1950 年に農協組織の一員として発足した長野県厚生農業協同組合連合会 (JA長野厚生連)。農山村地域の医療を中心に、病気の予防と高齢者福祉への取り組みを続ける同団体では、地域医療の継続的な提供と質の向上を行うべく、積極的な ICT の利活用がすすめられています。

2015 年 12 月、新たな医療サービスの提供や地域医療の連携を見据えて、基幹システムである SAP ERP をクラウド基盤に移行し運用しています。これからの事業を支えるプラットフォームについて、SAP による認定の存在やサービスの信頼性を評価し採用されたのが、日本マイクロソフトの提供する Azure です。クラスタリング構成を採用した国内初の SAP on Azure 事例であり、累計 1 万人規模の情報を取り扱う大規模システムの移行は、わずか 3 か月という短期間でのプロジェクトで進められました。

プロファイル

1950 年の発足以降、公的医療機関として地域医療、救急医療およびへき地医療に積極的に取り組む長野県厚生農業協同組合連合会 (JA長野厚生連)。地域の基幹病院として、近隣医療機関、診療所とも連携を密にし診療機能の充実に努めることで、JA 組合員、地域住民の「いのちと生きがいのある暮らし」を守るべく、日々努力を続けていきます。

導入の背景とねらい
地域に根ざした保健 医療 福祉事業を継続するべく、クラウド基盤の構築を検討

長野県下で 10 事業所、14 病院、11 診療所を運営し、訪問看護ステーション、老人保健施設なども有する長野県厚生農業協同組合連合会 (以下、JA長野厚生連)。職員数は約 8,400 人、利用患者数は年間外来患者のべ約 203 万人、年間入院患者のべ約 125 万人と、同団体は長野県内で最も大きな医療団体と位置づけられます。職員数は全国の厚生連のなかで最も多く、事業収益もトップクラスの全国的に見ても厚生連を代表する組織といえます。

長野県厚生農業協同組合連合会が入る JA長野県ビル (長野市)

長野県厚生農業協同組合連合会
代表理事専務理事
油井 博一 氏

JA長野厚生連の事業について、長野県厚生農業協同組合連合会 代表理事専務理事 油井 博一 氏は、次のように説明します。

「保健 医療 福祉という事業を通じて、JA の組合員や地域住民の『いのちと生きがいのある暮らしを守り、健康で豊かな地域づくりに貢献する』というのが私どもの理念です。厚生連は、日本赤十字や済生会とともに昭和 26 年に公的医療機関として位置づけられましたが、経営自体は民間の組織です。特に厚生連は、その多くが中山間地域に存在しています。農業と農村を守るためにも組織がそこにあることが重要です。地域にあり続け、機能を存続させるために、地域の住民と共に歩む姿勢とさまざまな経営努力が必要ですので、ICT の利活用は欠かせないといえます」 (油井 氏)。

業務や組合員の情報管理について、JA長野厚生連では長年、SAP の ERP システムをオンプレミスにて用いてきましたが、データ量の増大やデータ保護が課題になり始めていたといいます。長野県厚生農業協同組合連合会 企画管理部 部長 黒沢 英明 氏は、当時のシステム上の課題について、次のように振り返ります。

長野県厚生農業協同組合連合会
企画管理部
部長
黒沢 英明 氏

「JA長野厚生連が有している全事業所 (病院、診療所、老人保健施設など) において、基幹業務は 1 箇所に設置したハードウェア上で運用していました。しかし、今後、データ量とその重要性はますます増大します。くわえて、これから求められる病院間での連携や新たな医療サービスの提供を考慮すれば、状況に応じて効率的に利用できるシステム基盤が必要で、これまでとは異なる新しいしくみを検討しなければなりませんでした」 (黒沢 氏)。

また、地域に根ざした事業を継続するためには、運用コストの削減も課題だったといいます。ハードウェアの更新に合わせてアップグレードしてきた同システムは、データセンター費用、ハードウェアの購入や保守費用、ソフトウェアのライセンス費用とさまざまなコストが発生しています。さらに 2016 年から本格化するマイナンバー制度への対応も考慮する必要がありました。

これらの課題について、JA長野厚生連では 2014 年 11 月に行われた組織内のシステム委員会で SAP のサーバー更新をどのようにするか検討を開始することになり、これまでオンプレミスで運用していた SAP ERP システムのクラウドへの移行方針を決定しました。当時利用していたハードウェアのサポートは 2017 年までとなっていましたが、マイナンバー制度への対応と一括でプロジェクトを進めるべく、2015 年 12 月よりクラウド上で運用をスタートできるよう、プロジェクトが開始されました。

システム概要と導入の経緯、構築
SAP 認定と日本マイクロソフトの信頼性を高く評価し、Azure を採用。3 か月という短期導入を実現

マイナンバー制度への対応にも併せ、クラウド上での運用を開始しなければならない同プロジェクトでは、クラウド サービスの検討と決定、構築と移行を迅速に行う必要がありました。

JA 長野厚生連が SAP ERP システムで管理している業務は、財務会計、固定資産、管理会計、経営管理、資金管理、人材管理、給与管理、人事計画、在庫購買管理、分析系など多岐にわたり、マスタに登録されている職員の情報は 1 万人もの規模。ERP システムとしては全国的にみても最大級の規模となり、当然、その基盤には高い信頼性が求められます。また、オンプレミスでは、Windows Server と SQL Server でシステムを構築し SAP ECC 6.0 を動作していましたが、クラウド移行に際してこの SAP のシステムが問題なく動作することも、重要な検討指標でした。

以上の要件のもと、2015 年 1 月よりクラウド サービスの選定について検討が進められましたが、日本マイクロソフトの提供する Azure の採用をほぼ前提とし、システム委員会でクラウドへの移行検討がされたといいます。長野県厚生農業協同組合連合会 企画管理部 システム課 課長 山崎 泰彦 氏は、Azure の採用を前提に検討がすすめられた背景について、次のように説明します。

「SAP ERP システムでは基幹業務をひととおり稼働させており、地域医療を支える重要なデータも含まれています。安定性や信頼性は絶対条件で、『マイクロソフトが提供するクラウド サービス』という信頼感は非常に大きかったのです。また、オンプレミスのシステムは Windows ベースで構築しておりました。Azure は、Windows との親和性も高いですし、SAP からの認定も得ているので、SAP のシステムがクラウドでも問題なく動作するという安心感もありました」 (山崎 氏)。

また、長野県厚生農業協同組合連合会 企画管理部 システム課 課長代理 久保 友宏 氏は、ERP システムと並行して、情報系システムのクラウド移行の検討をしていたことも、Azure を前提に計画が進められた理由だといいます。

「2016 年以降で、オンプレミスのグループウェアを日本マイクロソフトの Office 365 にある機能をベースに構築することを選択肢の一つとして考えています。同じベンダーのサービスを利用することで、連携がとりやすくなり、管理の効率化が期待できます。高い信頼性を持ち、SAP のシステムも問題なく動作する。基幹系システムやグループウェアなどの情報系システムを両方提供できるクラウド サービス事業者は、日本マイクロソフトのほかになかったのです」 (久保 氏)。

さらに、国内の東西に 2 つのデータセンター拠点があったことも評価されました。長野県厚生農業協同組合連合会 企画管理部 システム課 小林 幸裕 氏は「国内だけでデータの遠隔バックアップを実現でき、さらには物理的なシステムの冗長化もできるため、信頼性はより高まります」と評価します。

長野県厚生農業協同組合連合会
企画管理部
システム課
課長
山崎 泰彦 氏

長野県厚生農業協同組合連合会
企画管理部
システム課
課長代理
久保 友宏 氏

長野県厚生農業協同組合連合会
企画管理部
システム課
小林 幸裕 氏

高い信頼性と SAP のシステムが動作するという安心感、情報系システムとの連動が評価され、JA長野厚生連では 2015 年 9 月に、Azure の採用を正式決定。システムの移行は、富士通株式会社と JA長野厚生連にて進められましたが、3 か月後の 2015 年 12 月までにはクラウド上での運用を開始する必要があり、そこには迅速な進行が求められます。

富士通システムズ・イースト
グローバルデリバリー本部
ERP事業部
ERPテクニカルソリューション部
飯田 源太郎 氏

株式会社富士通システムズ・イースト グローバルデリバリー本部 ERP事業部 ERPテクニカルソリューション部 飯田 源太郎 氏は、リソースの柔軟な調達という Azure のメリットを生かすことで、短期間での移行が実現できたと評価します。

「SAP ERP システムの移行では、中間機の性能がカギを握ります。性能が低いとデータ移行が思ったように進まず、本番機よりも高い性能の CPU やメモリが必要な場合があります。 通常、移行のためだけの中間機に本番機よりも高い性能の環境を用意することは難しいですが、Azure は、インスタンス作成が容易で、十分な性能を持ったマシンを即座に、必要な時間だけ調達できるため、一時的に高い性能の環境を中間機として利用し、スムーズな移行を実現することができました」 (飯田 氏)。

システムの切り替えに際しては、3 日間のデータ移行期間が設けられました。大容量のデータ移行でしたが、特に問題なく進み、11 月 24 日より Azure 上の新システムにて業務を開始。切り替え後も大きなトラブルに見舞われることなく稼働を続けています。

導入ソフトウェアとサービス

  • Microsoft Azure
  • SQL Server
  • Windows Server

導入メリット

  • SAP ERP システムを Azure 上へ移行したことで、あらたな医療サービスの提供や地域の医療連携へ向けたプラットフォームが整備できた
  • 5 年で約 20% ものコスト削減が実現でき、リソース最適化にてさらなるコストの最適化が可能になった
  • クラスタリング構成と東日本リージョン、西日本リージョンによる冗長化によって、システムの可用性と信頼性が向上できた
  • SAP の認定を受け、Windows との親和性が高い Azure の採用により、わずか 3 か月という期間で ERP の移行を完了できた

導入の効果
SAP on Azure 上でクラスタリングを組むことで、可用性を確保。オンプレミスと比べ 20% ものコスト削減も実現

新たなシステムでは、SAP ERP の可用性を高めるべく、東日本データセンターの Azure 上で複数の Windows Server 2012 R2 と SQL Server 2014 によるクラスタリング構成が構築されています。ファイルなどのデータは Azure の Blob ストレージを利用し、西日本データセンターにバックアップするしくみを採用。SAP on Azure でクラスタリング構成を組むのは本プロジェクトが国内初の取り組みとなります。

「医療機関の基幹システムとして、十分な可用性の確保は必須です。特に今回は、『インターネット回線を使って院外のシステムにつなぐ』という初めてのケースでもあり、どのような障害があっても稼働し続けることを重要視しました。クラスタリング構成はそのための工夫です。短期間でのプロジェクトでしたが、Azure は Windows との親和性も高かったため、移行だけでなく構築面もスムーズに進められました」と、久保 氏はクラスタリング構成を構築した背景と、わずか 3 か月でカット オーバーできた理由を説明します。

SAP on Azure 上で運用される 基幹システムの構成

クラウド上での運用が開始されてまだ間もないですが、コスト面で効果があると山崎 氏は話します。「オンプレミス環境で運用を続けた場合と比較して、ハードウェア コストだけでも 5年で約 20% もの削減を実現します。また、クラウド上で集中的なリソース管理ができるようになったため、今後は運用管理のコストも大幅削減を見込めます。」 (山崎 氏)。

つづけて、久保 氏は、必要なリソースを柔軟に管理できるようになったことも大きなメリットだと話します。「業務のなかには、繁忙期と閑散期がはっきり分かれているものや、日中や夜間にしか用いないものが数多くあります。オンプレミスですとどうしてもピーク時に必要な性能を満たすサーバーを用意することになるのですが、Azure であれば仮想マシンの稼働を止めたり、性能を自由にスケールさせることで、業務のニーズにあわせたサービス提供が可能です。現在、それによるコスト最適化に向けて、検証を重ねているところです」 (久保 氏)。

今後の展望
Azure を基盤として、地域医療へのさらなる貢献へ向け事業を展開

Azure へのシステム移行による最も大きな効果は、これからの事業展開や医療サービスの提供に向けた基盤を構築できたことです。代表理事専務理事 油井 氏と企画管理部 部長 黒沢 氏は、次のように話します。

「場所を問わず利用できるというクラウドのメリットは、南北に長いという地理的特徴を持った長野県での医療提供において大きく役立つと考えています。たとえば、中山間地域は、医療が十分に行き届かないことがありますが、そこでカギになってくるのが訪問看護や訪問診療です。訪問診療などの現場ではタブレットなどを用い、その場で電子カルテの閲覧や入力、検査予約や薬剤処方などのオーダーも可能です。さらに、今後電子カルテや医療画像管理システムをクラウド化していくことにより、地域医療連携や在宅ケアの分野でも、よりいっそう施設間の医療情報共有がし易くなり、こうした ICT 活用による中山間地における医療サービス向上の可能性を期待しています」 (油井 氏)。

「今後、クラウド上のデータを使って、地域の医療連携を進めることも視野に入れています。10 の事業所で共通のクラウドを使うことのメリットが提示できれば、JA 長野厚生連全体で医療向けの新たなプラットフォームを作る可能性もでてきます。その場合、カルテ情報といった医療データを扱うことも考えられますので、たとえば Azure の閉域網サービスを使ったしくみでセキュリティをより高めていくといった対応も検討していくことになるでしょう」 (黒沢 氏)。

こうした地域の医療連携の基盤構築は、患者にとって大きなメリットを生み出します。油井 氏は終わりに、「医療連携が進めば、仮に災害などがあり通常とは異なる病院にかかることになったとしても、データを共有してどの病院でも同じ質の治療を続けることができるようになります。こうした医療提供の実現へ向けて、病院間の連携、厚生連内での連携、災害時の対応など、業務とシステムを含めこれから検討していきます。そうした意味でも、今回の SAP ERP の Azure 移行は、大きな一歩でした」と、Azure 上で運用するあらたなシステムによる構想を語ってくれました。

公的な医療団体としての使命を持ちながら、民間のノウハウを積極的に活用して経営努力を続ける JA長野厚生連。SAP on Azure を基盤とし、地域医療への貢献を引き続き取り組んでいきます。

ユーザー コメント
「医療連携が進めば、仮に災害などがあり通常とは異なる病院にかかることになったとしても、データを共有してどの病院でも同じ質の治療を続けることができるようになります。こうした医療提供の実現へ向けて、病院間の連携、厚生連内での連携、災害時の対応など、業務とシステムを含めこれから検討していきます。そうした意味でも、今回の SAP ERP の Azure 移行は、大きな一歩でした」

長野県厚生農業協同組合連合会
代表理事専務理事
油井 博一 氏

パートナー企業

  • 富士通株式会社

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