飾るとたちまち部屋の雰囲気を一新してくれる「アート」の存在。できればそれなりに価値があるものを購入してみたいと思うけれど、購入場所や選び方がわからない……そんな方も多いのではないだろうか。
アートや車などの実物資産を少額から共同保有できるプラットフォーム「& OWNERS」を展開し、アートコレクション形成のアドバイザリーも行っている、AND OWNERSの松園詩織 代表取締役社長にインタビュー。アート購入のハウツーやその魅力について伺った。
富裕層でも難しい? アート購入の国内事情
2018年にアート系のスタートアップとして松園氏が創業したAND OWNERS(旧 AND ART)。金額の高さなどから購入が難しいアートを共同保有という形で所有し、売買できる共同保有プラットフォームを運営する中で、周囲の経営者や株主からのニーズに応じてコレクション形成のアドバイザリーを行うようになったという。
同社は事業の特性上、プライマリー(作品が最初に販売される市場)やセカンダリー(再販市場)、国内外を問わずさまざまなジャンルのアート作品を扱う200を超えるプロとのつながりがあり、幅広い提案ができる点を強みとしている。
「例えば日本画をご希望であれば、その領域に精通しているプロフェッショナルをお呼びすることもありますし、海外作家の作品がご希望であれば、バンクシーなどが得意な外部のギャラリーと連携します。」
顧客からの相談に応じて外部のプロとも連携し、幅広いニーズに対して適切なアドバイスをする……実はそうした役割を担うプレイヤーが日本には少ないのだそうだ。
「いわゆる富裕層の方でさえ、意外と"アート"となるとより良いアドバイスをもらえる場所が少ないと感じていますし、国内では著名な個人のディーラーさんというと、両手で数えるほどになってしまいます。」
まずはギャラリーに足を運ぼう
日本では富裕層でも購入のきっかけをつかみづらいアートの世界。一般人はどうやって一歩を踏み出せばいいのか。
「アート購入初心者の方がどこに行けばいいかで言うと、基本的には新作のアートを展示・販売しているギャラリーをお勧めしています。ここでは、ギャラリーと作家が連携を取りながら、責任をもって販売をしてくれますし、購入時に作家さんとコミュニケーションが取れることもあります。青天井のオークションの世界と比べると、価格帯も明確で比較的抑えられているケースも多いです。」
ギャラリーと言ってもさまざまだが、松園氏によれば「グローバルで結果を残す作家を輩出しながら、若手の育成も行っているところ」がより信頼できるとのこと。
購入可能を前提としたギャラリーではなく、純粋に展示を楽しみたい場合は、同社のWEBメディアや寺田倉庫の展示会案内などから探すことをお勧めしてくれた。
"直感"で選んでOK!
また、どのようなアートを選んだらいいかや、家での飾り方についてはこんなアドバイスも。
「アートは資産でもありながら、情緒的な個人のアイデンティティに紐づく魅力があるものなので、いいなと思ったものをシンプルに購入してもらえたらと思います。この青が好きだから、この作家さんのモチーフの背景に共感したからなど、直感を大切にしてほしいですね。」
「作品は入れ替えることが可能ですし、壁に打ち付けて飾らなくても、立てかけるという方法だってあります。購入してしまえば、その作品が家のどこかしらにはマッチすると思います。ただし、インパクトのある色や複雑なモチーフだと場所を選ぶと思うので、特に初心者の方であれば、色味がマイルドなものや抽象的な表現のアートだとお部屋になじみやすいかもしれません。」
もちろん作品のサイズや設置の難易度は購入前に確認する必要があるが、管理については、特殊な素材が使われていたり、資産性が高かったりと、特にセンシティブに扱う必要がある作品でない限り、"直接日光が当たらない"、"人が過ごしていて快適と感じる温度や湿度をなるべく保つ"など、最低限の配慮で基本的には問題ないという。
資産性は売買履歴と世間のニーズとの兼ね合いで築かれる
そして気になるのが、アートの"資産"としての側面だ。どのようなアートであれば、資産性を担保することができるのか。
「アートは間違いなくグローバルでも資産と捉えられているし、経験上その実感があります。しかし、マーケットにのるものと、そうした世界線にのらないものがあり、『この作品は将来化ける』といった楽観的な観測はしすぎない方がいいでしょう。」
「例えばアンディ・ウォーホルの作品の資産価値が高いのは、世界中から評価を受け、長い間売買の流動性が保たれ、価格が上がっているからです。アート投資を楽しみたいのであれば、過去の売買履歴と、どれくらい世の中にニーズがあるのかの兼ね合いを最低限見る必要があります。一概には言えませんが、価格としては数千万円が一つのラインです。」
共同保有プラットフォーム「& OWNERS」では、こうした背景を踏まえた上で、資産として安定性のある作品からチャレンジングな作品まで、幅広く取り扱っているという。
「アンディ・ウォーホルのように、長く愛されている作家の作品の方が資産として安定性があり、そうした作品ももちろん取り扱っています。しかし、ここ数年で人気が出てきてグローバルで評価されている作家さんや国内でも有望株とされるギャラリー期待の作家さんの作品なども展開しています。」
例えば同社が約3年前に共同保有プラットフォームで販売を開始した友沢こたお氏の「slime XCVIII」という作品は、販売開始当時の価格から約3.9倍(46万2,000円→180万)の上昇を見せるなど、実際に価値を上げたりもしている。
保有しているだけで心ときめくアートの資産価値が、結果として上がってさらにうれしい……そんな楽しみ方もあるのかもしれない。
買うからこそのアートの魅力とは?
「自分の琴線に触れたものや、なんとなくでも直感的に好きなものを選び、購入するという体験そのものが人生を豊かにしますし、機能性が限りなく低いからこそ、アートは自分の心と向き合う最良の機会なんです。」とアート購入の魅力を語る松園氏。
自身が運営する共同保有プラットフォーム上の購入では、作品を部屋に飾ることはできないものの「個人では一生接点がなかったかもしれない作品を自分事化して、情緒的な魅力と投資的なチャレンジを両方味わえる」とその価値について語っている。
「"買う"という行為は、対象を自分事化する行為だと考えています。例えば私は黒の服が好きで、黒の服ばかり着ます。なぜピンクではなく黒なのかと言えば、そういう人間だと周囲に見せたいのかもしれないし、自身を落ち着かせたいという心が表れているのかもしれません。こんな風に、何を選び取るかというのは、その人のアイデンティティを示すものだと思っているんです。買ったものから、その人の本質が見えてきますし、ご自身の表現にもつながっている。そこにアートを購入する価値があると私は思います。」
アート購入を通して、新たな自分を発見してみては?