デジタル テクノロジーの進化はビジネスや社会のあらゆる領域にまで及んでいます。業務にスピードと柔軟性をもたらすため、デジタルトランスフォーメーション( DX )に取り組む企業・組織はあとを絶ちません。DX の波は教育分野にも押し寄せており、パブリック クラウドへのシステム移行に踏み切る教育機関も少なくないのが現状です。

エレクロトニクス分野において最先端の教育を展開している大阪電気通信大学では、校務・教務の課題を解決するため「 Microsoft Azure 」を採用したシステムのクラウド化を進めており、ノンコーディングで簡単にアプリを作成できる「 PowerApps 」を積極的に活用するなど、極めて先進的な取り組みを行っています。

最先端のテクノロジーを教育に活用している大学が選択したパブリック クラウドとは

東亜電気通信工学校ならびに大阪高等通信工学院として設立されてから約 80 年、大学を開設してから 60 年近くの歴史を持つ大阪電気通信大学。その名のとおり電気・通信を中心に工学に特化した学校であり、企業で活躍する技術者の育成や社会に役立つ技術の研究を行っています。デジタル技術の進化や社会のニーズに合わせ、ロボットのエンジニアを育成する電子機械工学科、また建築学科、医療科学科など、さまざまな学部・学科を展開。大阪府にある3つのキャンパスを中心に、次世代テクノロジーを学ぶための環境を構築しています。

大学をはじめとした高等教育機関では、従来のオンプレミスのシステムをクラウドへと移行するケースが増えてきています。とはいえ、大学は学生・職員・教員から成る大規模な組織で、膨大な個人情報を扱っています。そのためシステムの安定運用とセキュリティの担保は不可欠な要素であり、学外でデータを管理することになるパブリック クラウドの導入に不安を感じるケースもめずらしくありません。大阪電気通信大学でも同様の課題を抱えており、導入を決定するまでに細かな検討を進めてきました。

大阪電気通信大学 工学部電子機械工学科 教授/メディアコミュニケーションセンター長/ICT社会教育センター長代理 兼宗 進 氏

大阪電気通信大学 工学部電子機械工学科 教授/メディアコミュニケーションセンター長/ICT社会教育センター長代理 兼宗 進 氏

大阪電気通信大学 工学部電子機械工学科 教授/メディアコミュニケーションセンター長/ICT社会教育センター長代理の兼宗 進 氏は、クラウド導入の経緯をこう語ります。

「管理面やコスト面だけでなく、スピード感を上げるための施策として以前よりクラウドの導入を検討していました。導入に踏みきった理由はいくつかありますが、実際の運用に耐えうるパブリック クラウドの環境が整ってきたことが大きなポイントになります。大学は学生の成績情報をはじめ、多種多様な個人情報を扱っています。これを学内に置かれたサーバーからクラウドに移行してよいかどうかは最大の懸念点でした。数年間の調査と議論を経て、『このレベルなら安心して預けられる』という判断を下しました」(兼宗 氏)。

そして、数あるパブリック クラウドサービスの中から大阪電気通信大学が選択したのは「 Microsoft Azure 」でした。その理由として、安定運用とセキュリティ面での懸念を払拭する機能を持ったサービスであることはもちろん、マイクロソフトが提供するさまざまなソリューションとの相互運用性が抜群だったことも挙げられます。同大学では、現在運用しているシステムすべてをクラウドに移行するのではなく、必要な部分から段階的に移行させていくといったアプローチ、すなわち「ハイブリッド クラウド」環境の構築を進めていくことになります。もともとオンプレミスのソリューションを数多く展開してきたマイクロソフトのクラウド サービスならば、オンプレミス環境との連携も容易であると考えたのです。

「一度決めてしまったら簡単に変更できないという考えから、パブリック クラウドの選定にはかなりの時間をかけました。提供するベンダーの社風やポリシーからそれぞれのサービスが持つ特徴が現れており、Microsoft Azure からは『業務を行うユーザーの気持ちに寄り添う』イメージが見えてきました。これがMicrosoft Azureを選ぶ決め手となったといえます」(兼宗 氏)。

大阪電気通信大学 メディアコミュニケーションセンター 情報システム課 課長 西木 毅 氏

大阪電気通信大学 メディアコミュニケーションセンター 情報システム課 課長 西木 毅 氏

また、クラウド導入を検討するうえで、単なるコンピューティングに止まらず、連携可能な各種ツール・サービスにも注目したといいます。大阪電気通信大学 メディアコミュニケーションセンター 情報システム課 課長の西木 毅 氏は、Microsoft Azure を採用した大きな理由として、ノンコーディングでクラウドを利用した業務アプリを作成できるツール「 PowerApps 」が低コストで利用できたことを挙げます。

PowerApps は、Office 365 や Dynamics 365 のプラン(一部のプランを除く)を契約していれば無償で利用でき、Microsoft Azure と組み合わせることで、コストをかけずにクラウドを利用した業務アプリの開発・運用が行えます。実際、同大学ではオンプレミス システムのクラウド移行と併行して PowerApps による業務アプリ作成を進めており、すでに運用を開始して成果を上げている業務も出てきています。

クラウド移行による業務効率化を支えるソリューションの開発

大阪電気通信大学で Microsoft Azure の導入が承認されたのは 2018 年 6 月で、Microsoft Azure のコンピューティング特性を確認しながら、段階的なクラウド移行を開始。現在はポータル システムの構築を進めており、2019 年末より校務向けシステムのクラウド移行に着手、2019 年度中に予定していた移行作業を完了させる計画です。先に述べたように、同大学ではすべてのシステムをクラウド移行させるのではなく、オンプレミスの環境に合ったシステムはそのまま残すハイブリッド クラウドを目指しています。

大阪電気通信大学に限らず、多くの教育機関では「コストの最適化」と「パフォーマンスの向上」との相反する課題を解決するための手段として、クラウドの導入に注目しています。ただし、クラウド サービスの選択からシステムの構築・運用までクリアすべき課題は多く、生産性の高い業務にシステム担当者のリソースを割り振れない状況に陥る可能性は高くなります。そのため、導入ベンダーにすべてを任せてしまうケースも少なくありませんが、同大学では IT インフラ構築をサポートする西日本電信電話株式会社(NTT西日本)のアドバイスを受けながら、学内のシステム担当者主導でクラウドへの移行を進めてきました。

  • 大阪電気通信大学 メディアコミュニケーションセンター 情報サービス課 課長 岩村 真吾 氏、情報システム課 課長補佐 甲斐嶋 政徳 氏

大阪電気通信大学 メディアコミュニケーションセンター 情報サービス課 課長の岩村 真吾 氏は「オンプレミスとネットワークの構築方法が大きく異なるため、まず何をすればよいのかわかりませんでした。」と語り、同 メディアコミュニケーションセンター 情報システム課 課長補佐の甲斐嶋 政徳 氏も「クラウドでは実際のハードウェアが見えないので戸惑いました。」と、オンプレミス環境とは異なるクラウド環境構築の苦労を述べます。ただ、クラウドの特性を把握してからはスムーズに導入を進められたといい、Microsoft Azure が実現する柔軟性の高さが感じられます。

西日本電信電話株式会社 ビジネス営業本部 アドバンストソリューション営業部の杉山 太一 氏は、Microsoft Azure へのシステム移行と合わせ PowerApps の活用を進める同大学の取り組みが非常に先進的なものであると話します。

西日本電信電話株式会社 ビジネス営業本部 アドバンストソリューション営業部 杉山 太一 氏

西日本電信電話株式会社 ビジネス営業本部 アドバンストソリューション営業部 杉山 太一 氏

「弊社は西日本の大学におけるシステム構築を支援しておりますが、最近ではMicrosoft Azureの導入案件が非常に増えてきています。ただし、これまでサポートしてきた数多くの事例のなかで、Microsoft Azureの導入と同時にPowerAppsを使ったアプリ開発を行っているのは、大阪電気通信大学様だけでした」(杉山 氏)。

同大学では、以前より「事務の効率化」を推進しており、教育機関の多くで課題となっている紙の文化の払拭、すなわちペーパーレス化の実現に注力しています。兼宗 氏は、Microsoft Azure の導入を大学内の業務改革を実現する DX と位置づけて取り組みを進めており、そのなかで PowerApps が重要な役割を果たしていると語ります。

「紙で行ってきた作業をデジタル化するには、ひとつひとつアプリを開発または外注する必要があり、コストと時間がかかりすぎるため実現が難しい状況でした。Microsoft Azure と PowerApps という道具が揃ったことで、長年の課題を解決できる環境が整ってきたと感じています」(兼宗 氏)。

PowerApps の導入を大きな問題なく進められたのは、インフラ周りを含めたNTT西日本のサポートによるものが大きいといいます。杉山 氏は、マイクロソフトが提供するコラボレーションツール「 Microsoft Teams 」を活用することで、密接なやり取りを実現できたと語ります。

「西木様からご提案いただき、Microsoft Teams を使ってサポートを行いました。弊社はいまだにメール中心で業務を行っており、今回は Microsoft Teams を本格導入したはじめての事例となります。実際に使ってみて “すべてが速い”という印象を受けました。関係するメンバー全員にリアルタイムで情報が伝わり、非常に効率的に業務を進めることができました。この成功体験を社内で共有し、現在は他のプロジェクトでも Microsoft Teams を活用する機会が増えてきています」(杉山 氏)。

マイクロソフトでは、Microsoft Teams を使って教育分野のユーザー会を始めており、教育関係者 の IT 活用情報を効率的に共有できる環境構築に着手しています。DX の推進において Microsoft Teams が担う役割は、今後ますます大きくなることでしょう。

スピーディな開発で現場のニーズに対応する PowerApps を有効活用

実際に PowerApps を使って業務アプリを作成している西木 氏は、パブリック クラウド選択に向けた調査を進めるなかで PowerApps の存在を知り、ノンコーディングで容易にアプリを作成できることに興味を持ったと導入の経緯を語ります。マイクロソフトでは、Microsoft Azure でシステム運用やセキュリティ対策といった顧客の負担を担い、PowerApps で従来のアプリ開発に費やす顧客の負担を軽減することで、生産性の高い業務に専念できる環境を提供します。ノンコーディングで IT 部門でなくてもアプリを構築できる PowerApps を導入することで、業務の現場が抱える課題をスピーディに解決できるようになります。西木 氏が PowerApps でのアプリ作成を試したときの感想は「ここまでできるのか!」というものでした。

西木 氏は事前知識なしでアプリの作成を開始し、その日のうちにある程度の形を作れたといい、2 週間程度で目的のデータベースシステムを構築できたと驚きを口にします。作成したアプリはブラウザから利用でき、PC でもモバイルデバイスでも同じ感覚で利用することが可能。さらに、同大学で契約しているライセンスの範囲内で利用できたため、追加のコストもほとんどかかりませんでした。

「データベース関連で追加のサービスを契約しましたが、それでも 1 つのアプリを作成するのにかかったコストはわずかです。通常、大学のシステムはかなり費用がかかりますが、それに比べると非常に安価に業務システムを構築できたことになります」(西木 氏)。

さらに西木 氏は、スクラッチ&ビルドが容易に行えることも PowerApps の大きな魅力と力を込めます。兼宗 氏も「早めのタイミングでユーザーにレビューしてもらうことができ、問題点をスピーディに改善できます。」とPowerApps が実現するスピード感を評価。

西日本電信電話株式会社 ビジネス営業本部 アドバンストソリューション営業部 文教担当 営業グループ 廣瀬 絢音 氏

西日本電信電話株式会社 ビジネス営業本部 アドバンストソリューション営業部 文教担当 営業グループ 廣瀬 絢音 氏

西日本電信電話株式会社 ビジネス営業本部 アドバンストソリューション営業部 文教担当 営業グループの廣瀬 絢音 氏も、Microsoft Azure や PowerApps といったクラウドサービスのメリットはスピードにあると語ります。

同大学では、PowerApps を活用することにより、これまで紙ベースで行っていた業務のデジタル化をスピーディに実現しました。パッケージ化された市販のソフトウェアでは対応しきれないニッチな業務を対象にアプリ開発を進めており、最近では、教員が試験を行う際の確認をオンラインで行えるようにしました。これにより、大学に常駐していない非常勤の先生への確認もスムーズに行えるようになり、職員・教員双方の業務効率化を実現しています。

また、職員が高校を訪問して情報交換を行う際のシステムも PowerApps でアプリ開発し、高校名を検索するだけで各種情報や前担当者の申し送り事項、訪問履歴が確認できるようになり、訪問する職員の業務効率化に成功しました。さらに、これまで高校に訪問する際に印刷して持ち運んでいた情報をクラウド経由で管理することで、タブレットやスマートフォンで閲覧できるようになり、セキュリティの強化も実現することができました。

  • 高校の訪問履歴を検索するシステムを PowerApps で構築

    高校の訪問履歴を検索するシステムを PowerApps で構築

自治体や企業にまで ICT の知見を広め、持続的な社会貢献を展開

大阪電気通信大学の今後の展開としては今年度中に Microsoft Azure への移行を完了させると同時に、可能な限りのペーパーレス化を実現することを目標としており、そのために PowerApps を最大限活用していく予定です。

また、校務中心の Microsoft Azure + PowerApps の活用を教務分野にも広げ、マイクロソフトのソリューションを学生や教員にも有効活用してもらえるようにしたいと教務サービスを担当している岩村 氏は語ります。

「今後は、学生の各種申請システムを PowerApps や Microsoft Forms で構築したり、Office 365 の Office アプリを学生同士の共働学習に利用したりといった活用方法も考えています」(岩村 氏)。

大阪電気通信大学では「地域から必要とされなければ存在価値がない」という理念に基づき、2018 年に「 ICT社会教育センター」を設立しました。小・中学校や高校をはじめ地方自治体への情報教育やプログラミング教育の支援も進めており、寝屋川市や四條畷市、守口市、大阪市の小学校のプログラミング授業などを行っています。同センター長代理も務める兼宗 氏は、茨城県から要請を受け、同県が展開するプログラミング・エキスパート育成事業も支援しており、選抜された生徒のプログラミング教育を担当しています。さらに、自治体の子どもや先生だけでなく、企業の従業員向けにデータサイエンスや AI・機械学習の技術を教える AI セミナーを開始するなど、地域をはじめ社会全体への貢献を目指す同大学の理念に沿った活動を積極的に展開しています。

このように、先進的な DX に取り組み、ICT の豊富な知見を大学内にとどまらず、地域社会にも広げていく大阪電気通信大学の実践とマイクロソフトソリューションの活用方法は、地域で得た学びを地域に還元し、さらに地域と共に発展・成長していく大学の新しい在り方として、今後も注視していく必要があるでしょう。

  • 大阪電気通信大学と西日本電信電話株式会社

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