東京大学(東大)は、世界中の沈み込み帯(地震発生帯)の地震活動を対象に、大量データの統計分析手法を用いて、各地域での標準的な(中規模クラス以上の)地震発生率を推定した結果、南西太平洋を中心に多くの地域で、プレートの沈み込む速度と地震発生率が比例するという常識的な関係だけでなく、この比例関係からはずれてほとんど地震が起こらない地域があることが明らかになったこと、ならびに超巨大地震は、ほとんど地震が起こらない地域で発生していることが示されたことを発表した。

同成果は同大大学院理学系研究科の井出哲教授らによるもの。詳細は「Nature Geoscience」に掲載された。

地震は日本だけでなく世界中で発生しており、特にプレートが他のプレートに沈み込む場所、いわゆる沈み込み帯では超巨大地震を含め大小さまざまな地震が起こることが知られている。頻繁に地震が起こる地域がある一方、巨大地震が起こらない地域や、そもそも地震が非常に少ない地域もあり、その違いの解明が地震を研究していくうえで重要なトピックとなっていた。

今回、研究グループは、発生頻度が高い中規模(マグニチュード4.5)より大きな地震の発生率に着目して分析を行ったという。また、併せて、地震が発生する原因が、「他の地震の影響」と「長期のプレート運動(沈み込み)などによる影響」の2つに大別することができることが近年の研究から分かってきたが、後者の影響は巨大地震が起きてもあまり変化しないことを受け、プレート運動などによる地震発生率の推定が行われた。

具体的には、世界の沈み込み帯を500km×200km程度のグリッドに分割し、117個の地域について、プレート運動などによる地震発生率を推定した。データとしては米国地質調査所が公開している「ANSS(Advanced National Seismic System)地震カタログ」の過去約20年分が用いられ、地震発生率の推定には統計数理研究所の尾形良彦教授が開発した統計学的地震活動分析法(ETAS法)が用いられた。

この結果、地震発生率と各地域のプレート沈み込み速度に正の相関が得られ、特にトンガ-ケルマデック海溝やマリアナ海溝のある南西太平洋地域で顕著であることが示され、研究グループでは「高速なプレート運動が起これば地震はたくさん起こる」という常識的な関係がはじめてはっきり示されたと説明する。

研究対象地域とプレート運動速度、および推定した地震発生率

プレート運動速度と推定された地震発生率の関係

また、同比例関係から大きく外れた地震発生率が低い地域と、長時間続く微弱な地震波「深部微動」や数日~数カ月かけて起こる地殻変動「スロースリップ」の総称である「ゆっくり地震」との関連が示された点も注目すべき結果としている。ある程度高速にプレートが運動しているにも関わらず地震が起こらない地域としては、例えばアラスカ、カスケード(米国・カナダ国境付近)、ペルー、チリ、そして日本の南海トラフから琉球海溝付近が挙げられるという。

近年、これら地域で「ゆっくり地震」が発見されており、類似の現象が東北沖巨大地震の直前にもあった可能性が指摘されるようになってきたほか、そうしたゆっくり地震が起こる地域では、過去に多くの超巨大地震が発生してきたと考えられるようになっているという(反対に普段頻繁に中規模以上の地震が起こる南西太平洋地域では、過去100年にマグニチュード9以上の超巨大地震が発生したことは知られていないという)。

今回の成果について研究グループは、プレートの運動速度が同じであれば、普段頻繁に中規模・大規模地震が起こる地域では超巨大地震は起こりにくく、普段中規模・大規模地震が起こらない地域では超巨大地震が起こるという、地震発生のリスクについてのパラドックスを提起するものとするほか、世界の沈み込み帯が「一見活発だが穏やかな地域」と、「一見静かだが危険な地域」という2つの極端の間に位置付けられることを示唆するものであり、より信頼性高く地震発生の確率を予測するためには、各地域の地震活動の特徴を定量化し、その違いの原因を追究することで、このパラドックスを解く必要があると説明している。