生成AIの活用が多くの企業で進む中、早くからその可能性に着目し、2023年3月から本格導入を進めてきたのがパーソルグループです。
「はたらいて、笑おう。」というグループビジョンを掲げる同社では、生成AI活用はどのように社員の「はたらくWell-being」につながっているのでしょうか。
今回、パーソルホールディングス株式会社グループIT本部 ワークスタイルインフラ部 デジタルEX推進室/シニアコンサルタントの齊藤玖美子氏に、生成AI活用が同社にどのような価値をもたらしているのか伺いました。
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齊藤玖美子 パーソルホールディングス株式会社グループIT本部 ワークスタイルインフラ部 デジタルEX推進室/シニアコンサルタント。金融系SIerでインフラSEを経験後、2018年にパーソルキャリアに入社。全社のIT高度化に向けた技術検証やIT関連プロジェクトの支援、ITツールの企画から導入・展開を担当。2023年より、パーソルホールディングス ワークスタイルインフラ部 デジタルEX推進室に所属。パーソルグループ全体のはたらく環境の体験価値向上を目指し、現在はAIやDXの展開戦略の立案、企画推進を担当中。
生成AI活用から始まり、現在は社員によるAIエージェント開発も
――現在、多くの企業が生成AIを導入しています。その中でもパーソルグループはかなり早くから生成AIの活用を進めてきたと聞いています。具体的にどのように活用しているか教えてください。
社内での活用については大きく二つあります。一つは社内専用GPTの「PERSOL Chat Assistant」、通称「CHASSU(ちゃっす)」です。2023年から社内に導入し、2024年12月「CHASSU 2.0」へUXを刷新しました。現在では月間で約1万人のアクティブユーザーがいます。たとえば、企画書のたたき台、アイデアの壁打ち、求人票の作成など、共通業務からお客さまへ提供するサービスまで、本当に幅広く活用されていますね。
そして、もう一つは2025年にリリースした「CHASSU CRE8(ちゃっす クリエイト)」です。これは、社員自身が業務用AIエージェントを作れるようにした開発機能で、ノーコード・ローコードで開発できるためエンジニアでなくても活用できる点がポイントです。
生成AIが社内に浸透したことで、次は単発の業務支援にとどまらず、AIエージェント(※1)によって業務プロセスそのものを変えていく段階に進むべきだと考えたことが、開発のきっかけでした。
※1 AIエージェント:目標を達成に向けて状況を自ら把握し、状況に応じて自律的に判断・行動するシステム
――まずは生成AI活用、そこからAIエージェント開発へと順を追って進めていったのですね。
はい。AIエージェントも基本的には生成AIと同じように、プロンプトで指示を出します。そのため、まずは生成AIで基本的な使い方を学び、そこからAIエージェントを使って業務を変革していくという流れがスムーズだと考えました。
――具体的に、どのようなAIエージェントが開発されているのでしょうか。
たとえば、求人票やインタビュー音声の文字起こし・整形を行うエージェントや、グループ全体の問い合わせを受けるチャットボット型のエージェントなど、さまざまなAIエージェントが非エンジニアの社員によって開発され、実際に業務で活用されています。開発はしたもののリリースはされていないものまで含めると、AIエージェント数は約5,000件、作成者の人数は約1,500人にも上ります。
AI学習推進のポイントは「楽しさ」を打ち出すこと
――社員へのAI教育をどのように行っているのでしょうか。
パーソルグループでは、社員が生成AIをどのように学んでいけばいいか迷子にならないよう、学習マップを作成して社員に提供しています。新しく入った方の学びにも役立っていると感じます。
――たしかに、パーソルグループはかなりAI活用が進んでいるので、学習マップがないと入社した方が戸惑うかもしれませんね。
学習マップだけでなくサポートも充実させています。具体的にはTeamsに生成AIのコミュニティを作って、情報交換の場として活用しているんです。現在、すでに7,000人以上(2026年3月時点)が所属して活発に交流しています。ワークショップや勉強会なども開催しているので、意欲があればどんどん学びを深められる環境なんです。
また、AIについて学びたい人のために2025年11月から2026年3月にかけて、AIの共創型プログラム「AI EXPO」を開催しました。このプログラムでは、実際に手を動かし、AIと“はたらく”を結びつけるリアルな学びを体験する体験型プログラムや、「AIで創る文化」「AIで進化する業務」「AIで変革する組織」など、未来志向のテーマを設定し、付随したイベントを定期的に実施しました。
――「AI EXPO」のデザインは、とてもポップで楽しげです。あえてそうしているのでしょうか。
はい。AIを学ぶ上でポイントになるのが「楽しさ」だと考えています。こうしたITツールは本業とは別になるため、なかなか学習意欲を持てないという人もいると思います。そこで、少しでも楽しそうな雰囲気を出すことで、心理的なハードルを下げて興味を持ってもらえるように工夫しているんです。
ゲーミフィケーション(※2)も導入しています。たとえば、AIを活用して削減できた業務時間の合計をチームで競う、運動会みたいなコンセプトのイベントを開催しました。こうした取り組みは社員にも好評で、アンケートでもポジティブな感想が多く届いています。
※2 ゲーミフィケーション:ポイントやランク、報酬など、ゲームのメカニズムやデザイン要素を、ゲーム以外の分野(ビジネスや教育など)に応用すること
もともと「CHASSU CRE8」は、コードを書かなくてもAIエージェントが開発できる仕組みになっていますが、加えて開発チェックリストでサポートも行っています。
たとえば、CHASSUと対話しながら使うエージェントにしたいのか、それとも一連の指示を与えることで自動実行されるエージェントにしたいのか。あるいは、どのような条件分岐が必要かなどをチェックしていくだけで、開発手順が示されるのです。
年30万時間の業務削減を実現。生成AIの活用で生まれる「はたらくWell-being」
――生成AIやAIエージェントが浸透したことによる成果を教えてください。
まず、業務が効率化されたことです。数字としては、年間30万時間という大幅な業務時間の削減を実現できています。
その生まれた時間をキャリア成長のための学習に活かしたり、家庭のことに時間を使ったりできるようになったという声が届いています。心に余裕が持てたことで、ワークライフバランスがとれたり、ストレスが緩和されたりと、充実した働き方につながっているようです。
パーソルグループでは、はたらくことを通してその人自身が感じる幸せや満足感を“はたらくWell-being”と定義していますが、AI活用を通じてその実現ができていると思います。
それだけではありません。AI活用での最大の効果だと感じているのは、社員の働き方そのものの変化です。
――社員の皆さんの働き方はどう変わったのでしょうか。
社員にアンケートをとったところ、AI活用によって「個人で考えが前に進められるようになった」「業務の質が底上げできた」「学びと挑戦が進んだ」といった回答が多く寄せられました。これは、AIを使ってより深く思考したり、内省できたりするようになった効果だと思います。
一人で仕事をしていると煮詰まることもありますし、上司に相談したくてもなかなか時間が合わないことも多いです。リモートワークが中心だとなおさらですよね。そんなとき、CHASSUに相談するとすぐにアドバイスをもらえたり、自分自身の考えを整理したりできるんです。社員からも「相談にのってくれるのですごく気持ちが楽になった」という声も挙がっています。
業務効率化だけでなく、メンタルのサポートなども含めてはたらきやすさの向上にもつながっているのは、すごくいいAIの使い方だと思います。これもまた、生成AIの活用による「はたらくWell-being」の実現です。
AIは単なるツールではなく、共創するパートナー
――単なるツールではなく、仲間のような存在といえそうです。
はい。私たちもAIはツールではなく、共創するパートナーだと位置づけています。社内専用ChatGPTに「CHASSU」というオリジナルのキャラクターを設定しているのもそういった考え方からです。CHASSUのオリジナルグッズをイベントなどで社員に配ることがあるのですが、思った以上に反響があるんですよ。
――人間とAIの役割分担についてはどう考えていますか。
AIができることはAIにやってもらって、人間は人間にしかできない仕事に注力するという考え方です。たとえば、私の仕事の一つに新しい企画を考えることがあるのですが、雑務をAIに任せられるようになったことで、より深く思考に集中できていると感じます。AIのおかげで、新しいことを考えるための心と時間の余裕が以前よりも増していると思います。
――AI活用でパーソルらしさが表れている部分はありますか。
パーソルグループの組織文化は「人があたたかい」こと。AI活用でもそのカルチャーが表れていると感じています。コミュニティでも社員同士で親切に教え合っているし、グループ会社の垣根を越えて盛んに交流しています。AI活用を通じてパーソルの「人」を大事にする文化がさらに見えてきた印象です。
――今後、AIはパーソルグループにとってどのような存在になっていくでしょうか。
当社では「はたらいて、笑おう。」というグループビジョンを掲げています。このビジョンを一人ひとりが実現するには、社員が自分で自分のキャリアを選択し、主体的に行動することが大切です。AIで残業時間を削減できたとか、そういうことももちろん大事ですが、それだけでなく、パートナーとしてのAIをうまく活用することではたらくこと自体が楽しくなっていく環境を作っていきたいと考えています。
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パーソルグループの生成AI活用は、単なる業務効率化にとどまらず、社員の学びや挑戦、はたらき方そのものの変化にもつながっている点が特徴です。
今後、AIがより身近なパートナーとなっていく中で、パーソルグループの取り組みは、そのヒントを示す好事例といえそうです。
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