産業技術総合研究所 ナノ材料研究部門 電子顕微鏡グループの堀内伸上級主任研究員、電子光技術研究部門 分子集積デバイスグループ・島田悟主任研究員らと、吉野電化工業は9日、炭素繊維強化樹脂(CFRP)への密着性が良好なめっきを実現する、無電解めっき方法を開発したことを発表した。この成果の詳細は3月10日、東洋大学川越キャンパス(埼玉県川越市)で開催される表面技術協会第135回講演大会(東洋大学)で発表される。

CFRP上に成膜した銅めっきに落雷試験を行った結果(左)と比較のためCFRP上に貼り付けた同じ厚さの銅箔に落雷試験を行った結果(右)- 黒くなっている部分が損傷を受けている部分であり、銅箔を貼ったCFRP板では約30 mmの大きな穴があいたが、 表面に銅めっき膜を形成したCFRP板では損傷範囲は数mmにとどまった(出所:産総研Webサイト)

炭素繊維と樹脂との複合材料であるCFRPは、金属に比べ軽く、高強度・高弾性率など力学的物性にも優れ、さまざまな分野で実用化が進んでいるが、航空機など屋外で使用されるCFRP製構造物では耐雷性が必要である。CFRP表面に導電性を付与できれば耐雷性の改善が期待できるが、CFRPの表面は化学的・物理的に安定であるため、密着性の良い金属膜の形成は困難であった。

そこで研究グループは、CFRPの製造に用いる中間素材であるプリプレグに直接無電解めっきを施す方法を開発し、密着性に優れた金属膜形成を可能にした。硬化前のプリプレグ表面だけを簡単な湿式処理により安定化し、樹脂成分の溶出を抑え、独自に開発したパラジウムコロイド触媒により無電解めっきを可能にしたことで、無電解めっきしたプリプレグから作製したCFRPに銅を約100μm(マイクロメートル)の厚さで電気めっきして導電性を一層高めたところ、同じ厚みの銅箔を貼ったCFRPに比べて耐雷性が大幅に改善されたという。

産総研は今後、より大きな雷インパルス電流を用いた耐雷性試験による評価を進めると同時に、耐雷性向上のメカニズムを明らかにする予定だとしている。一方、吉野電化は、今回開発した無電解めっきの量産化プロセスの開発を進める。

今回開発した方法で銅めっき(厚さ50μm)した柔軟なプリプレグ(出所:産総研Webサイト)

雷インパルス電流による耐雷性評価試験(出所:産総研Webサイト)