国立がん研究センター(国がん)、理化学研究所(理研)、カルナバイオサイエンスは8月26日、大腸がん幹細胞を抑制する新規化合物を創出したと発表した。

同成果は、国立がん研究センター研究所 創薬臨床研究分野 山田哲司 分野長、理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤研究センター 構造・合成生物学部門 白水美香子 部門長、カルナバイオサイエンス 研究開発本部 澤匡明 本部長らの研究グループによるもので、8月26日付けの英国科学誌「Nature Communications」オンライン版に掲載された。

がんの治療抵抗性の原因に、がん幹細胞の関与が考えられている。がん幹細胞はポンプのようなタンパク質により薬剤を細胞の外に排出し、活性酸素除去機構を持ち、冬眠したような状態で長期間潜み続けるため、従来の抗がん剤では根絶することができない。また、がん幹細胞は自己複製能と高い造腫瘍性を持ち、治療後に少数でも残存すると、腫瘍を再構築できるため、再発の原因となる。

大腸がんの90%以上の症例では、APC、β-catenin(CTNNB1)、TCF4(TCF7L2)などのWntシグナル遺伝子に変異が認められるが、これらの変異はWntシグナル伝達経路を恒常的に活性化し、大腸がんのもととなるがん幹細胞を発生させると考えられている。

今回、同研究グループはTNIKというリン酸化酵素が、Wntシグナル経路の活性化に必要なことを発見。TNIKは大腸がん細胞の増殖維持に必須であり、その活性を阻害できる化合物が同定できれば、治療薬になると考えられる。

そこで、国がんとカルナバイオサイエンスは産学共同で化合物ライブラリをスクリーニングし、誘導体合成から最終的にTNIKの酵素活性を低濃度で阻害する新規化合物NCB-0846を同定。理研がNCB-0846とTNIKの複合体のX線結晶構造解析を行い、この化合物がTNIKの酵素活性を抑制するメカニズムを明らかにした。

大腸がん幹細胞は高い造腫瘍性があり、細胞1個からでも腫瘍を再構築することができるが、NCB-0846はその働きを強く抑制することがわかった。さらに、NCB-0846は経口投与可能であり、ヒト大腸がん細胞を移植したマウスに投与すると、がんの増殖およびがん幹細胞マーカーCD44の発現が顕著に抑制されることもわかっている。

同研究グループは現在、臨床試験の前段階となる非臨床試験を実施中で、今後、大腸がんに対する新規薬剤として実用化を目指していくとしている。

がん幹細胞を標的とする新規治療薬のイメージ