あらゆる業務 IT のフロントを担う背景から、エンドポイントは日々、セキュリティ リスクと接しています。セキュリティに対する社会的責任が高まりをみせている中、いかにしてクライアント環境をセキュアに運用するかが、事業の継続性を左右することとなります。しかし、一般的にセキュリティと業務効率とは、トレード オフの関係にあります。そして悩ましいことに、この業務効率の低下は、利便性を求めてユーザー部門が会社の許可のない IT を利用する「シャドー IT」の進行のようなあらたなセキュリティリスクを引き起こすトリガーにもなります。クライアント環境のあるべき姿とは、「強固なセキュリティ」と「高生産性」を両立した環境だといえるでしょう。世界有数の電機メーカーであり 30 万人以上の従業員を抱える日立製作所では、2015 年度よりこれを理想に掲げ、クライアント環境の整備を強化。従来から運用してきたシン クライアント環境にくわえ、Surface Pro をラインナップに含むファット クライアント環境も提供することによって、先の両立を実現しています。

セキュリティに傾倒した運用方針は、かえってリスクを増やすこととなる

世界有数の電機メーカーである日立製作所。「日立の樹」の TVCM からもわかるように、同社グループでは多岐にわたる事業を展開しており、そのグループ従業員の総数は 30 万人を数えます。これらのユーザーに対してクライアント PC を企画、開発、展開、運用しているのが、日立製作所内にあるIT ビジネスサービス本部 パーソナルデバイスサービス部 (以下、PDS) です。

PDSでは、日立製作所が長年かけて積み重ねてきた「企業としての信頼」を失墜させることがないよう、従来「セキュリティ インシデントの防止」を核としてクライアント環境を整備してきました。たとえば同社が 2007 年に全社導入したシン クライアント化の取り組みは、当時まだ普及前の技術であった VDI の先進事例として大きな話題を呼びました。VDI という言葉が浸透していない中、社内の全ク

ライアント環境を対象としてシン クライアントを導入して社内のセキュリティリスクの最小化を果たしたことは、VDI 市場自体を活性化させた大きな実績だといえます。ただし、シン クライアント化は大きな実績である一方、セキュリティばかりに意識を向けた運用方針ではかえってリスクを増やすことにもつながるといいます。日立製作所 パーソナルデバイスサービス部で部長を務める高橋 幸喜 氏は、シン クライアントにおいて留意すべき事項をまとめます。

「シン クライアントはネットワーク環境での利用を前提とするため、どうしても用途や機能、性能などが制限されてしまいます。ある 1 部門だけでの利用ならまだしも、異なる数多の部門やグループ企業すべての『クライアント環境に求める要件』をカバーすることは、きわめて困難です。シン クライアントのみを提供する場合、ユース ケースに制限が出ることに目をつぶらざるを得ないといえます。ここで問題となるのは、ユース ケースへの制限が、各部門や各グループ企業内でセキュリティ対策が不十分なクライアント PC の存在やシャドー IT の進行を引き起こす可能性があるということです」( 高橋 氏)。

高橋 氏が触れたシャドー IT とは、生産性を優先した結果各部門や各グループ企業が独自にクライアント PC を調達することを指します。「PDSでは各部門、各グループ企業で通常業務をするにあたって、必要と想定される要件を満たした全社共通のマスタを整備し、それに沿った PC を提供しています。仮にこのマスタ構成にない PC を各々が調達する場合、PDSが管理できない端末が増加することとなってしまうのです。こうしたシャドーIT は、ガバナンス機能の低下、セキュリティ ホールの拡大といった大きなセキュリティ リスクになります。」と同氏は説明。そしてこの事態を改善すべく、2015 年度よりあらたな方針のもと、クライアント環境を整備しているとつづけます。

「2015 年度以降、セキュリティだけでなく生産性や働き方改革を含む多様なユース ケースにも焦点をあててクライアント環境の整備を強化しています。ここで取り組んだのが、ファット クライアントの再ラインナップです」( 高橋 氏)。

セキュリティを重視して全社的にシン クライアントを導入した企業が、ファット クライアントを再度ラインナップ化する。もしかするとここに対して矛盾を感じる人もいるかもしれません。しかし、高橋 氏は「一昔前とは異なり、いまやファット クライアントであってもシン クライアントと同等のセキュリティが担保できる時代が訪れています」と語ります。その最たる理由は、エンドポイントやネットワーク セキュリティ、クラウド、Web をはじめとするテクノロジーの進化です。

クラウドの普及、業務アプリケーションの Web 化が進んだことにより、クライアント PC で稼働するローカル アプリケーションや保存される情報そのものが少なくなってきています。くわえて、今日の PC は、ハードウェアと OS の両側面で高い水準のセキュリティを備えるようになってきました。

「ファット クライアントの信頼性が高まってきたことを受けて、『独自に PCを調達したい』という意向が生まれることのないクライアント環境の提供に向けた活動が開始できました。」こう語るのは、日立製作所 パーソナルデバイスサービス部の主任技師である真島 隆男 氏です。同氏の言葉のとおり、もし「強固なセキュリティ」を堅持しながら「高生産性」も提供することができるならば、シャドー IT の発生リスクを最小化することが可能です。それゆえに、「2015 年度に実施したフラッグシップ機の選定は、慎重を期した」と真島 氏は語ります。

「たくさんの機種をランナップ化すれば、各ユーザーの求める PC 要件に応えることができるでしょう。しかし、機種の増加は管理効率の低下につながりますし、ベンダーの数が増えるほどボリューム ディスカウントが効かなくなってコスト条件も悪くなります。求められたのは、最低限の機種のもとでユーザー ニーズを網羅することでした。検討を重ねた結果、PDS ではマイクロソフトの Surface Pro など 4 ベンダーの製品をフラッグシップ機、つまり日立グループ標準機として整備しています」(真島 氏)。

  • 人物写真①

Surface Pro の持つブランド力がシャドー IT の抑止力になることを期待

真島 氏が触れたように、日立製作所では 2015 年度にて、シン クライアント端末にくわえて 4 ベンダーのファット クライアントをラインナップに追加。モバイル利用など高いセキュリティ水準が求められる用途の場合は従来どおりシン クライアントを、性能ではなくコストを優先するバックオフィス用途ではコストを重視した機種のファット クライアントを、といったように、各ユース ケースに沿ったクライアント PC を整備しています。この中でSurface Pro が担うのは、「2 in 1 タブレット PC を必要とする用途」です。

同製品はファット クライアントの提供から約 3 年が経過した 2018 年段階でも、「唯一の 2 in 1 タブレット PC」という座を堅持しています。日立製作所 パーソナルデバイスサービス部の相田 成美 氏は、Surface Pro が担う同社での役割について、こう説明します。

「Surface Pro は先進的でシャープなデザインを備えるほか、軽量で持ち歩きやすく、PC とタブレットどちらの端末としても利便性が高いです。当社グループにおいては、『デスク外での作業があるユーザー』を対象にこのSurface Pro を整備しています。たとえば工場の生産ラインで PC を利用する場合、キーボード入力以外に手持ちで入力作業が行えるタブレット ライクな端末が求められます。また営業現場では、顧客先で出しても違和感のないデザインを持ち、容易に持ち運びが可能なクライアント端末が必要で、こうした用途で Surface Pro は日立グループ内で広く活用されています」(相田 氏)。

つづけて、日立製作所 パーソナルデバイスサービス部の池田 悠 氏は、先に挙げた役割以上のことも、Surface Pro には期待していると語ります。

「PDS がめざすのは、ユーザーに『独自に PC を調達したい』という意向が生まれない環境を提供することです。そのためには各部門、各グループ企業に『PDS が整備する PC を使いたい』という思いを抱いてもらわなくてはなりません。SurfacePro には、こうした思いを喚起するエッジの効いたシンボリックな端末として機能することを期待しています」(池田 氏)。

  • 人物写真②

"実は Surface Pro は、PDS で整備するラインナップの中では比較的高額な製品に該当します。それでも Surface Proをラインナップし続けている理由は、同製品が『この PC を使いたい』と思わせる高いブランド力を有していることにあります "

-真島 隆男 氏: ITビジネスサービス本部 統合ITプラットフォーム本部
パーソナルデバイスサービス部 主任技師
株式会社日立製作所

ファットクライアントのユーザ数が7万人に到達。ガバナンス機能の強化を実現

日立製作所グループでは、全従業員の 3 分の 2 を占める 20 万人ほどが日々の業務で PC を利用します。PDS の整備するクライアント PC を購入するか否かは各部門、各グループ企業で任意となっているものの、2018 年 5月現在、PDS で整備するクライアント PC の利用者は、シン クライアントとファット クライアント合算で、全ユーザー対象 20 万人のうち 90% にまで到達しています。また、2016年度にファット クライアントの提供を開始してから、PDS で整備するクライアント PCのユーザー数は 7 万人規模に到達。これは、ファット クライアントがユーザーに「生産性の高い環境」だと評価された証だといえるでしょう。

「2015 年度、Surface Pro はフラッグシップの中で最も各部門や各グループからの引き合いが多い端末の一つでした」と高橋 氏は語り、同製品が 1 つの起因となってユーザー数が増加したことを評価します。

"優れたデザイン、持ち運びの容易さから、Surface Pro は IT に明るいオピニオン リーダーだけでなく、若い世代にも受け入れられています。そこでの声がきっかけとなって PDS の整備するクライアント PC への高評価が生まれるという良い循環も生まれています。2018年度までの 3 年間でシャドー IT は大きく数を減らし、集約化による効率向上と共に、ガバナンス機能も確実に強化されています "

-高橋 幸喜 氏: ITビジネスサービス本部統合 ITプラットフォーム本部
パーソナルデバイスサービス部 部長
株式会社日立製作所

つづけて池田 氏は、今後「働き方改革」を進めていくうえでも Surface Proが機能することへ期待していると述べます。

「日立製作所では、兼ねてより『働き方改革』を推進しています。そこで重要なファクターである生産性を高めるうえで、PDS の担う役目は大きいと考えています。ユーザーが PDS の整備するクライアント PC を前向きな意識で利用し、だれもがワクワクして誇り高く業務に臨んでくれる。こうした環境を提供できるよう、今後も整備をつづけていく考えです。Surface Pro には、ブランド効果の側面、そしてモバイル ワークを支えるモビリティ デバイスとしての側面から大いに貢献してくれることを期待しています」(池田 氏)。

  • Surface Pro は、場所を選ばない働き方を支援する端末としても注目を集めている

    Surface Pro は、場所を選ばない働き方を支援する端末としても注目を集めている

多大な期待があるために、PDS は Surface Pro に対していくつかの改善も要望しています。真島 氏は「90% 以上が利用するに至っているものの、それでもまだ 100% ではありません。100% にするためには、各ユーザーから挙がってくる要望を咀嚼して対応していく、細かな作業が必要です。」とし、コンバーチブル タイプゆえの接続部品の劣化、キーボードの打鍵感といった改善点を指摘。「これらをベンダー側へ要望し、また Surface Pro よりもPC 色の強い Surface Book のラインナップ追加の検討もすすめていきます。Surface Pro のブランド力を活用しながら利用率を 100% に近づけていきたいと考えています」と語ります。

「最新」「グローバル標準」な IT と高い親和性を持つ端末になることを希望

2015 年度から 2018 年度にかけた取り組みによって、「強固なセキュリティ」と「高生産性」の双方が実現されつつあります。ユーザー利用率の大幅な向上を受けて、PDS は次期フェーズへのあゆみを進めています。真島 氏は、「グローバル標準」「最新」をキーワードに挙げて、次期フェーズについて説明します。

「国際化がますます加速しています。ここに追従し続けるためには、事業スピードをいっそう高めていく必要があります。そこでは『古い』『柔軟性に乏しい』システムが、事業スピードを落とすボトルネックとなります。これを見定めて日立製作所では、現在、社内システムを『最新』で『グローバル標準』のものへと移行する取り組みを進めています」( 真島 氏)。

クライアント環境でいえば、日立製作所では現在、クライアント PC のWindows 10 移行を推進。インフラ、アプリケーションと足並みをそろえた全社的な取り組みとして、「グローバル標準」「最新」という取り組みをすすめているのです。高橋 氏は、こうした観点でも、Surface Pro に込める期待は大きいと語ります。

「情報系サービスを Office 365 へ統合する取り組みも進められています。グローバル標準化の流れで、今後、Office や Exchange、SharePoint など、マイクロソフトのサービスを利用した業務が増えていくでしょう。Surface Pro には、同じベンダーが扱う製品としてこうしたグローバル標準のサービスに最適化された端末になってほしいと期待しています。セキュリティを堅持することは当然とし、サービスとデバイスの双方を『グローバル標準』『最新』に寄せていくことで、生産性と事業スピード、そして企業価値を高めていきたいと考えています」( 高橋 氏)。

VDI の全社導入をはじめとし、数々の先進的な IT 戦略を推し進めてきた日立製作所。2015 年度以降の取り組みによって、同社は「強固なセキュリティ」と「高生産性」を持つクライアント環境を手に入れました。ガバナンス機能も大きく強化された同環境をフロント デバイスに、「グローバル標準」「最新」の IT を駆使することによって、日立製作所は今後もいっそう発展していくことでしょう。

  • 集合写真

[PR]提供:日本マイクロソフト