本連載では、ネットワーク構築に必須となるLANスイッチについて、動作や仕組みを解説しながら実際の設定例を示し、ネットワークを身近に感じていただける事を目的としています。第八回では、ルーティングの基礎について紹介しています。

七回までに、LANスイッチの概要や種類、MSTP(Multiple Spanning Tree Protocol)等の機能について解説しました。第八回の本項では、ルーティングの基礎について解説します。

1.ルーティングとは?

ルーティングとは、通信を配送する事です。例えば、郵便物は宛先住所を見て次の郵便局に配送し、宛先まで届けられます。

ネットワークの世界でも同様に住所があり、経由する装置がその住所を見て次の装置に配送し、宛先まで届けられます。この配送がルーティングです。沖縄県であれば沖縄の郵便局に、東京であれば東京の郵便局に送られるように、ルーティングでも住所によって配送先が決まっています。これをルーティングテーブルと言います。

沢山の機器が接続されるネットワークで通信が成り立つのは、ルーティングテーブルによって配送経路を把握し、ルーティングで配送しているためです。

2.IPアドレス

ネットワークの世界にも住所があると説明しましたが、それがIP(Internet Protocol)アドレスです。IPアドレスは、172.16.4.2等と表記されます。また、IPアドレスはフレームに含まれて送信されます。このため、中継する装置では、届いたフレームのIPアドレスとルーティングテーブルを照らし合わせ、配送先を決定します。この時の中継先IPアドレスをネクストホップIPアドレスと言います。

IPアドレスの.(ドット)で区切られた範囲をオクテットと言います。各オクテットは0~255までの数字が使えるため、256×256×256×256=約43億のIPアドレスが使えます。通信相手を特定するアドレスとしてMACアドレスもありますが、MACアドレスは隣の装置に対する宛先として使われます。IPアドレスは最終的な通信先を示します。このため、宛先MACアドレスは、中継する装置を経由する度に変更されます。

中継する装置では、宛先MACアドレスが自装置宛てであれば受信します。次に、宛先IPアドレスとルーティングテーブルを比較して、ネクストホップへルーティングします。この時、宛先MACアドレスはネクストホップのMACアドレスに書き換わります。

3.サブネット

IPアドレス毎にルーティングテーブルを作成すると、数が膨大になります。このため、同じ配送経路であれば1つにまとめる事ができます。この考え方の1つがサブネットです。

サブネットは、IPアドレスとサブネットマスクを設定する事で決まります。例えば、IPアドレスが172.16.4.1でサブネットマスクを255.255.255.0と設定した場合、サブネットマスクで255となっているのは3オクテット目までです。このため、IPアドレスの3オクテット目までの172.16.4と、それ以外を0とした172.16.4.0がサブネットを示すアドレスになります。サブネットはIPアドレスの集まりを示すため、172.16.4.0がルーティングテーブルにあれば、1つ1つのIPアドレスに対するルーティングテーブルは不要です。宛先が172.16.4.2や172.16.4.3等の場合、ルーティングテーブルに172.16.4.0があれば、対応するネクストホップにルーティングされます。

4.スタティックルート

スタティックルートは、ルーティングテーブルを作成する1つの方法です。スタティックルートは、サブネット172.16.4.0に配送するためには、172.16.2.2に送信する等設定します。また、通信には応答があるため、応答用のスタティックルートも設定する必要があります。

ルーティングする装置が途中で複数台あると、その全てでスタティックルートの設定が必要です。また、宛先がルーティングテーブルに存在しなかった時のルーティング先を指定する事もできます。これをデフォルトルートと言います。

デフォルトルートがあれば、沢山のサブネットに対し、1つ1つスタティックルートを設定する必要がありません。このため、インターネットへの通信等不特定多数のIPアドレスを宛先とする経路に対し、デフォルトルートがよく使われます。スタティックルートを設定してルーティングする事をスタティックルーティングと呼びます。

5.ルーティングの設定例

ネットギア製品のスマートスイッチでは、ログイン後に「Routing」→「IP」→「IP Configuration」を選択する事でルーティングを有効にできます。

赤枠部分で「Enable」を選択後、「APPLY」をクリックすると設定が反映されます。IPアドレスとサブネットマスクの設定は「VLAN」→「VLAN Routing」を選択する事で設定できます。

赤枠部分で事前に作成しているVLANを選択し、緑枠部分でIPアドレスとサブネットマスクを設定します。「ADD」をクリックすると設定内容が追加されます。上記は、VLAN10に対してIPアドレス172.16.1.1、サブネットマスク255.255.255.0を設定していますが、VLAN20に対してもIPアドレス172.16.2.1、サブネットマスク255.255.255.0を設定すると、下図のようにVLAN間でルーティングができます。

VLANは、グループ分けしてVLAN内だけで通信できるようにする機能ですが、ルーティングする事でVLAN間の通信が可能になります。上の図では、172.16.1.2~172.16.1.3間はポートVLANを設定すれば通信できますが、172.16.1.2や172.16.1.3の機器が172.16.2.2と通信するためにはルーティングの設定が必要です。また、ルーティングしているLANスイッチ間が接続された場合、スタティックルートのネクストホップIPアドレスには、VLANに割り当てたIPアドレスを設定します。

VLANの詳細は、「第三回 VLANとは?」をご参照ください。

6.スタティックルートの設定例

スタティックルートは「Routing Table」→「Route Configuration」を選択する事で設定できます。

赤枠部分でStaticを選択し、緑枠部分で宛先のサブネットを示すIPアドレスとサブネットマスク、黄色枠部分でネクストホップIPアドレスを入力します。「ADD」をクリックすると設定が反映されます。赤枠部分でDefault Routeを選択すると、デフォルトルートの設定が出来ます。デフォルトルートは宛先不特定のため緑枠部分の設定は不要で、黄色枠のネクストホップIPアドレスだけ入力します。青枠部分はルーティングテーブルです。スタティックルートを設定するとルーティングテーブルに追加されます。

7.おわりに

第八回では、ルーティングの動作と設定について解説しました。ネットギア製品のスマートスイッチでは、仕様でスタティックルーティングをサポートしていればルーティングできます。次回は、PoE(Power over Ethernet)の仕組みと設定について解説します。

のびきよ

2004 年に「ネットワーク入門サイト」を立ち上げ、初心者にも分かりやすいようネットワーク全般の技術解説を掲載中。著書に『短期集中! CCNA Routing and Switching/CCENT教本』、『ネットワーク運用管理の教科書』(マイナビ出版)がある。

(マイナビニュース広告企画:提供 ネットギアジャパン)

[PR]提供: