昭和石油とシェル石油の合併によって、1985年に誕生した昭和シェル石油株式会社(以下、昭和シェル)。日本でも有数の石油元売企業である同社は、国内の石油需要が減少する中で、競争力強化の一環として、さらなる生産性の向上を進めています。

2016年末、昭和シェルは、ロイヤル・ダッチ・シェル社(以下、シェル)との資本関係が変化したことを背景に、シェルのグローバルITネットワークから離れることになりました。同社はこれを好機ととらえ、これまでグローバルITではできなかったクラウド サービスの積極活用など、国内独自のITシステム構築を検討。生産性を高めるべく、Windows 10移行をはじめとする"先進ITの活用"に取り組んだ結果、従来以上に生産性を高めることに成功しました。

プロファイル

昭和シェル石油株式会社は、昭和石油とシェル石油の合併によって1985年に発足しました。「私たちのエネルギーで未来を元気にします」をグループ経営理念に、社会が求めるさまざまなエネルギーの提供を通じ持続的な社会の発展に寄与します。 導入

導入の背景とねらい
"先進ITの活用" として、グローバルITで統括されてきたクライアント環境の再構築に取り組む

昭和シェル石油株式会社

国内石油需要が減少する中、石油業界は大きな転換期を迎えています。大手の一角を占める昭和シェルも、競争力を高めるためにさまざまな施策を実施しています。

この「競争力を高める取り組み」が見て取れる一例として、同社が進める"先進ITの活用" が挙げられます。昭和シェルではこれまでグローバルITの一部として、クラウド活用やグループ会社への展開に制約がありました。同社はグローバルITネットワークからの離脱を好機ととらえ、今まで実現できなかったことを可能にする取り組みとして、Windows 10 への移行を中心におき、あらたな環境の展開を実施しました。つまり、単に「従来環境の踏襲」として昭和シェルITへの移管を進めるのではなく、さらなる発展を目指した"先進ITの活用"としてこれを実施したのです。

昭和シェルビジネス&ITソリューションズ株式会社 ITソリューション本部 IT戦略企画部 部長 本村 哲氏

昭和シェルのIT機能を担う、昭和シェルビジネス&ITソリューションズ株式会社 ITソリューション本部 IT戦略企画部 部長 本村 哲氏は、この取り組みの概要について、次のように説明します。

「昭和シェルでは、会社から支給する標準PCからはDirectAccessで、個人PCからは VDI で、企業内のリソースにアクセスできるしくみを整備しています。当社では社外でも業務ができるクライアント環境をユーザーへ提供することで、働き方改革や生産性向上を目指した取り組みを進めてきました。このクライアント環境維持管理はこれまでシェルがグローバルな運用も含めて海外で統制していました。そのため、このネットワークからの離脱に伴い、日本の昭和シェル側で新たなクライアント環境を構築する必要が生じたのです。当社ではこれを『昭和シェル独自で統制可能な領域が拡大できる』と前向きにとらえ、競争力のいっそうの向上が目指せる環境を構築しようと考えました」(本村氏)。

クライアント環境の再構築に際し昭和シェルで進める必要があったことは、次の3つです。1つ目は、VDIをはじめとするクライアント環境自体の新たな構築。そして2つ目は、あらたな環境で使用する標準PCとOSの選定です。これまで昭和シェルでは、関連会社を含む3,500名の従業員に対して、デスクトップ型とラップトップ型の2種類のPCを標準PCとして提供。しかしその4割がリプレースを控えていたため、既存PCの流用と新規標準PCの選定も考慮したうえで、クライアント環境の構築を進める必要があったのです。

昭和シェルビジネス&ITソリューションズ株式会社 ITソリューション本部 IT戦略企画部アシスタントマネージャー 森 勇二氏

さらに、昭和シェル自体でクライアント環境を運用する場合、必然的に同社のIT部門には従前以上の負荷がかかることとなります。現在の人的リソースでこれらに対応するのは現実的ではなく、既存のIT管理に要する負荷を軽減する必要がありました。3つ目に求められたのが、この方法論の検討です。

以上3つの作業を円滑に進めるべく、同社ではクラウドの活用を計画します。その理由について、昭和シェルビジネス&ITソリューションズ株式会社 ITソリューション本部 IT 戦略企画部 アシスタントマネージャー 森 勇二氏は次のように説明します。

「クライアント環境を昭和シェルの独自管理に移行することで、IT部門が管理する対象のシステムが増えるのは明白でした。IT部門の現在の管理負荷を削減しなければ、あらたなシステムの構築はできても、安定的なサービス提供には限界が生じるでしょう。これを解消するためには、ハードウェアの調達や管理が不要という利点をもったクラウドの活用が不可欠でした」(森氏)。

昭和シェルでは、当時オンプレミスで運用していたExchange Server や Lync Server、ファイルサーバー環境について、Office 365のExchange Online、OneDrive for Business、SharePoint Online、Skype for Business環境へ移行することを検討。また、あらたに構築するクライアントインフラ環境もクラウド上での構築、運用を構想するなど、国内ITへの移管を契機として、クラウド活用を本格化したのです。

システム概要と導入の経緯
WaaSというコンセプトをもつWindows 10が、クライアント環境の発展を支え続けることに期待

クライアント環境を構築するに際し、昭和シェルでは同環境へアクセスする標準PCの仕様を検討します。そこではまず、OSの選定から開始する必要がありました。昭和シェルではこれまで、Windows 7を搭載した標準PCをユーザーに提供してきました。しかし当時、市場にはWindows 7とWindows 8.1にくわえて、提供開始からまだ間もないWindows 10も存在し、どのOSを採用すべきか判断が非常に難しい時期だったのです。

3種類のOSが市場にある中で、本村氏はまず、従来のWindows 7環境を利用し続けるという選択肢はなかったと語ります。

「あらたに調達する標準PCにWindows 7搭載機を採用する予定はありませんでした。一部のアプリケーションの利用端末として数台はWindows 7搭載機を残す必要がありましたが、標準PCについては基本的にWindows 8.1、もしくはWindows 10へ移行することを決めていました。これは、今回のプロジェクトの方針が『旧態依然な環境の維持』ではなく、今後の発展も目指した"先進ITの活用"にあるからです。古い環境を一新してこれから新しいものを作っていこうという中で、Windows 7という古いOSを採用するという選択は、その方針から逆行するといえました」(本村氏)。

こうした理由から、同社では標準 PCのOS移行を決定。しかしそこには、アプリケーションの互換性が懸念事項として存在しました。昭和シェルが日々の業務で利用するアプリケーションの数はゆうに200を超えます。もしこれが不安定な動作をする場合、同社が目指す働き方改革や生産性向上の取り組みが阻害されかねません。特にWindows 10は、当時まだ企業への導入実績が多くなく、互換性について不透明な状況でした。

しかしそのような状況で、昭和シェルは標準PCのOSとしてWindows 10 Enterprise を採用します。その理由について、森氏と本村氏は次のように説明します。

「企業の導入実績数が異なるため、Windows 10の方が互換性について不透明だといえました。しかし、実際の検証作業においては、Windows 8.1とWindows 10の間で検証項目や工数に差はありません。であれば、今回のタイミングで最新の環境を導入した方がよいだろうと判断しました。また、Windows 10は"WaaS(Windows as a Service)"というコンセプトのもと、半年に一度の頻度であらたな機能が拡充されます。今後、当社のクライアント環境を発展させていくうえで、WaaSをコンセプトにもつWindows 10の方が有効に機能するだろうと期待したのです」(森氏)。

「働き方改革や生産性向上を推進するうえで、今後、モバイルワーク環境の整備にいっそう注力していくことになるでしょう。一般的に、モバイルワークを適用するユーザー数の増加とセキュリティ リスクの増大は比例します。Windows 10は、特定アプリケーション以外の起動を制限するDevice Guardなど、セキュリティ機能を豊富に備えており、エンドポイントのセキュリティ水準を向上できると考えました。また、従来のデスクトップ型、ラップトップ型に、2in1タブレットも標準PCのラインアップへくわえることを検討していましたが、Windows 10はキーボードの着脱によってキーボード モードとタブレット モードを自動的に切り替えることが可能です。セキュリティだけでなく利便性も向上することが、先の働き方改革、生産性向上の推進に有効だと考え、Windows 10を採用することにしました」(本村氏)。

導入の効果
標準PCでの作業効率が向上。Windows 10が有する優れた互換性が、プロジェクトの短期化にも貢献

2016年1月、昭和シェルはWindows 10の採用を正式に決定します。その後、クライアント環境の構築ベンダーとして株式会社インターネットイニシアティブ(以下、IIJ)を選定し、IIJが提供するクラウド基盤「IIJ GIO」上で環境を構築。リプレース対象の標準PCの調達を経た2016年10月より、あらたなクライアント環境のもと、Windows 10の運用を開始しています。

運用開始から半年が経過した中、生産性向上の面でWindows 10の導入効果が生まれていると、本村氏は笑顔で語ります。

「今回、リプレース対象外の標準PCも一度IT部門で引きとってWindows 10へのアップグレードを行いました。PC自体のスペックには変化がないのですが、ユーザーからは『起動時間が速くなった』『普段の作業がスムーズになった』という声が挙がっています。削減された1つひとつの時間はほんの数秒かもしれませんが、仮にそれがたった3秒であっても、3,500人のユーザーで換算すると会社全体で1回あたり175分(約3時間)の削減となり、毎日利用する場合膨大な時間の削減となります。またOffice 365によるSkypeなどの活用も進んでおり部署間の打ち合わせも移動なく実施できることから、移動時間や移動コストの削減にもつながっております。日々の作業でこうした効率化が図れていることを鑑みると、Windows 10への移行は、生産性向上において有効だったといえるでしょう」(本村氏)。

Windows 10を搭載した標準PCを利用するようす。デスクトップ型、ラップトップ型に、2in1タブレットとしてあらたにSurface Pro 4がラインアップにくわわった。Surface Pro 4では、Windows 10 Enterpriseの標準機能であるDevice Guardを実装している

ところで、昭和シェルが今回実施したプロジェクトは、「クライアント環境の再構築」「Windows 10移行」、「社内ITのクラウド化」、以上3つを並行して進めるという比較的規模の大きなものです。こうした規模のプロジェクトにもかかわらず、同社では開発作業開始からわずか半年後に、実運用を開始しています。森氏は「Windows 10は高い互換性を備えていたため、検証作業がボトルネックになることがなく、プロジェクト全体をスムーズに進めることができた」と評価します。

「複数のタスクを並行して進める必要があったため、互換性検証では基幹系システムといった業務上不可欠なアプリケーションの動作を優先的に確認し、その他のシステムは以降順次対応する方針をとりました。ですが、Windows 10が備える優れた互換性によって、200を超えるアプリケーションのほぼすべてが結果的に無事動作しています。多くのタスクを並行して進めねばならない中、互換性の検証に時間や労力を費やさずに済んだことは、半年という短期間でプロジェクトを完了したことに大きく貢献しているといえるでしょう」(森氏)。

昭和シェル石油のシステムイメージ図。外出先からのアクセス(個人PC VDI、標準PC DirectAccess)ではIIJのデータセンターを経由してOffice 365や社内システムへアクセスするしくみをとっている

今後の展望
マルチクラウドの方針のもと、社内ITの最適化とそれが生みだす競争力向上に注力していく

グローバルITから国内ITへのシステム移管を機に、Windows 10の採用、社内ITのクラウド化を推し進めた昭和シェル。IT部門で作業しなければならないタスクの絶対量は従来比で増加したものの、同時並行で進めたクラウド活用によって、運用に要する人的リソースは削減されています。

今回のプロジェクトで生まれた人的リソースを割り当てることで、"先進ITの活用"という同社の取り組みは今後いっそう加速していくでしょう。

その目先の取り組みとして、本村氏は、グループ会社を含むクライアント環境のさらなる発展と、Windows 10のビルド管理の最適化を挙げます。

「これまでシェルとの関係から、グループ会社へは標準クライアント環境の展開が行えませんでしたが、今回の取り組みでこれが果たせるようになりました。グループ全体の IT 統制とセキュリティ強化、柔軟なモバイル環境の提供が実現できるようになり、これはグループとして生産性、ひいては競争力を高めていくうえできわめて有効だといえるでしょう。グループのユーザーがより利便性の高い環境で業務ができるよう、今後、標準 PC のアップグレードを実施することを計画しています。現在、標準PCのOSバージョンには『1511』を適用していますが、近いうちにこれを『1607』へアップグレードする予定です。WaaS による機能拡充にはたいへん期待しており、積極的に新しいビルドを適用していきたいと考えています」(本村氏)。

さらに森氏は、クライアント環境だけでなく、その他システムのクラウド活用に今後も注力することで、"先進ITの活用"を継続していくと続けます。

「外出先から各種アプリケーションが利用できるしくみを今後検討する予定です。そこではAzure Active Directoryの利用を検討していますが、Azureの強みは『PaaSの豊富さ』にあると考えています。PaaSを活用すれば運用、構築の工数を最小限に抑えたまま機能拡張が可能です。現在、クラウドの活用は特定ベンダーに寄るのではなくマルチクラウドを方針としているため、Azureの利点もうまく活用し、社内ITを最適化していきたいと思っています」(森氏)。

2016年、昭和シェルではグローバルシステムから国内独自システムへの移行など、数多くのタスクが生じましたが、Windows 10をはじめとする"先進 IT の活用"に取り組んだ結果、従来以上に生産性を高めることに成功しています。同プロジェクトが生み出した成果によって、昭和シェルの競争力は今後いっそう高まっていくことが期待されます。

「今回、リプレース対象外の標準PCも一度IT部門で引きとってWindows 10へのアップグレードを行いました。PC自体のスペックには変化がないのですが、ユーザーからは『起動時間が速くなった』『普段の作業がスムーズになった』という声が挙がっています。削減された1つひとつの時間はほんの数秒かもしれませんが、仮にそれがたった3秒であっても、3,500人のユーザーで換算すると会社全体で1回あたり175分(約3時間)の削減となり、毎日利用する場合膨大な時間の削減となります。またOffice 365によるSkypeなどの活用も進んでおり部署間の打ち合わせも移動なく実施できることから、移動時間や移動コストの削減にもつながっております。日々の作業でこうした効率化が図れていることを鑑みると、Windows 10への移行は、生産性向上において有効だったといえるでしょう」

昭和シェルビジネス&ITソリューションズ株式会社
ITソリューション本部
IT戦略企画部
部長 本村 哲氏

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