「船員」という仕事は、私たちの暮らしに欠かせない存在でありながら、その現場や業務内容はまだ多くの人にとって身近なものとはいえない現状があります。それゆえ、全国的に課題となっているのが、船員不足。そのため、現在、各地で業界の認知拡大に向けた取り組みが盛んに行われています。
徳島県阿南市の「ふなどころ阿南まちづくり協議会」も、そのひとつ。本記事では、同協議会の方々にお集まりいただき、これまでの活動やその背景、海に触れる機会づくりを続ける中で見えてきた変化や、阿南市で船員として働く魅力などについて、座談会形式でお話を伺いました。
「とにかく船員が足りない」――危機感から始まった協議会の挑戦
――ふなどころ阿南まちづくり協議会では、これまで「帆船みらいへ体験乗船」イベントの実施や「尾道海技大学校 徳島阿南校」の開講など、さまざまな取り組みを行っていますが、これまでどのような活動をされていたのか全体像から教えてください。
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ふなどころ阿南まちづくり協議会は、阿南市内の船主をはじめ、阿南市や地元の金融機関や商工会議所などで構成される団体です。9年前、所属する組合の枠を超えて船主たちが集まり、「次世代船員の育成」「内航海運業の認知度向上」「船員たちの阿南定住」という3本の柱を掲げてスタートしたのが始まりです。来年10周年を迎えますが、これまで地域の夏祭りに船からの景色を撮影した写真展や、船員の仕事を紹介するパネル展を出展するなど、地道に活動してきました。 |
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組合や支部が違うと、どうしても制限がかかってしまいます。一社でできることは限りがありますし、それなら「その壁を取っ払おう」と。それが出発点でしたね。 |
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活動のモデルケースにしたのは、私たちと同様に船主が多く、船員育成や支援策で先進的な取り組みを行っている熊本県の上天草市です。実際に現地を視察し、どうすれば阿南でも独自の船員育成ができるかを徹底的に学びました。現在では上天草市の協議会と友好団体協定を締結しており、情報交換をしながら「良いところは積極的に取り入れる」という姿勢で活動しています。 |
――ふなどころ阿南まちづくり協議会設立の背景には、どのような課題感があったのでしょうか?
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圧倒的な船員不足です。運輸局に求人を出しても人が集まらず、大手の海運会社を退職した人に頼っているばかりでは未来が見えない。そんな状況が長く続き、船主の間で「とにかく船員が足りない」という危機感が限界に達していました。遠い未来どころか、足元の事業継続さえ不安視される状況でした。協議会設立前は、そんな危機感を皆で共有していました。 |
――なぜ船員不足がここまで深刻になっているのでしょうか?
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高齢化に加え、船員という仕事そのものが若い世代に十分認知されていないことが大きな要因です。安定した仕事でありながら進路の選択肢として挙がりにくく、人材確保が難しくなっています。 |
――だからこそ、認知向上や次世代育成の取り組みが必要だったのですね
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今までの海運業界は、それぞれの組合や団体ごとに活動するのが当たり前でした。しかし、この協議会の最大の特徴は「従来の枠にとらわれず、同じ危機感と志を持った人たちが目的のために集まったこと」だと思っています。 |
――広報活動を進めるうえで、協議会として大切にしている考え方や方針はありますか?
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「まずは自分たちが楽しもう」ということですね。そうでないと、長続きしませんから。全国的には若年の内航船員が微増している今、私たちとしては次の世代を見据え、船員の育成・教育に力を入れていく必要があります。「海離れ」が深刻ですが、幼稚園児や小学生といった幼いうちから海や船に興味を持ってもらうには、子どもたちと一緒に楽しむ姿勢が欠かせないと考えています。 |
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そもそも志を共有できている船主ばかりですので、自立心を持って協力し合いながら活動してくださっています。 |
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協議会は風通しがよく、自由度の高さを感じますね。 |
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横手副会長がおっしゃった通り、今は「未来への種まき」に重きを置いています。夏祭りでのPRブース出展は7年ほど続けていますし、帆船みらいへ体験乗船イベントも始めてから5年近くが経過しました。 |
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もちろん、高校への出前授業や一般の方々向けの就職説明会も実施していますが、小さな子どもたちが10年先、20年先に職業の選択肢として船員を選んでくれれば、私たちにとっては成功です。 |
――子どもたちや地域の方々の反応はいかがですか?
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帆船みらいへ体験乗船イベント実施後は、いつも子どもたちに感想文を書いてもらうのですが、そこには「船が大きくて驚いた!」「風が気持ち良かった!」など、初乗船の喜びを表す言葉が並び、読んでいると嬉しくなります。 |
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協力者も年々増え、活動の認知が広がっていることを実感します。 |
尾道海技大学校 徳島阿南校の開講により、若い世代に「阿南で生きる」選択肢を提示
――尾道海技大学校 徳島阿南校の開講は、次世代船員育成において大きな意味を持つと思いますが、この拠点が阿南にあることの意義を、改めてどのように感じていますか?
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私たちが若い頃、徳島県は内航船員の供給源でした。それが今では県立の水産高校が閉校に追いやられ、これだけ船主がいるにもかかわらず、船員を育成する教育機関がないのは致命的といえました。尾道海技大学校 徳島阿南校の開講は、阿南ブランドの船員育成を復活させる拠点となっています。 |
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それに、地元で阿南ブランドの船員を育成すれば、地域振興にも貢献できます。なぜなら、阿南市に安定的な仕事があれば、若者の流出防止につながりますし、船員が増えることで地域の海運業の発展にもつながるからです。 |
――体験イベントなどの「入口」と、海技大学校という「学び・資格取得の場」がそろったことで、地元の若い世代に対して「阿南で生きる」選択肢を提示できたんですね。
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雇用創出には間違いなくつながっていますので、若者の流出を防ぐ意味合いは大きいと思います。 |
――将来的に船員を目指す場合、阿南市ではどのような支援が受けられるのでしょうか。実際に支援制度を活用した船員の事例があれば教えてください。
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「阿南市定住促進船員就職祝金」という制度があります。これは、徳島阿南校卒業後に海技免許を取得し、市内に住所を有して市内海運事業者に船員として常時雇用されている場合、1人当たり10万円、市外からの転入だと1人当たり20万円が支給される制度です。阿南には船会社がたくさんあるので、市外・県外へ出た人も、船員として地元に戻りやすい環境が整いつつあります。今後も、より手厚い支援制度を作っていただけるよう、阿南市に要望しているところです。 |
――阿南で船員として働くことの魅力は、どんな点にあると感じていますか?
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阿南市や徳島県は非常に協力的で、港への給水施設の整備や、停泊中に陸上から電源を取れるシステムの導入を推進してくれています。船主も、昨今の働き方改革に応じて最新鋭の設備や構造、船員が過ごしやすい環境をどんどん採用しているので、働きやすいのではないでしょうか。 |
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地元の方にとっては、親も友だちもいる住み慣れた町を離れずに安定した仕事に就けるというのが一番だと思います。船員は給与水準も高く、休みもしっかり取れますので。 |
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物価も安いですしね。今は移住ブームですが、船から降りた休暇時に自然の中で家族と暮らせるのは、阿南が田舎だからこそ提案できる生き方なのではないかと感じています。 |
――では、最後に阿南での船員の仕事に興味を持った方々にメッセージをお願いいたします。
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船員は、未経験からでも飛び込める世界です。さらに阿南では、船員の育成に市をあげて取り組んでいますので、まずは気軽にご相談ください。 |
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誰もが最初は未経験ですし、スタートラインは同じです。勇気を持って踏み出していただきたいですね。 |
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阿南は、内航船が走る中心に位置します。素晴らしい港があり、私たちの子どもの頃は船がいっぱいで賑わっていたものです。そんな「ふなどころ阿南」を取り戻せるよう、これからもがんばっていきます。 |
地道な“種まき”が、ふなどころ阿南の未来を守る
「ふなどころ阿南」と呼ばれる阿南市。協議会設立前夜の10年ほど前は「未来どころか明日さえも見えない」と絶望していたと篠野会長が明かしてくれましたが、今回の座談会を通して垣間見えたのは、まさしく「未来への希望」でした。ふなどころ阿南まちづくり協議会の“種まき”は、近い将来、きっと花を咲かせることでしょう。
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