近年、個人だけでなく企業でも無線LANの利用が当たり前になってきた。企業の無線LANにはノートPCから、スマートフォン、タブレットなどのモバイル端末やIoT機器までが接続されるが、そのような中、頻発しているのが「無線LANがつながらない」、「速度が遅い」、「通信が頻繁に切れる」といった問題だ。

この問題の原因、実は「DHCP(Dynamic Host Configuration Protocol)」にあるかもしれない。本連載では、今なぜDHCPを見直すべきなのか、その理由を探っていく。

ワークスタイル変革やIoTで急増する社内IPアドレス

今や企業の無線LANには、社員のノートPCやスマートフォン、タブレット、IoTデバイスといったさまざまな機器がつながれている状態だ。かつては社員1人あたり1台の端末を利用する程度だったが、今では1人あたり3~4台の端末を使い分けることも珍しくない。

そのような状況の中で問題になってきたのが、無線LANにうまく接続できなかったり、接続できても速度が遅かったり、通信がよく切れたりするという現象だ。端末の無線機能をいったん無効化して再接続したり、無線アクセスポイントや端末自体の電源を切って再起動したりといった対処で乗り切っているケースも少なくないだろう。

なぜこうした現象が起きてしまうのだろうか。この課題に対して主に注目されるのは、無線LANのスペックに関わる問題だ。例として、「周辺の無線と干渉している」、「動画アプリなどが帯域をうばっている」、「アクセスポイントの処理能力を超えている」などが挙げられる。ただ、無線LAN機器を交換したり、電波が届く範囲を見直したりしても、いっこうに事態がよくならないことがある。

それはなぜか。それは、通信不良の原因が無線LAN以外の部分、すなわちDHCPにあることも多いのだが、それに気づけず問題が長期化するケースが増えているという。DHCPとは、ネットワークの各クライアントにIPアドレスやサブネットなどの情報を自動的に割り当てるための仕組みだ。家庭用のルーターなどを設定したことがある方はご存知だろう。

IPアドレスがインターネットに接続するための住所にたとえられるように、これがなければ利用することはできない。ローカルネットワークも同様で、各クライアントに割り当てられるIPアドレスがなければ、無線LANの電波環境に問題が無かったとしても通信を行うことができないのだ。

DHCPの仕組みにより、IPアドレスを端末に自動で割り当てる機能を持つサーバーを「DHCPサーバー」と呼ぶが、これに問題が発生することでも無線LAN環境が不安定になってしまうのだ。

DHCPの仕組み

サーバーOSやネットワーク機器に付属するDHCPサーバーの限界

そもそも企業のDHCPサーバーはどのように構成されているのだろうか。最も多いと思われるのが、Windows Serverに備わるDHCPサーバーを利用するケースだ。社員数が数百名を超えるような規模の企業では、ユーザー/アカウント管理のために、Active Directoryを導入していることが多いが、これを動作させるWindows Serverには、様々なネットワークサービスを追加できる。DHCPもそのひとつであるが、サーバー運用開始後に特別な設定を施す必要もないため、普段はDHCPサーバーが稼働していることを意識しないという管理者も少なくないだろう。

次に多いと思われるのが、拠点などでルーターやスイッチなどに備わるDHCPサーバー機能を利用するケースだ。家庭用のルーターにもDHCPサーバー機能が備わっており、デフォルトで動作する設定になっているのが一般的だ。ユーザーが数名の小規模拠点はもろちん、100名程度の中規模拠点でも、それと同じ感覚で手軽に利用できるのがメリットだ。このケースでも、DHCPサーバーの運用はネットワーク機器まかせということがほとんどだろう。

DHCPサーバーの設定や運用をサーバーOSやネットワーク機器にまかせてしまうことは、運用管理の手間を削減するという点ではスマートな選択だ。自動的にIPアドレスを割り当て、期限が来た場合も自動的に再割り当てを行ってくれる。もし数百台のクライアントに1台1台固定IPアドレスを手動で設定するとしたら、たいへんな負担になる。さらに今日では、ノートPCやスマートフォン、タブレットなど、設定しなければならない端末数は増加している。DHCPサーバーは縁の下の力持ちとして、できるだけ目立たないことこそが求められるのだ。だからこそ、トラブルが起こったときの影響は大きい。

DHCPサーバーにトラブルが起こると、ネットワークはどうなる?

DHCPサーバーにまつわるトラブルの典型例は、オフィス内を移動しているうちにIPアドレスが取得できなくなるというものだ。これは、特定の部署やエリア、ビルの階層ごとにサブネットを分けて管理しているようなケース(例:192.168.1.1~255、192.168.2.1~255など)で、異なるエリアやフロアに移動したときに発生する。

本来は、ネットワークセグメントが変わったときに、DHCPサーバーから新しいIPアドレスを取得し、ネットワーク接続を継続させる。だが、DHCPサーバーがうまく処理できず、新しいIPアドレスが割り当てられなくなるのだ。この結果、「2階のオフィスで資料を作成して、ネットワーク上のフォルダに保存し、3階の会議室で資料を開いてプレゼンしようと思ったら、ネットワークそのものがつながらない」といった事象が起きてしまうのだ。

DHCPトラブルで社内業務はストップ

「社内業務なのだから、DHCPサーバーが復旧するまで気長に待てば良い」と思うかもしれない。しかし今日では、企業の業務は想像以上にネットワークに依存している。たとえば、タブレットやスマートフォンでSkypeなどのチャットアプリを使っている場合、IPアドレスが付与されなければ、メーセージの送受信はもとより、通話やWeb会議もできないことになる。一時的にせよ、コミュニケーションインフラが停止することは企業活動に大きな支障をきたす。

また、ネットワークの遅延もDHCPに関するトラブルのひとつだ。クライアントの爆発的な増加により、DHCPサーバーの処理能力を超えることで引き起こされる。たとえば、Windows ServerのDHCPサーバーで負荷が高まり、IPアドレスの割り当てが遅くなり、インターネットにアクセスするまでにかかる時間が増加したり、いったん割り当てられたIPアドレスが頻繁に変わってアクセスが不安定になったりといった症状もある。

このほかにも、CPUリソースをDHCPサービスが占有してしまうと、Active Directoryなどの肝心の機能がうまく働かなくなくなり、問題がシステム全体に広がるかもしれない。これは、ルーターやスイッチのDHCPサーバーを使っている場合でも、同じような状態が起こる。

企業の新しい取り組みに欠かせない、DHCP専用アプライアンス

こうしたトラブルの背景には、当初の設計段階で想定した規模を超えるほどにクライアント数が増加していることがあるようだ。

ユーザー数500名で設計したネットワークは、社員1人にPC1台という時代であれば、単純に500台分のIPアドレスを想定しておけばよかった。しかし現在では、社員1人あたり端末3~4台が一般的になってきており、IPアドレスも3~4倍に増えている状況だ。これにIoT関連機器なども含めれば、想定の大きく超えてしまうかもしれない。ワークスタイル変革やIoTなどの取り組みを進めるなかで、DHCPサーバーが原因となって、ネットワーク全体を不安定にしてしまっているわけだ。

その一方で、十分な性能と機能を有するDHCPサーバーは新しい働き方や業務を支えるためのキーデバイスになる可能性もある。例を挙げると、スマートフォンを内線化し電話として使ったり、タブレットを社内外のさまざまなネットワークで活用したり、シンクライアントのコネクションブローカーを安定稼働させたりといった場合などだ。こうしたケースでは、DHCPサーバーのパフォーマンスや安定性がシステムの信頼性に大きく関わってくる。単にトラブルを避けるというだけでなく、ワークスタイル変革などの新しい取り組みを支えるのに欠かせない存在になるわけだ。

では、DHCPサーバーに起因する課題を解消しながら、新しい取り組みに向けて何をしていけばいいのか。そこで注目できるのが、DHCP専用アプライアンスだ。実際、ワークスタイル変革を進めている企業では、ネットワークトラブルに備えながら、ネットワークが提供する価値を高めるために、専用アプライアンスの導入が相次いでいる。

次回は、現代の企業にふさわしいDHCPとはどのようなものなのかを詳しく紹介しよう。

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