより、ディスプレイのレスポンスがよくなりました」とのことだった。
一般的に、クルマに搭載されているディスプレイはカクカクするイメージがあるが、MIB4は高性能スマホのように滑らかに動く。音声認識機能「IDA(アイダ)ボイスアシスタント」は音声データをクラウドではなく車載コンピューターで処理するため、応答・操作がスムーズになっているという。
近年はクルマを選ぶ際にインフォテインメントシステムを重要視するユーザーが増えている。この部分の性能や使い勝手の向上は必須だ。そういった意味でいうと、新型ゴルフは最も低いグレードである「eTSI Active Basic」にも12.9インチのディスプレイを標準装備している。グレードによる差別がなく、どのグレードを選んでも新しいシステムを使えるのはありがたい。
さらに付け加えると、レーンキープアシストシステム(LKA)や同一車線内全車速運転支援システム(ACC)などの先進安全装備も全グレードで標準装備だ。予算を抑えつつ安全性を重視したいオーナーにとっても、安心して購入を決断できるのはうれしい。
走りは変わったのか!
プロダクトマネージャーによると、パワートレインの刷新も注力した点だという。
ゴルフにはディーゼルエンジン搭載車(396万円~475.3万円)とガソリンエンジン(48Vのマイルドハイブリッドシステム採用)搭載車(349.9万円~455.3万円、GTIは549.8万円)の選択肢がある。
ガソリンエンジンはこれまでラインアップしていた1.0Lを廃止し、最高出力が異なる2種類の1.5L直列4気筒ターボエンジン「1.5L eTSI」(116PS/150PS)に刷新した。その理由は「1.5Lでも1.0Lと同等の低燃費(18.7~18.8km/L)を実現できるうえ、アクセルのレスポンスもよくなり、走行性能を向上させられます。1.0Lを廃止しても問題ないと判断しました」とのこと。1.5L eTSIは低回転から最大トルクが出せるため、燃費を抑えつつスムーズで滑らかな発進を体感できるのがメリットだという。
今回は150PSの1.5L eTSIを試したが、エンジン始動時から静かに吹け上がり、完全停止状態からまったくストレスのない滑らかな加速を体感できた。アクセルをめいっぱい踏み込めば一気に加速できる。それでいて車内は静かで、居住空間も荷室空間も広さは必要十分。これまでゴルフ6、ゴルフ7と過去のモデルに乗ったことがあるが、ゴルフらしさは8.5でも健在だった。
上級グレード「GTI」は別格
上級グレード「GTI」にも乗ってみたが、こちらは別格という印象だった。
GTI専用のエクステリアはもちろん、専用スポーツサスペンションや電子制御油圧式フロントディファレンシャルロックなどを装備。乗り心地は若干硬くなるものの、路面からの突き上げはなく、段差に乗り上げても不快に感じることはなかった。ハンドルはそれなりに重厚でありながら、思った通りの操舵が可能。直線でもついハンドルを切ってみたくなるような面白さがあった。アクセルを踏み込みながら角度がきつめのカーブに入っていっても、さらにアクセルを開けたくなる安定感が感じられた。
GTIは間違いなくゴルフなのだが、他のグレードとは一線を画す別格の走りを堪能できる1台だった。
写真左:19インチ(235/35R19)の大径タイヤとレッドブレーキキャリパーが足元をグッと引き締める。写真中:GTIのロゴは細めのフォントでビンテージライクに。写真右:GTIにはガソリンエンジン「2.0L TSI」(265PS)を採用する
プロダクトマネージャーは「GTIは一度は乗っていただきたいモデルのひとつです。その一方で、ゴルフ8.5と同時に発売となるステーションワゴン『ゴルフ ヴァリアント』は、ヴァリアント専用としてボディを一から作り直しています。ホイールベースがハッチバックのゴルフよりも長いため、直進安定性がさらに向上しています。長距離ドライブが多い方であれば、ヴァリアントも検討していただきたいです」と話していた。
1人あるいは2人くらいなら、ゴルフで泊りがけの長距離ドライブに出かけてもまったく苦にはならないだろう。インフォテインメントシステムの使い勝手が向上しているとなれば、もはや文句のいいようがない。
個人的な選び方として、日常の使い勝手とコスパを重視するなら安全装備も充実している最安価グレード「eTSI Active Basic」(349.9万円)で十分だ(実際、最も売れているグレードらしい)。ただ、直進安定性と居住&荷室空間を両立させた「ゴルフ ヴァリアント」も捨てがたい。
ハッチバックとヴァリアントのどちらを選んでもゴルフらしさは確実に感じられるはず。今回試乗して感じたのは“ゴルフ選びの悩みは尽きない”ということだ。