ICT はこれまで、多くの組織の運営、業務最適化に寄与してきました。しかし、ICT への依存度の高まりは、万が一サービス提供が停止した場合に発生する損失の増大と比例します。ICT 部門に求められる "サービスの安定稼動""利便性の追求" は、年々その重要度合いを高めているといえるでしょう。

こうした中、国内有数の総合大学である東京大学は、2014 年の Office 365 導入から始まり、Microsoft Azure を採用した認証基盤と事務基盤の構築、SINET 接続と OMS の利用開始など、ICT 基盤のクラウド化を推進。わずか 30 名の ICT 部門で、5 万人を数えるユーザーが日々利用する ICT サービスを、セキュアかつ安定的に提供し続けています。

"クラウドがメイン、オンプレミスがサブ" という考え方にシフトしつつある、東京大学

日本を代表する大学として、1877 年の創設以降、近代日本の発展に多大なる貢献を果たしてきた東京大学。11 の学部と 15 の研究科、24 の付属研究所、全学センターを国内に設置する同大学では、 教職員と学生、延べ 5 万人もの人員が、日夜、全国をフィールドに勉学と研究活動に取り組んでいます。

情報化が進む昨今、東京大学の学生や教職員らは日常的に ICT を利用しています。我が国の教育と研究分野をけん引する存在であるがゆえ、万が一この ICT が停止する、または情報紛失などを起こ す場合、日本という国の進退に少なからぬ影響を及ぼしかねません。東京大学の ICT 部門が 2014年から進めているクラウド活用は、こうした事態を避けて "サービスの安定稼動" を維持することを、 主義の 1 つとして掲げています。

しかし、クラウドの活用は、あくまでも手段です。これ自体が目的であってはなりません。この点について、東京大学 情報システム本部 副本部長 准教授 (情報システム担当) の玉造 潤史 氏は、次のよ うに説明します。

「2014 年の取り組みを例に挙げると、" 学問研究のけん引力向上" という目的が第一にありました。各学部、各研究科が独自にシステムを契約して利用してきた従来のコミュニケーション環境は、ツールの相違などを背景にコラボレーションが生まれにくく、これを打破すべく Exchange Online、SharePoint Online を備える Office 365 で環境を整備したのです。2016 年の取り組みも同様に、認証基盤の柔軟性向上と、複数事務サービスを利用するうえでの利便性、セキュリティ水準の向上が目的にあり、これを達するために Azure ActiveDirectory Premium で認証基盤を整備しました。ただ、そこでオンプレミスではなくクラウドを選定した理由は、こうしたサービスを安定稼動するという点にあります」( 玉造 氏)。

サービスの安定稼動は、堅牢な環境のもとでシステムを管理して、ようやく果たすことができます。しかし、「堅牢な環境」と「オンプレミス」は、必ずしもイコールの関係ではありません。玉造 氏は「物理的にディスクを抜き取られる可能性、ヒューマン エラーの可能性を考慮した場合、『学内にサーバーがあるから安定する、安全である』という考えは必ずしも事実ではありません」と説明。オンプレミスに固執するのではなく、メリットとデメリットをニュートラルにとらえて ICT 戦略を立てなければならない、と続けます。

そして、こうしたニュートラルな評価検討をしてきた結果、東京大学では現在、"クラウドがメイン、オンプレミスがサブ" という考え方へとシフトしつつあるといいます。東京大学 情報システム本部 講師 (情報システム担当)の中村 誠 氏と玉造 氏は次のように語ります。

「認証基盤の整備と並行して、2016 年には教職員と学生が利用する事務基盤の Azure 移行を実施しました。これは DR (ディザスター リカバリ)対策を目的としたものですが、結果として運用工数の劇的な削減にもつながっています。5 万人ものユーザーが利用する ICT を支えるのは、わずか30 名ほどの ICT 部門です。十分なヒューマン リソースが確保できたという意味で、運用工数を削減したことは大きな成果だといえるでしょう」(中村氏)。

「研究用の HPC や学部、研究科単位で必要となる独自システムなどは引き続きオンプレミスで運用すべきですが、全ユーザーが共通に利用すべきサービスについては、中村が触れたクラウドのメリットを享受することが正解だと考えています。全学のサービスはこうした『共通化すべきサービス』が多いため、必然的に、クラウドが主という位置づけになりつつあるわけです。その象徴的な取り組みとして、2017 年にはシステムを管理するしくみに OMS (Microsoft Operations Management Suite) を利用することとしました」( 玉造 氏)。

  • 2016 年までの取り組みで構築した ICT 基盤

クラウド + 教育業界に対してコミットメントするマイクロソフトの姿勢は、同社サービスを選定するに足る説得力をもっていた

OMS は、ハイブリッド クラウドを前提に設計されたシステム監視、管理サービスです。サービスの安定稼動において、システム監視は欠かすことのできない要素となります。東京大学では旧来、オンプレミスに構築したSystem Center をもってシステムを監視してきました。この System Centerはオンプレミスを主として監視、管理する製品であり、同領域ながら OMSとはコンセプトが似て非なるものとなります。東京大学が OMS を利用開始したことは、玉造 氏も触れたように、"クラウドを主として扱う" という東京大学の考えを体現した取り組みといえるでしょう。

これまでにマイクロソフトのクラウド サービスを数多く利用してきた東京大学。しかし、決して同社のサービスに制限してクラウドを選定しているわけ ではありません。システム計画のたび、クラウドかオンプレミスか、そしてどのプラットフォームを選定するかが慎重に検討されています。

しかし、使用約款など事業者が提供する条件を考慮した場合、東京大学が選択できるクラウドの選択肢は限られると、中村 氏は明かします。

「日本の研究の先端に立つ大学ですので、セキュリティが確保されることが大前提となります。また、情報は大学の資産です。何かがあった場合、即座に学内へデータを戻す必要があります。そのため、日本の法律に準拠できるよう、国内にデータセンターを構える事業者であることが求められます。そして、ここまで触れた『信頼性』と同レベルで重要となるのが、事業者のコミットメントです。クラウド上で稼動するシステムは、5 年 10 年と長期にかけて利用し続けることを構想しています。仮に契約期間内で事業者がサービスを撤退した場合、環境移行に多大な工数、コストを要さなければなりません。これは安定稼動とはかけ離れたロスとなります。それゆえ、事業者がクラウド市場に対してコミットしていること、つまり "長く使い続けられる" と確信できるサービスであることは、きわめて重要となるのです」(中村 氏)。

マイクロソフトは国内に 2 か所のデータセンターを構えるほか、日本で初めて CS ゴールドマークを取得した事業者でもあります。また、Azure やOffice 365 に代表されるように、同社は現在、事業のクラウド シフトを大きく進めています。「マイクロソフトのサービスは、東京大学が求める『信頼性』を備えるだけでなく、コミットメントという面においても、採用するに足る説得力がありました」と、中村 氏は語ります。

これに続けて、玉造 氏は、マイクロソフトを「クラウドだけでなく教育業界に向けてもコミットメントしている数少ない事業者」と評価。具体例として SINET 接続への対応を交えながらこれを説明します。

「研究や教育のスピードを高めるうえでは、ネットワーク資源を十分に確保しておくことが求められます。そのため、東京大学では従来、専用線を利用して Azure に接続してきました。これを国立情報学研究所 (NII) が大学、研究機関等に提供している SINET 接続へ切り替えることで、コストを大幅に下げて帯域を確保できないかと考えました。マイクロソフトはグローバル企業でありながら、NII が SINET5 の提供を開始した翌月には、SINET5と Microsoft Azure の直接接続への対応を表明しています。ほかにも国内学術機関特有の認証取得、専用のライセンス モデルを整備するなど、教育、 学術機関へ注力している姿勢は、東京大学が Azure を選択し続けている大きな理由となっています」( 玉造 氏)。

わずか 30 人の ICT 部門で、5 万人が利用するサービスを支え続ける

東京大学は 2017 年夏、従来の専用線接続から SINET 接続へと接続体系の切り替えを実施。同年冬からは OMS の利用も開始しています。

中村 氏はまず OMS について、「安定稼動を維持するうえで ICT 部門が行うべき作業量は膨大です。このすべてを限られた人員で行うことは、ヒューマン リソースを鑑みると不可能だといえるでしょう。したがって、システム監視においては対応事項の優先順位付けが重要となります。OMS の利点は、システム障害の発生有無だけでなく、各システムの稼動状況をポータル画面上から一覧でき、視覚的にシステム単位のリスク レベルを可視化できる点にあります。これは障害を未然に防ぐうえでも有効です。オンプレミスとクラウド、双方の環境を一覧できるため、運用監視の効率化にも大いに貢献しています」と評価します。

"ICT 部門は、ユーザーにとってはいわばサービス プロバイダ的な位置付けとなります。OMS によってシステムの保全性をいっそう高めることができ、加えて何かトラブルが発生した場合にもマイクロソフトの支援体制の下で早期に対応が図れることは、東京大学のサービス提供をプロバイダに近い水準にまで引き上げることにつながっていると考えています"
-中村 誠 氏: 情報システム本部
国立大学法人東京大学

  • (左)OMS ではシステム単位のリスク レベルを可視化可能
    (右)OMS によるシステム監視、管理イメージ

従来のオンプレミスによる運用では、ディスク容量の都合上、長期間のシステム ログを蓄積することが適わなかったといいます。容量の制約がないOMS を採用したことで、こうした課題も解消されています。これは、万が一障害が発生した場合にも過去のログを遡って迅速に原因が追及できる、つまり早期の復旧が図れるという点で、大きな成果だといえるでしょう。

玉造 氏は、こうしたクラウド活用によるスケーラビリティの確保は、SINET接続においても効果を生んでいると語ります。

「SINET 接続へ切り替えたことで、約 3 割のコストが削減できる見通しです。ただし、東京大学では ICT に関する取り組みについて、コスト以外の成果も考慮することが必要です。SINET 接続の場合、帯域拡大がこれに該当します。従来の専用線でも帯域は確保できていましたが、契約料金によって、どうしてもそこには上限が存在します。SINET 接続への切り替えによって、この上限を大きく引き上げることができました。通信量は今後も増加の一途をたどることが予想されますが、そうした中であっても学内や大学間のコラボレーションはいっそう強化していかねばなりません。通信帯域のスケーラビリティを引き上げた今回の取り組みは、こうしたコラボレーションの強化に対しても好影響を与えるでしょう」( 玉造 氏)。

"SINET とパブリック クラウドの接続を実践する大学、研究機関は、まだ多くありません。SINET と学内環境の接続をすでに行っている大学であれば、L2VPN の構築などでこれを実現することが可能です。容易かつ廉価にクラウド環境を安全かつ高速に利用できるようになる。こうした有効な取り組みを東京大学が先陣を切って推進することで、学術機関のスタンダード化を進め、ひいては組織間のコラボレーションの加速にもつなげていきたいですね"
-玉造 潤史 氏: 情報システム本部副本部長 准教授 ( 情報システム担当)
国立大学法人東京大学

日本を代表する大学として、学術、研究領域だけでなく、ICT のフレームワーク構築もけん引していく

玉造 氏が述べたように、東京大学では現在、学内や大学間のコラボレーション強化が計画されています。そこで求められる通信帯域を SINET 接続で確保したこと、ユーザーが利用されるサービスの稼動性を OMS によって高めたことは、コラボレーションを通じた「東京大学の発展」を加速するうえで重要な取り組みだったといえます。

取材の終わり、玉造 氏は今後の東京大学の発展とその役割について、次のように語りました。

「東京大学の使命は、日本の学術研究のけん引、優秀な人材の輩出、そしてすべての学術機関、教育機関のモデル ケースとなるフレームワークを構築していくことにあると考えています。電子教科書の普及など、教育の変革が目の前に迫っている中、我々が先陣を切って ICT の可能性を模索し、そしてこれを実践することで、将来に向けたフレームワークを構築してまいります。そのためにも、マイクロソフトには教育業界への強いコミットメントのもと、東京大学の ICT をこれからも支えていただきたいですね」( 玉造 氏)。

日本の学術、研究機関のトップとして、最先端の情報基盤とそのしくみづくりを遂行する東京大学。同大学の取り組みが、教育、研究領域だけでなく、我が国の ICT の在り方をも発展させていくことが期待されます。

[PR]提供:日本マイクロソフト