[取材先] 株式会社フカガワ(埼玉県)
本記事は2026年4月時点の情報に基づいて作成しています。

オフィスやマンション、商業施設の天井裏には、空気の通り道である「空調ダクト」が張り巡らされています。

空調ダクトの製造機器と関連部材を手がけ、業界で大きな存在感を持つのが埼玉県の株式会社フカガワです。同社は時代の変化に応じた機器の製造・販売にとどまらず、これまで現場の努力でカバーされてきた業務の非効率を解消すべく、DXを軸に業界全体の生産性向上につながるソリューションを提供しています。取引先と一体となって成長を続ける同社の戦略について、代表取締役社長の深川 和己氏に、オリックス さいたま支店の高橋 直紀がお話を伺いました。

業界の常識を超え、技術革新で現場の効率化に挑むフカガワのDNA

代表取締役社長 深川 和己氏

……まず、創業の経緯についてお聞かせください。

深川氏:1960年に、私の父が創業しました。父は特攻隊の生き残りで、戦後はダクト製造工事会社に勤務していました。ダクトの製造には、薄い鉄板の端を折り曲げてつなぎ合わせる「ハゼ加工」が必要ですが、当時は熟練の職人による手作業で仕上げるのが当たり前でした。そんな中、父はGHQが持ち込んだ「ハゼ折り機」を目の当たりにします。そこに国産化・小型化の可能性を見いだし、独立を決意。フカガワは、現代でいうベンチャー企業としてスタートしたのです。

父の予測は的中し、開発したハゼ折り機は高度経済成長の波に乗り、飛ぶように売れました。しかし一方で、「機械が頑丈であるがゆえに、買い替え需要が生まれにくい」という新たな経営課題が浮上しました。

その頃、1968年の霞が関ビルディング竣工を契機に、日本でも超高層ビルの建設が本格化し、空調ダクトの需要も急増していました。この市場の変化を捉え、当社は丸ダクトの製造・販売へと事業を拡大しました。そこで着目したのが、鋼板をらせん状に巻いて円筒状に成型する「スパイラルダクト」です。従来の工法よりも施工効率に優れることから市場に受け入れられ、業績はさらに伸長しました。

……フカガワの歴史は、技術革新の連続だったのですね。

深川氏:角ダクトの製造には、ハゼ折り以外にも手間のかかる工程が数多くあり、職人の育成にも長い時間が必要でした。例えば、複雑な形状のダクトに必要な展開図の作成には5年、鉄板を正確に切り出す技術の習得には2年かかるといわれていました。

そこで当社は、1980年代にプラズマ切断機を開発・販売し、展開図作成や切断工程の機械化を推進しました。またCAD/CAMの活用によって、職人の手作業に依存していた工程の効率化にも取り組みました。

その後も市場の変化を捉えながら、高精度なファイバーレーザー切断機を開発するなど、業界の常識にとらわれず、常にお客さまの利便性向上を追求し、新しい技術や商品を提案し続けてきました。そうした積み重ねが、現在の空調ダクト成型機・関連部材分野における国内トップクラスのポジションにつながっていると考えています。

業界の「不」を解消するDX。BIMを軸に情報を一元化

……取引先企業のDX支援にも取り組まれています。その背景にある業界の課題を教えてください。

深川氏:建設業界は、施主、設計事務所、ゼネコン、サブコン、そして当社のお客さまである専門工事業者という重層的な構造で成り立っています。その中で大きな課題となっているのが、各階層の関係者間で情報が分断されていること。それぞれが異なるCADソフトを使用しているため、データの受け渡しのたびに変換や再入力の手間が発生します。また、現場では図面の確認や部材の手配などに多くの手作業が残っています。

こうした工程をいかにデジタル化し、現場の「不」や人手不足の解消にもつなげるか。業界全体の生産性向上なくして当社の成長もないという考えから、お客さまのDXや業務効率化に貢献するソフトウエアやサービスを提案しています。

……具体的にはどのようなDXがポイントになるのでしょうか。

深川氏:鍵となるのが、「BIM(Building Information Modeling)」による情報の一元化です。

BIMは、建物の3Dモデルに部材や仕様などの情報をひも付け、設計・施工・維持管理の各段階でデータを活用・共有しやすくする仕組みです。欧米では普及が進んでおり、当社もいち早く導入するとともに、お客さまへの活用提案を進めています。

例えば現場で「梁(はり)があってダクトが通らない」といった設計変更が生じた場合でも、修正履歴を含めてクラウド上に記録されるため、将来の改修時に図面と現状が食い違うリスクを抑えられます。さらに当社では、BIMデータを自社のレーザー切断機と連携させる仕組みを構築するなど、ソリューションの高度化にも取り組んでいます。

また、AIの活用も進めています。1枚の鉄板から部材を無駄なく切り出すための配置作業を「ネスティング」と呼びますが、これをAIで自動化したところ、作業時間を大幅に短縮できただけでなく、材料使用量も平均18%削減できました。鉄鋼価格が高騰する中、歩留まりの改善は利益向上に直結する重要な施策です。

……BIMを含むDX提案について、現場の反応はいかがですか。

深川氏:当初は、長年培った経験や手作業を重視したいという職人も少なくありませんでした。また、高額なソフトウエアの導入に慎重な経営者もいます。例えばAIネスティングソフトは数百万円の導入費用がかかりますが、材料費や人件費の削減効果によって十分に投資回収できる計算です。現在は年間数十台の販売実績がありますが、まだ普及の余地は大きいと考えています。一度その利便性を実感すると、以前はアナログ派だった職人が、「早く導入した方がいい」と同業者に口コミで広げてくださることもあります。

また、CADデータの連携により、これまで数時間かかっていたCAM入力作業がわずか数分で完了するようになったことも、高く評価されています。こうした成功事例を積み重ねながら、DXの意義を業界に浸透させていきたいですね。

医師と経営者に通底する、「現場に寄り添う」思想

……深川社長は医師としての顔も併せ持つ、異色の経歴をお持ちですね。

深川氏:現在も眼科医として、複数のクリニックを運営しています。もともと父自身が医師を志していましたが、戦争によってその夢をかなえることができませんでした。その思いを私が受け継ぎ、医師になったのです。その後、医師として充実した日々を送っていましたが、父から会社に戻ってほしいと言われ、家業を継ぐことを決意しました。クリニックを開業することで、医師と経営者の両立の道を選びました。

……医師としての経験は、企業経営にどう影響していますか。

深川氏:医療現場で患者さま一人ひとりの課題解決に向き合ってきた経験は、企業経営の根幹にも通じるものがあります。医療における患者さま、ビジネスにおけるお客さま、そして組織における従業員。対象は異なりますが、「相手の役に立ち、喜んでもらう」という本質的な目的は同じです。現場のニーズを深く理解し、それに基づいた最適な提案を行う。この姿勢は、医師と経営者の両方を経験する中で、より強く意識するようになった価値観です。

リニューアル市場を見据え、次代の価値を創造する

……今後の事業環境の展望と、それに対する方針を教えてください。

深川氏:国内の建設市場では、少子高齢化の影響もあり、現在の建築ラッシュに伴う需要はいずれピークアウトすると考えています。その後は、老朽化した建物の改修、いわゆる「リニューアル市場」が拡大していくと予測しています。当社もダクトの更新工事などへの対応を強化していく方針です。

また、業界のさらなるDX推進にも注力します。自社開発のECサイト「DuctCloud(ダクトクラウド)」は、発注履歴や現場ごとの購入実績を一元管理できる点が特長です。従来アナログだった受発注業務の効率化に貢献しています。2025年には、サイトをリニューアルし、より直感的な操作性を実現しました。

さらに、IPO(新規株式公開)も選択肢の1つとして見据えながら、経営基盤の強化を進めています。営業所長や工場長などを対象とした後継者育成プログラムを実施しており、組織の成長を実感しています。

空調ダクトという専門分野だからこそ、常に危機感を持ち、新しい挑戦を続けてきました。これからも現場に寄り添い、お客さまとともに発展し続けられる企業でありたいですね。

<取材を終えて>
オリックス株式会社 さいたま支店 高橋 直紀

フカガワさまの事業の根底には、一貫して「お客さまのお役に立つ」という顧客第一の精神が息づいていると感じました。単に製品を販売するのではなく、現場に足を運び、メンテナンスを行いながら、お客さまの困りごとやニーズを丁寧にくみ取っていく。そうした積み重ねが、売り手と買い手という関係を超えた「仲間」としての信頼関係につながっているのだと思います。だからこそ、個別の商品提案にとどまらず、お客さまの課題を起点に提案の幅を広げ、業界全体の生産性向上に貢献する存在になっているのだと感じました。
フカガワさまのさらなる発展に貢献できるよう、オリックスとしても引き続きサポートしてまいります。

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