ヤマハ発動機と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、二輪車やボート、電動アシスト自転車だろう。だが、同社グループの取り組みは、そうした事業領域にとどまらない。

ヤマハモーターMIRAIは、障がいのある方の雇用促進を目的に設立された、ヤマハ発動機の特例子会社だ。ヤマハ発動機グループを業務面で支えながら、社員の特性や能力に応じて役割を分担し、挑戦できる職場づくりを進めている。

2015年10月の設立から10年。同社は社員一人ひとりが業務を通じて成長し、社会人として自立していくための場を築いてきた。本記事では、管理部門と現場でMIRAIを支える5人の言葉から、同社のこれまでの歩みをひもといていく。


ただ雇用するだけでなく、挑戦を通して自立と成長を目指す

ヤマハモーターMIRAIは、ヤマハ発動機が障がい者雇用の促進を目的に設立した特例子会社である。企業目的は「みんなの未来をMIRAIと創る」。経営理念には「101%のビジネスオペレーションを届けます」「先進的、自立的な特例子会社に挑戦しつづけます」「特性を理解し潜在能力を引き出します」の3つを掲げてきた。

従業員数は2026年5月時点で109名(出向・派遣社員含む)。全体の約8割が直接雇用の社員で、障害者手帳を持つメンバーは65名だ(知的障害42名、精神障害12名、身体障害11名)。
主な事業として、ヤマハ発動機の建屋清掃、グループ内で不要となった業務用パソコンの再生、再生できないパソコンの解体リサイクル、社内のメール便、印刷・製本、データ化、社員証や名刺の作成などを担っている。

ヤマハ発動機グループが障がい者雇用に取り組むことになった直接のきっかけは障害者雇用促進法だ。しかし、設立から10年が経つなかで、その意味合いは大きく変わってきている。そう語るのは、ヤマハ発動機からの出向で、現在は管理課長として人事を担当する黒川京子氏だ。

「雇用することは、私たちにとってはスタートだと考えています。ただ働いてもらうのではなく、業務の中で成長し、社会人として自立してやっていけるような人になってもらいたいと考えています」(黒川氏)

ヤマハモーターMIRAIで働く社員の特性は多様だ。一人ひとり、得意・不得意も違うし、成長のスピードも異なっている。

重要なのは、挑戦し、失敗から学ぶことでEQ(心の知能指数)を高めていくことだ。

  • ヤマハモーターMIRAI 管理課長 黒川京子氏

    ヤマハモーターMIRAI 管理課長 黒川京子氏

「海外の研究でも、EQが高い人ほど生涯年収や健康面、うつへの強さなどで良い傾向が見られることがわかっています。最初は時間がかかるかもしれませんが、多様な人材でチームワークを高め、お互いに尊重し協力していけば、会社としても大きく成長できるはず。そんな思いを持っています」(黒川氏)

障がい者雇用の現場では、正社員化や昇給が課題になることも少なくないため、経済的な自立は難しいことが多い。MIRAIはこうした課題の解決にも取り組んでいる。

具体的には、同社に障がい者雇用で入社すると、まず準社員からのスタートとなる。その後、本人の自立度合いを見ながら、数年で正社員になることが多いという。

さらに、ヤマハモーターMIRAIでは3年前、職級制度を新たに整備した。現場作業のA職、現場の管理者や作業のリーダーを担うB職、会社機能を担うC職の3層構造で、手帳の有無に関わらず、すべての社員がこの制度のもとで働いている。役職はトレーナー、リーダー、グループ長補佐、グループ長の順に上がり、A職でもリーダーになることができる。障がい者を雇用するだけで終わるのではなく、自立をサポートし、能力に応じてしっかりと昇格・昇給できるのは、MIRAIで働く大きな意味といえるだろう。


MIRAIで気付かされた、自分の先入観

黒川氏自身がヤマハモーターMIRAIに関わるようになったのは約1年半前のこと。複数の事業の中でキャリアを積み、ここ数年は人事として経験を重ねてきた黒川氏は、「仕事は人。どこで働くかより、誰と働くかが大事」という信念のもと、生きづらさを感じている人の力になれたらと考え、MIRAIへ赴任してきた。

しかし、実際に現場に立ってみると、自分自身が持っていた先入観に気付かされたという。

「ヤマハモーターMIRAIに来て、想像よりもはるかに社員の皆さんが自立して働いていると気づきました。感心したのと同時に、障がい者の方の可能性を勝手に決めつけていたことを反省しました」(黒川氏)

黒川氏の言葉を象徴する出来事が、10周年の記念企画である。2025年10月のMIRAI設立10周年を迎える最初の週に、記念メニューと称して「ヤマハ発動機の社員食堂のメニューをヤマハモーターMIRAIの社員が考える」という取り組みを、当時の広報メンバー主導で実施。手挙げ式で集まった5人が企画書を作って食堂担当者にプレゼンを行った。練習を重ねるなかで、提案内容やプレゼンが着実に磨かれていく様子に、黒川氏は感動したと話す。

「社員同士でお互いの企画書を見ながら、『もっとこうした方がいいんじゃない?』と提案し合い、ブラッシュアップしていったと聞いています。自分で限界を決めずに挑戦することで良い仕事ができるのは、私たち支援側も同じ。彼らの姿にすごく刺激を受けましたね」(黒川氏)


スタッフから、現場のリーダーへ

ヤマハモーターMIRAIの清掃部門「クリーンプラスグループ」。現場のまとめ役となるのが、スタッフリーダーの松下諒平氏だ。スタッフへの清掃指導や育成、有給休暇を取った社員のフォロー、毎日のシフトや工程表・手順書の作成と、業務は多岐にわたる。

松下氏が最も意識しているのはチームワークだという。スタッフ全員がスムーズに連携できるよう声をかけ、作業の進み具合を気にかける。チームワークが深まれば、仕事の質や効率も上がると考えている。

教えてもらう側から、教える側になったことは私にとって大きな転機でした。スタッフの成長がやりがいにつながる反面、しっかりわかりやすく教えることができているだろうかと悩むことも増えました」(松下氏)

苦労も少なくなかった。チームワークがうまくいかない時期があり、スタッフとして清掃業務にあたっていた松下氏自身も限界を感じていたという。

  • クリーンプラスグループ スタッフリーダー 松下諒平氏

    クリーンプラスグループ スタッフリーダー 松下諒平氏

「僕たちは毎日、“自分の限界と向き合いながら”仕事をしています。スポーツ選手などはよく『限界を超えた』と言いますが、僕たちは毎日が“限界”なんです」(松下氏)

こうした経験が、リーダーとしての松下氏の原点になっている。成長がゆっくりなスタッフには、毎日つきっきりで指導し、丁寧に振り返りを行う。手順表は誰が見ても分かるように工夫し、有給休暇を考慮して現場が回るようなスケジュールを作成する。

こうした取り組みにより、チーム全体のレベルは着実に向上しているという。

松下氏の強みについて、クリーンプラスグループ グループ長の飯尾洋子氏は「当事者であり、同時にリーダーでもあるという、独自の目線を持っているところ」だと言う。飯尾氏と松下氏は、日頃から密なコミュニケーションをとっており、お互いの気づきを共有し合っている。

  • クリーンプラスグループ グループ長 飯尾洋子氏

    クリーンプラスグループ グループ長 飯尾洋子氏

「松下さんも、初めは支援を受けながら『できない』を『できる』に変えていくところからのスタートでした。それが今では、責任を持って事業に貢献し、自身のスキルを次の世代につなげていくリーダーにまで成長しています」(飯尾氏)

クリーンプラスグループが目標として掲げているのが「考える清掃」だ。この“考える”ことは、松下氏にとって決して簡単ではない。まずはやってみて、失敗もしながら、チャレンジを積み重ねていく。そこから得られた成長実感を大切にしてほしい。飯尾氏はそう考えている。


パソコンリユース事業から生まれた新事業が、社員の成長の場に

ヤマハモーターMIRAIの新しい育成の場として、2026年4月に発足したのがエコ・リサイクルグループだ。立ち上げのきっかけは、MIRAIがもともと行っていたパソコンリユース事業の課題だった。回収したパソコンのうち、損傷や不具合等でリユースできないパソコンが全体の10~20%近くあったのだ。

これまで、そうしたパソコンについては廃棄業者に費用を払って引き渡していたが、同社はそれを事業化できないかと考えた。

PCリユースグループのグループ長を務める山村紀明氏はこう語る。

  • PCリユースグループ グループ長 山村紀明氏

    PCリユースグループ グループ長 山村紀明氏

「パソコンのリサイクルを、障がいのある社員が活躍できる仕事にしたいと考えました。廃棄業者と相談したり、他の特例子会社の先行事例も参考にしたりしながら、分別解体事業を立ち上げました」(山村氏)

エコ・リサイクルグループで、社員の特性を見極めながら、日々の作業に落とし込んでいるのが、リーダーを務める髙野友葵氏である。

髙野氏が現場で重視しているのは、作業の視覚化と、社員の成功体験を積み上げる仕組みづくりだという。

  • PCリユースグループ リーダー 髙野友葵氏

    PCリユースグループ リーダー 髙野友葵氏

「パーツを入れるカゴは、パーツ名を表記するだけでなく写真をつけてわかりやすく視覚化し、スタッフが作業を間違えないよう工夫しています。また、少しずつできることが増えてきたら、きちんと称賛して認めることで、自信につなげられたらと思っています」(髙野氏)

発足当初と比べると、スタッフの成長と共に髙野氏の関わり方にも変化が出てきた。最初はつきっきりで教えていたが、サポートが手厚くなりすぎると、スタッフが自分で考える機会を減らしてしまうこともある。そこで、今では成長と共に少しずつ手を離して自立を促すようにしているのだという。

それにより、スタッフ同士で教え合うような光景も増えてきたと髙野氏は言う。そうやって自信をつけ、成長を遂げたスタッフの中には、日々の作業だけでなく見学者への説明を担当できるようになった人もいる。

「エコ・リサイクルグループは、他のグループに比べて、成長が比較的ゆっくりな社員が集まっています。一律にスピードや効率を求めるのではなく、それぞれの成長に合わせることが大切だと考えています」(山村氏)

エコ・リサイクルグループは、さまざまな可能性を秘めていると山村氏は言う。

たとえば、地域への広がりだ。現在は親会社をはじめグループ会社数社のパソコンを回収しているが、将来的には磐田市の市民や学校・教育関係のパソコン回収も視野に入れていく。社員の成長、事業の拡大、そして地域貢献など、エコ・リサイクルグループのパソコンリサイクルは今後ますます注目を集める事業となりそうだ。

手帳の有無を超えて、誰もが働きやすい社会へ

設立以来、障がいのある社員を雇用するだけでなく、成長を促し、自立につなげてきたヤマハモーターMIRAI。同社での経験を通じて、黒川氏は「多様性」や「DE&I」のその先を見据えている。

「そもそも私たちは、一人ひとりが多様な存在で、手帳の有無は一要素にすぎません。手帳を持っているからこんなふうに接しないといけないとか、持っていないから支援は必要ないだろうとか、そういった枠組みで考えているうちは、まだまだ多様性が世の中に根付いていないということだと思います。互いに尊重しあえる世界になれば、誰もがもっと生きやすくなります。そうすれば、特例子会社や法定雇用率はもちろん、DE&Iといった考え方すら、自然といらなくなるのではないでしょうか」(黒川氏)

もちろん、それは「今すぐ」の話ではない。まずは手帳を持って働く社員が生きやすくなる場をヤマハモーターMIRAIの中で実現し、そこからグループ全体、そして社会へと広げていきたい。黒川氏はそう語った。

***

法律で決まっているから雇用するというのではなく、障がいのある人たちがしっかりと社会人として成長できる環境をつくり、自立を支援すること。それが、ヤマハモーターMIRAIが設立から今日まで取り組んできた活動だ。本当の意味で多様な社会とは何か。同社はこれからも、その問いを社会に投げ続けていく。

[PR]提供:ヤマハ発動機株式会社