[取材先] 株式会社ヤマシタ(東京都)
本記事は2026年4月時点の情報に基づいて作成しています。
脱炭素化の流れが強まる中、鉄鋼業ではCO2排出量を抑えやすい電炉への転換が進んでいます。それに伴い、電炉で用いる主原料である金属スクラップの需要も高まり、スクラップの成分や用途に応じた選別・加工の重要性が増しています。
そうした環境変化を捉え、株式会社ヤマシタは、鉄・非鉄金属に加え、ニッケルなどの特殊金属(レアメタル)のリサイクルを新たな収益の柱として育成してきました。現在では、売上高約80億円のうち、レアメタル関連事業が約4割を占めるまでに成長しています。
その成長を主導してきたのが、2021年に事業承継を受け、35歳で代表取締役社長に就任した山下 耕平氏です。山下氏は、取扱品種を広げる「品種拡大」、設備投資や加工によって収益性を高める「付加価値の向上」、体制強化や待遇改善を進める「社内改革」という3つの戦略を並行して推進。若い感性と行動力で、レアメタル事業を成長軌道へと導いてきました。
3つの戦略の実像と、次の成長に向けた構想について、オリックス 新宿支店の小林 愛矢子がお話を伺いました。
市況の追い風を生かすために、拡大路線へかじを切る
……まず、貴社の事業内容についてお聞かせください。
山下氏:当社は2024年に創業70周年を迎えた金属リサイクル企業です。家庭や工場、建設現場などから発生する金属スクラップ(廃材)を回収し、加工・選別を行った後、それらを溶かして新たな製品をつくる電炉メーカーなどへ原料として供給しています。扱う金属は主に「鉄」、アルミやステンレスなどの「非鉄金属」、そしてニッケルなどを含む「特殊金属(レアメタル)」の3種類です。
……2021年に、3代目として35歳で代表取締役社長に就任されたと伺いました。事業承継の経緯や、当時の課題意識についてもお聞かせください。
山下氏:幼い頃から、いずれ家業を継ぐものだと考えていました。大学卒業後、特殊鋼を扱う専門商社で経験を積み、24歳で当社に入社しました。もともとは40歳前後での承継を想定していましたが、父が体調を崩したこともあり、予定より早い35歳で代表取締役社長に就任しました。
社長就任前から課題だと考えていたのは、営業力です。かつては受注を待つだけでも成り立つ面がありましたが、市場が成熟した今は、顧客ニーズに応じた提案によって付加価値を示さなければ、選ばれ続けることはできません。
その背景にあるのが、鉄スクラップという商材の特性です。一口に鉄スクラップといっても中身は一様ではありません。成分や品質によって用途も価格も異なります。特にニッケルを多く含むものは、レアメタルとして高く評価されます。
そこで当社では、仕入れ先ごとの特性を見極める知見と、分析・選別のノウハウを生かしながら、最適な販売先まで提案できる体制づくりを進めてきました。営業人材の採用にも力を入れ、提案力の強化を図っています。
加えて、足元の市場環境には大きな追い風があります。大手鉄鋼メーカーの間で、鉄鉱石を主原料とする高炉方式から、鉄スクラップを主原料とする電炉方式へのシフトが進んでいるためです。高炉方式はCO2排出量の多さが課題とされる一方、電炉方式は環境負荷を抑えやすく、脱炭素化の流れの中で需要拡大が見込まれています。こうした市場環境の変化を、確かな成長につなげたいと考えました。
……拡大路線を進める上で、どのような成長戦略を描いたのでしょうか。
山下氏:成長戦略の核として掲げたのが、「供給するスクラップの品種拡大」、特にレアメタル事業への挑戦です。そして、その挑戦を支える土台として、「付加価値の向上」と「社内改革」という2つのテーマを同時に進めることが不可欠だと考えました。新しい事業を軌道に乗せるには、それを実行できる技術力や設備といった事業基盤(付加価値の向上)と、社員が安心してついてきてくれる組織づくり(社内改革)の両輪が必要だからです。
設備投資と社内改革で、新事業の成長を加速
……戦略の核である「供給するスクラップの品種拡大」について、レアメタル事業をどのようにして軌道に乗せたのでしょうか。
山下氏:レアメタル事業に参入するにあたっては、大きく3つの壁がありました。レアメタルの単価が高いため、仕入れ資金の負担が大きいこと、高価なだけに高度な品質管理が求められること、そして一定量の在庫を回すための保管スペースが必要なことです。
当社は金融機関と丁寧に対話しながら資金面を整え、分析機器と現場のノウハウで品質を担保し、必要に応じて敷地も確保することで、段階的にこれらの壁を乗り越えてきました。
……次に「付加価値の向上」について、象徴的な取り組みを教えてください。
山下氏:寄居工場の改革と、そこから生まれたブリケット事業です。私が入社した当初、寄居工場は既存顧客への依存度が高く、成長が停滞していました。そこで営業方針を転換し、試行錯誤を重ねた結果、取扱量と人員を大幅に増やすことに成功しました。
現在は、この工場を「新しいことを試すモデル拠点」と位置づけ、成功事例を全社に展開しています。
ブリケット事業もその1つです。ブリケットとは、金属を削る際に出る粉を圧縮・固形化する加工で、顧客である電炉メーカーの溶解効率向上や、コスト削減につながります。さらに、粉のままでは発火リスクがありますが、固形化することで「安全性」という新たな付加価値が生まれることにも気づきました。2024年に新設した筑西工場でこの事業の量産体制を整え、高付加価値に特化した拠点として育てています。
……そして「社内改革」ですね。待遇改善なども積極的に進めていると伺いました。
山下氏:はい。どんなに良い戦略を描いても、実行するのは「人」です。安心してついてきてくれる組織をつくるために、まずはやるべきことをやろうと考えました。社長になる前から聞いていた「休みが少ない」「給料が安い」という社員の声が耳に残っていました。そこで、かつては週休1日が当たり前だった環境を見直し、年間休日120日の週休2日制を導入しました。また、ここ数年で既存従業員の賃金水準を引き上げ、今年からは初任給も増額しています。
こうした改革は「やり遂げる」と社内に宣言してから実行しています。言った以上はやらなければならないというプレッシャーはありますが、実現することで「この社長は有言実行してくれる」という信頼につながります。その積み重ねが、新しい事業で負荷がかかる局面でも、組織の一体感を生み出していると感じています。
現状維持は衰退。拡大路線を継続し、100年続く企業へ
……拡大路線に切り替えたことで、社内にはどのような変化が生まれましたか。
山下氏:新事業や工場が立ち上がることで、会社全体に活気が出てきました。「頑張れば評価され、チャンスが与えられる」という文化を根付かせたいと思っています。実際に、新工場の工場長には、関連事業で成果を上げた現場責任者を抜てきしました。挑戦する人が報われる。その流れが、組織を強くすると信じています。
また最近は、「ブルーカラーミリオネア」といった言葉も聞かれるように、AIで代替されにくい現場の仕事の価値が改めて注目されています。当社も高付加価値路線を追求することで、「もっと稼げる」など、働く人たちが将来に希望を持てる業界は実現できると考えています。
……市況変動や人材不足などの事業リスクには、どのように向き合っていきますか。
山下氏:市況変動に対しては、在庫を過度に持たず回転を速めることが基本です。また、ブリケットのように、市場がまだ小さい領域では「この商品はヤマシタ」と認知されるブランド価値を築き、価格決定力を高めることで、市況の影響を和らげることができます。
人材面では、待遇改善に加えて、資格取得支援制度を導入するなど教育体制を標準化し、属人化からの脱却を図っていきます。
……次の節目として「100年企業」が見えてきます。そこに向けた道筋やビジョンをお聞かせください。
山下氏:まずは売上高100億円の壁を越えることです。そのためには、社長一人の力では限界があります。CFO(最高財務責任者)やCOO(最高執行責任者)といった右腕・左腕となる人材を迎え、組織として回る体制をつくることが次の課題です。
業界の淘汰が進む中、現状維持は衰退を意味します。拡大路線を継続し、高付加価値な事業を通じて社員の精神的・経済的な豊かさを実現する。それが、100年続く企業への道だと考えています。
<取材を終えて>
オリックス株式会社 新宿支店 小林 愛矢子
取材を通じて印象的だったのは、ヤマシタが「品種拡大」「付加価値の向上」「社内改革」という3つの施策を同時並行で進めながら、着実に成長を遂げている点です。とりわけ、事業拡大だけでなく、働きやすい環境づくりや待遇改善を着実に進め、社員一人ひとりを大切にする姿勢を経営の中心に据えていることに、強い意志を感じました。事業成長と人材への投資を両立しながら、時代の変化に柔軟に対応して前進する姿からは、脱炭素時代における事業成長のヒントを多く得ることができました。オリックスとしても、資金調達や設備投資にとどまらず、人材・組織面も含めて、次の100年に向けた歩みに伴走していきます。
関連コンテンツ
■株式会社ヤマシタ|鉄・非鉄、特殊金属など、あらゆる金属の再資源化を通じて、サステナブルな社会づくりに貢献しています。
■突然の承継を乗り越えて。夫婦で目指す「人材が集まる工務店」
■“本当に使えるAI”で製造業DXを丸ごと支える。大阪発スタートアップとオリックスの挑戦
■シェア4割減からの再生。「大手と戦わない」選択でニッチ市場を制した水道用品メーカーの独自戦略
■オリックス不動産のDXを加速。「経営とシステムの一体化」を実現する東京コンサルティングのオーダーメイド型支援とは
[PR]提供:オリックスグループ








