千葉大学は、同大大学院薬学研究院の溝口貴正助教、伊藤素行教授、工学研究院の菅原路子准教授の研究グループが、細胞運動に関わる新たな分子メカニズムを解明したことを発表した。この成果により、動物の形づくりの理解やガン転移などの細胞運動が深くかかわる疾病研究に貢献すると期待される。

細胞運動のパターンとRac1活性(出所:千葉大ニュースリリース)

動物の発生過程において複雑な器官や組織が構築されるためには、分化した細胞が正しい位置に配置される細胞運動が重要である。また、ガン細胞の運動(ガン転移)とガンの悪性度に相関関係があることも知られている。

細胞運動には、一定方向に向かって持続的に運動する「方向性運動」と、方向性を欠く「ランダム運動」のふたつのパターンがあり、Rac1と呼ばれるタンパク質の活性が細胞内で局所的に生じるか、全体的に活性化されるかで制御されている。

今回、研究グループは、子宮頸ガン由来のHeLa細胞とゼブラフィッシュを用いた解析を行った。その結果、Mind bomb1(Mib1)という酵素が「方向性運動」に重要であることを見出した。本来「方向性運動」をする細胞が、Mib1の機能欠損したHeLa細胞やゼブラフィッシュの細胞では「ランダム運動」をするようになった。これは、細胞内においてRac1を活性化する「Catenin delta1(Ctnnd1)」というタンパク質に対し、Mib1が"ユビキチン化"という修飾を行い、そのCtnnd1はRac1を活性化する機能が低下することによると見出された。

Mib1による細胞運動制御(出所:千葉大ニュースリリース)

以上の解析から、Mib1がユビキチン化を介してCtnnd1依存的なRac1の活性化を抑制的に制御し「方向性運動」に関わるという、細胞運動の新たな分子メカニズムが明らかになった。研究グループは、細胞運動が関わる動物の形づくりの理解やガン転移などの疾病研究に貢献すると考えられるとしている。