社会が変化するスピードは、日々加速しています。単にサービスをそのまま提供し続けていては、いずれは変化に取り残され、顧客からの支持が得られなくなってしまうでしょう。絶えず新たなイノベーションを構想すること、そして継続的かつ短いリード タイムでサービスへと反映していくことが、今日の企業には求められているのです。ここで必要なアジリティ (経営、組織運営、IT の俊敏性) を獲得すべく、数多くの企業が今、サービス基盤のクラウド化や、コンテナ型仮想化と呼ばれる技術の実装に取り組んでいます。独自のアド テクノロジーを武器として広告業界で高いプレゼンスを築いている Fringe81 も、クラウド ファースト、コンテナ ファーストを掲げてこれを実践する 1 社です。同社が 2018 年 11 月にサービス インした広告収益化支援サービス「GrowLio」では、Microsoft Azure のもと、Docker や Kubernetes を用いたコンテナ型仮想化を採用。これにより、顧客ニーズを迅速にサービスへ反映させていくことを可能にしているのです。

多様化する広告ニーズに対応していくべく、Kubernetes を採用したサービスの開発を計画

社会には数多くの産業があります。その中でも特に広告業界は、早期から情報化が取り組まれてきた産業です。動画広告、アド ネットワークなど、広告業界では日々、新たなサービスが生まれています。同業界においては、広告技術だけでなく IT 技術にも長けていなければ、継続的な企業発展が困難だといえるでしょう。この広告業界をフィールドに事業を展開する Fringe81 は、広告技術と IT 技術の双方を有する技術者集団です。

サービス基盤にクラウドを採用する、サーバー仮想化ではなく "アプリケーション実行環境の仮想化" であるコンテナ型仮想化を実装する、こういった取り組みは、いまでこそスタンダードな姿になりつつあります。ですが、Fringe81 では 2015 年に提供を開始した docomo Ad Network からこうした技術を取り入れるなど、早期からクラウド ファースト、コンテナ ファーストを掲げてサービス基盤を整備してきました。Fringe81株式会社 技術開発本部の 廣井 智一 氏は、このねらいについて次のように述べます。

「まず挙げられるのは、アプリケーションも含めたスケーラビリティの獲得です。メディア、アプリ ベンダー、広告代理店といった当社のお客様は、日々、広告主の要望に応えるために新たな独自商品を生み出しています。クラウドは物理リソースの調達が不要という面で確かに有用ですが、改修の度に仮想マシンを立ち上げていては、多様化が進む各社商品に当社サービスを適用させていくことが困難なのです。サービスを迅速に発展させることで市場変化に適用していく。そのためには、クラウドだけでなくコンテナ型仮想化も全面的に採用する必要がありました」(廣井 氏)。

  • サーバー仮想化とコンテナ型仮想化の比較図。コンテナ型仮想化ではオープン ソース (OSS)の開発プラットフォームである Docker を利用して、共通のホスト OS のもと、仮想的に "アプリケーション実行環境" を用意できる

    サーバー仮想化とコンテナ型仮想化の比較図。コンテナ型仮想化ではオープン ソース (OSS)の開発プラットフォームである Docker を利用して、共通のホスト OS のもと、仮想的に "アプリケーション実行環境" を用意できる

新たな技術を積極的に事業へ取り入れて、サービスを迅速に発展させていく。Fringe81 のこうした精神は、近年の取り組みにも強く表れています。2018年 11 月にサービスをスタートさせた広告収益化支援サービス「GrowLio」では、コンテナ化したアプリケーションのデプロイ、スケーリングを自動化する Kubernetes を、同社として初めて採用。コンテナ型アプリケーションの管理効率やその簡便性を高めることで、変化への対応速度をより加速させているのです。

  • クリエイティブプレビュー
  • GrowLio は、アプリ メディアを運営する企業を対象に、広告配信プラットフォームと広告事業全般に関する営業、オペレーション支援を提供するサービスだ。現時点で動画など様々な広告形式に対応しているが、アプリ業界は市場変化が激しく、広告ニーズも目まぐるしく変わっていく。ここに対応していく上で、Kubernetes の採用は大いに有効だといえる
  • GrowLio は、アプリ メディアを運営する企業を対象に、広告配信プラットフォームと広告事業全般に関する営業、オペレーション支援を提供するサービスだ。現時点で動画など様々な広告形式に対応しているが、アプリ業界は市場変化が激しく、広告ニーズも目まぐるしく変わっていく。ここに対応していく上で、Kubernetes の採用は大いに有効だといえる

ただ、Kubernetes を利用することは、そう容易ではなかったといいます。Fringe81株式会社 技術開発本部の三ツ橋 和宏 氏は、「Kubernetes の採用は、当社にとって大きなチャレンジでした。」と語り、こう理由を述べます。

「Kubernetes は、これを正式採用したサービス実績がそう多くは存在しません。いわゆる "こなれていない技術" だといえました。世の中にあるドキュメントも十分な数でないため、自分たちだけで環境を構築して運用することには大きなハードルがあったのです。ただ、GrowLio では "今の最先端" のアーキテクチャにすることを目指していましたから、事業設計時から、Kubernetes の採用を前提にして計画を進めました」(三ツ橋 氏)。

Azure Kubernetes Services が、"今の最先端" を具体化した

広告配信プラットフォームである GrowLio。その提供基盤には、広告をユーザーのデバイスごとに適した形式へ変換する「エンコード」、インプレッション数やクリック数といった配信情報を蓄積する「ログ集積」、そして適切なユーザーへ広告を届けるための「配信」、以上 3 つのしくみが主に必要となります。

サービスの開発当初、Fringe81 は Amazon Web Services (AWS) を提供基盤とすることを構想。その理由について廣井 氏は、「CentOS や Scala、Go など、当社はサーバーとアプリケーションの両面で、OSS を全面的に利用しています。固定観念かもしれませんが、OSS 開発ならば AWS だろうというイメージが少なからずあったのです。」と説明します。

ですが同社は最終的に、エンコーダーに AWS を、ログを集積するための DWH に GCP を、そして配信基盤に Microsoft Azure を利用するマルチ クラウド構成を採用しています。「GrowLio は新サービスになるため、まずはスモール スタートする、そしてユーザーの増加とともに環境をスケールさせていくことを考えました。動的なコスト体系を敷いている Amazon Elastic Transcoder であればコストを最適化できますし、Google BigQuery は過去に利用実績があったため開発期間を短期化できます。マルチ クラウド構成を採用したのは、各クラウド サービスの利点を組み合わせてまずはサービス インすることが、ねらいにありました。」と、廣井 氏は説明。こうしたサービスを構成するしくみの中でも配信基盤は、複数の機能が複雑に連携して構成される、GrowLio のコア エンジンだといえます。では、そこに Microsoft Azure を採用した背景にはどのようなねらいがあったのでしょうか。Fringe81株式会社 技術開発本部の小紫 弘貴 氏は、次のように語ります。

「Microsoft Azure が備える Azure Kubernetes Services (AKS) の存在が、検討のきっかけでした。配信基盤はセグメンテーションや配信ロジックなどを備えていますから、サービスを構成する他のしくみと比較して、機能改修や拡張が多く発生すると予想されます。つまり、Kubernetes の採用によって大きな効果が得られる領域なのです。ただ、三ツ橋も触れたようにこれを自力で運用することは困難でした。AKS はこの Kubernetes をフル マネージドで提供しますので、"こなれていない技術" でも安心して採用することができます。過不足なく Kubernetes が利用できるだろう、そう期待し、マイクロソフトへ相談を投げかけました」(小紫 氏)。

  • Fringe81株式会社 技術開発本部 廣井氏、三ツ橋氏、小紫氏

Fringe81 にとって、Microsoft Azure の検討は初の試みでした。たとえ AKS が仕様上フル マネージドで Kubernetes 環境を提供するとしても、適切にこれが利用できなければ意味がありません。ここにあたって小紫 氏は、hackfest 形式で提供されたマイクロソフトの技術支援を高く評価。詳細を交え、こう語ります。

「検討にあたり、マイクロソフトより hackfest を実施いただきました。これは、いわゆる "サービスの利用方法のレクチャー" ではなく、まずどんなサービスを作りたいかという事業の姿に関する議論からはじまり、そこへ Microsoft Azure の各サービスをツールとして当て込んでいく、これを当社とマイクロソフトが共同して進めていくというものでした。単なる技術支援ではなく、一緒になって、世界中の先進的な実績を共有いただきながら最適なアーキテクチャを設計してくれるのです。Hackfest を終えてからもマイクロソフトからは Slack などを介して手厚く支援いただけたため、Kubernetes の採用を具体化していくことができました」(小紫 氏)。

"hackfest によって、『これならば Kubernetes が採用できる』という手応えが得られました。この手応えが、Microsoft Azure を正式採用した決め手だといえるでしょう"

-小紫 弘貴 氏: 技術開発本部 Tech Lead
Fringe81株式会社

フル マネージドのサービスを活用して、柔軟性と運用性を確保

また、本プロジェクトを経て、マイクロソフトに対するイメージも大きく変わったといいます。三ツ橋 氏は、「マイクロソフトにはどうしても、Windows というイメージがありました。」と前置きし、廣井 氏とともにこのように述べます。

「開発にあたってはマイクロソフトの担当の方にも支援いただきながら作業を進めました。そこでは同社が公開している OSS 関連の様々なドキュメントを引用して解説頂けたため、手順を整理しながら構築していくことができました。マイクロソフトがこれほど多くドキュメントを整備していたことは、いい意味で予想外でしたね。Azure Database for MySQL など OSS 関連の PaaS も数多く備えており、同サービスがいかに OSS にコミットしているのか理解できました」(三ツ橋 氏)。

「PaaS でいえば、NoSQL サービスである Azure Cosmos DB も有用だと感じます。当社では docomo Ad Network の頃から NoSQL の環境を構築してセグメンテーションのしくみを整備してきたのですが、独自構築ゆえに柔軟性や運用性が課題化していました。Azure Cosmos DB は汎用サービスとして設計されていますので、用途を制限せず何にでも使うことができます。また、フル マネージドのため運用工数も削減可能です。Microsoft Azure はサービス化に必要な PaaS が一通りそろっていますから、Kubernetes を利用していない領域でも、仮想マシンの数を減らすことで柔軟性を確保できます」(廣井 氏)。

  • GrowLio のアーキテクチャ設計。AKS は現在、広告管理画面やターゲティング配信の領域で利用されている。また、この他にも Azure Cosmos DB や Azure Database for MySQL といった PaaS を積極的に採用することで、柔軟性と運用性を高めている

    GrowLio のアーキテクチャ設計。AKS は現在、広告管理画面やターゲティング配信の領域で利用されている。また、この他にも Azure Cosmos DB や Azure Database for MySQL といった PaaS を積極的に採用することで、柔軟性と運用性を高めている

"今の最先端" を目指して構築された GrowLio の提供基盤は、同サービスを発展させていく上で大きな効果をもたらしました。Fringe81 ではこの提供基盤の構築について、設計に着手してからわずか 3 か月で完了させています。リリース後も、細やかなアップデートが短いリードタイムで提供。廣井 氏は Kubernetes ゆえの利点に触れながら、なぜサービス発展の迅速性を高められているのか説明します。

「スパイクに備えてコンテナを増減する、バッチ処理や機能をリリースする。従来どうしても人の手を必要としていたこうした作業が、Kubernetes では容易に自動化することが可能です。定常運用の負担が減ればそれだけ新たな機能開発にリソースを割けるため、従来以上のスピードで改修を進めていくことができるのです。現在はまだ、広告のデリバリーなど 24 時間 365 日止まることが許されないクリティカルな領域には Kubernetes を利用していません。ただ、今使用している領域で安定性を見極めた後、クリティカルな領域にも Kubernetes を利用していきたいと考えています。そうすれば、サービスの発展速度をいっそう加速させることができるでしょう」(廣井 氏)。

"フル マネージドで Kubernetes が利用できないのであれば、採用を見送らざるをえないと考えていました。Azure Kubernetes Services は、われわれが目指した "今の最先端" をまさに実現させてくれたと感じています。"

-廣井 智一 氏: 技術開発本部 Application Expert
Fringe81株式会社

Microsoft Azure へのシングル クラウド化で運用の合理化を期待

2018 年 11 月に提供を開始した GrowLio は、サービス インからまだ間もないながら、すでに市場から高く評価されています。もちろん、サービスの提供開始はゴールではありません。Fringe81 では今後、高いアジリティをもった提供基盤と同社のアド テクノロジーを武器に、さらなるサービス改修をつづけていくことを予定しています。

ここに向けて、取材の終わりに三ツ橋 氏は、「柔軟性や運用性の最大化を考慮すると、シングル クラウドを採ることが最適だと考えています。AWS や GCP の方が優れている点も存在するため、今回は、適材適所の考えのもとでマルチ クラウドを採用しました。ただ、マイクロソフトには大いに期待していますので、今後他のサービスが勝っている領域にも追い付いてもらうことで、当社がシングル クラウド化していける土壌を築いてほしいですね。」と語りました。

"Microsoft Azure を広告サービスのインフラとして使うのは初めての試みでした。ですが、他のサービスと比べても違和感なく作業をすすめることができました。当社のようなインターネット サービスのインフラとして Microsoft Azure を採用がする企業の実績が、もっと増えてよいと感じます。"

-三ツ橋 和宏 氏: 技術開発本部R&D Fringeneer
Fringe81株式会社

変化のスピードは、日に日に加速しています。そう遠くない未来で、広告業界だけでなくあらゆる産業で、クラウド ファースト、コンテナ ファーストという考え方がスタンダート化していくはずです。ここに先んじた Fringe81 の取り組みは、ITの在り方が過渡期を迎えている今日多くの企業にとってのモデル ケースとなるでしょう。

  • Fringe81株式会社 技術開発本部の皆様

[PR]提供:日本マイクロソフト