企業の人材育成プログラムといえば、スキルアップのための研修や仕組みを想像する人が多いでしょう。しかし、社員のやる気や挑戦心を本当に形にできる制度はそれほど多くないのが現状です。
カシオ計算機株式会社(以下、カシオ)では、マーケティング視点で顧客価値を生み出せる人材の育成を兼ねて、社員が新規事業の創出に挑戦できる制度「IBP(Idea Booster Program)」を展開。社員の挑戦を会社全体で後押ししています。
本記事ではその「IBP」の特長のほか、実際にそこから生まれた新製品「DIMENSION SHIFTER」の開発背景に関するインタビューをお届け。ボトムアップで新しい価値を創り出した過程に迫ります。
(写真右)サウンド・新規事業部 イノベーション改革推進部 IBP事務局
野崎有佐さん
2022年12月に中途入社。「IBP」をはじめ、人材開発、組織活性化施策などを担当している。
(写真左)サウンド・新規事業部 第二戦略部 第二企画室
藤井令央さん
2015年に入社して以来、デジタルカメラや電子楽器の回路設計に携わってきた。現在は「DIMENSION SHIFTER」の企画推進を担当している。
――「IBP」とは、どのような社内制度なのでしょうか?
野崎さん 新たなモノコトを作る取り組みの一環として始まった、ボトムアップ型の制度です。参加者一人ひとりが自身の想いを起点に、事業化に向けて挑戦します。そのために必要なマーケティングの視点や、ユーザーの声を反映しながら試作品に改善を加えていく「リーンスタートアップ」、さらに顧客価値開発手法などを学び、実践する機会も設けました。
――「IBP」で生まれたアイデアが事業化するまでの流れを教えてください。
野崎さん 3つの段階があり、それぞれの審査を通過したアイデアが次のステップに進めます。たとえばステップ1ではお客様へのインタビューを通じて、課題やニーズを明確にし、アイデアを企画します。ステップ2では簡易的なプロトタイプを作成し、アイデアの価値を検証します。この段階で、ビジネスモデルの仮説も構築し、実現可能性を探ります。ステップ3ではプロトタイプを使ったさらなる価値検証を行い、顧客価値や数値計画の精度を高めます。
審査はIBPに参加している社員の部門長から始まり、ステップが進むにつれ統轄部長や事業部長も担当します。
――なぜ部門長から審査をスタートするのでしょうか?
野崎さん 最初に部門長の理解を得ることで、業務時間の調整などその後の活動を後押ししやすくなるからです。
もともと開発部門には「改革10%アクション」という制度があり、勤務時間の10%は自分がやるべきと思ったことに使えます。しかしステップ2以降になると10%には収まらなくなるので、業務量や時間の調整などが必要になるのです。そういったことを鑑み、部門長のから審査を始めています。
――「IBP」にはどのような社員の方が参加しているのでしょうか?
野崎さん メインはエンジニアの方々ですが、営業本部などの方も参加しています。昨年10月の発売以降、人気を博しているサウナー専用ウオッチの「サ時計」や、1月に発売されるギターのエフェクトコントローラーの「DIMENSION SHIFTER」など、これまでに「IBP」からさまざまなアイデアが生まれました。
――「IBP」を経て生まれた「DIMENSION SHIFTER」は、どのようなプロダクトなのでしょうか?
藤井さん ギターの演奏表現を広げる新感覚のワイヤレスエフェクトコントローラーです。小型のトランスミッターをギターストラップに取り付け、演奏中の動きと連動しながらエフェクトを変化させます。通常のギター演奏では、足で操作するエフェクターを置いているため、ギタリストの立ち位置に制約がありました。しかし「DIMENSION SHIFTER」のレシーバーはワイヤレスにつながっているため、より自由に動き回れます。
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「DIMENSION SHIFTER」
――「DIMENSION SHIFTER」を開発するに至った経緯を教えてください。
藤井さん 「IBP」が始まり、「作りたいものを作れるチャンスだ!」と思ったからです。そこで、もともと好きだったギターと共存できるプロダクトを考案しました。
――藤井さんは電子楽器の回路設計などにも携わっていますが、ギターそのものを作ろう、とはならなかったのですね。
藤井さん 私にとってギターはもう完成品なので、手を加えるのはおこがましくて。ただストラップ部分には、まだやりくりの余地があると感じました。何か工夫をすれば、ギターをもっと楽しく演奏できるのではないかと。
――「DIMENSION SHIFTER」を開発する上で力を入れた点を教えてください。
藤井さん 使い心地を抜群にしようとこだわりました。ニッチなプロダクトではあるので、少しでも興味を持っていただいた方には「うまく使えないから手放す」という体験をさせたくありません。だからこそギタリスト一人ひとりの力や動きに合うよう調整しました。
――プロジェクトを進めるにあたり、苦労した点はありますか?
藤井さん どうすればプロダクトの価値が伝わるのか考えるのに苦労しました。普段の業務中はエンジニア同士で話すので、専門的な知識を前提に議論ができます。しかし「IBP」の審査の場では、ギターを弾いたことのない人にも価値を理解してもらわなければなりません。そのため誰にでも伝わる魅力的なプレゼンテーションにしようと、事前準備に力を入れました。おかげで普段関わっていたプロジェクトも俯瞰的に見えるようになり、面白さも感じています。
――プレゼン準備など、普段とは違う作業に取り組むときのサポートは「IBP」にありますか?
野崎さん 「IBP」に取り組んでいる方には社内メンターをつけています。新規事業立ち上げの経験者や、社内外に多くのネットワークを持っている人などがアドバイスをしてくれる体制になっていますよ。
藤井さん 新規事業の企画や推進はわからないことだらけだったので、プロフェッショナルの視点でアドバイスを受けることができてとても助かりました。
――「DIMENSION SHIFTER」のプロジェクトには、どのような方々に参加していただきましたか?
藤井さん メカニックやソフトウェアなど専門知識を持っているエンジニアに協力をお願いしました。最初はひとりで作っていましたが、ステップが進むにつれ素人では通用しなくなっていきまして……。ギターが弾ける社員たちに試作品を見せ、興味を持ってくれた方に協力をお願いしたんです。プロダクトに魅力を感じてくれていた人ばかりだったので、熱量高く進められました。
野崎さん メンバーが増えても最終決定をするのは藤井さんなので、スピード感があったと思います。みんな「いいものを作りたい」という気持ちがあるので、大変なことがあってもポジティブに取り組んでいる雰囲気がありました。
藤井さん もし私がギターに興味がなくて「DIMENSION SHIFTER」を担当することになっていたら、どこかで諦めていたかもしれません。でも好きなことなので、多少大変でもおもしろくて。「まだやれる!」と思って踏ん張れました。
――「DIMENSION SHIFTER」は開発資金調達のために、カシオ公認でクラウドファンディングにも挑戦しました(当時のプロダクト名は「DIMENSION TRIPPER」)。支援者からの反響はいかがでしたか?
藤井さん 「新しくておもしろい」といった反応が多く、嬉しかったですね。これは予想外だったのですが、実際にライブで使ってくださった方もいて。支援者さんのギター活動のなかに組み込んでいただけるプロダクトになって、ありがたかったです。
――自分のアイデアが形になり、多くの人に届いたという経験は、その後のモチベーションにつながりましたか?
藤井さん そうですね。私ひとりで作っていたら、せいぜい身の回りの人に10個程度しか届けられなかったと思います。自分の脳内にしかなかったものが形になって世の中に出て、みなさんが新たな使い方を見つけてくれたことに感動を覚えました。
――「DIMENSION SHIFTER」は一般発売が始まりました。クラウドファンディング版と一般発売版では、どのような点が変化したのでしょうか?
藤井さん ユーザーさんからのフィードバックを受け、細部を改善しました。いちばん変わったのはトランスミッターのストラップ取り付けパーツです。ワンタッチで取り付けられるよう、形状などを改良しました。レシーバーとのワイヤレス接続もさらに簡単になったので、買って箱を開けたらすぐに演奏を試せます。
レシーバーもクラウドファンディングのときと比べ、およそ半分の大きさになりました。大幅な軽量化もしています。
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およそ半分の大きさに!
さらに名称が「DIMENSION TRIPPER」から「DIMENSION SHIFTER」に変化しました。クラウドファンディングからの延長ではなく、「Dimension(音の次元)をガラッと飛び越える」ための新しいプロダクトである、というメッセージを込めています。
――どのような人に「DIMENSION SHIFTER」を使ってほしいですか?
藤井さん 新しい演奏や音楽、体験がほしいと思っている方に、ぜひ使ってほしいです。
――「DIMENSION SHIFTER」など、「IBP」で生まれたアイデアは実際に会社の新製品になっています。これは社員の刺激にもなりそうですね。
野崎さん 「IBP」の狙いのひとつは、会社から新規事業を出すこと。もうひとつは、イノベーションが定期的に生まれるような人材開発や仕組み作りをすることです。だからこそ「DIMENSION SHIFTER」の一般販売決定は本当に嬉しくて。「IBP」推進者がリーダーの経験を得られることはもちろん、周りの成長にもつながっています。たとえば品質保証担当者は新規プロダクトの基準作りを経験できましたし、広報宣伝部なども新たな取り組みを経て考え方がアップデートされました。「IBP」を通して、会社自体が前を向いて動いています。
――藤井さんが「IBP」に参加して印象的だったことを教えてください。
藤井さん 生身の人間を相手に話をして、自分のアイデアを売り込んでいくのが、楽しくもあり冷や汗ものでもありました。審査で「君のプロダクトをほしいと思う人が本当にいるのか確認して連れてきてほしい」と言われ、社内外で興味を持ってくれそうな人にインタビューをしたのです。普段のエンジニア業務では回路にひとりで向き合っている時間がほとんどなので、普段とはまったく違う脳の使い方を経験しました。
――「IBP」に参加してよかったと感じたことを教えてください。
藤井さん 社内外のさまざまな人との連携を経験できたことです。「IBP」で得た人とのつながりは今後別の業務に取り組むときにも活かせると思います。 「IBP」に参加した当初は「おもしろいものを作ったから見てください」という気持ちだったので、まさかここまで大きなプロジェクトに成長するとは。さまざまな方に協力していただけてありがたいです。
野崎さん 「IBP」に取り組んでいる方々からは、「新しいものを自分たちの手で作るのが楽しい」といった声が多く寄せられます。 普段の業務にも楽しさはありますが、自分の担当箇所に集中しがちです。でも「IBP」では熱量を持った人々が集まって開発に取り組みながら、お客様のために何ができるかを考える経験を積めます。とくにエンジニアの方は、実際にお客様やステークホルダーと話すなかで、大きな気づきを得ているようです。
――最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
野崎さん 「IBP」は会社のみなさんが応援してくれている制度です。アイデアを相談すると、「こうしたら実現できるのではないか」と一緒に考えてくれる仲間がカシオにはたくさんいます。だからこそ新しいものを作りたいと少しでも思っている方に、ぜひ興味を持っていただきたいです。熱い想いで取り組んでいるので、「IBP」発の製品にもご注目いただければと思います。
藤井さん 新しい挑戦は必ずどこかで壁にぶつかるものですが、失敗して落ち込んだ経験もマイナスにはなりません。不安に思わず、楽しんでチャレンジしてみてください。
社員一人ひとりの熱意を後押しし、新規事業につなげている「IBP」。挑戦を支える風土や制度があるおかげで、社員が主体的にアイデアの実現や顧客価値の開発などに取り組めています。また、「IBP」を推進する社員の姿は、会社全体の成長も促しているようです。
「IBP」をはじめとするカシオの制度や働き方に興味を持った方は、公式サイトをのぞいてみてはいかがでしょうか。
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