今シーズン中にスワローズでは、2人の選手が「育成」から1軍の試合に出場できる「支配下」に昇格した。
下川隼佑、沼田翔平の両投手だ。5月1日に支配下登録されたアンダースローの下川は8月31日、神宮球場での広島カープ戦に先発、1軍初勝利をあげた。巨人から移籍してきたプロ7年目の沼田も7月9日に支配下登録となり、同月31日、敵地での横浜DeNA戦で4年ぶりに1軍マウンドに上がっている。
さて来シーズン、二人に続き「育成」から翔くのは誰なのか?
台湾での活躍が評価され「育成1位」入団
現在、スワローズには10人の育成選手がいるが、「あと一皮剥ければ……」という者は少なくない。そんな中で、来シーズンに支配下登録される可能性が、もっとも高いのは長身右腕、髙橋翔聖(以下翔聖)ではないだろうか。2023年秋のドラフト会議・育成1位指名を受けスワローズに入団した翔聖は、父が台湾人、母は日本人で両方の国籍を持つ。台湾で生まれ、幼少期を2年ほど日本で過ごした。
そんな彼が野球を始めたのは、台湾にいた小学5年生の時。2013年にWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で日本vs.台湾を観たのがきっかけだという。188センチ、81キロの恵まれた体躯の持ち主で高校時代の活躍が、スワローズのスカウトの目に留まった。台湾の高校生がNPB(日本野球機構)のドラフトで指名されるのは史上初のことだ。
台湾の高校卒業に合わせて、2024年6月にスワローズに入団。同月10日に球団事務所で開かれた記者会見で翔聖は言った。
「母が日本のプロ野球が好きだったので、自分も一緒に観ていました。憧れのNPBで野球ができることが嬉しい」 「目標とするピッチャーは藤川球児(元阪神)さん。ファンの方から安心して見てもらえる選手になりたい」
WBC予選、台湾代表に選ばれて
1年目の昨年はカラダ造りがメイン。そのためイースタンリーグでの登板は僅か2試合(2イニングス)、10人の打者と対戦しホームランを含む3安打を浴びるも、4つの三振も奪い存在感は示した。
そしてシーズン後に朗報が舞い込む。WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)予選の台湾代表メンバーに選出されたのだ。その際に翔聖は、こう話した。
「驚きましたし、凄く嬉しかったです。アンダー(18歳以下)でも選ばれたことがなかったので代表のユニフォームを着るのは初めて。いつかは台湾の代表選手になりたいと思っていたので夢のようです」
この予選のニカラグア戦で代表メンバー最年少の翔聖は先発マウンドを踏んだ。味方のエラーもあり2回を投げて2失点。この試合は敗れるも、その後のスペインとのプレーオフで勝利(翔聖は登板なし)、台湾はギリギリのところで予選突破を果たした。
「(失点は)悔しかったですけど、先輩たちから多くのアドバイスも頂き学ぶことができたと思います。今後も(台湾)代表チームに選ばれるようにNPBで活躍したい」 そう翔聖は前を向く。2月のWBC予選はかけがえのない経験になったに違いない。
制球力は抜群、残る課題は……
翔聖の投手としての強みはコントロールの良さ。持ち球は最速151キロのストレート、カーブ、スライダー、チェンジアップ、ツーシームで、ともにイメージしたコースに投げ込むことができる。スリークォーターのフォームも無理なくしなやかで、若くして完成形を築いている。
そんな彼の今後の課題は次の2つだろう。
「球威」と、打者のタイミングを外す「技術」。いま、翔聖はフィジカルを強化するトレーニングに取り組んでいる最中だ。十代のこの時期に体幹の強さを得ることで球速の上昇だけではなくボールの切れも増すはず。また、フォームの微細なバリエーションと独自のテンポを身につけられれば、打者のタイミングを狂わせていける。
制球力のセンスは十分に持ち合わせているだけに、この2つを進化させれば大化けする可能性大と見る。今シーズン9月前半までのイースタンリーグでの成績は、5試合0勝0敗、防御率1.50で内容以下の通り。
| 〈登板成績〉 | |||||
|---|---|---|---|---|---|
| 日付 | 場所 | 対戦相手 | 投球回 | 失点 | 被安打 |
| 4月17日 | 戸田 | 横浜DeNA | 1回 | 0 | 1 |
| 4月25日 | 戸田 | オイシックス | 1回 | 0 | 1 |
| 8月29日 | 戸田 | 北海道日本ハム | 1回 | 0 | 1 |
| 9月7日 | 戸田 | 千葉ロッテ | 1回 | 0 | 0 |
| 9月14日 | 戸田 | 埼玉西武 | 2回 | 1 | 3 |
そして9月24日、戸田球場での読売ジャイアンツ戦で初めて先発投手を務めた。首脳陣が期待を込めての抜擢だったが、この日は残念ながら本来の力を発揮できず。緊張もあったのだろう、単調なテンポでの投球になってしまい初回に4安打を浴び3失点、2回は三者凡退に抑えるも、3回に再び捕まり失点したところで降板となった。初めて敗戦投手となったことに翔聖は肩を落とす。だが、「将来は、しっかりとローテーションを守れる先発投手になりたい」と目標を掲げる翔聖にとっては、これも必要な経験なのだろう。
迎える秋季キャンプでは、さらなるカラダ造りに取り組むことになる。10月6日からスタートする『みやざきフェニックスリーグ』でも登板機会があるはずだ、そこで投球技術も磨かれよう。まだ19歳と若く、この時期の成長は著しい。来シーズンには背中に二桁数字を輝かせ、1軍のマウンドで好投する翔聖の姿が見られるのではないか。
翔聖(しょうせい)
2005年12月17日生まれ、台湾・台北市出身。台湾名は徐 翔聖(シュウ・シャンセン)。鶯歌高級工商職業学校在学中に「全国木製バット高校野球選手権」に出場し最優秀投手賞、ベストナインに選ばれる。24年6月に高校を卒業、同月6日にスワローズと育成契約を結んだ。背番号017、右投げ右打ち。
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