東京大学(東大)などは7月21日、ばね型有機分子を金属表面で歪ませることにより“高エネルギー充電状態”を作り出し、従来法では合成できなかった機能性材料を著しく低いエネルギーで合成する新しい炭素骨格組み換え反応の開発に成功したと発表した。

同成果は、東京大学 塩足亮隼助教、杉本宜昭准教授、岩田孝太博士研究員、京都大学 中江隆博助教、坂口浩司教授、愛媛大学 宇野英満教授、奥島鉄雄准教授、森重樹特任講師らの研究グループによるもので、7月20日付けの英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。

有機ELディスプレイや太陽電池を構成する半導体材料である機能性有機分子は、従来、フラスコ中での有機合成反応を用いて作られてきた。しかし、超伝導などの優れた特性を示すある種の機能性有機分子は、その合成に大きなエネルギーを必要とするため、数百度の高温でも合成が困難であり、新しい原理に基づく合成法が望まれていた。

今回、同研究グループが開発した手法は、ねじれた構造を持つように設計したばね型の有機分子を金属基板に吸着させ、真空中で低温加熱するというもの。原料分子を金属表面上で歪ませることで力学的エネルギーを分子内に蓄えた状態にし、穏やかな加熱条件でその歪みエネルギーを開放することにより、新しい形式の化学反応を起こすことができる。

同手法により研究グループは、超伝導等に用いられる機能性構造である「フルバレン骨格」の合成に成功した。原子間力顕微鏡測定によって、生成された分子が確かにフルバレン骨格を持つこと、そしてその反応効率が非常に高いことが明らかになっている。

同研究グループは、今後、今回開発した手法をさらに発展させ、従来法では不可能な物質の開発に取り組む予定であるとしている。

今回開発された「金属表面で分子を曲げて骨格を変える新・有機合成法」の概念図。下段は、実際に測定した分子の原子間力顕微鏡像 (出所:愛媛大学Webサイト)