熊本大学は、同大大学院生命科学研究部 生体機能分子合成学分野の立石大氏、大塚雅巳教授、同大薬学部附属創薬研究センターの藤田美歌子准教授らの研究グループが、新しいエイズウイルス感染細胞除去法を開発したことを発表した。この成果は8月21日、学術雑誌「Scientific Reports」に掲載された。

「Lock-in and apoptosis法」の仕組み(出所:ニュースリリース※PDF)

近年、複数の抗エイズ薬を用いる多剤併用療法の進展により、エイズウイルス感染者体内でのウイルス増殖を抑えることが可能となった。しかし、感染者体内からウイルスを完全に駆逐することはできず、ウイルスはリザーバーと呼ばれる特別な細胞内に潜伏して生き残ってしまう。そのため、リザーバー内のウイルスを除去することが現在のエイズ研究の最大の課題となっている。

数年前に開発された「kick and kill法」は、リザーバー細胞にある種の薬剤を作用させ、中に潜伏しているウイルスを活性化させてリザーバー細胞を殺すというウイルス駆除法である。しかしこの方法では、薬剤でウイルスを活性化することはできても、効率良く細胞を殺せないという問題があった。

今回、研究グループは「Lock-in and apoptosis法」を開発した。同グループが新たに開発した「L-HIPPO」という化合物をウイルス感染細胞に導入すると、エイズウイルスが持つPr55Gagという蛋白質に強く結合し、ウイルスの放出(出芽)が抑えられる。これにより、ウイルスが細胞内に閉じ込められて出てこられなくなり、その細胞は細胞死を起こして自然に死ぬ仕組みとなっている。

研究グループによると、この方法が今すぐにエイズウイルス感染者に使えるというわけではないものの、リザーバー内のウイルスを活性化させる薬剤は既に存在しており、エイズウイルスを感染細胞内に閉じ込めて殺すという同方法と組み合わせることで、リザーバー内に潜伏しているウイルスを駆除することが可能になるという。

今後はこの薬剤と組み合わせて、標的となるリザーバーに効率よくL-HIPPOを導入させることができるよう改良していく考えだとし、近い将来、エイズの完治につながることが期待できると説明している。