ラクーンが8月25日にローンチしたBtoBの越境ECマーケットプレイス『SD export』は、新たに海外市場を開拓しようとする日本の地場産業にとっても魅力あるサービスとなっている。国内の業務用漆器でシェア80%を持つ一大産地・越前漆器協同組合は、組合一丸となってSD exportへの出展に取り組むことを決めた。その背景や取り組みについて、同組合理事長 土田直氏、事務局の大久保諭隆氏にお話をうかがった。

伝統ある地場産業が直面する課題

越前漆器協同組合 理事長 土田直氏

越前漆器の産地、福井県鯖江市。市内の河和田地区には個人経営の工房から大きな設備を持つ企業まで、多数の漆器製造業者が立ち並ぶ。1500年以上の歴史があると伝えられている越前漆器。浄土真宗の信仰が厚いことから長らく仏事用の漆器を作っていたが、江戸末期には蒔絵や沈金、明治の頃には木地の職人を迎え入れ、ものづくりの幅を広げてきた。

その後、全国の漆器産地からの下請けを行うようになり、高度な技術を要するものから量産品まで多彩な種類の漆器製造に対応できる技術が育っていったという。高度成長期には物流の発達の伴い全国に品物を納めるようになり、現在は料亭・旅館から回転寿しの樹脂製漆器まで、業務用漆器では全国シェア80%を占めるまでとなった。だが、土田氏は近年国内需要の伸び悩みが続いていると語る。

土田氏「以前は百貨店のバイヤーからこういうものを作ってほしいと言われて品揃えに反映させてきましたが、20年以上経済が停滞したことで現在は彼らも何も言わなくなりました。そうなると業務用市場が中心の私たちには一般の消費者がどんなものを求めているのか分からず、手探りの状態が続いています」

そうした中で、独自に海外に販路を見出そうという取り組みも行われてきたという。海外の展示会に出展したり、プロダクトデザイナーとのコラボレーションによる製品企画など、売れるのではないかと考えて様々なことを試したが、現実には思った通りの成果を挙げることはできなかった。

土田氏「なんとかして海外へ売り込みたいという思いは、以前からずっとありました。漆器が頭打ちになっているのは、海外市場を開拓できていないことが原因のひとつだと考えているからです。同じ福井県内の伝統工芸品でも、打ち刃物や和紙、焼き物などは海外へ売り込み、ニーズを掴むことで受け入れられています」

海外で理解されやすい陶磁器や金属工芸などと異なり、東アジア以外では馴染みの薄い漆器はニーズをつかみにくく、マーケティング面での課題が大きい。だが、2013年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたり、観光客の増加により日本の幅広い食文化が世界に知られるようになるなど、漆器を使う習慣の認知に追い風が吹く状況が生まれつつある。

こうした環境を背景に、海外のニーズとトレンドを知り、的確に品物を届ける手段が必要とされていたのだ。だが、土田氏らにとって課題はマーケティング面だけではなかった。

越前漆器の歴史や技術を伝える施設「うるしの里会館(越前漆器伝統産業会館)」

組合企業の製品を展示するショウルームも兼ねる

国内と同じ感覚で越境ECへ

越前漆器協同組合の中には、過去に海外企業との取引を試みた企業もある。だが品物を海外へ輸出するには、取引先だけでなく輸送業者や通関業者、あるいは税関・保税倉庫等との連絡や書類の授受が必要になり、通常とは異なる業務を多数こなさなくてはならない。実際に品物を送ったものの、代金回収ができなかった事例もあった。こうした事情から、海外からの問い合わせがあってもほぼ断らざるを得ない状況だったそうだ。

そんな時、ラクーンから日本漆器協同組合連合会(日漆連)にSD export の提案が持ち込まれた。日漆連の理事長も兼務する土田氏がSD exportを知ったのはこの時だった。

SD exportは海外向けの卸販売専門マーケットプレイスで、物流会社との連携により煩雑な輸出手続きと国外への物流業務を一貫して代行してくれる。決済もSD exportのシステム上で行われるため、未回収のリスクも心配ない。まさに、輸出事業に乗り出したい企業にとって課題になっていたことが的確にカバーされたサービスだった。さらに、マーケティング面についても土田氏は期待を寄せる。

土田氏「世界の人に見てもらうことで、どんなニーズがあるのか、私たちが思いもよらなかった発見があるかもしれない。まずは見てもらえる機会を作ることが一番だと考え、ぜひこの機会に開拓していかなくてはならないと思いました」

越前漆器協同組合 大久保諭隆氏

日漆連の中でも、最初に乗り出すなら幅広い製品群を持つ越前漆器が適役と土田氏が手を挙げた。新しい事に積極的に取り組む組合企業が多い気風からか、反対意見はなかったそうだ。SD exportのローンチ1ヵ月前の段階で、組合に加入する販売系の企業18社が参加を決定。各社100点程度の製品を出品する計画を立て、オープンに向けたページの準備が進んでいた。参加企業の取りまとめを行っているのが事務局の大久保氏だ。

大久保氏「漆器製造は木地・塗り・絵付けなど、工程別に分業化しており、個人経営の小さな工房もありますが、今回は販売が中心の企業が参加していて、品ぞろえも幅広くなっています。すでに独自に国内向けECを行っている企業もあり、参加する各社さんにはそれぞれ自社で出品する製品のリストを作ってもらうことにしています」

SD exportという場ができることで、海外企業から声がかかったらSD exportを通して取引を行うという共通の対応が可能になる。煩雑な輸出業務や代金回収の心配がないことに加え、初期不良による返品・交換までサポートされることもSD exportを利用することに決めた理由になっていると大久保氏は語る。

大久保氏「SD exportの国内倉庫からの出荷を境に、そこから先はラクーンさんに対応していただけるということが非常に大きかったです。今までも海外との取引ではそういったトラブルが壁となっていましたので。もちろん、まずは我々が出荷する際にしっかり検品することが重要ですが。それと、PL保険もSD exportで一括して加入していただけるので、これも安心できるポイントです」

これまで国内の事業者を相手に行ってきた業務と全く同じような感覚で海外との取引が可能になる。これが出展者にとって一番の魅力となっているのだ。

SD exportに開店した越前漆器協同組合のショップスペース

ショップスペースで販売されている漆器の数々。定番で人気なのは黒だが、使うほどに風合いが変わってくる溜(ため)、春慶(しゅんけい)、白檀(びゃくだん)などの仕上も人気のようだ

越境ECで、伝統産業の新しい歴史を

先に少し触れたように、海外では現在和食が大きなブームになっている。大都市へ行けばどこにでも日本食レストランがあり、ラーメン店や定食チェーン屋に行列ができる状況だ。そこに陶磁器の皿や湯のみはあっても、漆の吸物椀や茶托はあるだろうか。

漆器の役割が知られていないし、プロモーションも十分でない。まずは知ってもらうことが一番大事だと、土田氏は強調する。同時に、海外からの声が寄せられることにも期待を寄せている。

土田氏「例えば蒔絵のお椀がジュエリーボックスになるかもしれない。こちらがこうだと決めたらいけませんね。使い方は相手に決めてもらえばいい。それに合わせてどんどん商品開発をしていきます」

スマートフォンのケースや洋食器など、新しい分野の商品開発にも積極的に取り組む

未知の相手とのコミュニケーションが漆器の新たな価値を生み出すかもしれない。組合を挙げて越境ECへ先陣を切った土田氏らに、他の漆器産地からも注目が集まっている。土田氏は「今後は他の産地にも参加してもらい、品ぞろえをもっと増やして行きたい」と、漆器産業全体の将来へ向けた期待を語ってくれた。

(マイナビニュース広告企画:提供 株式会社ラクーン)

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