ガスから取り出した水素を使って「発電」し、その排熱で「給湯」する家庭用のシステムが「エネファーム」である。業界最大手であるパナソニックのエネファームは、ジャパン・レジリエンス・アワード(強靭化大賞)2016で「最優秀レジリエンス賞」を受賞するなど、災害に強い家づくりの面からも注目を浴びている。この先進的なシステムはいかにして生まれたのか、パナソニック アプライアンス社 スマートエネルギーシステム事業部 燃料電池商品企画部 部長 加藤玄道氏と、日本のものづくりの開発支援を進めるプロトラブズ合同会社 社長 トーマス・パン氏による対談を前後編でお届けする。

家庭用燃料電池「エネファーム」

見たこともないものをゼロからつくる

トーマス・パン氏(以下、パン氏):はじめにお伺いしたいのですが、エネファームという商品のコンセプトはどのようにして生まれてきたのでしょうか?

パナソニック アプライアンス社 スマートエネルギーシステム事業部 燃料電池商品企画部 部長 加藤玄道氏

加藤玄道氏(加藤氏):水素と酸素から電気をつくる燃料電池という技術は、実は100年以上前からあり、19世紀イギリスのウィリアム・グローブという人が発明しました。しかし、当社が本格的に商品にしようと取り組みだしたのは、1999年になってからです。当時は基礎研究部門の数名でスタートし、「ノートPCの電源にしたらどうか?」といった要素技術の模索から始まりました。

パン氏:御社内で開発をすすめるうえで、技術的なブレークスルーはありましたか? それとも、技術的なことより、商品企画化のほうが困難だったのでしょうか?

加藤氏:天然ガスから水素を取り出すことと、水素を電気にすることが大きな要素技術ですが、その他にもインバーターや熱回収などいくつもの難しい技術が要求されます。これらをひとつの商品にまとめあげることがとても困難でしたね。基礎研究をやっている研究者のところに、給湯器やテレビ、携帯電話などいろいろな商品分野の技術者が集まって、見たこともないものをゼロから作ろうとするわけです。同じ会社とはいえ、やってきたことが違えば常識も文化も違う。一緒に苦労し、時にはぶつかりあいながら、試行錯誤していきました。

パン氏:組織づくりも苦労のポイントだったわけですね。通常の製品であれば、電気系・メカ系・制御系など、あるグループが中核になると思うのですが、組織構成はどのようになっていたのでしょうか?

加藤氏:初期段階では「暮らし環境研究所」のメンバーが中心となり、技術開発に加えて補助金制度の整備や大規模実証実験の実施など、国と連携していきました。ただ、エネファームを「商品」として仕上げるために必要な、営業・品質・工場・調達・CSといった機能は、研究所の中にはありません。そこで、当時のホームアプライアンス部門が一緒になり、バーチャルな事業体を作っていきました。

プロトラブズ合同会社 社長 トーマス・パン氏

パン氏:かなり大がかりな投資が必要なプロジェクトだと思うのですが、どのような経営判断があったのでしょうか?

加藤氏:当時の社長だった中村が、この商品の事業化に強い意志を持っており、唯一の「社長プロジェクト」というかたちで進めてきました。中村には「環境への共生」と「ユビキタスネットワーク」という、ふたつの柱をパナソニックの次の成長エンジンにするという思いがあり、エネルギーを作ることのできるエネファームはその象徴だったわけです。燃料電池に取り組んだメーカーはたくさんありましたが、ほとんどは撤退しています。トップの強い思いが無ければできない事業でした。

首相官邸でも実証実験

加藤氏:2005年に実施された大規模実証実験によって、エネファームの開発は一気に加速しました。これは、メーカーとガス・石油会社各社が連携して、数百台の機器を試験的に導入してもらい、実際のエネルギー削減効果やCO2削減効果を測定しようとするものです。当時は小泉首相の官邸に、当社の機械と荏原製作所の機械を設置するような、人目を引くイベントでもありました。

パン氏:それは大きなマイルストーンでしたね。その後、2008年に燃料電池実用化推進協議会ができたと伺いましたが、その協議会はキーになったのでしょうか?

加藤氏:協議会では、商品を幅広く認知してもらうために「エネファーム」という呼び名の統一が行われました。メーカーやガス会社といったさまざまな関係業界が、普及促進のために大きな投資をしています。

パン氏:御社のエネファームの開発には、どの段階でガス会社が加わったのでしょうか?

加藤氏:1999年の当初から東京ガスと共同開発しています。エネファームはパナソニックの製品であると同時に、ガス会社の戦略商品でもありますから、企画開発から深く関わりつつ共同で立ち上げてきました。

「家電屋」としての使命とともに

パン氏:エネファームの導入は、新しく住宅を建てるときに設置する場合と、既存の住宅に取り付ける場合のふたつがあると思いますが、どちらが多いのでしょうか?

加藤氏:2009年から一般販売を開始したのですが、当初は新築が中心でした。住宅メーカーさんも家の特徴を訴求する上で、「環境との共生」「エネルギーゼロ住宅」などをメインコンセプトにされていますので、「エネルギーをつくる」エネファームを当初から評価していただけました。現在は若干逆転していて、既存住宅への取り付けが多くなっています。

パン氏:それは災害の影響などがあったのでしょうか?

加藤氏:東日本大震災はたいへん不幸な出来事でしたが、エネファームが大きく飛躍するきっかけにもなりました。今は停電時でも発電を継続するモデルが人気です。

パン氏:ひとつのエネルギーだけに頼るのは危険だという教訓を得られたわけですね。ここで2005年時点に立ち戻っていただいて、10年後の今は想定内でしょうか?

加藤氏:私はちょうど2005年に異動して燃料電池に関わり始めたのですが、正直に言うと「これ、商品になるんだろうか?」と感じていました(苦笑)。エネファームは、都市ガスを燃料に水素に変換し電気として利用する、という複雑なシステムをスムーズに行わなければなりません。電気の使用量が変わると、水素を作るところから全部変えないといけないため、負荷変動のタイミングによっては、水素の流路が瞬間的に詰まってしまうことなどもあります。そのため、大規模実証実験のころはトラブル対応のために駆け回っていました。

パン氏:一般販売を始めた2009年には、これはいけると思いましたか?

加藤氏:いえ、それがまだ悩んでいました。当時は補助金込みでも200万円近いお客様負担が必要でした。今でこそ100万円を切るようになってきましたが、そもそも我々は「家電屋」ですし、エネファームを家電に持ってくるのが使命だと思っています。一般のお客様が給湯器を買うようにエネファームを買う、そこまでもっていけるだろうか、という悩みを常に抱えながら、それでもなんとか10年でここまで来ることができました。

さまざまな模索の中で生まれたエネファーム。後編では、商品としての大きな特徴と、エネファームの進化形、そして未来社会についての対談をお届けする。

(マイナビニュース広告企画:提供 プロトラブズ)

[PR]提供:プロトラブズ