働き方や価値観が多様化する今、「誰もが安心して働ける職場」とはどのような環境なのでしょうか。

制度整備が進む一方で、職場には性別や年齢だけでなく、国籍や性的指向・性自認(LGBTQ)など、多様な背景を持つ人々が集まっています。だからこそ、違いを認め合い、自分らしく働ける環境づくりの重要性が高まっています。

そこで今回は、東京ミッドタウン八重洲で開催されたLGBTQイベント「自分らしく生きる社会へ」に参加。日本文学研究者のロバート キャンベルさんによるトークセッションの様子をレポートします。

また後半では、イベントを企画した三井不動産の担当者にインタビューを実施。オフィスワーカー向けサービス「&BIZ」の取り組みとともに、多様な人々が安心して働ける環境づくりへの思いを伺いました。

ロバート キャンベルさんと考える「誰もが自分らしく働ける社会」

6月16日(火)に開催された本イベントは、6月のプライド月間に合わせ、LGBTQをテーマに企画されました。

三井不動産株式会社と、八重洲エリアの三井のオフィスに入居する住友生命保険相互会社、ダイキン工業株式会社、株式会社大和証券グループ本社、三井化学株式会社の5社による共同開催で、誰もが自分らしく働き、生きられる社会について考える場となりました。

登壇したのは、日本文学研究者であり早稲田大学特命教授のロバート キャンベルさん。LGBTQを取り巻く社会の変化や自身の経験、国内外の事例を交えながら、多様な人々が共に生きる社会について語りました。

講演の冒頭、キャンベルさんが注目したのは、このイベントそのものの成り立ちでした。

「複数の会社が力を合わせて作っているイベントだということを聞いて、大変驚き、すごく心強く感じました」

そう語ったキャンベルさんは、異なる企業に所属する人々が自主的に協力しながらイベントを作り上げていることに触れ、「違う会社の方々が一緒になって、手作りで何かを作っていくことはすごくいいことだと思う」と話しました。

また、自身が所長を務めていた研究機関での経験を紹介しながら、「廊下で立ち話をしたり、食事をしたりするような、ちょっとした触れ合いから共同研究が生まれたこともある」と説明。異なる立場や専門性を持つ人同士が交わることによって、新たな価値が生まれる可能性について触れ、その経験談にうなずく方も多く見られました。

歴史から見えてくるLGBTQに対する社会の変化

講演では、まずキャンベルさんのルーツとなった、幼少期の体験が語られました。その中で、1969年にアメリカ・ニューヨークで起きた「ストーンウォール事件」にも言及。

ストーンウォール事件は、LGBTQの権利運動の転機となった出来事として知られています。当時、同性愛者への取り締まりに抗議した人々の行動が、その後の権利運動の広がりにつながりました。

キャンベルさんは、当時の状況について「非常に強い対立の構図の中で権利が拡張されてきた」と説明。その一方で、現在のプライドイベントは「当事者だけでなく、そうではない人たちも一緒に交流できる場へと成熟してきた」と語ります。

現在では、毎年6月のプライド月間に合わせて、LGBTQへの理解促進や権利擁護を目的としたイベント「レインボープライド」が各地で開催されています。

「当事者たちとそうではない人たちが混ざる、一緒に交流できる場を作ろうということで、ここ20~30年の間に非常に門戸が広がってきた」と話し、多様な人々が自然に関われる環境づくりの重要性を強調しました。

金沢での取り組みが示す“共に過ごす”価値

さらに、現在キャンベルさんが関わる石川県金沢市でのレインボープライドについて、印象的な事例として紹介。

地元の老舗上生菓子店や伝統工芸と連携したワークショップなどが行われ、LGBTQの当事者も非当事者も自然と交流できる場となっています。「一緒にお菓子を作ったり、お茶を飲んだりすることで、自然な形ですっと入っていって、一緒にやっていくことができる」と語り、知識や制度だけではなく、実際に同じ場を共有することの大切さを伝えてくれました。

誰もが心地よい環境づくりとは……理解者の存在と共創から生まれるシナジー

キャンベルさんの講演の後に行われた質疑応答では、「職場で誰もが心地よく過ごせる環境を作るには何が大切か」という質問も寄せられました。

これに対し、キャンベルさんは「アライ(Ally)」という、LGBTQ当事者ではないけれど、その理解者・支援者となる人の存在を挙げて回答。「LGBTQに関する正確な知識を持つアライの方が、差別的な発言や誤解があったときに、優しく、時には力強く正していくことが大切。当事者が困ったときに相談できる人が職場にいることは、とても大きい」と、当事者としてその存在の心強さについて語りました。

最後に、キャンベルさんのメッセージとして「手作りで人が集まって何かを作ることが、すべてシナジーにつながる」とコメント。「会社の方針も大事ですが、それぞれの現場の中でできること、声をかけられた時にどう対応するかということは、それ以上に大事かもしれません」と呼びかけ、多様な人々が共に働く社会について参加者と考える時間を締めくくりました。拍手喝采の中、イベントは幕を閉じたのでした。

「行きたくなるオフィス」の実現へ。三井不動産が考えるDE&Iとは

今回のイベントを企画した三井不動産では、こうした価値観をイベントだけで終わらせるのではなく、日常のオフィス環境づくりにも取り入れています。

具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか。

今回のイベントを企画した三井不動産 ビルディング本部の永山理子さんと、「三井のオフィス」のブランディングを担当する大野雄一郎さんに、DE&Iに対する考え方やオフィスワーカー向けサービス「&BIZ」の取り組みについて伺いました。

※Diversity(多様性), Equity(公平性) & Inclusion(包摂性)

(左)永山理子さん(右)大野雄一郎さん

――働き方や価値観の変化をどのように捉えていますか?

永山さん:近年は働き方だけでなく、個人が大切にする価値観も多様化しています。そういった多様な価値観やバックグラウンドを持つ人たちが、不安や働きづらさを感じることなく過ごせる環境こそが「安心して働ける環境」だと考え、企業に求められる役割も、単に働く場所を用意することから、「安心して働ける環境を整えること」へと広がっていると感じています。

また、コロナ禍を経てリモートワークが広がる一方で、対面で働くことに価値を感じる人も増えています。そうしたさまざまな価値観を持つワーカーに対して、どのように「行きたくなるオフィス」をつくっていくかが重要だと考えています。

――DE&Iや働きやすさといったテーマをイベントで取り上げることには、どのような意義があると思われますか?

永山さん:DE&Iや働きやすさは、正解が一つではないテーマです。だからこそ、立場の異なる人々が対話し、多様な視点に触れること自体に大きな価値があると考えています。

今回のイベントは、三井不動産とテナント企業4社の共同開催です。6月はプライド月間ということでLGBTQを取り上げ、ロバート キャンベルさんにお声がけをしました。

また、各社で継続的にLGBTQに関する指標を定めていますが、1社で達成しにくいことも、企業同士の連携なら達成できるということで、企画段階から複数の企業が集まり、話し合いながらイベントを作り上げてきました。多様な企業の視点が加わることで、より多くの方に届く内容になっていると思います。

――DE&Iの観点から、オフィスという「場」の役割についてどうお考えですか?

永山さん:オフィスにはさまざまな価値観や背景を持つ方が集まっています。だからこそ、DE&Iの視点はオフィスづくりの土台になるものだと思います。

私たちは不動産会社として「場」を提供していますが、その場が誰かにとって居心地の悪い場所であるべきではないと考えています。多様な人々が働きやすく、「行きたくなる」と感じられる環境を考える上で、DE&Iは欠かせない視点だと思います。

――三井不動産では、テナントオフィスワーカー向けサービス「&BIZ」を展開されています。まず、&BIZとはどのようなサービスなのでしょうか。

大野さん:&BIZは、「三井のオフィス」で働く方々を対象に、イベントやセミナー、優待サービスなどを提供するオフィスワーカー向けサービスです。働く方々に役立つ機会をつくるだけでなく、企業の情報発信やイベント開催、実証実験の場としても活用いただいています。

――「&BIZ」において、「DE&I」はどのような位置づけにありますか?

永山さん:個別の施策の一つではなく、サービス全体の土台となる考え方だと捉えています。

たとえば、オフィスフロアへの生理用品設置をおこない、実際にテナント企業様から「役に立つ」「緊急時にとても助かった」といった声をいただきました。現在、35棟1,500箇所まで拡大しています。

そういったオフィス環境の整備といった取り組みを通じて、多様な人々が自然に交流し、それぞれの違いを尊重しながら自分らしく働ける環境づくりを支えていきたいと考えています。

――&BIZならではの特徴はどのような点にあると考えていますか?

大野さん:&BIZは、三井のオフィスに勤務されている皆様の生活のON/OFFを充実させるお得なサービスに加えて、「コミュニティ」を提供していることが特徴だと思います。リアルな場を持つ三井不動産だからこそ、実際に働く方々の声に触れながら、企業や組織の垣根を越えて人と人がつながり、「自然発生的な会話が生まれるかどうか」を重視しながら、さまざまなイベントを開催して新たな価値や共創が生まれる環境づくりをしています。

永山さん:さまざまなカテゴリーがあり、スポーツや学び、ファミリーやお子さん向けのイベントなど、誰にでも楽しんでもらえるようできるだけジャンルを網羅するようにしています。

――実際、&BIZは企業にどのように活用されていますか?

大野さん:2025年度の&BIZ会員限定イベントには、延べ1,400社、22,000名以上にご参加いただきました。ビジネスセミナーのような仕事に直結する内容だけでなく、スポーツイベントや歌唱大会など、企業や部署の垣根を越えて交流できる企画も幅広く実施しています。

また、クーポンサービスも2,000店舗以上でご利用いただくことができ、仕事の日のランチから休日のショッピングまで、日常のさまざまなシーンで活用されています。

さらに、人事や総務部門の方々からも、「ワーカーの満足度向上につながっている」「三井のオフィスに入居してよかったという声が社内で上がっている」といった反響をいただいています。私たちとしても、こうした声をいただけることは大きな励みになっています。

――入居企業とはどのような形で連携・協業していますか?

大野さん:イベントやセミナーでは、企業ごとの課題や関心テーマを共有しながら、働く方々にとって価値のある機会を皆さまと一緒につくれるよう連携しています。実際にイベントをきっかけに企業間の交流が生まれたり、企業同士の協業につながったりするケースも出てきています。

また、テナント様の情報発信や実証実験の場として&BIZをご活用いただくことも増えています。

直近ではBIPROGY様と協業し、大阪・関西万博でも話題となった「カラダ測定サービス」を、&BIZ会員向けに無料で体験できるキャンペーンとして実施しました。ワーカーの皆さまからも非常に好評をいただいています。

このように、企業が持つ商品やサービスと、オフィスで働く方々をつなぐことで、新たな価値を生み出していくことも私たちの役割だと考えています。

――このサービスを通じて実現したいオフィスのあり方を教えてください。

大野さん:私たちは、誰もが安心して働き、自分らしく活躍できる環境を実現したいと考えています。オフィスは単に業務を行う場所ではなく、人と人が出会い、対話し、新たな価値を生み出す場です。多様な人々が自然に交流し、それぞれの違いを尊重しながら働ける環境、「行きたくなるオフィス」を、&BIZを通じて、皆様と一緒につくってしていきたいと考えています。

「三井のオフィスが進める」DE&I とは

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DE&Iの先にある「行きたくなるオフィス」を目指して

LGBTQへの理解促進やDE&Iの推進は、制度やルールを整えるだけで実現できるものではありません。ロバート キャンベルさんが語ったように、多様な人々が自然に交わり、対話できる環境があってこそ、互いを理解し合うきっかけが生まれます。

三井不動産が目指すのも、まさにそんな「人と人がつながる場」づくり。誰もが自分らしく働ける職場とはどのような場所なのか。今回のイベントと取り組みは、これからの働き方や職場環境について考えるヒントを与えてくれました。

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