医療用を中心に医薬品の製造・販売を手がける田辺三菱製薬株式会社が、デジタル化の取り組みを加速させています。レセプトや特定検診、介護データ、電子カルテ、臨床画像といった「リアルワールドデータ」を分析するための基盤をクラウド上に構築。さらに、MR 向けのデジタルマーケティングデータや、医薬品製造に関するサプライチェーンデータの統合も進めています。クラウド基盤として採用されたのは Azure Databricks でした。また、Microsoft Azure が提供するさまざまなサービスを使って、デジタル化に向けた基盤の整備を進めているといいます。

DX を柱にした中期経営計画を推進

田辺三菱製薬株式会社 ICTマネジメント室 ICTマネジメントグループ グループマネジャー 小林 弘幸 氏

田辺三菱製薬株式会社
ICTマネジメント室
ICTマネジメントグループ
グループマネジャー 小林 弘幸 氏

「医薬品の創製を通じて、世界の人々の健康に貢献します」を企業理念に掲げ、国際創薬企業として社会から信頼される企業を目指し、医療用医薬品を中心とした製造・販売を手がける田辺三菱製薬。関節リウマチ・クローン病治療薬や、糖尿病治療剤、うつ病用医薬品、ワクチンなどのほか、OTC 医薬品として胃腸薬や滋養強壮ドリンク剤などを展開しています。

製薬会社として、創製を通じて患者の健康を守り、豊かな生活に貢献するためには、新薬開発のリードタイム短期化や薬価改定などの社会要請への対応、創薬に関わるさまざまなデータの活用が不可欠です。そこで田辺三菱製薬が力を入れているのが、デジタル化の取り組みを軸とした変革でしょう。2021~2025 年度の中期経営計画では、デジタルをキーワードにデータ分析基盤の構築を進め、サプライチェーンでのデータ活用やバリューチェーンの強化、デジタルマーケティングによる営業力強化などを推進することを明かしました。田辺三菱製薬 ICTマネジメント室の小林 弘幸 氏は、同社のデジタル推進についてこう説明します。

「デジタルトランスフォーメーション(DX)を実現するデジタル基盤の構築に向けて、大きく 4 つの取り組みを進めています。1 つめは、ビッグデータ基盤、分析、高速処理におけるデータ利活用環境の整備。2 つめは、ISO 規格対応と規則整備による医療情報管理体制の整備。3 つめはデジタル人材の育成。4 つめはモバイルでも快適・安心に利用できる次世代ネットワークの構築です。IT 部門のミッションは、データマネジメントの基盤を整備しながら、新たな技術の探索を進め、あわせてデジタルの取り組みをドリブンしていく人材を育成することにあります」(小林 氏)。

DX に向けた具体的な取り組みとして、まず着手したのはリアルワールドデータの解析でした。リアルワールドデータとは、レセプトや特定検診、介護データ、電子カルテ、臨床画像など、医療と医薬品開発にまつわる多種多様な膨大なデータのことです。リアルワールドデータは日々増加しており、それらを収集・蓄積し、統合的に解析することでさまざまな活用が可能になります。

また、リアルワールドデータの解析と並行して、営業系を含めたデジタルマーケティング基盤の構築にも取り組んだといいます。従来、マーケティングといえば MR の医師に対するディーリング活動(医薬品説明)が中心でしたが、現在は医師向け情報サイトなどを活用した e マーケティングの活用も広がっています。そのためマーケティングデータを効率的に収集、分析できる基盤を構築したというわけです。これらのデータ分析基盤に採用されたのが「Microsoft Azure」でした。

膨大なリアルワールドデータの分析に向けてクラウドの活用を開始

田辺三菱製薬株式会社 ICTマネジメント室 グローバルインフラグループ 尾﨑 宏道 氏

田辺三菱製薬株式会社
ICTマネジメント室
グローバルインフラグループ
尾﨑 宏道 氏

田辺三菱製薬では、データ分析基盤を構築するにあたって、3 つの課題を抱えていたといいます。

1 つは、データ量が膨大で、適切に取り扱うための処理基盤がないことでした。ICTマネジメント室の尾﨑 宏道 氏はこう話します。

「リアルワールドデータは多種多様で、1 つのファイルで 1 テラバイト(TB)を超える容量になることもあります。構造化されたデータではありますが、レコード数が 100 億件を超えるなど、そのままでは SAS や R などの分析ツールで処理できないことが多かったのです。そのため、データを蓄積する基盤が必要になり、いくつかのクラウド環境をテスト的に利用することになりました」(尾崎 氏)。

もう 1 つは、分析のスピード感がなかったことだといいます。データの収集や蓄積のためにクラウド基盤の活用をはじめていたものの、クラウド管理をパートナーに任せていたこともあり、分析結果を得て社内で生かすまでに時間がかかっていたのです。

「分析は利用部門が中心に行っていましたが、IT 運用の知見やノウハウがないこともあり、クラウド上の分析環境をどう構築していけばよいかが試行錯誤の段階でした。クラウド環境ではデータ蓄積用の IaaS やビッグデータ分析のための PaaS など複数のサービスを併用しながらテストを行っていましたが、作業の多くをパートナーに依存したこともあり、欲しい結果がすぐに得られないという状態だったのです」(尾崎 氏)。

さらに費用対効果が悪かったことも課題で、外部委託であったため、簡単なデータ分析でも費用がかかっていました。また、分析基盤の設計や構築を計画的に行うことなく実施していたため、さまざまなクラウド環境や分析環境が立ち上がっている状態でした。

「リアルワールドデータの分析と、デジタルマーケティング向けの分析では、必要なデータも分析方法も異なります。それぞれに基盤を構築することで、費用対効果が悪くなり、社内でのガバナンスを利かせにくくなりはじめていました」(尾崎 氏)。

こうした課題を解消するために田辺三菱製薬が取り組んだのが、さまざまなデータを一元的に取り扱えるデータ分析基盤の構築です。ICTマネジメント室が中心となって、Apache Hadoop/Spark をベースとした基盤の設計を行い、3 つのクラウドサービスを比較検討し、最終的にデータの収集から蓄積、分析までを1つのプラットフォームで実施できる「Azure Databricks」を採用しました。

Azure Databricks が持つ拡張性と柔軟性の高さが採用の決め手

Azure Databricks は、Apache Spark をベースにしたデータレイクとデータ分析のためのプラットフォームです。基盤だけでなく、TensorFlow や PyTorch、scikit-learn などのデータサイエンス向けのフレームワークやライブラリもセットで提供し、Python、Scala、R、Java、SQL といった各種言語をサポート。ベースとなるプラットフォームは Databricks 社が提供しています。

Hadoop/Spark のホスティングサービスや、Databricks ベースのクラウドサービスは Microsoft Azure 以外でも提供されていますが、尾崎 氏によると Azure Databricks は、それらと一線を画するものだったと振り返ります。採用の決め手になった点は大きく 3 つあり、1 つめは、必要なときに必要なぶんだけ利用できるという拡張性だったといいます。

「オートスケールを使えば必要なときにリソースを拡張することができますし、オートターミネートを利用することで、必要がなくなったときにリソースを柔軟に停止できます。パフォーマンスがでない場合も瞬間的にリソースを増やせます。こうした拡張性の高さは、他のクラウドプラットフォームにはないものだと感じました」(尾崎 氏)。

2 つめは、提供される基盤の選択肢が多いことです。

「さまざまなクラスターのタイプを柔軟に選択できますし、実行するノードごとにクラスターを使い分けることもできます。データ分析では、アプライアンスを導入して、一定の性能を担保するというアプローチが主流だったと思いますが、それだと柔軟性が損なわれます。一方、自分たちでクラウドサービスを組み合わせて使いやすい基盤を作ることもできるのですが、その場合はコスト効率が悪くなります。Azure Databricks は基盤の柔軟性という点で、圧倒的に完成度が高いものでした」(尾崎 氏)。

3 つめは、さまざまな言語に対応しており、さまざまな分析ニーズに対応できることです。

「Python も R も SQL もいけますし、Shell Script での操作まで可能です。ユーザーを選ばず、どのような分析にも対応できるので、今後幅広い用途で活用していけます。基盤を構築するうえでのコアとなるサービスであることに大きな魅力を感じました」(尾崎 氏)。

こうした Azure Databricks が持つ包括性、拡張性、柔軟性といった特徴は、データ量、スピード、コストという課題に対してもきわめて有効だったと尾崎 氏は強調します。

Azure のクラウドサービスを活用し、DX をさらに加速

サービスの構築は 2019 年 4 月からスタート。データや基盤としての検証を行いながら、2019 年末までにさまざまなデータを分析できる基盤として構築しました。当初は、リアルワールドデータの分析基盤として構築しましたが、さまざまな用途で活用できることが見込めたため、営業やデジタルマーケティング向けのデータ分析基盤も Azure Databricks へと統合したといいます。小林 氏は、データ基盤構築の意義について、こう話しました。

「リアルワールドデータを分析することで、患者がどのように考え、感じ、行動しているのかといったペイシェントジャーニーを把握できるようになります。Azure Databricks によるデータ分析基盤は、いまや当社の DX に向けた重要な IT インフラの 1 つに位置づけられています」(小林 氏)。

実際、田辺三菱製薬では、Azure Databricks をデータ分析基盤の中核に据えながら、その周辺で必要になるさまざまな業務やサービスを Azure 上へと移行しはじめています。社内外で収集されるさまざまなデータが「Azure DataFactory」を経由して Azure Databricks に蓄積されています。また、基盤に蓄積されたデータは必要に応じて SQL Database に出力、格納され、社内ユーザーが Power BI を使って、さまざまな分析を実施できるようになりました。

さらに、デスクトップ環境向けに Windows Virtual Desktop を、構成管理基盤に Azure DevOps など、Azure の積極的な活用を検討しているといいます。

「データに基づいてスピーディーに意思決定するようなデータドリブン経営を目指していこうとしています。DXを推進するための基盤としては、Azure CycleCloud を使って HPC 環境を構築し、創薬に生かす取り組みや、社内文書を AI 活用して検索しやすくする取り組みなども進めています。また、工場での検査データを活用するなど、サプライチェーン改革にもつなげていこうとしています」(小林 氏)。

このように、Azure Databricks をはじめとした Azure クラウド環境は、田辺三菱製薬における DX 推進のコアとして欠かせないものになりました。ソリューションを提供するマイクロソフトに対して尾崎 氏は、「提案から基盤の構築まで真摯に向き合っていただきました。われわれが新しいサービスを提供していくうえで欠かせないパートナーです。」と高く評価します。

小林 氏も「データマネジメントクラウドを活用しながらさまざまな取り組みを進め、基盤を活用するための人材の育成にも力をいれていきます。その際は、今後のマイクロソフトのサポートに期待しています。」と、田辺三菱製薬の取り組みにおける Azure に対する期待を語ってくれました。

[PR]提供:日本マイクロソフト