既報の通りウィルコムは26日、W-ZERO3シリーズ最新機種となるスマートフォンの新製品「WILLCOM 03」を発表した。同日開催された発表会では、今年度第4四半期をめどにモバイルFeliCa搭載PHSを発売することや、次世代PHSのサービスブランド名を「WILLCOM CORE」とすることなどが同社代表取締役社長の喜久川政樹氏より発表された。

WILLCOM 03

「ガラパゴス」には向かわない

発表会冒頭で喜久川社長は、最近の通信業界内では日本の携帯電話市場がしばしば「ガラパゴス」と呼ばれることに言及。南米沖の太平洋に浮かぶガラパゴス諸島では他の島々と隔絶した独自の生態系が発達しているが、日本の携帯電話も「非常に高度な進化を遂げたにもかかわらず世界に普及しない」(喜久川氏)ことからこう呼ばれることがある。

ウィルコムが目指すのは、機能が豊富でも汎用性のない「ガラパゴスケータイ」ではなく、機能は少なくても通話・メールといった用途にフォーカスした「生活密着型」、オープンなインターネットサービスと親和性が高いスマートフォン、そして、次世代PHSないしそれの足がかりとなる「WILLCOM D4」のような新カテゴリの端末であると喜久川氏は主張する。

ウィルコム代表取締役の喜久川政樹氏

ウィルコムむの目指す方向は日本の「ガラパゴスケータイ」ではないと主張

生活密着型の機種としては、2月に発売された薄型・軽量の「HONEY BEE」が好評。同社のユーザー調査では、「満足」または「まあ満足」との回答が80.2%に達し、デザインに関しての評価では同98.5%と、ほとんどすべてのユーザーがデザインに満足感を得ているという数字が紹介された。喜久川氏は「機能だけでなく、デザインまでターゲットにマッチした証明」と話す。

ほとんどのユーザーが「HONEY BEE」のデザインに満足・まあ満足と答えている

5月に入ってもの売れ行きは落ちていない。年度変わりの商戦期を過ぎても大きな落ち込みがない商品は異例という

そして、こういった「生活密着」カテゴリを強化するための施策が、この日発表された今年度中のモバイルFeliCaチップ搭載機種投入である。電子マネー・決済では「Edy」「モバイルSuica」「QUICPay」の有力3陣営、航空会社では日本航空インターナショナル(JAL)および全日本空輸(ANA)のサービスが対応する予定で、「おサイフケータイ」と同等のサービスが展開可能になる見込み。モバイルFeliCaへの対応は以前から同社に多く寄せられる要望であり、今年1月の製品発表会でも対応を検討中であることが明らかにされていたが、ついに実現のめどがついた形になる。なお、モバイルFeliCaチップの搭載は、スマートフォンでなく従来型の音声通話用機種から始まる見込みだという。

来年3月をめどにモバイルFeliCa搭載PHSを発売。おサイフケータイの主要サービスが対応予定

また、人気機種のHONEY BEEについては、沖縄の老舗アイスクリームブランドである「ブルーシールアイスクリーム」との共同展開で、3色の新カラーバリエーションを7月下旬に投入する。

HONEY BEEにはブルーシールアイスクリームとのコラボレーションモデルを新たに発売する

「03」はW-ZERO3シリーズの集大成

この日の主題であるWILLCOM 03の発表にあたっては、「W-ZERO3」「W-ZERO3 [es]」「Advanced/W-ZERO3 [es]」の3機種を合わせると、国内のスマートフォン市場でのシェアは69.2%になるという数字が示された。そのスマートフォン1位のウィルコムが「"0"(ゼロ)から商品設計を見直し」、「通話・メール・Webの"3"つの機能をさらに強化した」のがWILLCOM "03"であり、喜久川氏は「スマートフォンの集大成、完成形である」と表現した。

WILLCOM 03では、「一般の携帯電話より大きい・重い」と言われることの多かったスマートフォンながら、従来のAdvanced/W-ZERO3 [es]から幅(約50mm)と厚さ(約17.9mm)はそのままに、長辺方向の長さを約19mm縮めて約116mmとした。重さも約22g軽量化して約135gとし、スライド型の高機能携帯電話と同等のサイズ・重量を実現した。小型軽量化のためバッテリー容量は1,540mAhから約25%減の1,150mAhへと削減されているが、細部のチューニングやキーロックスイッチと連動するバックライト消灯機能などにより消費電力を削減し、連続通話時間約360分(従来約420分)、連続待受時間約420時間(同約500時間)と、15%程度の短縮に抑えている。

スマートフォンではバッテリー駆動時間やサイズへの不満が多い

Advanced/W-ZERO3 [es]からさらなる小型化を図った(右端)

また、一般の携帯電話からスマートフォンへ乗り換えたユーザーの最大の不満点とされていたのが「電話帳が使いにくいため電話をかけるとき不便」というものだったが、携帯電話と同じ手順、同じキー操作で発信できるよう改善した。新しく導入されたタッチセンサー式のイルミネーションキーは、本体を片手で持つときも入力しやすいテンキーという[es]シリーズのメリットと、新機種のコンパクトでフラットなデザインを両立するのに貢献している。

本体側面のキーでカーソルキーとテンキーを切り替えられるタッチセンサー式のイルミネーションキー

喜久川氏は、「スマートフォンは敷居が高いという方々も簡単にスマートフォンの世界に入っていただけるような強化」が新機種のポイントと話し、W-ZERO3シリーズが代を重ねるごとに進めてきたスマートフォンユーザーのすそ野の拡大を、ここで一気に本格化したいとの姿勢を見せる。発表会には米Microsoft会長のビル・ゲイツ氏もビデオ出演し、「携帯端末の強化、より高速なネットワーク、そして斬新なソフトウェアテクノロジは、想像を超える新しい可能性とサービスを実現している。WILLCOM 03はその素晴らしい一例」とメッセージを寄せた。

ビデオメッセージを寄せるビル・ゲイツ氏。喜久川氏は「ゲイツさんにもだいぶウィルコムの名前を覚えてもらえた」と顔をほころばせる

なお03の型番は「WS020SH」で、W-SIM対応デバイスに付けられている「WSxxx」の型番としては、「WS015」「WS017」「WS018」「WS019」が欠番となっている。ウィルコム広報では、最終的に商品として発売するかはまだ決定していないものの、これらの型番を割り当てる予定の機種が、開発中または企画中であることは認めている。

6月下旬発売は厳守、料金プランは現行に自信

ウィルコムはWindows Vista搭載のウルトラモバイルPC「WILLCOM D4」を6月中旬に発売するとしていたが、より万全の体制を整えるためとの理由で、発売時期を7月中旬へ延期した。これについては喜久川氏も発表会冒頭で「ウィルコムを代表しておわび申し上げる」として頭を下げたが、03の準備体制には太鼓判を押し、「これ以上頭も丸めようがないので大丈夫です」と冗談も交えつつ、6月下旬の発売を約束した。

6月下旬の発売を約束

昨年秋以降NTTドコモ、KDDIの大手2社が相次いで定額データ通信サービスを開始し、この3月にはイー・モバイルがデータ通信に加えて音声通話でも定額サービスを開始するなど、従来ウィルコムが得意としていたサービス分野での競争が一気に激化した。次世代PHS開始までの同社を取り巻く状況は一段と厳しさを増している。

今回ウィルコムは、WILLCOM 03は音声通話用として使うケースが多いため、月額2,900円で通話が定額となる「ウィルコム定額プラン」での利用をメインに想定。加えて、10万パケットの定額通信分が含まれる月額1,050円(定額分を超過しても最大3,800円)のオプションサービス「データ定額」を組み合わせれば、月々3,950円からのプランで快適にスマートフォンを使える、とアピールする意向だ。

「ウィルコム定額プラン」+「データ定額」をスマートフォンの基本プランとして想定

喜久川氏は「(W-ZERO3シリーズユーザーのうち多くの)お客様の利用に耐えうる、安いサービスであると考えている。スマートフォンには適した料金だと自負している」と話し、今回はD4の発表時とは異なり、料金面での新施策は特に打ち出さない考え。また、音声通話を使わないユーザーには、2年契約を条件に月額3,880円でデータ通信が完全定額になるプラン「新つなぎ放題」が用意されているが、「まだまだ認知が足りない」とし、一層の訴求を図りながらデータ通信ユーザーの獲得・つなぎ止めにも力を入れる方針を示した。

発表会に登壇した喜久川社長、営業を統括する土橋匡副社長、技術を統括する近義起副社長(左から)