大阪大学は、骨にマラリア原虫の生成物が蓄積することで骨に慢性的な炎症が起き、それが骨量減少の原因となっていることを発見したと発表した。

正常な骨(左)とマラリア原虫の生成物が、脊椎動物の骨中にある骨髄中の微小な環境「骨髄ニッチ」に蓄積して黒く変色し密度が減少した骨(右)

マラリアは、治癒後でさえ、Plasmodium残存物の持続的な蓄積による慢性的な骨量減少を引き起こす。

同研究は、大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC)のCevayir COBAN(ジョヴァイア・チョバン)教授らの研究グループによるもので、同研究成果は、6月2日付けで米国の科学雑誌「Science Immunology」にオンライン掲載された。

マラリア原虫が宿主に寄生することで引き起こされるマラリアは、生命を脅かす感染症であり、毎年2億人を超える人々が感染している。ときには、脳性マラリア、呼吸困難、重度の貧血といった合併症が発症、急速に進行し、死に至ることがあり、少なくとも年間43万人が死亡している。大部分の患者は病気から回復するが、生存者はこの感染が原因で「隠れた」長期的症状に悩まされることが示唆されてきた。

今回同研究グループは、マラリア感染によって、骨形成を行う骨芽細胞と骨吸収を行う破骨細胞がバランスを取ることで維持されている骨恒常性が阻害されることを、マウスマラリアモデルを用いて示した。1回のマラリア感染でも、病気が完全に治癒しても、慢性的な骨量減少が起こるという。これは、マラリア原虫の生成物が骨吸収を行う破骨細胞によって「食べられ」、骨恒常性が阻害されるためで、この生成物は、マラリア原虫の主な生成物であるヘモゾインやタンパク質、その他の因子が考えられる。これらの生成物は、破骨細胞および骨芽細胞の前駆細胞に対して、免疫細胞内部のタンパク質MyD88に依存する炎症応答を誘導し、破骨細胞分化を誘導するRANKLの発現を高め、骨吸収を促進する破骨細胞形成への過剰な刺激を与えている。一方、ヘモゾインのような生成物ができないよう突然変異したマラリア寄生虫をマウスに感染させた場合には、骨量減少は観察されなかった。また、ビタミンD3類縁体であるアルファカルシドールの補給によって、マラリア感染による骨量減少の阻止と骨量回復の方法も示すことができた。

今回の研究によって、マラリアが骨組織に残した「遺留物」が骨障害を促進していることがわかった。今までマラリアの治療によって完全に回復したと考えられていた状態においても、この寄生虫生成物の長期的かつ持続的な蓄積が起こり、骨は慢性的な炎症状態になり長期的な骨量減少が起きる。これは特に若年者で顕著で、成育不良や骨粗しょう症の原因となっていることが考えられる。しかし同研究では、骨量減少を回復させる方法も示すことができたため、マラリア治療とこの骨療法を併用することで、マラリア感染者における骨状態が改善されることが期待されるということだ。