高性能と低消費電力を両立した新たなWindows PC用プロセッサーとして登場した「Snapdragon Xシリーズ」。スマホ向けプロセッサー最大シェアを誇るクアルコムはなぜPC事業に参入したのか? その背景やSnapdragon Xの技術的優位性、そして今後切り拓く未来について、クアルコム シーディーエムエー テクノロジーズの統括本部長である井田 晶也 氏に話を伺った。

  • クアルコム シーディーエムエー テクノロジーズ 統括本部長 井田 晶也 氏 /1995年からIT業界でキャリアをスタート。プロセッシング開発、ライセンシング事業を起業後、2006年にインテルへ入社し、マーケティング、営業、営業統括、営業本部長、事業統括などを歴任。その後、日本のPCメーカーであるサードウェーブの取締役社長を務める。現在はクアルコム シーディーエムエー テクノロジーズのクライアントPC事業の統括本部長として、事業の責任者を務めている。

    クアルコム シーディーエムエー テクノロジーズ 統括本部長 井田 晶也 氏 /1995年からIT業界でキャリアをスタート。プロセッシング開発、ライセンシング事業を起業後、2006年にインテルへ入社し、マーケティング、営業、営業統括、営業本部長、事業統括などを歴任。その後、日本のPCメーカーであるサードウェーブの取締役社長を務める。現在はクアルコム シーディーエムエー テクノロジーズのクライアントPC事業の統括本部長として、事業の責任者を務めている。

 

「Snapdragon Xシリーズ」の他とは異なる強みとは

――クアルコムというとスマートフォン向けプロセッサーのイメージが強いですが、PC向けプロセッサーへ参入した理由をお聞かせください。

井田氏 クアルコムは1985年の創業以来、移動体通信の技術と半導体の研究開発をメインビジネスとしてきました。2007年からはAI技術開発も行っており、AIと移動体通信の技術を融合・発展させてきた経緯があります。

元々はスマートフォンの演算処理やAI支援チップの開発が中心でしたが、技術の進化に伴い、Windows OS上で動作させた際のパフォーマンスが従来のPCと遜色ない、あるいはそれを凌駕する結果が出始めてきました。そこで、我々の特徴を活かしたPC向けプロセッサーを提供することで、皆様の生活をより豊かにできるのではないかという考えのもと、PC事業に参入しました。

――PC向けのSnapdragonプロセッサーには、どのような特徴があるのでしょうか?

井田氏 スマートフォン向けのSnapdragonは、2017年の登場以来、省電力性と高速な動作、そしてインスタントなレスポンスに特化した技術が求められてきました。また、2017年からは「NPU(ニューラルプロセッシングユニット)」を搭載することで、AI処理を可能にしてきたのが大きな特徴です。

一方、PC向けのSnapdragon、特にSnapdragon Xシリーズは、Windowsという負荷の高いOSやアプリケーションを動かすため、さらに高い演算処理能力が求められます。同時に、スマートフォンからPCに変わってもバッテリー駆動時間を犠牲にしない、という点が重要です。そのため、PC向けにはより高いパフォーマンスと、スマートフォンから移行しても違和感のないバッテリー駆動時間を両立させることを目指して開発されています。

  • Snapdragon Xシリーズは高い演算処理能力と省電力性を両立している

    Snapdragon Xシリーズは高い演算処理能力と省電力性を両立している

――「Windows RT」から「Windows 11 on Arm」、そして現在の「Copilot+ PC」に至る進化の過程で、互換性やパフォーマンスが大きく向上したと感じています。この間にどのような技術的進化がありましたか?

井田氏 Windows 10の時代にSnapdragon XシリーズというPC向けプロセッサーを発表し、2024年からCopilot+ PCがリリースされました。現在、グローバルで80機種が発売されており、2025年末には約85機種の製品が登場する予定です。

この間の進化の最大のポイントは、2023年頃から「AI PC」という概念が生まれ、NPUという新たなプロセッシングユニットがPCの重要な要素として組み込まれたことです。NPUはAI処理に特化しており、CPUのように汎用的な動作をしないため、少ない電力で限定的な処理を効率的に行なうことができ、結果として省電力化につながっています。

マイクロソフトが提唱するCopilot+ PCの要件は、NPUの処理速度が40 TOPS(Trillion Operations Per Second、1秒間に40兆回の計算)以上であることとされています。我々のSnapdragon Xシリーズは、X EliteからX Plusまでのすべてのラインアップがそれを上回る45 TOPSを達成しており、このCopilot+ PCの要件を満たしています。これは他社にはない強みであり、我々の製品はすべてCopilot+ PC対応であるという点が大きな特徴です。

  • Snapdragon Xシリーズはすべてのラインナップで45TOPSのAI処理能力を備えている

    Snapdragon Xシリーズはすべてのラインナップで45TOPSのAI処理能力を備えている

――Snapdragon Xシリーズが登場してからも、ソフトウェアの進化によって互換性やパフォーマンスはさらに向上しているのでしょうか?

井田氏 もちろんです。2024年9月に現行のSnapdragon Xシリーズをリリースした時点では、グローバル上位200本のアプリケーションのうち、約8割がネイティブまたはエミュレーションで動作していましたが、まだ2割は互換性が確認できていませんでした。当時は「アプリが動かないのでは」、「プリンターにつながらないのでは」といった懸念の声も聞かれました。

しかし、発売から約1年が経ち、現在ではトップ100のグローバルアプリケーションは100%、トップ200でも99%が動作する状況になりました(※クアルコム調べ)。日本のアプリケーションに関しても、ISVパートナー様と協力しながら対応を進めています。年内には、普段使うほとんどのPCソフトウェアの対応が完了する見込みです。

――Snapdragon Xシリーズの最大の特長を教えてください。

井田氏 クアルコムの製品は、電源を抜いた状態でもパフォーマンスがまったく落ちません(※クアルコム調べ)。この大きな特長は、テクノロジーのルーツの違いにあります。x86アーキテクチャはデスクトップや大型コンピューターから進化し、小型化されてモビリティを実現しました。対して我々は、移動体通信の技術と半導体の研究開発から発展し、スマートフォン、そしてPCへと進化してきました。元々のコンセプトがスマートフォンの技術を活用してPCに展開しているため、基本的にバッテリー駆動を前提に開発されています。

皆さんのスマートフォンが電源をつないだ状態で使う機会が少ないように、我々のPCもそのような使い方を前提としており、ここが最大のポイントだと考えています。

 

「第1の選択肢」となるために。クアルコムが目指す未来

――今後のWindows PCにおけるArm系プロセッサーの進化について、展望をお聞かせください。

井田氏 我々は今年9月23日から25日にかけてハワイで開催された「Snapdragon Summit 2025」で、次世代のプロセッサーを発表しました。次世代のプロセッサーでは、NPUは80 TOPSに達し、すべてのラインアップでこの性能を実現します。これによりAI処理の時間が半分になり、電力効率もさらに向上します。

現在でも当社のプロセッサーを搭載したPCは「1日半」はバッテリーが持ちます(※クアルコム調べ)。この「マルチデイズバッテリーライフ」がさらに進化し、将来的にはACアダプターなしで2日、3日保つ世界が間もなくやって来るでしょう。スリープからの安定性やレスポンスも、スマートフォンの技術を応用しているため非常に優れています。次世代プロセッサーが搭載されたPCは、来年2月頃に登場する予定です。

マイクロソフトのCopilot+ PC準拠の製品が増えるなかで、我々のSnapdragonは「第3の選択肢」と言われることもありますが、将来的には「第1の選択肢」となるよう、進化を加速させていきます。

  • 次世代Snapdragonシリーズは処理性能向上とともに、バッテリー駆動時間がさらに延長される

    次世代Snapdragonシリーズは処理性能向上とともに、バッテリー駆動時間がさらに延長される

――では最後に、読者にメッセージをお願いします。

井田氏 クアルコムやSnapdragonという名前は、この業界に詳しい方以外には、まだあまり知られていないと思います。これから、Snapdragonイコール「快適」、「便利」、「何日もバッテリーが保つ」というイメージを持っていただけるよう、しっかりと活動をしていきたいと考えています。

直近では全国各地でタッチ&トライイベントを開催し、Snapdragon搭載PCやスマートフォンを展示し、多くのお客様に実際に触って体感していただきました。今後も、このようなイベントを随時開催していく予定ですので、ぜひお気軽にお越しいただき、性能を実感してみてください。

――非常に興味深いお話をありがとうございました。今後のSnapdragon Xシリーズの進化と、クアルコムが描く未来に期待が高まります。

クアルコム「Snapdragon Xシリーズ」を詳しくチェック

 

Snapdragon X搭載Copilot+ PC「Latitude 7455」をレビュー。AIにより業務を効率化し、日常を楽しく、豊かにしてくれる

  • デル・テクノロジーズ「Latitude 7455」

    デル・テクノロジーズ「Latitude 7455」

Snapdragon の性能を検証すべく、今回デル・テクノロジーズより発売の14型Copilot+ PC「Latitude 7455」をお借りしてレビューを実施。プロセッサーに「Snapdragon X Plus X1P-64-100」 /「Snapdragon X Elite X1E-80-100」を採用。メモリーは16GB /32GB、ストレージは512GB /1TBから選択できる。

ディスプレイはタッチ対応の14型QHD+ IPS液晶(2560×1600ドット、400ニト)を搭載。上部にはプライバシーシャッター付きのFHD /IRカメラ、アレイマイクを内蔵している。

  • タッチ対応の14型QHD+ IPS液晶を搭載。指やタッチペンなどでイラストを描いたり、PDFに注釈を入れられる。Copilot+ PCとタッチ対応ディスプレイの相性はいい

    タッチ対応の14型QHD+ IPS液晶を搭載。指やタッチペンなどでイラストを描いたり、PDFに注釈を入れられる。Copilot+ PCとタッチ対応ディスプレイの相性はいい

インターフェースはUSB4 Type-C×2、USB 3.2 Gen1 Type-A×1、microSDメモリーカードリーダー×1、3.5mmコンボジャック×1を装備。ワイヤレス通信はWi-Fi 7、Bluetooth 5.4をサポートしている。

  • USB4 Type-C, USB Type-Aと新旧インターフェースを網羅。USBハブが必要となることは少ない

    USB4 Type-C, USB Type-Aと新旧インターフェースを網羅。USBハブが必要となることは少ない

microSDメモリーカードスロットが搭載されているので、アクションカメラなどで撮影した画像を簡単に取り込める。PCに取り込んだら、Snapdragon Xシリーズのハイパフォーマンスで快適に編集可能だ。

本体サイズは314×223.75×16.96mm、重量は1.44kg。バッテリーは54Whのリチウムイオンバッテリーを内蔵しており、バッテリー駆動時間は最大22時間とうたわれている。

  • 電源ボタンは指紋認証センサー一体型。生成AIアシスタント「Copilot」を呼び出す専用キー「Copilotキー」も装備されている(赤枠箇所)。※写真は海外モデル。日本向けには83キー日本語キーボードが搭載されている

    電源ボタンは指紋認証センサー一体型。生成AIアシスタント「Copilot」を呼び出す専用キー「Copilotキー」も装備されている(赤枠箇所)。※写真は海外モデル。日本向けには83キー日本語キーボードが搭載されている

PCで重要な要素のひとつがソフトウェア資産。Snapdragon Xシリーズを搭載したCopilot+ PCには、高性能なエミュレーター環境「Prism」がインストールされており、x86系に作られた多くのアプリケーションを高速に動作させることが可能。また、驚くことにPrismはDirect Xを必要とする3Dゲーム「ファイナルファンタジーXIV」なども、実用的な速度で実行できる(※ライターによる計測結果です)。

  • エミュレーター環境「Prism」は、Direct Xを必要とする3Dゲーム「ファイナルファンタジーXIV」も実用的な速度でプレイできる(※ライターによる計測結果です)

    エミュレーター環境「Prism」は、Direct Xを必要とする3Dゲーム「ファイナルファンタジーXIV」も実用的な速度でプレイできる(※ライターによる計測結果です)

また、エミュレーターなしでそのまま実行可能な「ARMネイティブ対応アプリケーション」も増えており、それらではプロセッサー本来の性能を最大限に引き出せる。すでに優れたエミュレーターが用意されており、ARMネイティブ対応アプリケーションが増えている現在、互換性で悩まされることはほとんどないと言える。仕事になくてはならないWordやExcelなどのOfficeアプリはもちろん、Adobeの「Creative Cloud」系アプリもほぼすべて利用可能だ。

さて、Snapdragon Xシリーズ最大の売りはハイパフォーマンスと省電力性の両立。そこで今回、ディスプレイ輝度、ボリューム40%、電源モード「最適な電力効率」でYouTubeを連続再生してみたところ、12時間17分という圧倒的な長時間駆動記録を叩き出した。一般的な使用環境であれば一泊二日の旅行、出張であればACアダプターが不要なスタミナ性能を備えている。

  • ディスプレイ輝度、ボリューム40%、電源モード「最適な電力効率」で、動画共有プラットフォームで動画を連続再生してみたところ、12時間17分動作した。小型、軽量化されたとはいえACアダプター、モバイルバッテリーを携帯せずに済むのであれば、それだけアクティブに行動可能だ

    ディスプレイ輝度、ボリューム40%、電源モード「最適な電力効率」で、動画共有プラットフォームで動画を連続再生してみたところ、12時間17分動作した。小型、軽量化されたとはいえACアダプター、モバイルバッテリーを携帯せずに済むのであれば、それだけアクティブに行動可能だ

省電力性に次ぐSnapdragon Xシリーズの優位点が、電源非接続時でもパフォーマンスが変わらないこと。今回「CINEBENCH 2024」を電源接続時、非接続時で実行してみたが、電源接続時で817pts、非接続時で773ptsと計測誤差以上の差は見られなかった。ACアダプターなしでクリエイティブ系アプリをマックスパワーで実行できるのは、大きなメリットだ。

  • 「CINEBENCH 2024」のCPU(Multi Core)は、電源接続時で817pts、非接続時で773ptsと誤差以上の差はない

    「CINEBENCH 2024」のCPU(Multi Core)は、電源接続時で817pts、非接続時で773ptsと誤差以上の差はない

  • 「Lightroom Classic」で7968×5320ドットのRAW画像を現像するのにかかった時間は3分37秒47。電源確保困難な場所でも、Snapdragon Xシリーズならいつでも快適にクリエイティブ作業に没頭できるわけだ

    「Lightroom Classic」で7968×5320ドットのRAW画像を現像するのにかかった時間は3分37秒47。電源確保困難な場所でも、Snapdragon Xシリーズならいつでも快適にクリエイティブ作業に没頭できるわけだ

Snapdragon Xシリーズを搭載するノートPCはマイクロソフトのCopilot+ PCの要件を満たしており、PCで行なった作業をあとから検索できる「リコール」、簡単なラフスケッチからイラストをAI生成できる「コクリエーター」、カメラ映像に背景ぼかしなどのさまざまなエフェクトを適用する「スタジオエフェクト」、音声からリアルタイムで字幕を作成する「ライブキャプション」などの独自機能を利用可能。これらAI機能をいち早く利用できるのは、Snapdragon Xシリーズ搭載Copilot+ PCの大きなメリットだ。

  • リコール

    リコール

  • コクリエーター

    コクリエーター

  • スタジオエフェクト

    スタジオエフェクト

  • ライブキャプション

    ライブキャプション

 

今後さらに進化していくSnapdragon搭載PCから目が離せない

クアルコムのSnapdragon Xシリーズは、電力効率の高さと高い性能を両立させた新機軸のプロセッサーだ。高性能でありながらバッテリーが長持ちし、さらに搭載PCはコストパフォーマンスに優れているのも嬉しい。

主要なアプリケーションはエミュレーションで高速に動作するし、ARMネイティブ対応アプリケーションも増えているので、安心して利用できる。今後さらに進化していくSnapdragon搭載PCを、新たな「第1の選択肢」として注目していこう。

クアルコム「Snapdragon Xシリーズ」を詳しくチェック

[PR]提供:クアルコム