テクノロジーの進歩によって、多くの場面で AI サービスが活用されるようになりました。カスタマー サポートの一部を自動化できるチャットボットもそのひとつです。AI による自然言語の推論や会話ログの学習によって、ある程度は自然な対話で、ユーザーの不明点を解消することが可能となります。

チャットボットは導入が進んでいるものの、FAQ データの準備や回答のチューニングに時間がかかってしまい、コストが膨らんで期待通りの成果をあげられていない、というケースも少なくありません。

しかし、freee株式会社が 2019 年 7 月に導入したチャットボットは、開発にわずか 1 カ月半しか要しませんでした。それでいてユーザーからの問い合わせを 2 割以上減少させています。Microsoft Azure の Cognitive Services を用いて構築された「人事労務 freee 」のチャットボットは、まさに「お手本」となるような開発プロセスを経て、ユーザーの困りごと解決に貢献しているのです。

人事労務 freee ユーザーの多様な悩みを解決するために

freee は個人事業主や中小企業向けに、事務管理を効率化するためのクラウド サービスを提供しています。経理業務を皮切りに、会社設立、給与計算、労務管理とその領域を広げていき、2019 年には東証マザーズへの上場を果たしました。クラウド会計・人事労務ソフトの法人シェアにおいては、国内トップを占めています。

「人事労務 freee 」は、同社が提供しているサービスのひとつです。給与計算や勤怠管理、年末調整、入退社手続きといった人事労務を包括するシステムが、クラウドで提供されています。

確定申告という繁忙期を終えた 2019 年 4 月、同社でユーザー サポートを強化するための企画会議が行われました。いまこの段階で、ユーザーの悩み・困りごとを解決するために、もっとも適した施策はなんだろうか? 新たに選ばれたツールは「チャットボット」でした。

チャットボットとは、テキストで会話のような応対をするプログラムのことです。わからないことや困ったことがある場合、その語句を入力すれば「従業員が退職した場合の freee での操作方法に関してご案内いたします」のようなメッセージが自動的に返ってきます。

チャットボットは 2016 年から、会計ソフト freee のサポート ツールとして試みられていましたが、ノウハウの習熟と人事労務分野での成熟を見計らって、今回新たに「人事労務 freee 」への導入が決定されました。

freee株式会社 Support & Service Division Product Communications 川後田 利奈 氏

freee株式会社 Support & Service Division Product Communications 川後田 利奈 氏

人事労務 freee のユーザー サポートについて、従来はこのような課題があったと、freee株式会社 Support & Service Division Product Communications 川後田 利奈 氏は言います。

「 freee は SaaS サービスとして独自の世界観があり、使う言葉も専門的です。既存のプロダクトに慣れているユーザーに利用してもらうには、伴走するようなサポートが不可欠です。特に人事労務は 1 年間に 1 度しか発生しないようなイベントが多いため、そのたびに操作方法を思い出してもらわねばなりません。しかし、サポートに人が介在し続けるとコストが膨らんでしまいます。開発の未来に投資できるようにするためには、お客様自身が『セルフ解決』できるような仕組みを用意することが必要だと考えました」(川後田 氏)。

もちろん freee 内には膨大なヘルプ ページがありますが、そこから適切な答えを探すには慣れが必要です。たとえば、本当は従業員の退職処理をしたいのに「従業員 削除」で検索しては答えを見つけることができません。自然言語から意図をくみ取り、答えをキュレーションできるツールとして、チャットボットが選ばれたのです。

  • チャットボット

コンセプトを明確化し、1 カ月半の高速開発を実現

人事労務 freee へ導入されたチャットボットは、Cognitive Services によって構築されています。

freee はもともと他のチャットボット サービスを利用していました。同社が Microsoft Azure を本格的に使うのは、これが初の試みとなります。今回、新たに Cognitive Services を選んだ理由について、freee株式会社 smb-AI-Lab Data Scientist 薄井 研二 氏は次のように説明します。

freee株式会社 smb-AI-Lab Data Scientist 薄井 研二 氏

freee株式会社 smb-AI-Lab Data Scientist 薄井 研二 氏

「今まで使っていたチャットボット サービスの一番の課題は『データが見えない』ことでした。freee は具体的な数値・データに基づいて判断するデータ ドリブンを志向しているのですが、どんな質問にどんな回答を表示したのか分からないのでは、改善のしようがありません。比較したチャットボット製品の中で、もっともデータを取得することができ、拡張性が大きく、それでいてコスト パフォーマンスが高かったものが Azure Bot Service と Cognitive Services だったのです」(薄井 氏)。

バージョン管理のしやすさもまた、Azure Bot Service を選んだ理由だと薄井 氏は続けます。

「コードでチャットボットを表現できることもエンジニアとしては魅力でした。Microsoft Azure の他機能と連携させることも容易ですし、GitHub にソースコードを置くことで変更履歴が保存できます。『最近どうも受け答えの精度が悪くなっているから、半年前のバージョンから追っていこう』という対策も、Azure Bot Service ならば可能になるのです」(薄井 氏)。

先述した通り、チャットボットの導入が決定したのは 2019 年 4 月のことです。それから3 カ月後の 7 月 2 日に、この新たなサポート ツールが人事労務 freee へと登場しました。実質的な開発期間はわずか1 カ月半だったとのことです。なぜここまでのスピードでリリースすることが可能だったのでしょうか? その秘訣は「チャットボットで解決する課題を明確にしていたこと」だと川後田 氏は明かします。

「チャットボットを導入する場合『こんなこともできないか』と、ビジネス サイドから夢のような要望が押し寄せることが多いと思います。そうならないよう、今回は『過去のカスタマー サポートで X 分以内に解決している問い合わせ』のために導入すると明確に定めました。やはり 1 時間かかるような問い合わせは複雑なケースが多く人の助けが必要です。チャットボットはどんな性質なのか、何ができないのか、といったことを初めに周知しやることを明確にしたことで、プロジェクトに集中して取り組むことができたのです」(川後田 氏)。

過去の問い合わせを精査し、製品や支払いなど約 50 件の回答が選ばれました。その後は手作業で、それぞれの質問ごとに 20 パターンの言い回しを作っていきます。こうした FAQ データ作成と並行して、Azure 上での設計が進められました。

「自然言語入力処理の『 Language Understanding ( LUIS ) 』で質問文を解析し、チャットボット サービスの『 QnA Maker 』で返すというシンプルな構造です。Azure を使うのは初めてでしたが、ドキュメントを読み、チュートリアルに従うだけですぐに作ることができました。ロギング用の DB は将来を見据えて、一番拡張性の高い Azure Cosmos DB を選んでいます」(薄井 氏)。

  • システム構成図

freee には「スピード」を特に重んじる社内文化があります。従業員の 3 割以上がエンジニアである同社は、少数精鋭での高速開発を得意としているのです。今回のプロジェクトも、スタート段階での目的・仕様を厳密に設計し、共有することによって、素早いリリースを可能にしたのでした。

問い合わせの 2、3 割減少に成功。社内からも大きな期待が集まる

人事労務 freee のチャットボットは「この機能に関する質問を減らす」という具体的なKPI を定めたうえで導入されました。

導入後の評価について、川後田 氏は次のように話します。

「狙い通り、対象のお問い合わせが 2、3 割減少しました。目に見えて効果が出ており、お客様を悩みから救ってあげることができたと思います。また、従来のお問い合わせ対応にかかっていた時間と人件費から算出する費用を比べても、このチャットボットはコスト パフォーマンスに優れています。開発に要した人手と費用を鑑みて、すぐにペイできる範囲です」(川後田 氏)。

また、マイクロソフトのサポートについて、薄井 氏はこう評価します。

「 Microsoft Azure は特にトラブルもなく、期待通りに動いてくれています。マイクロソフトのサポート対応はすごい安心感があって、見習わなきゃいけないと強く思いました。メールで質問すると 1 営業日以内に必ず返ってきて、技術的なことも『課題に感じているのはこの部分でしょうか』と、電話でヒアリングしたうえで対応してくれるんです」(薄井 氏)。

freee の社内からも、今後の発展に向けた期待が集まっていると川後田 氏は言います。

「社内 SNS でリリースを発表したところ、社内 SNS のトレンドに載ったほど注目が集まりました。『ユーザーがこういうことで困っているから、こんな回答を追加できないか』という改善提案が、営業やカスタマー サポートといったいろいろな部署から集まっています」(川後田 氏)。

データ ドリブンによってユーザー サポートのさらなる改善を

人事労務 freee のチャットボットは、リリース後も UX の改善が進められています。サポート デスクと勘違いされないように「 AI アシスタント」と明記したり、長文が入力されないようにプレス ホルダーに「給与明細」「勤怠管理」といった語句を表示しておいたりと、ユーザーの誤解を防ぐためには細かい調整が必要なのです。

「今は一問一答しかできませんが、今後はいくつかの選択肢を用意したシナリオ型も用意したいと思っています。また、さらに『セルフ解決』を手助けするために、モバイルアプリユーザーにもチャットボットを提供することを検討しています」(川後田 氏)。

また、薄井 氏からは、さらなる改善に向けて、マイクロソフトに対する次のような期待が寄せられました。

「改善点をリコメンドしてくれるような機能があればと思います。たとえば『このキーワードが含まれた場合、また質問されることが多い』とか『このキーワードを回答に含むと、離脱率が上がる』といったことを教えてくれれば、改善スピードも早まるでしょう。セキュリティ ソフトのダッシュ ボードが警告やリコメンドを発してくれるように、データ分析も手助けしてくれると嬉しいです」(薄井 氏)。

高速で新たなサービスを開発し、データ ドリブンによって明確な改善を重ねていく freee は、Azure の利用によって、より理念に合致したチャットボットを手に入れました。同社は今後も、あらゆるビジネスを支えるプラットフォーマーとして飛翔していくことでしょう。

  • freee株式会社 薄井 研二 氏と川後田 利奈 氏

[PR]提供: 日本マイクロソフト