セブン-イレブン店舗を中心に、全国に約 25,000 台の ATM を設置し、ATM をプラットフォームとしたさまざまなサービスを展開するセブン銀行。提携先は銀行をはじめ、生損保、信販、キャッシュレス事業会社など約 600 社に上っています。一方でセブン銀行は近年、キャッシュレス決済やスマホ決済の広がり等の、新しい金融のあり方が求められる環境の変化に対応するべく事業の多角化を目指し、事業の中核を担うさまざまなシステムをクラウド基盤へと移行することを戦略的に決断。2018 年には、2016 年より活用していた Microsoft Azure を標準クラウドとして採用し、これを推進するシステム横断組織として Cloud Center of Excellence(CCoE)を設置します。金融機関においていち早くクラウドファーストを推進し、また、PaaS を積極的に活用したクラウドネイティブなシステム構築を実践する同社の取り組みは、従来の金融機関や異業種から参入したプレイヤーたちにとっても目指すべき姿ともいえるでしょう。同社はなぜ PaaS を積極的に採用してきたのでしょうか。そこには、金融機関としての堅牢性と信頼性が求められると同時に、ビジネスのスピード向上を図っていきたいというセブン銀行ならではの戦略がありました。

ATM 2 万 5,000 台を活用し 600 超の提携金融機関等とユニークなサービスを提供

セブン銀行の ATM

セブン銀行の ATM

「セブン-イレブンに ATM があったら便利なのに」というお客さまの声にこたえるために、2001 年にアイワイバンク銀行として設立されたセブン銀行。24 時間 365 日、普通預金の預け入れ、引き出し、振り込みができる ATM サービスを全国に展開し、変化し続けるお客さまのニーズにすばやく対応してきました。2021 年には創業 20 周年を迎え、セブン銀行の ATM 設置台数は 2 万 5,676 台、提携金融機関等は 613 社(2021 年 3 月末)を数えます。

現在では、セブン銀行の ATM を使って他行の預金を引き出す光景はごく一般的に見られます。また、インターネットバンキング「ダイレクトバンキングサービス」を利用して、PC やスマートフォンで口座の残高や入出金明細の確認、振込みを行なうことや、スマホアプリ「Myセブン銀行」を利用すれば、キャッシュカードなしでの ATM 取引も可能です。

セブン銀行のビジネスモデルの特徴は、ATM を利用するお客さまに「いつでも、どこでも、だれでも、安心して」使える ATM サービスを提供すると同時に、提携金融機関等に対してもコスト面やサービス面でさまざまなメリットを提供する、共存共栄モデルにあります。そして、こうしたユニークなビジネスモデルを展開するために、IT システムにもさまざまな工夫が凝らされています。

まず、基幹システムは提携金融機関等と連携するための ATM 中継システムと銀行業務を行なうための勘定系システムという 2 つの中核的なシステムで構成されています。また、ATM をプラットフォームとしてリアルな顧客との接点を維持・拡充するために、多種多様な顧客向けサービスを提供するシステムが構築・運営されています。

セブン銀行のデジタルバンキング部でフェローを務め、セブン銀行の IT の取り組みをインフラ面からリードしている平鹿 一久 氏は、こう話します。

  • 株式会社セブン銀行 デジタルバンキング部 フェロー 平鹿 一久 氏

    株式会社セブン銀行 デジタルバンキング部 フェロー 平鹿 一久 氏

「セブン銀行では ATM を主軸としたビジネスと銀行業務を同時に行ないながら、事業の多角化を推進しています。近年では、FinTech 企業と連携した新サービスの開発・提供や、官公庁自治体と連携した行政サービスの提供・支援などがあります。具体的には、電子マネーやモバイルペイメントへの ATM からのチャージや、ATM を利用したマイナポイントの申し込み、マイナンバーカードの健康保険証利用の申し込みなどです。こうしたさまざまなお客さまのニーズに応えるためには、システムにも新しい考え方やアプローチが必要です。そのためにクラウドを活用してシステムを再編成する取り組みを進めてきました」(平鹿 氏)。

セブン銀行は、プロジェクト単位では 2016 年から Microsoft Azure(以下、Azure)を採用。2018 年には、標準クラウドとしての Azure の採用に至りました。現在では、Azure の PaaS をメインに活用しながら、バックエンドの基幹システムからフロントエンドの顧客向けサービスまでを再編成しているところです。

スモールスタート基盤として Azure を採用、ダイレクトバンキングサービスを刷新

クラウドを活用したシステム再編成のなかでも、特に注目できる取り組みが、ダイレクトバンキングサービスの再構築と、ATM 中継システムの再構築という 2 つのプロジェクトです。

ダイレクトバンキングサービスは、PC やスマホを使って、Web 通帳、振込み、定期預金、カードローン、海外送金、各種手続きができるサービスです。ダイレクトバンキングサービス(以下、DBS)を提供するシステムは、プライベートクラウド上のシステムとして開発され、運用されてきました。

DBS をパブリッククラウドに本格移行する前哨戦となったのは、2016 年から取り組んだ「海外送金」と「リアルタイム振込」への対応です。平鹿 氏はこう振り返ります。

「当時、新しいビジネスを創出する取り組みのなかで、外部接続のための API 基盤を構築する必要がありました。要件は、最小限の投資で短期間に開始できること、外部との柔軟な連携ができること、既存の顧客資産を活用できることです。そこでスモールスタート基盤として採用したのが Azure App Service と Azure API Management です。この API 基盤でフィリピンの BDO Unibank と連携し、スマホからリーズナブルに海外送金できるサービスを開発。また、セブン銀行最初のオープン API を構築し、ドレミング社と協業して、給与を 24 時間 365 日即時振込みできる仕組みも開発しました」(平鹿 氏)。

いずれのサービスも Azure の PaaS を使うことで約半年で開発することができたといいます。この取り組みで PaaS 活用の効果を確認したセブン銀行では、2018 年に Azure を標準クラウドとして選定し、DBS をマイグレーションする取り組みを進めていきます。当時 DBS は、IIS と ASP.NET で構築され運用されていましたが、これを Azure の Azure App Service と Azure Functions を中心としたアーキテクチャーへとマイグレーション&モダナイゼーションを行いました。あわせて、DX推進グループを中心に、システム開発の内製化やアジャイル開発を取り入れ、スマホアプリを顧客ニーズにあわせて迅速に提供する体制を整えていきます。Azure の PaaS を活用した新基盤は 2021 年 3 月から本格稼働しています。なお、Azure を採用した理由について平鹿 氏はこう説明します。

「従来のデータセンターからアプリまで一体となったモノリシックなシステムでは新しいビジネスに迅速に対応することが困難でした。そうしたシステムを柔軟性の高いシステム構造に変え、スモールスタートで小さなチャレンジを失敗を恐れずに実行する環境として PaaS は最適でした。PaaS は、インフラ構築の手間が少なく、積極的に活用することで開発のアジリティを高め、運用負荷を軽減し、非機能要件を事業者側に委ねることで、本来注力したい領域に注力することができるようになるというメリットがあります。PaaS をベースにクラウドサービスを選定するなかで、金融機関が準拠すべき FISC安全対策基準を満たし、東西のデータセンターを使った災害対策の提供が可能なサービスは Azure だけでした。Azure の PaaS の強みを生かすことが、セブン銀行のクラウド活用の中心テーマになったのです」(平鹿 氏)。

最重要システムの 1 つである ATM 中継システムを PaaS で再構築、ハイブリッド化

一方、ATM 中継システムは、上述のようにセブン銀行の約 25,000 台の ATM と、600 を超える金融機関等とを連携させるシステムです。ATM の総利用件数は年間 8 億 3,600 万件、ATM 稼働率は 99.98%(2021 年 3 月末)に達するなか、ATM プラットフォーム事業を支える最重要システムの 1 つとなっています。

ATM 中継システムは大きく、提携先と ATM をオンラインで接続するためのオンラインシステム(ATM 中継オンライン)と、取引履歴や情報管理などを行なうバッチシステム(ATM 中継バッチ)で構成されます。いずれのシステムもオンプレミスで稼働し、基本設計は創業時から引き継がれてきたものでした。このため、さまざまな課題に直面していたといいます。デジタルバンキング部のインフラ統括グループ 主任調査役の德田 義明 氏はこう説明します。

  • 株式会社セブン銀行 デジタルバンキング部 インフラ統括グループ 主任調査役 德田 義明 氏

    株式会社セブン銀行 デジタルバンキング部 インフラ統括グループ 主任調査役 德田 義明 氏

「システムはモノリシックで、ベンダーによる統合や COBOL 主体など、メインフレーム的要素も多く複雑化していました。そのため、手数料スキームの変更や新たな提携先追加など、新たなビジネスへの対応の取り込みニーズに迅速には対応できないケースが目立つようになりました。例えば、FinTech 企業など新しい事業者と API 連携を行なうことが難しくなっていたのです。社会のニーズが変化していくなか、オンプレミスでは変化についていくことが難しい。そこで、現在利用しているデータセンターの移転期限を機に、クラウドへの移行とシステム更改を行ない、アジリティと柔軟性を手に入れることを目指しました」(德田 氏)。

システム更改のポイントは、サービス開発の迅速化、信頼性の確保、IT コストの抑制などでした。それぞれのシステムがクラウドに移行できるかどうかを検討し、最終的にオンプレミスとクラウドのハイブリッド構成の選択を決定します。具体的には、ATM 中継オンラインのうち、既存の銀行等との接続するシステムについてはオンプレミス環境を維持する一方、FinTech など新たな提携先との接続には、クラウドを活用した新中継オンラインシステム(新サービスオンライン)を新たに開発。さらに、ATM 中継バッチは既存アプリ資産活用しリフト&シフトで IaaS メインの構成としました。

  • ATM 中継システム更改の概要

    ATM 中継システム更改の概要

「新オンラインは Azure の PaaSを中心に構成し、API ゲートウェイを使って FinTech 企業と連携しています。また、ATM 中継バッチは、既存資産を活かしつつアプリケーション再編・強化としてバッチ処理の分割・スリム化・再構築をおこない CloudNative な環境へ適用させています。現在、オンプレミスに残っているのは、勘定系システムと ATM 中継オンラインだけで、多くのシステムが Azure の IaaS/PaaS へと移行した状態です」(德田 氏)。

CCoE を設置し「クラウド活用推進」「知見の蓄積と共有」「ガバナンス」を徹底

クラウドを活用したシステム再編成を進めるにあたっては、システム全体構成の方針を定め、方針に沿って取り組みを推進する組織として Cloud Center of Excellence(以下、CCoE)を設置して、CCoE のリードのもと、システム横断的な取り組みを進めていきました。

システム全体の構成の方針としては「システムの性格分け」「クラウド移行対象の仕分け」「改変頻度を考慮した機能の仕分け」「システム間の連携のAPI化・疎結合化」「運用系・セキュリティ系機能の共通化」などを定めました。

例えば、システムの性格分けでは、ライフサイクルや運用技術、保有データの正確の違いから SoE(System of Engagement)、SoR(System of Record)、SoI(System of Insight)の 3 つに分けています。具体的には、SoE は、ダイレクトバンキングサービスや新オンライン、CTI、バンキング API、勘定系連携システムなどであり、SoR は、勘定系システムと中継オンラインとなります。また、SoI は、情報系(データ基盤)DWH と BIなどとなります。

  • 再編成にあたっては、システムを性格分けして最適化

    再編成にあたっては、システムを性格分けして最適化

「再編成の方法としては、基盤分離(リフト&シフト)、モード分離(プログラム構造再編成)、マイクロサービス(業務モデル見直し)という 3 段階があります。ATM 中継システムの更改では、モード分離を中心に行なっています。例えば、ATM 中継バッチでは、機能単位に過去の改変頻度などを分析し、移行方式を決定。また、新オンラインも、既存の SoR の安定性を維持しながら、なるべく手を入れずに SoE 的な機能をどう実装するかを検討し、API 基盤を境界のインタフェースとして活用して、新システムとして切り出していきました」(徳田 氏)。

セブン銀行のシステムは、金融機関として求められる堅牢性や安定性に加え、お客さまや取引先のニーズを満たす柔軟性や俊敏性が同時に求められることに特徴があります。実際、お客さまとの接点をつくる SoE のダイレクトバンキングシステムが SoR の勘定系システムと密接に連携していたり、SoR の ATM 中継システムが FinTech 企業との協業という SoE の役割を果たしていたりと、システム再編成の取り組みは、一筋縄ではいかなかったといいます。そんななかクラウド活用を成功させたポイントの 1 つが CCoE の取り組みでした。CCoE のリーダーを務めた徳田 氏はこう振り返ります。

「CCoE が、クラウドを共通基盤とする横断的なマネージメントを担い、システム開発終了後も継続的にモニタリングと改善を行なう体制を構築できたことが大きなポイントです。設計・運用ガイドラインの策定や標準化の推進といった『クラウド活用推進』から、技術・サービス情報の収集・提供、ベストプラクティスの横展開、カタログ化といった『知見の蓄積と共有』、モニタリング、コントロール、意思決定プロセス支援などの『ガバナンス』を徹底しました」(徳田 氏)。

システム再編成のハブになることで、システム変革への意識を共有する

  • クラウドでしかできないことの実現に向けて

    クラウドでしかできないことの実現に向けて

CCoE は、急速に変化し続けるクラウド技術やサービスをフォローするという役割も担っています。さらにクラウド技術の活用やサポートという点で、大きな力となったのがさまざまなかたちで提供されたマイクロソフトのサポートやサービスだと、平鹿 氏は話します。

「Azure を標準クラウドに選定した理由は、それに先立つスモールスタート基盤としての評価やノウハウの蓄積が進んできていたことなどがあります。そして最も高く評価したのは、マイクロソフトのサポート力とスペシャリストの存在でした。実際、高いスキルや知見を持つエンジニアやアーキテクトに設計会議の段階から参加してもらい、さまざまな相談に乗っていただくことで、システム再編成の道筋を明確にし、取り組みをスムーズに実施することができました」(平鹿 氏)。

セブン銀行では顧客専任チームが対応する「マイクロソフト ユニファイドサポート」を利用して、Azure と Microsoft 365 についてのプロアクティブ サポートを受けています。また、マイクロソフトのスペシャリストやアーキテクトに各プロジェクトの定例会議に参加してもらい、システム再編成の技術スキルやノウハウなどをプロジェクト参加メンバーに伝達できる環境を整えました。これにより、セブン銀行をハブとして、システムを横断してプロジェクトに参加する開発パートナーにクラウドのビジョンやアプローチ、スキルが広がり、さまざまなアイデアのもと活発な議論や情報交換が行われるようになったといいます。

「クラウドに限らず、新しい取り組みを推進していくうえで重要なのは、人との出会い、本物を体験している人との接点です。変革を起こそうというとき、同じ血だけでは同じ血しか流れません。いかに人と触れ合う場を作っていくかが大事です。私自身、人を連れて来る努力を惜しまないようにすることを常に心がけていました。そのようにしてわれわれ自身がハブになることで、開発パートナーも含めシステム変革に向けた意識を共有化できたことが成果の 1 つです」(平鹿 氏)。

セブン銀行は、ここまでクラウドの取り組みをアグレッシブに進めてきました。しかし、現状はまだ中間地点にすぎないといいます。

「セブン銀行のクラウド活用は、 Hop、Step、Jump のうちの Step までようやくこぎつけたところです。ビジネスの価値向上と貢献、変化へのスピードアップ、クラウドでしかできないことの実現という Jump に向けて、今後も取り組みを進めていきます」(平鹿 氏)。

「時代とともに、あなたとともに、変わり続けます」をテーマにクラウドを活用した変革を推進するセブン銀行の取り組みを、マイクロソフトは継続して支援していきます。

[PR]提供:日本マイクロソフト