東京大学大気海洋研究所は、造礁サンゴの骨格生成は海水のMg/Ca比だけでなく水温の影響を顕著にうけること、Mg/Ca比が低い環境下では、水温に関わらず骨格の成長が阻害されることがわかったと発表した。

同研究は、東京大学大気海洋研究所の樋口富彦特任研究員、白井厚太朗助教と黒潮生物研究所、筑波大学の研究者からなる合同研究チームによるもので、同研究成果は、10月19日付で雑誌「Geology」に掲載された。

(A)ミドリイシ属サンゴのプラヌラ幼生 (B)ポリプ着底後2日後 (C)ポリプ着底後約2か月後。プラヌラ幼生の段階から海水条件をコントロールすることで、各条件下のみで成長した純粋なサンゴ骨格が得られる。(出所:東京大学大気海洋研究所プレスリリース)

約1億年前の白亜紀など、過去の海洋ではCaの濃度とMgの濃度の相対的な量比(Mg/Ca比)が大きく変動していたと考えられている。水温とMg/Caをコントロールした環境で無機的な炭酸カルシウムを生成した先行研究では、結晶構造の水温依存性が報告され、石灰化生物で同様な応答を示すのか実験結果が求められていた。そこで、同研究では、海水温とMg/Ca比の両方を変化させ、造礁サンゴの炭酸カルシウム骨格形成に与える影響についてを調査した。

各水温とMg/Ca比におけるサンゴ1個あたりの骨格成長速度。現代の海水組成(Mg/Ca=5.2)で育てたサンゴと比較して、Mg/Ca比が1.0の海水で平均63%、Mg/Ca比が0.5の海水では約57%骨格成長が抑制された。(出所:東京大学大気海洋研究所プレスリリース)

同研究では、高知で産卵したミドリイシ属サンゴのプラヌラ幼生を19, 22, 25, 28℃の恒温器内においてMg/Ca比が5.2, 1.0, 0.5の海水中で着底させ、骨格成長を促した。骨格生成前のプラヌラ幼生の段階から海水条件をコントロールすることで、各条件下のみで形成された純粋なサンゴ骨格を得ることができる。そして、約4か月成長させたサンゴ骨格を分析した結果、造礁サンゴの骨格生成は、無機的な炭酸カルシウム生成結果と同様、海水のMg/Ca比だけでなく水温の影響を顕著にうけることが明らかになった。ただし、低Mg/Ca環境下では全水温で骨格成長が阻害された。どの水温でも成長が半分以上遅いことから、低Mg/Ca環境下では年間を通じて成長が阻害されていた可能性が高い。Mg/Ca比が低い白亜紀(約1億年前)の地層からは造礁サンゴの化石はあまり見つかっておらず、当時の低Mg/Ca環境がサンゴの減少を引き起こしていた原因のひとつであることが考えられるという。

1億年前は、厚歯二枚貝が主要な造礁生物だと考えられており、サンゴは低Mg/Ca環境下では年間を通じて成長速度が遅くなるため、主要な造礁生物にはなれなかったことが推測される。今後は、サンゴの結果に加えて他の石灰化生物(有孔虫や二枚貝など)のMg/Ca比および海水温変動に対する応答を調べることで、造礁生物の変遷要因をより明らかにしていくことが期待されるということだ。