DX(デジタル トランスフォーメーション)がビジネストレンドとなる中、企業がDXを推進したくても、そのリード役となる IT 人材の確保もまた難しくなっています。そこで佐賀県では 2020 年度からプログラミング人材育成のサポート事業をスタート。その一環としてハッカソンを開催しました。このハッカソンの取り組みに、マイクロソフトも Microsoft Azure を活用した機械学習サービスや、コミュニケーションを支える Microsoft Teams を通して協力しています。本記事では事業を担当する佐賀県 DX・スタートアップ推進室、事業に協力したテクマ合同会社、およびハッカソン参加者の言葉から、取り組み内容とその成果に迫ります。

県内企業の DX 推進に向けて IT 人材育成をサポート

佐賀県は、企業がデジタル技術を使ってイノベーションにチャレンジできる地域となることを目指しています。同県には AI、IoT といった先進技術活用と全国の IT 企業とのマッチングで新ビジネス創出や生産性向上を支援する「佐賀県産業スマート化センター」がありますが、自治体としてこうした施設を立ち上げたのは佐賀県が初めてといいます。

さらに同県では、県内におけるIT 人材の確保のため、プログラミング人材拡大推進事業も実施しています。そしてこれらの取り組みを担っているのが、DX・スタートアップ推進室です。

同室では「佐賀だからこそできる取り組み」を強く意識しているといいます。係長の石橋 一樹 氏はこの“佐賀だからこそ”について次のように語ります。

「佐賀というと全国的にはマイナーで規模も小さい県として位置づけられますが、当室の取り組みでは、規模のハンディをもつ小さい県だからこそ逆に小回りがきき、情報の解像度も高いという佐賀ならではの利点を武器として、DXの裾野拡大と IT 人材育成という 2 つの取り組みに力を入れています」(石橋 氏)。

IT 人材に関しては、県内企業から「積極的に採用していきたい」との声が強まっています。そこで同室は人材育成・確保を念頭に、2020 年度からユニークな取り組みをスタートしました。それが、プログラミング言語の Python をはじめシステム開発に必要な IT 知識を習得できるオンライン講座「SAGA Smart Samurai ~ゼロから学ぶプログラミング塾~」です。受講期間は 2020 年 8 ~ 12 月で、対象は県内在住・在勤、あるいは県内での就職や起業を希望する人となっています。

同講座を受講した県内企業社員の森田 剛史 氏は、仕事自体はプログラミングと関わりがないのですが、プログラミング自体に興味があったため、SAGA Smart Samurai に申し込みました。「受講前は Python といっても名前を聞いたことがある程度で、触ったこともありませんでした。」と森田 氏はいいます。

この取り組みで講義を担当したのが、IT 技術に関して幅広い研修を提供しているテクマです。同社の 伊藤 晋太郎 氏はこう話します。

「SAGA Smart Samurai は、プログラミングのイロハから Web 技術、さらにはクラウドやAI まで幅広く学習するものです。これまでのオンライン講座に関する知見をもとに、参加者の学びと佐賀県の事業をサポートするのが当社の役割です」(伊藤 氏)。

  • 佐賀県 DX・スタートアップ推進室 係長 石橋 一樹 氏

    佐賀県 DX・スタートアップ推進室 係長 石橋 一樹 氏

  • テクマ合同会社 代表社員 伊藤 晋太郎 氏

    テクマ合同会社 代表社員 伊藤 晋太郎 氏

スキル向上につなげる実践の場としてハッカソンを開催

佐賀県 DX・スタートアップ推進室 主事 井上 絢水 氏

佐賀県 DX・スタートアップ推進室
主事 井上 絢水 氏

DX・スタートアップ推進室で SAGA Smart Samurai に当初から携わっていたのが、主事の井上 絢水 氏です。井上 氏はこの 4 カ月のオンライン講座を「かなりハードなカリキュラムでしたが、受講生の皆様はとても意欲的に受講していました。」と振り返ります。

SAGA Smart Samurai 自体は 12 月で完結しましたが、年が明けて 2021 年、もう 1 つのイベントが実施されることとなりました。それが「SAGA Smart Hackathon ~パッケージ判別AIを作るでござる!~」です。

SAGA Smart Hackathon は与えられた課題を解決する AI を構築し、その精度を競うハッカソンで、2021 年 2 月 20、21日 の両日、佐賀市で開催されました。IT プロダクトづくりを実際に体験することで、参加者のスキル向上につなげることがこのハッカソンの狙いです。参加者は SAGA Smart Samurai 受講生だけでなく、県内の IT 技術者も対象としており、スキルの向上に加えて両者の交流も目的となっていました。

課題は、ポテトチップスのパッケージを見分ける画像認識の機械学習モデル作成です。講座に引き続き伊藤 氏・大平 氏の協力が得られたうえ、ハッカソンの準備段階からマイクロソフトも協力に加わりました。

「佐賀駅近くに『マイクロソフト AI &イノベーションセンター佐賀』が立地している関係もあり、マイクロソフトとは以前から県の事業で連携していました。今回のハッカソン開催にあたり、私たちには機械学習に関するワークショップやトレーニングなどを開催した経験もスキルもなかったので、課題やその難易度設定についてサポートをお願いしました」(井上 氏)。

ハッカソンには 28 人が参加。うち 26 人が SAGA Smart Samurai の受講生で、あとの 2 人が県内企業の技術者でした。実は受講生以外の割合をもう少し大きくする予定でしたが、開催に対する受講生の反響が大きかったため、今回は受講生メインになったとのことです。

「講座で知識や技術を身につけたものの、それだけで満足せず、よりステップアップしたいと考えた受講生が多いことに驚きました。県内企業や他の自治体からも大きな反響がありました。」と井上 氏は振り返ります。

本番に向け Teams を活用しチームメンバーと準備を進めた

ハッカソン開催前にはテクマが画像認識に関する強化セミナーを実施。森田 氏もその授業を受け、画像処理における機械学習を一部体験してからハッカソンに臨んだといいます。

その森田 氏はハッカソンの話を聞いたとき、まず「おもしろそう」と感じたとのこと。「AI 、機械学習にはとくに興味があり、より深く体験したいとの思いがありました。ハッカソンの話を聞き、これはぜひ参加しなければと思いました。」といいます。

ハッカソンは 28 人を 6 チームに分けて行われ、森田 氏は 5 人のチームで参加。ハッカソン本番の 1 カ月前に事前セミナーが行われ、以降は週 1 回程度のペースで Teams を活用したチームミーティングを続けました。「チームメンバーはみんな意欲的で、個々にいろいろと調べ、試し、その成果を Teams で共有しました。」と、森田 氏は当時を回顧します。

ちなみに、Teams をチームコミュニケーションに活用したメリットについて、森田 氏は「アイデアやトライしたこと、成果、そしてスケジュールを含めてすべてをスレッド管理できるので、情報共有しやすく、しかもビデオ通話機能も備わっていることから 1 つのツールでやりたいことのすべてが完結するのが最大のアドバンテージと感じました。」と話します。またテクマとしても「ビデオ通話とチームチャットを同時並列で利用でき、複数チームのフォローアップに重宝しました。」と、伊藤 氏は Teams のメリットを教えてくれました。

ポテトチップスのパッケージ画像を機械学習で判定するという課題は、事前セミナーで発表されました。この課題を聞いた森田 氏は当初、「難易度が高い」と感じたそうです。ただ、強化セミナーで学んだ AI・機械学習の知識を駆使すれば対応はできるとの感触も得ていたといいます。

  • ハッカソン参加者 森田 剛史 氏

    ハッカソン参加者 森田 剛史 氏

  • チーム開発の様子

    チーム開発の様子

工夫の末の Azure Machine Learning 利用と課題解決を高く評価

いよいよ本番。森田 氏のチームは、まず SAGA Smart Samurai の講義で学んでいた 別の分析サービスを使ってモデル作成に取り掛かります。そしてある程度形になってきたところで、最終的に画像判定するためのパラメーター調整に際し、クラウド上で使うマイクロソフトの機械学習サービス「Azure Machine Learning」に移行しました。

実は事前セミナーから本番までの間にも Azure Machine Learning を試しており、Teams でメンバーと情報交換していたといいます。本番では各チームに Azure Machine Learning 使用について一定の予算が与えられていましたが、当初はその予算で Azure Machine Learning をどの程度使えるか見えなかったため、まずは 講義で学んでいた分析サービス でスタートし、本番ではプロジェクト管理やモデルの解釈性にすぐれる Azure Machine Learning に変えたということでした。

Azure Machine Learning を使い始めた時は活用イメージがつかず、高いハードルを感じたと森田 氏。しかしマイクロソフト担当者が補講を実施し、質問に答える時間も設けてもらったことで、理解が進んでいったといいます。「本来なら画像の判定精度を高めるために複数あるパラメーターを 1 つずつ調整し、機械学習したうえで精度を確認する作業を何度も繰り返す必要があります。これは 1 回の機械学習につき 40 分から 1 時間程度かかるため大変な作業なのですが、Azure Machine Learning では自動でパラメーターの調整が可能なうえ、複数の仮想マシンを同時に立ち上げての並行学習を行えるので、有効なパラメーターを効果的に見つけられました」(森田 氏)。

一方、テクマとしては、ハッカソンの中で参加者が Azure Machine Learningの自動パラメーター調整、並行学習機能の利用まで進むとは想定してなかったようですが、「チームそれぞれ工夫を重ねていた姿を見て、参加者の成長を実感しました。」と伊藤 氏は語ります。また、伊藤 氏とともに SAGA Smart Samurai の講師を担当した大平 道介 氏も「どんな知識や技能、ツールも、知っていることと実際に使うことの間には大きな隔たりがあります。今回の参加者は知識をうまく活用に変え、課題解決を達成したので、IT 人材として意義深い一歩を踏み出したと考えています。」と取り組みを評価します。

  • テクマ合同会社 代表社員 大平 道介 氏

    テクマ合同会社 代表社員 大平 道介 氏

  • 成果発表会の様子

    成果発表会の様子

ハッカソンでは森田 氏のチームが見事優勝を飾りました。「ハッカソンでは学んだことをアウトプットとして実現できたことに加え、Azure のクラウドサービスを実際に活用したことも貴重な経験になりました。」と森田 氏。佐賀県の井上 氏も「講座で得た知識を実践の場で問題解決に使ったことで、参加者のスキルの向上につながったと思います。講座終了後、受講生の多くは県内で IT 人材として活躍していますし、県内企業からも好意的な反応を多くいただいたので、今後に向けてはずみがつきました。2021 年度も地域の IT 企業や技術者をもっと多く巻き込み、人材育成の取り組みを進めていければと考えています。」と語りました。

加えて、今回のハッカソンではマイクロソフトのフォローアップやサポートが頼もしかったと、佐賀県、テクマの双方が口を揃えて評価しています。マイクロソフトとしても佐賀県の IT を盛り上げるため、さらなるサポート提供に力を入れていきます。

[PR]提供:日本マイクロソフト