商品の情報を見たいだけなのに個人情報やアカウントの登録をさせられたり、知らないうちに製品やサービスを定期購入させられたり──。Webサイトやアプリを利用していて、事業者に誘導されるまま“望まない選択”をさせられたと感じたことはないでしょうか。
近年、こうしたわかりづらい表示や面倒な手順などにより、利用者本人が意図しない選択や行動へ誘導されてしまうWebサイト上の設計「ダークパターン」に対する社会的な関心が高まっています。こうした課題を受け、利用者に配慮したWebサイト設計や運用体制を見直す取り組みも広がりつつあります。その実効性のある取り組みのひとつとして注目を集めているのが『NDD(Non-Deceptive Design=非ダークパターン)認定制度』です。
今回は、そのNDD認定制度を運営する一般社団法人 ダークパターン対策協会 事務局長の石村卓也氏と、今年8月にNDD認定を取得した「マイナビ学生の窓口」編集長の降旗靖夫氏の対談を実施。NDD認定取得を目指す過程でどのような課題に直面し、どのような変化が生まれたのか、またNDD認定が企業と利用者の双方にどのような価値をもたらすのかを、それぞれの立場・視点から語ってもらい、“信頼されるWebメディア”のあり方を考えます。
なぜ、今『NDD認定制度』が必要とされるのか
──まずダークパターンの現状について教えてください。
石村氏:Webサイトの閲覧やECサイトの利用において、利用者に不利益や不快感をもたらすグレーゾーンの手法を、我々はダークパターンと呼んでいます。1回限りの購入のつもりが定期購入になっていたり、サブスクリプションサービスの解約方法が分かりにくかったり……。ほかにも、手数料などの追加で発生するコストが決済直前まで明示されない、実態と異なるセール終了時間や在庫数表示で購入を急かせるなど、さまざまな手法があります。
オンラインサービスの競争激化もあって、こうした利用者に分かりづらい導線の設計や過度な誘導が行われるケースが増えており、金銭的な被害も年々拡大する傾向にあります。我々が今年実施した調査では、ダークパターンによる国内の被害総額は年間約2.4兆円~約3.2兆円規模にのぼると推計されています。
──すごい規模ですね。
石村氏:このような現状を憂慮した業界の有志が集まって、2024年にダークパターン対策協会を設立しました。そして消費者をダークパターンによる被害から守ると同時に、事業者が意図せずダークパターンを用いて消費者からの信用を失うリスクを低減させる実効性のある対策としてNDD認定制度を創設し、運用を続けています。
──「マイナビ学生の窓口」はそのNDD認定を8月に取得していますね。認定取得を目指した理由を教えてください。
降旗氏:「マイナビ学生の窓口」は学生生活に関する情報や、就職・キャリア形成などの将来の進路選択にかかわる情報を発信しているメディアです。従来からPVやクリック率などの指標だけでなく、読者と一緒にコンテンツを作ることや、誠実に情報を届けることなどを大切にしてきました。
近年、フィッシング詐欺や闇バイトなど、オンライン上で利用者を誤認させたり、不適切な判断へ誘導したりする事例が社会問題となっており、実際にその被害に遭う学生も少なくありません。若年層を取り巻くデジタル上のリスクが多様化するなか、リスクマネジメントにつながるコンテンツを充実させていたところ、NDD認定制度が創設され、その趣旨や社会的意義に共感して取得を目指すことになりました。
石村氏:若年層の方はデジタルサービスとの接点が多い一方で、協会の大学生調査では、ダークパターンという言葉を知っていた人は2割未満でした。しかしながら、代表的なダークパターンに該当しうる経験をした学生は約4人に3人でした。若年層にとっても、こうした設計は身近な問題です。そのような若者たちが安心して利用できるサービス・環境を整えるのは大きな意義があること。「マイナビ学生の窓口」がNDD認定を取得すると伺ったとき、利用者との信頼関係を大切にしたいという強い意志の表れだと感じました。
降旗氏:“学生に信頼されるメディア”であるためには、情報の内容だけでなく、その届け方も重要です。NDD認定ではWebサイトのUI/UXの見直しはもちろんですが、利用者との向き合い方や、組織内部の体制づくりにまで焦点を当てているところに好感を持ちました。
──事業者がそのような取り組みを求められるのはなぜでしょうか。
石村氏:NDD認定は、Webサイトの表示内容や、ダークパターンを防止・是正するための組織的体制・運用ルールを、協会の基準に基づいて審査し、基準を満たしたWebサイトにNDD認定マークを付与する制度です。つまり、企業が利用者と誠実に向き合いながらWebサイトを設計・運営していることを示す役割を持っています。
利用者がその企業のWebサイトを安心して利用するには、企業が継続的に改善をしていくことも大切です。そのためUI/UXの見直しだけでなく、社内の責任者を任命することや、消費者からの問い合わせ窓口の設置、ダークパターンが発生していないかのレビュー体制の整備、発生してしまった場合に是正できる体制の構築などの「組織的対策」を求めています。
認定取得の過程で「マイナビ学生の窓口」が直面した課題と取り組み
──認定取得を目指す上で、「マイナビ学生の窓口」にはどのような課題がありましたか?
降旗氏:我々としては編集方針や日々のオペレーションなどをきちんとやっているという認識でいたのですが、どこか気づきにくいところで“おごり”や“慣れ”が出てしまっているかもしれないというのがいちばんの課題だったと思います。そこで組織の見直しや、オペレーション一つひとつの改善、利用者視点での再チェックなどに取り組んできました。
たとえば、サイト内の導線や表示ルール、ディスクレーマー(免責事項)などの見直し。経験値の少ない若年層の読者目線で見たときに、きちんと選択肢が確保されているかどうかのチェック。また、退会処理などユーザビリティに関しても見直しを行い、迷わず手続きできるようにしました。組織的対策については、体制を急に変えるのは難しいので、時間をかけて見直しを行いました。
──どれくらい時間がかかったのでしょうか。
降旗氏:NDD認定制度の立ち上げ時から取得したいという意向はあったので、トータルでは2年ほどかかりました。その中で大変だったのは、やはり日々のオペレーションを見直して課題を洗い出すところですね。ルーティンになっている部分などもあるので、課題を見つけて言語化するというのが意外と難しかったです。ただ、運営方針を含めてそういった部分を整理する機会になったのは非常によかったと思います。
石村氏:UI/UXに関しては比較的目に見えやすい部分なのでダークパターン対策ガイドラインに沿って改善しやすいのですが、組織的対策や内部設計などは、我々から見てもやはりご苦労されていた印象がありましたね。
降旗氏:編集部だけで完結するものではありませんから。システム開発や法務など関係部署が多く、きちんと社内でコミュニケーションをとって連携しながら組織全体で取り組む必要がありました。
その際、社会経験が十分でない若年層との接点が多い「マイナビ学生の窓口」が率先してダークパターン対策の意義を伝え、他部署の理解を得られたことがスムーズな連携につながりました。こうした機会がないと組織全体での見直しはなかなかできないので、結果的にとてもよかったと思います。
石村氏:企業規模が大きいほど関係者も増えるので、社内調整に時間がかかる傾向はあります。ただ、必ずしも全社でNDD認定取得に対応するための体制をゼロから構築しなければならない、というわけではありません。また過度に厳しい基準を設けているわけでもありません。あくまで認定を受けるWebサイトを管理・管轄している組織の範囲内で組織的対策やUI/UX改善などに対応すれば認定取得は可能です。また、Webサイトを運営している企業でしたら、実はすでにUI/UXのレビューや問題があった場合に是正する仕組みなど、基本的な体制を持って運営されていることが多いです。そこにダークパターン対策という観点を組み込んでいただければ対応ができるケースがほとんどだと思います。
──認定取得のプロセスを通じて得た“気づき”はありますか?
降旗氏:我々は会員向けのイベントを開催したり、コンテンツを提供したりしていますから、会員を減らしたくないという意識があります。その視点で言うと、退会手続きをスムーズにするのはネガティブなことですよね。しかし視点を変えれば、我々のメディアとしての信頼性が増すのではないかと気づき、意識もポジティブに変化していきました。大人の目線で発信していると、その辺りがどうしても気づきにくいですよね。
会員の中には、大学に入学したてで一人暮らしを始めたばかりの方や、初めて口座を開く方などもいます。そういった方のガイド役にならなければならないメディアなので、Webサイトを利用する際に、より迷わせないという観点を持てたのは大きな変化でしたし、これからもっと変わらなくてはいけないと自戒しました。
NDD認定が目指す未来 - 企業と利用者の信頼関係をどう育てていくか
──企業にとって、NDD認定を取得することによって得られるメリットを教えてください。
石村氏:認定取得によって、利用者に誠実に向き合っている企業であることを示すことができ、利用者との信頼関係の構築や継続的な利用につながるため、中長期的に見て顧客のLTV(ライフタイムバリュー)の向上が期待できます。また、利用者目線でサイトやサービスを見直す機会になることや、社内で共通認識を持てることもメリットに挙げられます。
UI/UXの整備は消費者の信頼獲得のために重要であるという認識を持つ企業は少なくありませんが、社内でその基準を一からつくるのは負荷もかかり大変。それを外部の認定基準や審査制度を利用することで効率的に進められるのもメリットと言えます。
降旗氏:認定を受けた企業側からすると、ブランディングになるというメリットは確かにありますね。広告主からの信頼感や安心感にもつながりますし、営業にも寄与すると思います。編集部としては、利用者に対して情報の届け方の見直しができたのが大きかったです。認定を受けて本当によかったと実感しています。今後は採用候補者やステークホルダーへの説明などにも広げていけたらと考えています。
──利用者側にとってはどのようなメリットがありますか?
石村氏:Webサイトやアプリで気軽にオンラインサービスにアクセスできますが、企業側がどのような考え方で設計・運用しているかを利用者が判断するのは難しいですよね。NDD認定マークは利用者が、誠実なWebサイト設計や運用体制に取り組むサイトを見極める際の一つの判断材料になります。安心してWebサイトを利用できるようになるのがメリットです。
近年、消費者庁主導で消費者志向自主宣言の取り組みが推進されており、さまざまな企業が自社の理念や取り組み方針を表明されています。ただ、利用者が実際に企業と最初に接するのはWebサイトであることが多い。いくら消費者志向経営に賛同して取り組み方針を掲げていても、誤認を招く表記や分かりにくい導線があれば、利用者にその理念は伝わりません。NDD認定は消費者志向の考え方をWebサイトの表示や運用体制にどう落とし込んでいるかを確認する一つの仕組みとしても機能するのではないかと期待しています。
──NDD認定が普及すれば、Webサイトやインターネット利用環境も変わっていきそうですね。
石村氏:オンラインサービスの競争激化もあって、現在はCVRや短期的な売上を強く意識する中で、結果として過度な訴求や分かりにくい導線につながってしまうケースもあります。
NDD認定マークが普及すれば、企業同士がCVRを競って消費者を過度に誘導して囲い込もうとしても、結局消費者に見抜かれてしまうため、競争のベクトルも変わってくると思います。消費者に誠実で分かりやすいサイト設計を心がけて「商品やサービスの本来の品質・価値」を競い合うような世の中になっていくといいなと思います。それによって消費者が企業を信頼し、企業も消費者から継続的に選ばれるようになると理想的ですよね。そうした消費者と企業の信頼関係の好循環が生まれる世の中を目指し、我々も日々活動を続けています。
降旗氏:今、AIの普及もあってWebサイトやSNSで“できること”が広がっていますよね。若い方の情報収集力や発信力もどんどん上がってきています。でも企業と利用者が健全な関係じゃないと、せっかくのそういった力が鈍ってしまう。その意味でも、NDD認定の客観性や利用者が不必要な不安や迷いを感じにくい環境づくりは重要だと思います。Webサイトに安心してアクセスし、オンラインサービスをアクティブに活用できるような環境をみんなで作っていくための仕組みとして活用していけたらと思います。
──そんなNDD認定の取得を検討している企業に対してメッセージをお願いします。
石村氏:我々のホットラインに寄せられる通報を見ていると、悪意はなくても結果的にダークパターンの手法になって消費者の不満を買っているケースが少なからずあります。自社は大丈夫と思っている企業も、ぜひ他人事と考えず運営体制を見直す機会として活用いただきたいですね。そして、声を上げて誠実なデジタル社会をリードしていただけたら。悪意を持ってダークパターンを使用する企業がビジネスしづらくなれば、自然と健全な商取引環境やデジタル社会につながっていくと考えます。
NDD認定自体は、決して消費者と事業者を対立させるものではありませんし、企業の欠点を指摘するための制度でもありません。あくまで利用者にとって分かりやすく誠実なサービスを実現していただくためのもの。ちなみに審査は、「事業者による自己審査」、「ダークパターン対策協会が指定する認定審査機関による一次審査」、「ダークパターン協会の企業審査局による最終審査」の3段階あります。そのうち自己審査は無料で自社で進めていただけます。ガイドラインやチェックシートも無料公開していますので、ぜひその一歩から取り組んでいただければありがたいと思います。
降旗氏:今回NDD認定を取得するまでのプロセスで、利用者目線に立ってWebサイトや運営体制の見直しをすることができ、新たな“気づき”を得られたのが大きな成果でした。もう一度その視点に立ち返って運営をし、利用者にとって価値あるものを届けていきたいと思っています。NDD認定は取得するのがゴールではなく、維持して継続していくこと、社会の変化に合わせて改善していくことが大事。それが利用者との長い付き合いにつながっていくと考えています。
石村氏:現在、消費者庁の有識者検討会により、2026年8月から9月にかけて、消費者庁の「デジタル取引・特定商取引法等検討会」と「現代社会における消費者取引の在り方を踏まえた消費者契約法検討会」の双方が中間取りまとめ案を公表し、いわゆるダークパターンに関する規律を含む制度改革の方向性が示されました。今後の制度具体化を見据えても、企業が早い段階から自社の表示や導線を見直しておく意義は大きいと思います。
──ありがとうございました。
利用者から信頼されるWeb体験の実現を目指して
Webサイトの表示内容や、ダークパターンを防止・是正する組織的体制・運用ルールを基準に基づいて審査し、基準を満たしたWebサイトにNDD認定マークを付与するNDD認定制度。単なる認証マークを付与する仕組みであるにとどまらず、消費者が誠実なWebサイトを見極めやすくし事業者が意図せずダークパターンを用いて消費者からの信用を失うリスクを低減させる役割を担っています。
今回の「マイナビ学生の窓口」の事例からも分かるように、企業にとっては認定取得のプロセスそのものが利用者視点での見つめ直しになり、よりよいWebサイトへと進化させる機会につながっています。
利用者にとっては、誠実な設計に取り組むWebサイトを見極めるための一つの目安として。企業にとっては、利用者視点の取り組みを継続し、信頼を積み重ねていくための仕組みとして。
NDD認定が広がることで、企業と利用者のより健全な関係が育まれていくでしょう。信頼されるWeb体験の実現に向けた挑戦は、これからも続いていきます。
[PR]提供:一般社団法人 ダークパターン対策協会









