ビジネスの進展にデジタルトランスフォーメーション(DX)が求められるようになって久しいですが、新たなテクノロジーに何ができるのか。実際に触れてみなければ、理解することは難しいものです。

出光興産株式会社は、オンプレミスで運用していた SAP BW on HANA(以下、SAP HANA)を Microsoft Azure に移行しました。Azure の柔軟性や運用性を最大限発揮した移行プロジェクトそのものが、同社にとって重要な“クラウド経験”となり、デジタル活用による今後の価値創造に向けた、大きな一歩となったのです。

オンプレミスによる SAP HANA サーバーの運用保守に感じていた限界

日本のエネルギーインフラを 100 年以上にわたって支え続ける、石油業界大手の出光興産。同社は石油製品の販売を軸に、基礎化学品の生産や高機能材の開発、太陽光・地熱・バイオマスなどによる再生可能エネルギー事業など、「日本発のエネルギー共創企業」を目指した多様な事業を展開しています。

2019 年 4 月、出光興産と昭和シェル石油は経営統合を果たしました。そして今、両社の知見を活かした、生産性の向上・効率化のための新しいシステムづくりが行われています。同社の IT インフラを扱う出光興産株式会社 情報システム部 インフラ企画課 大野 浩士 氏は、これまで SAP HANA サーバーのメンテナンスに頭を悩まされてきたと振り返ります。

「出光興産では 1997 年から一部子会社で SAP R/3 を導入し、2015 年に SAP ERP を全社展開してきました。同時期に SAP HANA を導入するにあたり、当時はパブリッククラウドが黎明期だったこともあり、オンプレミスで運用していたのですが、データ量の増加に伴い 2018 年頃からメモリ不足に起因する障害が多発するようになっていました。メモリの増強によって対処はしたのですが、オンプレミスでは構成変更に時間を要し、迅速な対応が困難でした。また、SAP HANA へのパッチ適用においても、オンプレ上の限られた環境の中ではできず、外部に検証環境を準備するなどに時間を要し、実行には半年という時間がかかっていたため、迅速性や変化対応力の向上を図りたいと思っていました。そこで SAP 認定サーバー機器の更新時期を迎えたことをきっかけに、あらためて運用基盤を検討することにしました」(大野 氏)。

自社契約の商用データセンターに HANA アプライアンスを設置するか、PaaS としての HANA クラウドサービスを利用するか、それとも IaaS としてパブリッククラウドを基盤にするか。出光興産では、信頼性・柔軟性・保守性・可用性・拡張性・運用性といったポイントで各種ソリューションを比較し、総合的な視点で IaaS での運用を決定します。そして、基盤に選ばれたのは Microsoft Azure でした。

Azure の採用に至ったポイントについて、出光興産株式会社 情報システム部 インフラ企画課 森 勇二 氏は次のように語ります。

「SAP 認定のパブリッククラウドを選ぶ際に、一番大きかったのは『移行経験』でした。出光興産には大規模な業務システムをクラウドで稼働させた経験がなかったのですが、昭和シェル石油は SAP ERP を Azure に移行していたのです。このときの知見や運用ポリシーを活かせることや、既に Azure に構築された昭和シェル石油側のシステムの設計思想を活かす事による設計期間の短縮も期待できることから、Azure を採用しました」(森 氏)。

さらに大野 氏は、エンタープライズとしての利用者目線から見た Azure の特徴を次のように続けます。

「SAP 認定クラウドを比較したところ、性能面では我々の求める要件に対して大きな差は見られなかったのですが、Azure はそのコンセプトがエンタープライズを意識しているように感じました。管理画面からさまざまなことが設定可能ですし、災害対策(DR)の仕組みなどもしっかりしています。さらに、問い合わせ対応も含めた『顔の見えるプロジェクトチーム』が築けたことも、Azure に決めた重要な要因でした。クラウドはどうしてもブラックボックス化する領域が増えてしまうので、その不安の払拭に人間的なコミュニケーションが効果的だったのです」(大野 氏)。

こうして、最適化された基盤としての Azure に SAP HANA を移行する“SAP on Azure”が出光興産でスタートしました。

  • 出光興産株式会社 情報システム部 インフラ企画課 大野 浩士 氏

    出光興産株式会社 情報システム部 インフラ企画課 大野 浩士 氏

  • 出光興産株式会社 情報システム部 インフラ企画課 森 勇二 氏

    出光興産株式会社 情報システム部 インフラ企画課 森 勇二 氏

クラウドならではのリカバリ性を発揮してスケジュール通りに移行を完了

アクセンチュア株式会社 テクノロジーコンサルティング本部 マネジャー 櫻井 永子 氏

アクセンチュア株式会社 テクノロジーコンサルティング本部 マネジャー 櫻井 永子 氏

今回のプロジェクトは SAP on Azure の第一段階として、インメモリデータベースである SAP HANA と、データウェアハウスプラットフォームである SAP BW、統合 BI ツールの SAP BO が移行の対象となりました。SAP の導入支援をしたアクセンチュア株式会社 テクノロジーコンサルティング本部 マネジャー 櫻井 永子 氏は、プロジェクトについて次のように振り返ります。

「基盤変更によって、どのようなテストをすればアプリが確実に動いていると判断できるのか。検証手順を明確にしながらプロジェクトを進めていきました。トラブルはありましたが、それでもスケジュール通りに移行が完了できたことは、クラウドの持つ柔軟性を最大限に発揮できたおかげだと思います」(櫻井 氏)。

また、構築作業を担当した株式会社BeeX デジタルプラットフォーム本部 ハイブリッドクラウドコンサルティング部 部長 池谷 成弘 氏と、同社のエンタープライズアプリケーション本部 バリューアッドコンサルティング部 部長 坂本 弥寿人 氏は、移行のポイントを次のように説明します。

「クラウドを基盤にすると、プロジェクトをとてもフレキシブルに進めることができます。たとえ不具合が見つかっても、過去のバックアップに戻してまた試したり、スペックを上げてみたり、別の領域だけ工程を進めたりすることによって、全体の日程を短縮できるのです。クラウドに慣れていなければ、こうした発想はそもそも浮かばないでしょう。リカバリのしやすさには特筆すべきものがあります」(池谷 氏)。

「複数回のリハーサルを実施しましたが、本番への移行を確実なものにするために、可能な限り同一性が確保される環境構築方式を採用しました」(坂本 氏)。

実際の構築作業は 2020 年 1 月に始まり、同じ年の 7 月に完了しました。迅速な環境構築やリソース調整のしやすさなど、クラウドの特徴を最大限発揮しながら移行プロジェクトは進められ、半年間で無事に完了したのです。それは出光興産にとって、オンプレミスからクラウドという単なる基盤変更にとどまらず、新たな技術特性を学ぶ重要な経験となっていきました。

  • 株式会社BeeX プロフェッショナルサービス本部 ハイブリッドクラウドコンサルティング部 部長 池谷 成弘 氏

    株式会社BeeX デジタルプラットフォーム本部 ハイブリッドクラウドコンサルティング部 部長 池谷 成弘 氏

  • 株式会社BeeX エンタープライズアプリケーション本部 バリューアッドコンサルティング部 マネージャー 坂本 弥寿人 氏

    株式会社BeeX エンタープライズアプリケーション本部 バリューアッドコンサルティング部 部長 坂本 弥寿人 氏

トラブルなく効率的な運用を実現

出光興産株式会社 情報システム部 インフラ企画課 東田 直也 氏

出光興産株式会社 情報システム部 インフラ企画課 東田 直也 氏

Azure への移行第一段階を終えて、トラブルは何も起きていないと大野 氏は笑みを見せます。

「実は『クラウドで本当に大丈夫なのか?』といった声がインフラ企画課の中からも挙がっていたのです。しかしトラブルは発生せず、無事に移行を果たすことができました。オンプレからクラウドに移行した社内の先駆事例として、出光興産としてもクラウドに対する信頼感を持てたように思います」(大野 氏)。

移行を終えて「大野の顔が明るくなった」と、出光興産株式会社 情報システム部 インフラ企画課 東田 直也 氏は言います。

「私は昭和シェル石油時代に SAP ECC の Azure 移行に携わっていたので、そのときの経験をもとに今回のプロジェクトに貢献することができました。障害が多発していたというオンプレミス時代と比べると、SAP on Azure は安定的に稼働しています」(東田 氏)。

また、坂本 氏は、Azure の新機能を活用することによって、運用面の負担をさらに軽減することができたと補足します。

「従来はオンプレミスサーバの性能問題、キャパシティ問題で、基盤のコントロールに苦慮していたと聞いていました。今回のプロジェクトによって『運用の苦しみ』から少しでも解放できたと思います。また SAP on Azure の導入によって、Azure Backup の管理画面から SAP HANA をバックアップできるようになりました。このように SAPシステムに統合できるネイティブのサービスは設計構築が容易で、運用でもサポートの観点から安心できます」(坂本 氏)。

Azure を価値創造のための新たなインフラ基盤として拡充していく

アクセンチュア株式会社 テクノロジーコンサルティング本部 インテリジェントソフトウェアエンジニアリングサービスグループマネジング・ディレクター 荒 賢一郎 氏

アクセンチュア株式会社 テクノロジーコンサルティング本部 インテリジェントソフトウェアエンジニアリングサービスグループマネジング・ディレクター 荒 賢一郎 氏

今後は、出光興産と昭和シェル石油とのシステムの統合を進めるとともに、Azure の活用を推進していきたいと大野 氏は展望します。

「このところ『システム統合のための検証環境を 3 つ Azure で用意してほしい』という要望があったり、『Azure で ERP を使いたい』という申し出がグループ会社からあったりと、クラウドの特性が広く理解されたことによって、活用の広まりを感じています。今後も残りの SAP ERP を Azure に移行することに加えて、さらに Azure によるインフラ環境を拡充していきたいと思っています」(大野 氏)。

アクセンチュア株式会社 テクノロジーコンサルティング本部 インテリジェントソフトウェアエンジニアリングサービスグループマネジング・ディレクター 荒 賢一郎 氏は、Azure 移行をデジタル活用のさらなる契機としてほしいと語ります。

「私たちのようなコンサルタントがいくら外から口を出しても『やってみなければわからない』ことは多々あります。重要なシステムを Azure に移行した経験は、今後、デジタル活用というビジネスを進展させるうえで欠かせない世界への扉になってくれると思います」(荒 氏)。

「変化への適応性に富む、レジリエントな企業体」を経営ビジョンに掲げる出光興産は、SAP on Azure の導入によって、さらに柔軟なシステム基盤を手に入れました。オンプレミスとクラウドそれぞれの特徴を理解し、マルチに使いこなしていくことによって、同社は日本に新たなる価値を提供し続けてくれることでしょう。

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