市場競争は日に日に激化しています。旧態依然としたサービス提供を続けていては、いずれ顧客からの支持が得られなくなってしまう。そんな時代が訪れつつあるのです。絶えず新たなイノベーションを構想してサービスに反映していく、このサイクル無しには、プレゼンスを堅持することは困難だと言えます。

独自の無線通信技術を武器に国内アンテナ市場で圧倒的なプレゼンスを堅持している日本アンテナは、今、この "イノベーション創出のサイクル" を大きく加速させています。例えば、2017 年より国土交通省とすすめている「革新的河川管理プロジェクト」を通じ、同社は水位計と無線通信、そして IoT を複合させた「クラウド型水位計」を開発。従来ビジネスの枠組みに捉われない新しい価値をもって、官民連携の下、河川氾濫の水防に取り組んでいるのです。この「クラウド型水位計」は、Microsoft Azure が、その安定した稼働とサービスの発展性を支えています。

従来ビジネスの枠組みに捉われない "新しい価値" の創出を目指す

防災・消防無線用アンテナや放送用アンテナなどの開発、販売を手掛ける、日本アンテナ。2018 年に創業 65 周年を迎えた同社は、アンテナ市場において国内トップ レベルのシェアを有する総合アンテナ メーカーです。

同社のビジネスは、アンテナという "モノ売り" だけに留まりません。長年かけて培った無線通信技術を駆使することで、様々なものを媒介として情報と人、そして街をつなげていく "コト売り" を、全社が一丸となって進めているのです。

日本アンテナ株式会社 営業本部 通信機器営業部 部長の石丸 雅章 氏は、同社の取り組みについて次のように説明します。

IoT (Internet of Things) の普及などを受けて、通信技術へ寄せられる期待がこれまで以上に高まっています。ただ、市場ニーズは多様化の一途を辿っています。ニーズの強い技術を有していようとも、従来のように汎用的な製品を提供するだけでは、お客様の期待に応え続けることはできません。私たちの持つ無線通信技術を用いて、顧客の抱える 1 つひとつの課題を解決へと導いていく。3 年後、5 年後といったタームで考えた時、当社に求められるのはこうした "コト売り" へのシフトだと言えました。我々は、つなぐ技術は無限の可能性を持っていると考えています。多様化するニーズにもきっと応え続けられるはずです。これを体現すべく、当社は現在 "Invisible × Connected (見えないものをつなぐことで、より豊かで安全な社会にしていく)" というスローガンの下、従来ビジネスの枠に捉われない取り組みとして幾つかの "革新プロジェクト" を進めています」(石丸 氏)。

"革新プロジェクト" では、日本アンテナの持つ無線通信技術だけでなく、様々な技術を複合させることで、新たな価値の創出が目指されています。例えば国土交通省と連携して取り組んでいる「革新的河川管理プロジェクト」では、無線通信技術に IoT 技術を組み合わせることで、河川氾濫等の水害を防止することが図られています。

日本アンテナ株式会社 営業本部 営業統括部 部長の瀧澤 豊吉 氏は、同プロジェクトの詳細についてこう説明します。

「2018 年に発生した平成 30 年 7 月豪雨は、西日本を中心とする各地に甚大な被害を与えました。河川の氾濫や浸水害などが発生した場合、適切な避難行動を取れるかどうかが、被害の大きさを左右します。この避難行動の目安として各河川には水位計が設置されているのですが、予算的な制約を背景に、水位計の設置されていない河川というのが全国に数多くあるのです。もし設置や維持管理にかかる費用を削減できれば、水位観測網を充実させることができるでしょう。『革新的河川管理プロジェクト』を通じ、無線通信技術と IoT 技術とを複合して開発した『クラウド型水位計』によって、こうしたコスト課題を解消することを目指しています。2018 年に実証実験を開始したばかりですが、既に一部都道府県では正式稼働をスタートさせています」(瀧澤 氏)。

  • 日本アンテナ株式会社 営業本部 石丸 雅章氏、瀧澤 豊吉氏
  • 2017 年に神奈川県の鶴見川水系の鳥山川で行われた実証実験の様子1
  • 2017 年に神奈川県の鶴見川水系の鳥山川で行われた実証実験の様子2
  • 2017 年に神奈川県の鶴見川水系の鳥山川で行われた実証実験の様子

Microsoft Azure の有する信頼性が、顧客にとっての安心感につながる

一般的な水位計は、センシング技術によって水位を計測する、水位を常時モニタリングする、閾値を超えた場合にはアラートを出すなど、水位計自体にインテリジェントな機能が実装されています。これに対して「革新的河川管理プロジェクト」では、水位を計測する機能のみを備えた子機を用意。分析といった処理は親機を通じてクラウドで行うというコンセプトの下、新たに「クラウド型水位計」が開発されました。この水位計では、河川に設置する子機と親機が備える機能を最小減に留めることで、設置に要する費用を大幅に削減することに成功しています。

石丸 氏は「1 台の親機で最大 30 台の子機を接続することが可能です。親機と子機は 920 MHz 帯域の無線通信で適宜接続し、インターネットを通じて親機に蓄積した情報をクラウドとやり取りします。インターネット通信とクラウドの部分にしかコストが発生しないので、設置だけでなく維持管理の面でも、費用を抑えることが可能です。」と説明し、実証実験で有用性が認められたこともあって早くも正式稼働がはじまっていると述べます。

  • 「クラウド型水位計」のシステム イメージ
  • モニタリングなどのインテリジェントな機 能をクラウドに集積することで、水位計 1 台あたりの費用を大幅に削減できた。これにより、 水位観測網の充実が期待されている
  • 「クラウド型水位計」のシステム イメージ (上)。モニタリングなどのインテリジェントな機 能をクラウドに集積することで、水位計 1 台あたりの費用を大幅に削減できた。これにより、 水位観測網の充実が期待されている

同氏が述べたように、水位計の設置や維持管理に要する費用の削減は、本プロジェクトで強く期待されたことでした。IoT やクラウドは、この成果を左右する重要な技術だといえます。瀧澤 氏は、「当社は、無線通信技術に関しては深い知見を持っています。ただ IoT やクラウドも同じかというと、そうではありません。自前主義で進めてはプロジェクトに不足が生じてしまうと考え、パートナーである JSOL と協働してプロジェクトを進めています。」と語りました。

パートナー選定にあたり、日本アンテナでは、Microsoft Azure (以下、Azure) の利用を前提にして検討を進めたと言います。この理由について、石丸 氏は「本プロジェクトで目指すのは、河川氾濫等による人的被害の防止です。いざという時にサービスが停止してはまったく意味を成しませんから、クラウドには常時、安定してサービスが提供されることを求めました。Azure は、数あるクラウド サービスの中でもエンタープライズでの実績が多いサービスです。プラットフォームの持つ高い信頼性、そして密接なサポート体制、この両面から安定稼働を支えてくれると期待し、Azure の利用を前提にしてベンダーを選定しました。」と述べます。

"マイクロソフトは世界有数の IT ベンダーです。同社の提供するクラウド サービスを利用することが、お客様にとっての絶対的な安心感につながると確信しております。この点は、導入実績を増やして水位観測網を早期に広げていく上でも重要でした。"

-石丸 雅章 氏: 営業本部 通信機器営業部 部長
日本アンテナ株式会社

続けて瀧澤 氏は、Azure の備える豊富な PaaS の存在も、採用の大きな理由だったと語ります。JSOL をパートナーに選定した理由も交えながら、こう説明します。

「検討にあたっては数社へ RFP を出して提案を募ったのですが、JSOL の提案が非常に魅力的だったことを覚えています。同社からは、実証実験に該当するフェーズ 1、そこでの結果を踏まえたフェーズ 2、顧客ごとの要件に対応していくフェーズ 3、そして先進技術を実装していくフェーズ 4 と、段階的にアーキテクチャを発展させていくという提案を頂きました。PaaS を活用したサーバー レス設計によって短いリード タイムで各フェーズを進めていけることも提示いただいたこともあり、即時性と発展性の双方で有効だと感じたのです」(瀧澤 氏)。

優れた拡張性によって、わずか 1 か月で一次開発を完了

瀧澤 氏の期待のとおり、日本アンテナでは作業開始から 1 か月で一次開発を完了し、実証実験をスタート。その後も 3 か月という短い間隔で、サービスの改良を重ねています。株式会社JSOL 基盤サービスビジネス事業部 マネジャーの矢野 憲作 氏は、現在フェーズ 3 の段階にあることに触れ、その詳細についてこう説明します。

「Azure IoT Hub を利用して親機から Azure へデータを集積する、そして Azure Table Storage に格納した計測ログ情報を Azure App Service で可視化するというのが、『クラウド型水位計』の基本的な仕組みとなります。また、認証基盤には、Azure Active Directory を活用しています。フェーズ 3 では、Azure Active Directory Premium による認証基盤の強化や、将来的には、Azure Web Apps で構築したダッシュボード画面をカスタマイズ可能にする、Azure API Management によってお客様の API と連携できるようにするなど、お客様ごとに異なる要望への対応性を高めています。Azure はこうした "将来的に必要となる" 機能についても PaaS として取り揃えています。アジャイルにサービスを発展させていく上で、極めて有効なサービスだと感じます」(矢野 氏)。

  • 矢野 氏が述べたように、「クラウド型水位計」の提供基盤は、PaaS を全面的に利用した設計が採られている

    矢野 氏が述べたように、「クラウド型水位計」の提供基盤は、PaaS を全面的に利用した設計が採られている

既述のとおり、「クラウド型水位計」は、次の段階となるフェーズ 4 において先進技術の実装が計画されています。株式会社JSOL 基盤サービスビジネス事業部 イノベーション推進チームリーダーの砂子 一徳 氏は、こういった先進技術の実装にあたっても、Azure は有効な PaaS を数多く備えていると説明。同サービスゆえの強みにも触れながらこう語ります。

「現在はあらかじめ設定した閾値をベースにしてアラートを出していますが、次期フェーズでは水位変動の傾向から河川の水位上昇・氾濫等の発生を予兆する仕組みも実装したいと考えています。Azure Machine Learning Service を利用すればここで必要な AI モデルを開発することができますし、同じ Microsoft Azure のサービスですので即座にデプロイしたり再学習によって精度を高めていったりすることが可能です。また、Azure はエッジデバイス向けのサービスも数多く提供しています。たとえば Azure IoT Edge を利用すれば、クラウド環境にある分析機能を親機にまで拡張することが可能です。"万が一インターネット通信が途絶えても親機だけでアラートが出せる"、こんな仕組みを、コストを今と大きく変えることなく実装できると期待しています」(砂子 氏)。

  • 実際に河川に設置される親機と子機
  • 実際に河川に設置される親機
  • 実際に河川に設置される子機
  • エッジのシナリオもサポートする Azure のサービスを利用すれば、今と処理性能を大きく変えることなく、インテリジェントな機能をエッジ側に持たせることができる。水位の変動から親機が河川氾濫等のリスクを判断し、周辺の人やモノに対してこれをアラートする。そんな世界の実現が、目の前に迫っている
  • 実際に河川に設置される親機 (中段左) と子機 (中段右)。エッジのシナリオもサポートする Azure のサービスを利用すれば、今と処理性能を大きく変えることなく、インテリジェントな機能をエッジ側に持たせることができる。水位の変動から親機が河川氾濫等のリスクを判断し、周辺の人やモノに対してこれをアラートする。そんな世界の実現が、目の前に迫っている (下)

  • 株式会社JSOL 基盤サービスビジネス事業部 矢野 憲作氏、砂子 一徳氏

"Invisible × Connected" を加速させていく

「革新的河川管理プロジェクト」は、すでに、一部都道府県による本番稼働をスタートさせています。これは、同プロジェクトが成功に向けたレールに乗っている証だといえるでしょう。

瀧澤 氏は、短期にこうした成果を生み出すことができた点を高く評価し、今後の意気込みを次のように述べます。

「私たちの持つ無線通信技術は、間違いなく有用なものです。ただ、『革新的河川管理プロジェクト』もそうですが、こうした技術は他の技術と複合させることで初めて大きな価値を生み出すことができます。当社だけでお客様の全ニーズを満たせるわけではないのです。『革新的河川管理プロジェクト』に限らず、今後も様々な企業と連携した共創によって、お客様や社会の中にある課題を解消していきたいと考えています」(瀧澤 氏)。

" JSOL やマイクロソフトのサポートもあり、今回のプロジェクトを成功に導くことができました。これは、我々が今後 "Invisible × Connected" を加速させていく上でのモデル ケースになると考えています。"

-瀧澤 豊吉 氏: 営業本部 営業統括部 部長
日本アンテナ株式会社

革新的な取り組みのもとで "コト売り" へのビジネス シフトを進める日本アンテナ。従来ビジネスの枠組に捉われることなく新たな共創にチャレンジし続ける同社は、"Invisible × Connected" のもとであらゆる情報と人、街をつなげることで、社会をより豊かなものにしてくれることでしょう。

  • 日本アンテナ株式会社一同

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