ダイキン工業は新ブランド「The Art Line(ジ・アートライン)」を立ち上げ、第1弾となるルームエアコン「risora(リソラ)」、および「加湿ストリーマ空気清浄機(70タイプ)」を投入する。
「The Art Line」は、自由な発想で完成のままに空間をデザインする――を掲げるブランド。第1弾のエアコンと空気清浄機では、正面パネルに伝統工芸品やアート作品、自然素材をあしらい、ビジュアルや質感をデザインした。製造面ではセーレン株式会社、デザイン面では株式会社ヘラルボニーと協業する。
製品本体は既存のモデルだが、正面パネルのバリエーションは非常に多彩。伝統工芸品やアート作品の美しく繊細な質感を表現した「ART」、自然由来の豊かな素材感をイメージした「NATURE」、インテリアになじむ色と質感にこだわった「BLEND」という3シリーズで構成し、合計57種類のデザインをそろえた。「一品一様」として、在庫を持たずユーザーの注文に応じて生産する。
本物のアートを家電に
このうち第1弾の注目は「ART」シリーズだ。“異彩を、放て。”をミッションとするクリエイティブカンパニーのヘラルボニーとコラボレーションし、ヘラルボニーがライセンス契約を結んでいる4人のアーティストの作品を採用した。
ヘラルボニーは、「クリエイティブ」を通じて障がいを抱える人々をプロデュースしているスタートアップ。障がいのイメージ変容と新たな文化の創出を目指している。多くの作家や施設と契約しており、3,000点を超えるアートデータを保有。これらのアートデータはすでに、スターバックスの店内アート、JALの機内グッズ、VISAのクレジットカード、JR東京駅(JR東海きっぷうりば)の壁面アートなどに採用実績があり、障がいを抱える作家へとロイヤリティが還元される。一例だが、年収20万円(就労継続支援B型の平均)ほどだったものが、年収400万円を超えるようになったケースもあるという。
壁に白いエアコンがある――そんな一律な世界でいいのか
今回のThe Art Lineについて、ダイキン工業 執行役員 空調営業本部長の石井克典氏は「壁に白いエアコンがあるという一律な世界でいいのか」と出発点を述べる。「メーカーが考えるものづくりで終わってはいけないのではないか。本当の意味での空気、そして空間をご提案して、心がわくわくする空間を創っていきたい」(石井氏)とした。
もともとダイキンのエアコンには、本体カラー(ホワイト/ダークグレー)とパネルカラー(33色、2025年1月現在)を選べる薄型ルームエアコン「risora(リソラ)」というラインナップがある。2018年に登場したrisoraからエアコンとインテリアに取り組んできたダイキンだが、今回のThe Art Lineもベースのエアコンはrisoraだ。
「The Art Line」という名称にあるように、「アート」を強く意識しているため、販売は当面、ダイキンのショールーム「ダイキンソリューションプラザ フーハ東京・フーハ大阪」のみ。実際の展示を見たうえで、気に入ったパネルデザインのrisoraや加湿ストリーマ空気清浄機を注文する。1月17日から予約販売を開始しており、納品はrisoraが3月中旬から、加湿ストリーマ空気清浄機が4月上旬から。
発表会で様々なパネルの実物を見たが、色合いや質感、手触り感は実物でないと伝わらない。ましてヘラルボニーの契約作家が手がけたパネルはまさにアートなので、実物を目にして琴線に触れたものを選ばないと、自宅に届いたときガッカリ感につながってしまうだろう。絵画やアート作品を写真で見ただけで購入することがまずないのと同じだ。
ダイキンとしてもこのように考え、ショールームでの販売にしぼったという。メーカーとして、ユーザーとの対話やニーズの把握、販売目標などを掲げない展開(だが持続可能な事業という現実面)など、ダイキンの石井氏は「挑戦」を強調する。
参考までに価格はオープン。risoraの4kWモデル(売れ筋の約14畳向け)は21万円前後で、これにパネルの代金が加わる。パネル代金はARTシリーズで6万円前後、BLENDシリーズで3.5万円前後、NATUREシリーズで4.5万円前後(すべて税別)。なお2023年モデル以降のrisoraなら、ユーザーがパネルだけを購入して交換することも可能だ。加湿ストリーマ空気清浄機の参考トータル価格(オープン)は、ARTシリーズで11万円前後、BLENDシリーズで8万円前後、NATUREシリーズで9万円前後となる(すべて税別)。
ユーザーの1人1人が自宅のインテリアや自分のスタイルに応じてデザインを選ぶため、The Art Lineの製品は在庫を持たず、受注生産方式だ。注文から納品までは約2カ月かかる。
「一品一様」を実現する生産体制
そして、パネルのデザイン部分の生産を担当しているのがセーレンだ。セーレンは「ビスコテックス」というシステムを展開しており、商品企画と開発(サンプルレス、カスタマイズ、多品種・小ロット)から製造にいたるまで、ワンストップで提供している。ビスコテックス(Viscotecs)は「Visual Communication Technology System」からの造語で、「ほしいものを」「ほしいときに」「ほしいだけ」という意味を込めている。
具体的には、risoraや加湿ストリーマ空気清浄機の「素(す)」の正面パネルをセーレンの生産ラインへ運び、ユーザーが選んだデザインをフィルムにして製品に貼り付けるという作業だ。ビスコテックスが一般消費者向けの家電製品を手がけるのは初ということで、セーレン 代表取締役 副社長執行役員の川田浩司氏は「家電に“一品一様”のニーズがあるかどうか、またそうしたニーズに応えるメーカーさんが少ないなか、ダイキンさんの大きなチャレンジに対してしっかりサポートしていきたい」とした。
ここ数年、家電をインテリアの一部としてとらえた製品が増えている。リビングなど全体の空間デザインを重視するユーザーニーズが高まってきた背景と合わせて、家電の機能や価格とはまた別軸の選び方が顕在化し、この流れは今後も強まっていくはずだ。もちろん製品に必要十分な性能と機能があってこそ、そしてメーカーも事業である以上は利益を生んでこそではあるが、自分、家族、自宅、自室を感性で表現できる家電には夢がある。ダイキンのThe Art Lineは今後おもしろい展開になりそうだ。