スズキ「ジムニー」の5ドアバージョン「ジムニーノマド」がついに日本にやってくる。ジムニーといえば悪路走破性に加えてデザインも重要な要素。後席にドアを付けたためにデザインのバランスが崩れてしまっていては元も子もないが、実際のところは? スズキのデザイン担当に話を聞いた。
全長延長は最小限に
――ついに、ジムニーの5ドアが日本にやってきますね! 期待の声は届いていましたか?
商品企画部 四輪デザイン部 デザイン企画課 主幹の松島久記さん:期待は非常に大きいと思っていました。2~3代目のジムニーのころから「5ドアが欲しい」という声が何度も上がっていましたし、社内でも何度か企画が立ち上がっては頓挫してきた経緯があります。初めて実現できてうれしいです。
――なぜ今までのジムニーでは5ドアが作れなくて、現行モデル(4世代目)では作れたんですか?
松島さん:これまでは、ホイールベースを伸ばすような、ボディを新作する大掛かりな企画には至らなかったのですが、4代目ジムニーは発表以来、非常に好評をいただいておりまして、それならボディを新作して、ホイールベース延長までやっても需要が見込めるのでは、という話になり、企画が実現しました。
――全長/ホイールベースを伸ばすと一言で言っても、そう単純な作業ではないんでしょうね。ただ伸ばしただけだと悪路走破性に緩衝しそうですし、デザインが間延びしてしまう危険性もあるかと思います。
松島さん:おっしゃる通りです。ジムニーノマド開発の初期段階から、プロジェクトチーム内では、設計もデザインも「(全長の)延長量をミニマムにするにはどうすればいいか」という同じ目標を共有していました。最低限の延長量でリアドアの乗降性を確保するのが最初の作業でした。開発の初期段階では全長をもっと伸ばしたものや逆に短いものも検討しましたが、今のサイズが延長量としてはミニマムです。これ以上短いと、リアドアの「足抜き」が難しくなってしまいます。
それと、ジムニーの最大の特徴は悪路走破性です。全長を伸ばせば重量が増えるので、その意味でもミニマムに抑えるのが最大の目標でした。
――松島さんはエクステリアのご担当と伺いましたが、全長を延長してもジムニーらしいデザインを損なわずに済みましたか?
松島さん:正直にいって、これがマキシマム(伸ばせる限界)だと思います。これより伸びると、ちょっと細長いなと感じると思います。
――ダックスフンド的な?
松島さん:そうですね。クルマの幅が拡大するわけではないので、細くて長い、リムジンのような見え方になってしまう心配がありました。
――私の感想としては、ジムニーシエラと見比べても、ノマドはカッコいいなと思いました。
松島さん:ちょうどカッコいいところで(全長の延長を)止められてよかったです(笑)。
――横から見ると、「ラングラー」あたりにも引けを取らないような……。もちろん、縮尺が全く違うんですけど。
5ドア化で車内はどう変わった?
――5ドア化でクルマのレイアウトや後席の居住性、荷室の使い勝手などはどう変わりましたか?
四輪車両技術企画部 四輪プラットフォーム開発課 主任の荒井隆輔さん:車両寸法の拡大は最小限に抑えつつ、後席はしっかり座れることを目指しました。シエラに対しては、人の位置も見直しています。具体的にはお尻の位置をシエラに対して50mm、車両後方に移動させ、上方向に20mm上げています。後方への移動で膝周りのスペースを確保し、居住性を向上させました。上に上げた分はシートのクッション厚を厚くして、座り心地を改善しています。
後席は横方向の座る位置も見直しました。シエラに比べると45mm、外側に移動しているんです。座った時の隣の人との間隔が最大90mm増えています。
――クルマ自体の全幅はシエラと同じで広がっていないと聞いているんですが、どうして横方向の座る位置を変えられたんですか?
荒井さん:ホイールハウスの部分を後方に移動させることができたので、その分、シートの幅を広くして、間隔も広げられたんです。
――全長が伸びたことで、車内の邪魔な出っ張りを後ろに下げられたということですね。ジムニーとジムニーシエラは2人までで乗ることが多いクルマだとお聞きしましたが、ノマドの登場により、後席をフルで使う人の需要も取り込めそうですね。
松島さん:そもそもジムニーは「プロの道具」という思想でデザインしています。お客様の中には、「ジムニーには興味があるけど3ドアだと不便そう」という声があったのは確かです。ノマドは、ジムニーに興味はあるけど手を出しづらいと思っていたお客様にも訴求して、ジムニーの世界のすそ野を広げるような存在になってくれればと思います。
――普通、クルマの世界でユーザーの「裾野を広げる」という場合は、通常版よりも装備の簡素な安いグレードを用意する、という話になりがちですが、ジムニーの場合は質感を高めてドアの枚数を増やした上級版のノマドがユーザー層の裾野を広げる役割を担うわけですね。面白いです。
松島さん:ジムニーが大好きなコアなファンは社内にもたくさんいて、中には「5ドアなんてジムニーじゃないよ」という意見もあるのですが、ジムニーのデザインが好き、かわいいと思っていても、性能の特殊さから手が出しづらかったライトユーザー、ファミリーユーザーもいたと思います。
――インテリアのこだわりは?
商品企画本部 四輪デザイン部 インテリア課の浅倉恵さん:後席の乗降性にこだわりました。最初にモデルを作った際には「足抜き」の悪さがあって、体の一部が当たってしまう部分もあったんですが、社内でのプレゼンが終わった後にデザイナーがやり直しまして、ふくらはぎやひざが当たらないよう面取りをしたり、シートの角をそぎ落としたりしました。
あとは上級感・利便性という観点から、シエラは荷室にPVC(ポリ塩化ビニル)を貼っていたんですが、ノマドは荷物の出し入れのしやすさを訴求するため、カーペットにしました。これも3ドアモデルと差別化したポイントです。
松島さん:ラゲッジをフルトリム化したことで、室内の静粛性もかなり向上しています。快適性が増しているはずです。
――外観で3ドアとの差別化を図ったところはありますか?
松島さん:グリルを新作しました。
――5スロットをガンメタリック塗装にして、枠をクロームメッキで縁取りしたんですよね。目立つようになりました。
松島さん:ノマドを作るにあたっては、グリルをぜひ新作させてほしいとデザイン部から提案しました。ジムニーのコアなファンで、「飾らない潔さ」「質実剛健」に魅力を感じている方からは、「ジムニーにクロームなんて似合わないよ」という意見もあるかと思うのですが……。
――そういう意見もあるんですね……。むしろ、コアなファンの間では、そういう意見が圧倒的なんですか?
松島さん:そうですね、社内では、そこをなんとか説き伏せました(笑)。今ここで新しいグリルのデザインを起こさないと、この先、もうチャンスはないかもしれない。私の中では、このチャンスに印象の違うグリルを出したいと考えました。すでに3ドアのジムニーに乗っている方にとっては、カスタマイズの材料になるかもとも思ったんです。
――ノマドを街で見てグリルがカッコいいと思ったら、自分の3ドアジムニーのグリルをクローム版に取り換えられるということですか?
松島さん:3ドアのグリルとは互換性がありますから、取り寄せて付け替えられます。
――そんなことができるんですね!
松島さん:クロームを使ったグリルはジムニーの基本思想からするとデコラティブに過ぎるかもしれないのですが、アメリカにはラングラーやハマーなどのリアルオフローダーをクロームでデコレーションするという文化がありまして、それが念頭にありました。もしかしたら、そういうカスタマイズが好きなお客様もいるのではないかと思いまして……。
――確かにいそうです。飾らない魅力もあるけど、飾ってもジムニーはカッコいいぞ! という提案ですよね。それも、ジムニーの間口を広げるということにつながるかもしれません。
――ボディカラーに赤(シズリングレッド)がありますけど、これも珍しいですね?
浅倉さん:昔は一部あったんですが、今回は上質感を追求したいということもあり、アクティブな印象でありながら上級感もある色ということで、深みのある赤を採用しました。
浅倉さん:もうひとつ、「セレスティアルブルー」というボディカラーも初採用となります。この青はインドの上級ブランド「ネクサ」で使っている色で、「ネクサブルー」とも呼ばれています。
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「セレスティアルブルー」の「ジムニーノマド」。前出のベージュっぽいボディカラーは「シフォンアイボリーメタリック2/ブラックルーフ」で、ほかには「ジャングルグリーン2」「アークティックホワイトパール」「ブルーイッシュブラックパール4」のラインアップがある。2トーン2色、モノトーン4色の計6色展開だ
――「ノマド」というネーミングですが、初代「エスクード」にも「ノマド」があったそうですね。
松島さん:初代エスクードは3ドアで、大きさもシエラとほぼ一緒でした。このクルマにも5ドア化の要望がありまして、それを受けて登場したのがエスクードノマドです。
――ジムニーと同じ流れで同じ名前なんですね。面白いなー。
松島さん:ちなみになんですが、エスクードノマドは全長が3,975mmでした。それよりもジムニーノマドはかなり短いんです。ですので、エスクードよりも短い全長の延長量で5ドア化を実現できたということになります。
――それはスゴい(笑)。
浅倉さん:ジムニーノマドのロゴはエスクードノマドのものをリデザインして使用しています。エスクードノマドはデカールでの表現だったのですが、ジムニーノマドは立体エンブレムなので、デザインはゼロから起こしています。ジムニーの性質に合わせて、頼りがいを文字からも感じられるよう、フォントを太くしたりと力強い表現にしました。
――ジムニーの5ドアは、世界ではどんなところで売っているんですか?
松島さん:インド、アフリカ、中東、中南米、アジア、オーストラリアなどです。
――先ほどのグリルのお話から考えると、ぜひ北米に投入してみたいという気持ちがあるのでは?
松島さん:そうですね(笑)。北米にもコンパクトなクルマを好まれるお客様はいらっしゃるので、そういう思いはあります。ただ、北米に入れるとなると、法規が大変なんです。
――向こうは大きなクルマを基準に法規を作っているでしょうから、小さなクルマで法規に適応させるには、大変な作業が必要なんでしょうね。発売すれば売れそうなんですが……。ありがとうございました!