企業での取り組み実績が増え、IoT は普及期を迎えつつあります。ただ、中小企業を対象とした商工組合中央金庫の調査 (中小企業のIT 活用に関する調査 2017) では、IoT をはじめとした先進技術の活用について「8 割以上が『予定なし』」であることが提示されており、中小企業での IoT への取り組みがまだまだ遅れていることが伺えます。多くの中小企業にとって、IoT は「大きなコストがかかる」「効果がみえない」ものとしてハードルの高い取り組みと思われがちですが、この認識が誤解であることを示す例があります。名古屋を拠点にプレス加工業を営む久野金属工業は、現在、クラウド技術を活用して工場の IoT 化を推進。約 11% もの生産能力向上、従業員の意識改善といった成果を生み出しているのです。

工場の生産能力を最大化すべく、IoT、クラウド技術を活用したモニタリング システムを整備

高精度プレス加工製品の開発から量産までを一貫対応する愛知県の金属加工メーカー、久野金属工業。従業員 300 名弱という規模ながら、同社は高いサービス品質と“高生産性”を武器に、多くの企業のものづくりを支えています。

同社の武器でもある“高生産性”は、大規模ロットの受注対応、納期の短期化など、サービス価値に直結するものです。今日、あらゆる製造業において、“高生産性”および、これを実現するための生産能力の向上が経営課題となっています。しかし、久野金属工業で専務取締役 兼 CIO を務める久野 功雄 氏は、多くの中小製造業がこの生産能力の向上に対して、限界意識を持っていると説明。生産ラインや人員が限られていることを要因に挙げてこう語ります。

「たとえば当社で稼働するプレス機の場合、1 台の調達に数億円の投資を必要とします。この予算は容易には捻出できないため、当社もそうですし多くの製造業が、“現行の生産ライン”で生産能力を最大化する方策を検討しています。しかし、生産ラインの稼働時間を延ばすという従来型のアプローチは、残業の増加につながります。時間的な制約や産業課題である人材不足などもあり、生産能力が追い付かず、結果として外部業者へ業務をアウトソースして必要なリソースを確保しているのが、多くの企業の現状です。生産能力の向上は重大なテーマですが、人的工数、コストともに増えつづける現状に対して、限界意識を持つ企業は少なくありません」(久野 功雄 氏)。

今の製造現場では、目の前の業務でリソースが手一杯になるという問題も発生しているといいます。「人的リソースが不足してしまっては、状況の改善にメスを入れることができなくなります。結果、いつまでも悪循環が続いてしまうのです。」と、久野 功雄 氏は指摘。つづけて、こうした問題を回避して“高生産性”を実現するために、久野金属工業では IT の活用を進めていると説明します。

「およそ 20 年前に、倉庫管理や品質管理といった基幹作業の自動化を目的として専用の基幹システム群を整備したほか、職人の技術やノウハウをソフトウェア化するなど、製造業務とバック オフィス業務の自動化を進めています。“高生産性”の実現には PDCA を繰り返しながら生産ラインの稼働計画を最適化していくことが求められるため、これを行うための人的リソースの確保が不可欠なのです。また、PDCA を正しく、そして迅速にまわしていくことも、生産能力の最大化に際しては重要となります。ここへのアプローチとして現在進めているのが、IoT、クラウドを活用した、生産ラインのモニタリングです」(久野 功雄 氏)。

Microsoft Azure は、IoT 化や分析データの活用に必要な機能を、PaaS として取り揃えていた

久野金属工業は、経済産業省が表彰する「攻めのIT 経営中小企業百選」に選定されるなど、IT への先進的な取り組みを推進しています。久野 功雄 氏が触れた生産ラインのモニタリングも、同社は 1988 年から、IT を活用して 200 台を超える装置群の稼働状況をモニタリングしてきました。2018 年には、同しくみの IoT 化に着手。Microsoft Azure をプラットフォームに、あらたなモニタリング システム「IoT GO」をリリースしています。

  • IoT GO では、生産ラインの稼働状況をいつでも、どこからでも閲覧することが可能

    IoT GO では、生産ラインの稼働状況をいつでも、どこからでも閲覧することが可能

旧来のモニタリング システムは、製造現場で稼働する各装置とこれを統制するコンピューターとを N 対 1 で、有線で接続。同統制コンピューターへユーザーが社内ネットワーク経由でアクセスして、稼働状況をモニタリングしていました。しかし、当時のシステムには以下のような課題が存在していたといいます。

旧モニタリングシステムにあった課題
[1]網羅性 稼働情報を出力できない装置があるため、
全装置をモニタリング対象とすることができなかった
[2]利便性、柔軟性 有線接続、単一の統制コンピューターであるため、
ユーザーの閲覧画面のカスタマイズ性に乏しく、
また装置の増減への対応にも時間と工数がかかっていた
[3]分析性 リアルタイム モニタリングの用途に終始しており、
データベース化はされていない。
そのため、経過比較や他の生産ラインとの比較など、
分析用途として利用することができなかった

ユーザーごとにモニタリングすべき装置、生産ラインが異なるため、全装置の稼働状況が一同に表示される旧システムは、ユーザービリティに長けているとはいえない状況でした。また、単に稼働状況が表示されるだけでは、そこから新たな知見を得ることは困難です。こうした [2][3] に挙げた課題が内包する問題について、久野 功雄 氏はマクロな視点から、こう付け加えます。

「なかなか有効に活用されないという『今ある問題』にくわえて、『将来的な問題』も存在していました。海外メーカーの日本進出など、ものづくり産業には今、激しい変化が訪れています。今後もこの動きは加速していくでしょう。その過程では、われわれがつくるモノ自体を変えていくことが迫られるかもしれません。柔軟性に乏しく、またできることも限られている従前のシステムでは、こうした社会の変化に追従できず風化してしまう恐れがあったのです」(久野 功雄 氏)。

課題の解消を目指し、高度な統制コンピューターを構築して利便性を高める、無線接続へ切り替えて装置と統制コンピューターとの接続に柔軟性を持たせる、データを蓄積して分析性を持たせる、といったことに取り組む場合、従来型の手法ではどうしても大きな投資が必要となります。久野金属工業が IoT とクラウドに着目した理由は、早期に、かつ廉価にこれが果たせる点にありました。

IT リソースをサービスとして提供するクラウドのメリットは、イニシャル コストを最小限に抑えられるという点にあります。さらに、近年は IT リソースだけでなく、IoT 化、サービス化に必要な機能を PaaS として提供する形へと発展しています。

「製造現場を IoT 化する意義は、公衆のインターネットを活用して工場内をワイヤレス化できることにあります。わざわざ費用を投じて無線環境を整備する必要がないのです。これがクラウドの力を借りて容易に行えるのであれば、最小限の投資のもとで従来あった課題を解消できると感じました。」こう語るのは、久野金属工業の IT 関連会社として同プロジェクトを支援する、マイクロリンク 代表取締役の久野 尚博 氏です。同氏はつづけて、「今回のプロジェクトでは、Microsoft Azure の PaaS を最大限活用して構築を進めました」と説明。そしてこの PaaS の存在こそが、Microsoft Azureの選定理由だったと明かします。

「モニタリングの目的は、生産能力の最大化です。そこでは、稼働情報を単に表示するのではなく、意思決定を支援する形でこれを可視化することが重要です。また、IT が自律的に装置を制御するという将来像まで見据えて、取り組みを進めるべきだと考えました。ただ、IT も生産能力と同様で、PDCA を繰り返すことで成果が生まれます。一挙に大規模なしくみを整備するのではなく、まずはスモール スタートする。そこでの結果を確かめながら、機能拡張と適用範囲の拡大を進めて成果を最大化していくことが求められました。Microsoft Azure をプラットフォームに採用した理由は、IoT 化やデータ分析に必要な機能を PaaS として豊富に揃えている点にあります。PaaS を活用することによって、サービスに実装する機能やその適用範囲を容易にスケールしていくことが可能なのです」(久野 尚博 氏)。

  • 人物①
  • IoT Go では、モノから収集したデータの集約、分析、可視化といった同サービスの備えるあらゆる機能が、Microsoft Azure の PaaS によって構築されている

    IoT Go では、モノから収集したデータの集約、分析、可視化といった同サービスの備えるあらゆる機能が、Microsoft Azure の PaaS によって構築されている

Microsoft Azure は、DB 機能を提供する Azure SQL Database、インターネット経由でモノからデータを収集、集約する Azure IoT Hub など、IoT 化に必要な機能を数多く提供。機械学習エンジンを提供する Azure Machine Learning、データの高度な可視化を実現する Power BI など、「データの分析、活用」という軸の機能も取り揃えています。

こうした機能の優位性にくわえて、Microsoft Azure がマイクロソフトの提供するクラウド サービスであったことも、導入の決め手になったと久野 功雄 氏は語ります。

「モノから情報を収集するだけでは意味がありません。いかにしてその情報を業務に落とし込むかが重要なのです。当社ではすでにマイクロソフトのOffice 365 を導入していましたが、たとえば Microsoft Azure 上のサービスと Office 365 の Microsoft Planner とを連携すれば、タスク管理ツール上で分析データを表示するなど、容易に業務に落とし込むことが可能です。『現場で有効に活用されるシステム』にするという面で、Microsoft Azure を採用することには大きな意義がありました」(久野 功雄 氏)。

"IoT GO は今後、当社の“高生産性”を支えるきわめて重要なサービスになっていくでしょう。そこではわずか数秒のサービス停止が、事業に大きな悪影響を引き起こすリスクとなります。強固な運用ポリシーのもとで提供されるMicrosoft Azure であれば、ここで必要になる可動性も担保できると考えました"
-久野 功雄 氏:専務取締役 兼 CIO
久野金属工業株式会社

サービス インからわずか 1 か月で生産能力が 11% も向上。拡張性の高い基盤のもと、迅速に PDCA サイクルをまわしていく

Microsoft Azure を活用した IoT 化により、[2][3]にある利便性、柔軟性、分析性については大幅な向上が期待できました。しかし、これだけでは旧システムにあった[1]の網羅性は解消できません。IoT GO のユニークなところは、センサーを実装していない旧式の装置であっても、エッヂ デバイスと Microsoft Azure によって IoT 化が果たせることにあります。久野 尚博 氏は IoT Go のしくみに触れながら、この点を説明します。

「IoT Go では独自に開発したエッヂ デバイスで装置の On / Off 情報を収集し、Azure IoT Hub を通じてデータをクラウド環境に集約するしくみをとっています。これによって、全装置をモニタリング対象とすることが可能となります。ユーザーは Azure Web Apps で構築した Web アプリケーションへアクセスし、Azure Stream Analytics 経由でリアルタイム データを、Azure SQL Database 経由で経過データを閲覧します。あらたな装置、あらたな設備への投資を必要とせず、“既存の生産ライン”のまま IoT 化が行えることは、IoT GO の大きな強みです」(久野 尚博 氏)。

  • 工場内の全景 (左) 。各装置に取り付けたエッヂ デバイス (右) が、稼働情報である On /Off 情報を感知して、インターネット経由で Microsoft Azure にデータを蓄積する

    工場内の全景 (左) 。各装置に取り付けたエッヂ デバイス (右) が、稼働情報である On /Off 情報を感知して、インターネット経由で Microsoft Azure にデータを蓄積する

こうした PaaS の活用は、拡張の容易さから、サービス イン後の PDCA サイクルを迅速にまわしていく上でも有効に機能します。事実、久野金属工業では、IoT GO のサービス インからわずか 1 か月後に、およそ 11% もの生産能力向上を果たしています。

久野 功雄 氏は、「現時点ではまだ、IoT GO は一部の生産ラインでの利用に制限しています。用途もデータの深い分析を行うまでには至っていません。以前との変化は、全装置がモニタリング対象となったこと、リアルタイム情報にくわえて経過情報や他の生産ラインの情報が閲覧できるようになったこと、そしてこうした情報が優れた UI のもとで可視化されるようになったことです。こうした情報の可視化だけでも、生産能力が 11% 向上するという驚くべき成果が生まれています。」と語り、久野 尚博 氏とともにその要因を分析します。

「IoT GO をサービス インした際、従業員に対しては、敢えて『活用しろ』という指示を出しませんでした。強制的に活用させては、PDCA サイクルを回すうえで不要なノイズを生み出してしまうからです。そうした中であっても、昼夜や時間ごとの稼働率の差異を経過データから把握したり、隣の生産ラインと自身の担当ラインとを比べてオペレーションの違いを考察したりと、従業員は自ら率先して IoT GO を活用して業務改善にアプローチするようになりました。ここからわかるのは、『生産能力を高めたい』という潜在的な意識は従業員の中にそもそも備わっているということ、そしてこの意識を刺激してあげるだけでも一定の成果が生まれるということです」(久野 功雄 氏)。

  • IoT GO ではインターネット経由でユーザーごとの閲覧画面を設定することが可能 (左)。ユーザーにとって利便性の高い環境を提供することで、自ら率先してこれを活用する動きが生まれている

    IoT GO ではインターネット経由でユーザーごとの閲覧画面を設定することが可能 (左)。ユーザーにとって利便性の高い環境を提供することで、自ら率先してこれを活用する動きが生まれている

「工場の IoT 化と聞くとどうしても、現場作業の自動化といった壮大なものをイメージしがちです。もちろんこうしたテーマも追求していくべきですが、経過情報とリアルタイム情報を可視化するだけでも、従業員に『これは使える』と思ってもらえる環境を提供すれば、意識変革と生産能力の向上へとつながるのです」(久野 尚博 氏)。

IT を駆使して、久野金属工業の武器である“高生産性”をいっそう磨いていく

久野金属工業では今後、IoT GO の適用領域をすべての生産ラインへと拡大していくことを計画しています。並行して、現場作業の自動化、高度化に向けた取り組みも推進。工場内の温度データと不自然な装置の挙動データとを組み合わせた故障検知、制御履歴データと実稼働率データの分析による自動制御システムの開発など、さまざまな可能性について、検討が進められています。

"Azure Machine Learning を利用すれば、蓄積したデータを学習データとした独自アルゴリズムのシステムが開発可能です。また、AI の API を提供する Cognitive Services を活用すれば、こうしたシステムの開発に要する期間も短縮できるでしょう。PaaS を有効に活用しながら迅速に PDCA を進め、早期に高い成果を生み出していきたいと考えています "
-久野 尚博 氏: 代表取締役
株式会社マイクロリンク

こうした取り組みが目指す先について、久野 功雄 氏は「“高生産性”の実現」だと強調します。

「IT 活用の目的はコスト削減、生産性向上などさまざまですが、当社において ITを活用する目的が何かと訊かれれば、それは『“高生産性”の実現』です。社会や業界の変化が激しくなる今日、当社だけでなくお客様においても、変化へ追従するためのスピードを強く求めるようになっています。“高生産性”のもと迅速にサービス提供することは、それだけお客様にとって大きな価値となるのです。Microsoft Azure を活用することで、このテーマを追求していきたいと考えています」(久野 功雄 氏)。

また、久野金属工業の成功を受けて、マイクロリンクでは、2018 年 4 月に“月額1万円台からスタート可能な IoT サービス”として IoT GO の外販を開始。その反響について、久野 尚博 氏はこう語ります。

「外販化の前からメディア取材を受けたり、展示会で事前告知した段階で見積依頼を頂いたりと、大きな反響を頂いています。こうした反響、お客様とのコミュニケーションから、IoT を『大きなコストのかかる取り組み』『効果がみえない取り組み』とイメージする中小企業が多くいらっしゃることがわかりました。現行の生産ラインのまま低コストでかつ迅速に成果を生み出すことのできる IoT GO は、久野金属工業だけでなく、多くの製造業に共通した課題を解消できると考えています」(久野 尚博 氏)。

中小企業において、IoT 化の取り組みを開始している企業はまだまだ少ないのが現状です。しかし、久野金属工業の取り組みからは、IoT は、中小製造業が抱える課題に対して十分な効果を出すことができる、取り組むべき領域であることが伺えます。久野金属工業やマイクロリンクの先進的な取り組みをきっかけとして中小企業の IoT 化が加速していくことに、今から期待が高まります。

[PR]提供: 日本マイクロソフト